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36協定

さぶろくきょうてい

公開日時:2021.01.27 / 更新日時:2022.03.09

36協定の基礎知識と新様式による変更点を確認、法律違反リスクに備えよう

36協定とは、労働基準法36条に基づく時間外・休日労働の取り決めに関する労使協定のことです。労働基準法では原則として法定労働時間(1日8時間、1週間に40時間)を超えて労働者を働かせることはできません。労使間で36協定を締結し、所管の労働基準監督署に提出することで法定労働時間を超えた労働が可能になります。36協定によって可能な時間外労働(残業)には「月45時間・年360時間」の上限がありますが労使間で「特別条項付き36協定」を結ぶことでこの上限を超えた時間外労働が可能になります。2018年に行われた労働基準法改正により特別条項を結んでいても「年720時間以内」「休日労働を含み1か月で100 時間未満」などの時間外労働の上限規制が新たに導入されました。

知っておきたい36協定の基礎知識

法定労働時間を超えて従業員に労働をさせる場合に必要な「36協定」には、2018年の法改正によって大きな変更が加えられました。従来は際限なく残業が可能だとして問題視されていた「特別条項付き36協定」にも長時間労働抑制のめの上限時間が設けられました。36協定の全体像を理解するために、基礎知識から法律が変更された背景、法律違反リスクに備えるために押さえておきたい新たな36協定の変更点を解説します。

1.36協定とは時間外・休日労働に関する協定

36協定の内容と法律違反になる場合

36協定とは時間外・休日労働の取り決めに関する労使協定のこと。労働基準法36条に基づいていることから「36協定」と呼ばれています。労働基準法では原則として、「1日8時間、1週40時間」を超えて労働者を働かせることはできません。また法定休日として、毎週1日、または4週間を通じて4日以上の休日を定める必要があります。

  • 使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。
  • 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけません。
  • 使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。

人手不足や納期の問題で必ずしも法定労働時間に必要業務を終えることができない現場も多いことから、例外的な労働を可能にする「36協定」という協定が設けられています。労働者代表と36協定を締結して労働基準監督署に提出することで1日8時間、1週40時間を超えた労働が可能になります。また、36協定で休日に関する締結を行えば法定休日に労働をさせることも可能になります。もし、届出をしないまま法定労働時間を超えて労働をさせたり、法定休日に出勤をさせたなどの実態があれば、それらは全て法律違反となります。

36協定は全ての企業が結ぶ必要がある?

36協定は必ずしも全ての企業が締結する必要はありません。ただし、36協定を締結しなくても差し支えないのは「通常業務において従業員の労働時間が8時間を超えることが確実にない場合」に限られます。通常の労働時間が1日8時間でも、臨時で残業する日や期間がある場合は、36協定の締結を必ず行う必要があります。

2. 36協定における残業時間(時間外労働時間)の上限

「36協定を結んでおけば、時間外労働時間を好きに設定できるのか」と言うと、そうではありません。36協定で可能になる時間外労働にも明確な上限があります。36協定で設定できる時間外労働時間は、原則として「月45時間、年360時間」と労働基準法によって定められています。36協定の有効期間は原則1年のため、時間外労働が発生する企業では毎年締結と届出を行う必要があります。

また、どの従業員でも自由に時間外労働の対象者にできるというわけでもなく、36協定を結ぶ際には「時間外労働を行う業務の種類」を予め労使の協議で決めておかなくてはなりません。

3. 締結する上で必ず記載が必要なこと

36協定の締結をする上で必ず届出の用紙に記載しなければならないのが、以下の6点です。

  1. 適用される労働者の範囲:36協定で定めた時間外労働の上限が適用される「業務の種類」「従業員数」を記入
  2. 対象期間(最長1年間):36協定で定めた時間外労働時間や、休日労働が可能になる期間のことで、対象期間は1年
  3. 時間外労働・休日労働をさせる事由:「製品不具合への対応」「月末の決算事務」などの内容を記入
  4. 時間外労働させる時間数(1日、1か月、1年ごとに定める):「1日」「1か月」「1年」の箇所にはそれぞれの法定労働時間を超える時間数を記入
  5. 休日労働をさせる日数:「1か月に1日」など法定休日として定められた休日数を超えて出勤させる日数を記入
  6. その他厚生労働省令で定める事項:1年の起算日や、限度時間を超えた従業員に対する健康確保措置、割増賃金の率などを記入

「特別条項付き36協定」は例外的な時間外労働を可能とする規定

通常の36協定の上限である「月45時間・年360時間」を超え、例外的な時間外労働を可能にするのが「特別条項付き36協定」です。通常の36協定よりも締結の条件が多いのが特徴です。順を追って内容を解説します。

1. 特別条項とは?

