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給与計算を誤り、一部従業員の給与が未払いであることが発覚した場合にはどんな対応が必要でしょうか。

賃金未払いは、ミスが原因でも労働基準法違反です。適切な対応を怠れば企業は是正勧告や罰則を受ける可能性があります。一般的には事後的に追加支払いを行う対応をしますが、社会保険料や税務関係の実務のやり直しが必要になるケースもあります。

2021.05.11

詳しく解説

Q.給与計算を誤り、一部従業員の給与が未払いであることが発覚した場合にはどんな対応が必要でしょうか。

50人以下の中小企業で労務担当をしています。給与計算ソフトを使っていたものの、勤怠管理はタイムカードによるアナログ管理なためか、給与計算時にミスが起き一部従業員の給与が未払いであると後日、経理担当者が気付き発覚しました。給与未払いに関して、法律面や実務面でどんな問題が発生し、どのような対処が必要になるのか知りたいです。

A.賃金未払いは、法違反に該当します。未払い額が高額な場合は労働基準監督署から是正勧告や罰則を受ける可能性があります。

故意ではない給与計算ミスが原因であっても、給与が支払われず給与未払いとなれば労働基準法違反に該当します。一般的には、未払い発覚後に追加で給与の支払いを行う対応をしますが、支払いが事後的に行われても法違反であるという事実は変わりませんので、未払い額が高額で行政への告発があった場合は労働基準監督署から是正勧告や罰則を受ける可能性があります。給与の追加支払い以外にも、状況によっては社会保険料や税務関係の実務のやり直しなど、さまざまな対応が必要になるケースがあります。給与過払いの場合は企業側の法違反問題は発生しません。過払いを知っていた、知らなかったに関わらず従業員には返済義務がありますので、経緯の説明と返済の方法の通知を早急に行いましょう。

法律違反に伴う問題

計算ミスによって給与が未払いになったり、実際より少なく支払われていたりという場合、労働基準法24条で定められる「賃金支払原則」に反しているとして法違反となります。給与未払いの発覚後に対応を怠り、従業員から告発を受けた場合、労働基準監督署の立ち入り調査や、未払い請求訴訟の対応が必要になる場合もあります。

後から全額支払えば法違反の事実が覆るということはありません。給与の未払いが発覚した後、未払い額が多額なケースでは従業員から告発され、最悪の場合は労働基準監督署の是正勧告措置や、30万円以下の罰金刑または6か月以下の懲役刑が科される可能性があります。

未払い発覚後の給与の支払い方法

賃金未払いは一般的に後で追加支払いを行う対応をします。法律上、規程等で定まった給与支払い日や、社内で慣行になっている支払日より後に支払うことは違法になりますので、当月~翌月支給日までに調整が可能であれば未払い分の支払いを行う必要があります。 「給与を支払ってすぐ」など、早期に給与未払いが発覚した場合は、当月中に支払いを求める従業員がいるかどうか確認し、必ず当月中に支払う必要があるか、翌月払いでもよいか、同意を取るようにします。 しかし、実際によくあるのは給与支払い後何週間か、あるいは一か月以上経ってから担当者が気付く、または従業員に指摘されて給与未払いが発覚するケースです。その際は未払いが起きた当月に給与を支払うことはできませんので、給与が未払いとなった従業員が十分納得し得る説明と謝罪対応をしたうえで、なるべく早めの支払いが可能になるように準備を進めましょう。 対応としては以下のステップを全て踏む必要があり、労務担当者は多大な工数が発生すると考えておきましょう。

  1. 発覚した段階ですぐ給与未払いの従業員に謝罪し、経緯を説明

    ・明細を再発行したり、過不足計算をしたりする前に何が起きたか従業員に説明したうえで謝罪し、不信感を抱かれないようにします。
    ・「〇月〇日までに正しい給与明細を発行し、未払い分を支給します」とメールや書面で通知します。

