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固定残業代(みなし残業)制の上限は45時間以上でも問題はない?

固定残業代制の上限を45時間以上に設定することは、違法となる可能性があります。
公開日時:2022.11.29 / 更新日時:2023.11.29
詳しく解説

Q.固定残業代(みなし残業)制を導入していますが、固定残業代制の上限は45時間以上でも問題ありませんか? 固定残業代制の上限時間を変更することによるリスクがあれば教えてください。

制作会社の人事・労務を担当しています。現在、固定残業代制を導入していますが、人手不足と繁忙期が重なり、残業時間の上限として設定している40時間を超えて残業する従業員が増えています。そこで、固定残業時間を45時間以上へ変更しようと考えています。その場合、上限時間を45時間以上へ変更することは可能でしょうか。また、変更する際のリスクやデメリットがあれば教えていただきたいです。

A. 固定残業代制の上限を45時間以上に設定することは、違法となる可能性があります。

固定残業時間を何時間に設定するかは、雇用者と労働者の合意により決まります。ただし、現在の労働基準法で定められている時間外労働時間の上限「1か月45時間」を超過する月が6か月以上続く場合など、ケースによっては違法となる可能性が高いです。

残業時間の上限の取り扱いについては、36協定をよく理解する必要があります。

固定残業時間の上限は原則45時間以内

2019年に労働基準法が改正され、初めて36協定にかかる時間外労働の上限「1か月45時間、1年360時間」およびそれを超過した際の罰則が規定されました。これにより、労使合意の上で36協定を結ばなければ法定労働時間「1日8時間、1週40時間」を超える労働条件にて雇用することができなくなりました。

つまり、残業時間の上限「月45時間、年間360時間以内」とする同法規定により、固定残業代制も上限を45時間を目安に設定することが妥当だと言えます。

参考記事

固定残業時間を45時間以上に設定できるケースとは?

36協定により、従業員を「1か月45時間」以上残業させることは原則認められていません。

ただし、特別条項付き36協定締結により、例外的に1か月45時間を超える時間外労働が可能となる場合があります。この協定は、労働基準法第36条第5項の規定により、次のような特別な事情がある場合に限られます。

特別な事情として認められる例

  • ・決算業務
  • ・業務の繁忙
  • ・大規模なクレームへの対応
  • ・工場のトラブルへの対応
  • ・突発的な仕様変更

一時的な業務量増加に対応するためとはいえ、特別条項付き36協定を締結した場合でも、時間外労働の上限が規定されています。

特別条項付き36協定を結んだ場合の時間外労働の上限

  • ・年720時間以内
  • ・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
  • ・月100時間未満(休日労働を含む)
  • ・月45時間を超えることができるのは、年6回まで

上記条件を満たした場合、固定残業時間を1か月45時間とする設定は不可能ではありません。しかし、設定した場合は従業員の実働時間を正確に把握する必要があるなど、月間または年間の時間外労働にかかる管理の煩雑化が想定されます。

さらに、管理不行届や従業員の認識不足により万が一いずれかの条件を超過した場合は、刑事罰の対象となるリスクを伴います。したがって、固定残業時間設定の際はリスクを踏まえた上で管理・周知方法といったさまざまな面を考慮すれば実現できる可能性はあるものの、実現性が限りなく低いため固定残業時間を45時間以内とするのが推奨される理由です。

固定残業時間は不用意に引き上げないこと

36協定で規定する時間外労働の上限を超えると刑事罰の対象となるため、不用意に引き上げないことが望ましいでしょう。具体的な罰則として、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される場合があります。

仮に法規定を超過し罰則を受けた場合、企業にとって大きな損失であるため、引き上げを検討する際は細心の注意が必要です。

また、罰則以外でも企業にとってさまざまなリスクが想定されます。

採用活動時のイメージが悪くなる

求人情報に「固定残業代45時間以上」と記載した場合、その実態に関わらず求職者は残業が常態化している職場だと認識します。ワークライフバランスを推奨する現代において残業は減少傾向にあり、時代の変化や業務スリム化に対応していないと見なされ、企業に対しマイナスイメージを持たれる可能性が高いでしょう。

人件費が高くなる

従来の固定残業時間から上限を引き上げる場合、固定残業代も付随させることが妥当です。そうでなければ最低賃金を下回ったり、従業員から不満が生じたりする可能性があります。また、固定残業代の引き上げに伴い、必然的に毎月の人件費が激増すると想定されます。

労働基準法規定の上限超過による罰則というリスクはもちろん、時間外労働に対する意識が変化している昨今、残業の有無は職場選択に大きな影響を及ぼします。また、人件費増加や従業員から反発を受ける可能性があるため、固定残業時間を不用意に引き上げないことが賢明です。

まとめ

固定残業代制にかかる労働時間の上限引き上げについて、法律を踏まえて懸念されるリスクやデメリットを解説しました。

やむを得ないケースの場合、法規定の範囲内で固定残業時間の上限を月45時間以上とする設定は不可能ではありません。しかし、考え得る様々なリスクとして法律違反による刑事罰はもとより、企業イメージ損失や人件費増加といった経営上の大きなダメージを受ける可能性が高いでしょう。

今後の健全な経営のためにも、固定残業代制は原則として1か月45時間以内で設定し、業務見直しなど根本的な残業の原因解消に取り組む方針を打ち出すことが望ましいです。

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