  2. 以下の手順で給与計算をし直し、給与明細を再発行する

    ・勤怠記録を参照し、正確な労働時間の集計を出します。
    ・支払額の変動によって所得税などの控除額が変わることがないか確認します。
    ・給与計算ソフトで、誤って支給した給与計算を正しくやり直します。
    ・誤って支給してしまった給与支給額と正しく計算し直した給与支給額の差額から不足額を算出します。
    ・不足額と正しい給与明細を従業員に支給します。

給与の過払いが発生した場合の対応

給与の過払いが発生した場合は賃金未払いの法的問題は発生せず、従業員の方から返還してもらう必要があります。企業側のミスであっても不当利得返還請求権に基づき、企業側は従業員には過払い分の返還を求めることができるので、従業員にその旨を説明します。

翌月の給与支払いで過払い分を控除する形で精算することは、「賃金は全額払いの原則」に抵触します。労働基準法24条では、例外的に、あらかじめ「過払い分を賃金から控除できる」という労使協定がある場合に限定して控除での清算が認められています。しかし、労使協定がある場合であっても、労働基準法や労働契約法の規定により、労働協約や就業規則に控除の根拠規定を設けるか、当該労働者の同意を得ることが必要になります。

特に賃金の過払い額が大きい場合は控除額も大きくなります。仮に就業規則に根拠規定がある、または労使協定の締結がされているとしても、過払いの事実の周知が不十分である場合は従業員にとって不意打ちに近い状態となります。控除することや過払いの事実について十分に配慮した説明は不可欠です。

また、労使協定を根拠に行う控除は、通勤手当や公租公課を除外した、手取り額の4分の1が限度であるとした裁判例もあり、必ずしも認められるとは限りませんので留意が必要です。

ただし、過去の判例から従業員の生活に支障が出ない範囲の額であれば労使協定が締結されていなくても給与過払い分の控除が認められる可能性があります。こちらは例外的なケースであり、確実に認められるという保証はなく、給与過払いが起きた状況に応じたケースバイケースの判断になります。原則、従業員に返済してもらう方法を取りましょう。

支払い以外に発生する可能性がある実務対応

給与未払いが起きた後、不足分を支払った場合は過去の賃金台帳の変更が必要になりますが、支払いが不足していた事実や後で支払った事実、追加で支払った額や未払いが起きた経緯といった内容も記録する必要があると考えられます。

社会保険料等に関しては、給与計算ミスがないと仮定し、正しい額で給与が支払われた場合に社会保険上の等級変動がされている場合はさかのぼって社保の修正申請を行い、社会保険料の追加納付を行う必要があり、かなりの手間・工数が発生します。特に、算定の6~7月の時期より前に行われた、4~6月分にかかる給与について、全員分の修正が必要になりますので、さらに大きな工数がかかります。

6~7月の時期をまたいで給与未払いが発生した場合は、労働保険料についても社会保険料と同じく、申請や追加納付の対応が必要になります。この他にも、税務関係の実務のやり直しも生じ得ます。年末をまたいで給与未払いが発生した場合は特に修正の負担が重くなる可能性が高いと言えます。

過払いのケースでも月額変更に該当していたり算定の時期を挟んでいたりした場合は、未払いと同じ手続き修正が生じます。賃金台帳等の内容変更にも過払いの金額や経緯の記録など、同様の配慮が必要になります。

まとめ

故意でなくても賃金未払いは労働基準法違反であり、一度起きてしまったら違反の事実は消すことはできません。未払い額が高額かつ対応を怠ると訴訟や罰則の適用がされることもあり得るため、発覚後は速やかに支払い、謝罪等の対応をする必要があります。

賃金台帳の修正などについては、修正した正しい記録と誤記録や追加の支払いの事実、経緯などの記録を十分に残す必要があります。社会保険料については、本来の額で等級変動が発生するものは修正申告が必要になります。算定や年度更新の時期をまたぐ場合に額が変わる給与については、全て手続きをやり直さなければなりません。

給与過払いが起きた場合は、原則、次回払いによる清算ではなく従業員からの返済を求める手続きを取りましょう。あらかじめ労使協定で定めており、就業規則などに根拠規定が存在し労働者の同意が取得されている、もしくは過去の判例に照らして認められる場合に限り、次回払いの控除による清算が認められますが、十分な説明が必要です。

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