36協定には、繁忙期や決算期で臨時的に残業時間が増える場合の臨時措置として「特別条項」の規定があります。労使間で「特別条項付き36協定」を結ぶことで「月45時間、年360時間」の上限を超えた時間外労働が可能になります。

2. 特別条項を結んでも残業上限を延長できるのは年6回まで

特別条項を結んだ場合でも、1年間のうち、時間外労働時間の上限を延長できる限度回数が設定されています。法律上、特別条項による「月45時間、年360時間」を超えた時間外労働が可能なのは年6回までです。なぜ6回までかと言うと、特別条項はあくまで業務量が増えた際の「臨時的な措置」であり、年の半分を超えてしまうと「臨時的」とは言えなくなってしまうからです。

3. 適用には「特別な事情」の記載が必要

特別条項は「時間外労働が発生すると想定される具体的な理由」なしに締結することはできません。具体的理由にも「一時的、または突発的に時間外労働を行わせる必要のある理由」に限るという条件があり「業務上必要な時」などの曖昧な理由は認められません。

「特別な事情」として認められる例として以下のような理由が挙げられます。

  • 決算業務
  • 業務の繁忙
  • 大規模なクレームへの対応
  • 工場のトラブルへの対応
  • 突発的な仕様変更

労働基準法改正による36協定の変更点

2018年に成立した「働き方改革関連法」の目玉が労働基準法改正による「時間外労働の上限規制」でした。特別条項を結んでいる企業に対して明確な時間外労働の上限を設定した制度で、長時間労働の抑制が期待されています。従来からの変更点を具体的に解説します。

1. 法改正の背景は長時間労働の抑制にある

長時間労働の蔓延や過労死・過労自死が深刻化し、より厳格な残業ルールが必要になったことが、2018年の労働基準法改正の背景にあります。労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることも研究で明らかになっています。残業が多い働き方から、労働者のワーク・ライフ・バランスを考慮した働き方を求める社会の意識の変化も法改正の後押しとなりました。36協定に関する法改正と同時に、厚労省は「時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめる」といった、従業員の働きすぎを防ぐための指針を示しています。

2.時間外労働(残業)の罰則付き上限規制が設けられる

従来の制度では上限拡大は年6回までという条件はありますが、特別条項を結べば事実上際限なく残業が可能な制度設計になっており、通常の36協定の「月45時間・年360時間」の上限を超えて働かせた場合にも罰則がありませんでした。過労死対策やワーク・ライフ・バランス考慮の面から法律での対策が不十分という専門家からの指摘もあり、2018年の労働基準法改正によって「時間外労働の上限規制」が導入されました。時間外労働の上限規制によって、特別条項を結んだ上でも適用される明確な残業上限が初めて設定されました。

  • 36協定を結んだ場合でも時間外労働の上限は「月45時間・年360時間」
  • 特別条項付きの36協定を結んだ場合でも時間外労働の上限は
    「年720時間以内」
    「複数月平均80時間以内(休日労働を含む)」
    「月100時間未満(休日労働を含む)」
    「月45時間を超えることができるのは、年6回まで」

この上限を超えて従業員を働かせた場合、企業には刑事罰で「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科さられます。法律違反になるかどうかは、「法定外労働時間」の超過時間で判断されます。

3. 「健康確保措置」の取り決めが必要になる

法改正に伴い厚生労働省が発表した指針では、特別条項を設定する際には「健康確保措置」を取り決めることが望ましいとしています。具体的には36協定の対象となる従業員には以下の9つの措置を取るよう協定で定めることを企業に求めています。

  1. 医師による面接指導
  2. 深夜業の回数制限
  3. 終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
  4. 代償休日・特別な休暇の付与
  5. 健康診断
  6. 連続休暇の取得
  7. 心とからだの相談窓口の設置
  8. 配置転換
  9. 産業医等による助言・指導や保健指導

4. 36協定届が新様式へ変更

36協定に関する協定届の様式も変更されました。大きな変更ポイントは以下の点です。

  • 上限時間を超えた時間外労働について規定する場合、想定される業務内容を区分して記載するための別様式(7種類)が付け加えられた
  • 特別条項あり(様式第9号の2)となし(様式第9号)で届出の様式が異なる
  • 時間外労働時間を超過しないことを示すためのチェックボックスが付け加えられた
  • 限度時間を超えて労働させる場合における手続を記入する欄が付け加えられた
  • 限度時間を超えて労働させる労働者に対して、健康確保措置を設けて記載する欄が付け加えられた

36協定に違反しないための対策は?

36協定・特別条項付き36協定で定められた時間外労働の上限を超えて法律違反とならないため重視すべきポイントを解説します。

1.労働時間を正確に把握し、長時間労働を減らす

毎月の時間外労働を正確に把握できる体制づくりが必要です、客観的に現時点での残業時間を把握できる管理方法をはじめ、適正な勤怠管理をもとに、必須業務の棚卸しや、長時間労働の削減などの長期的な取り組みを実行することが重要です。

厚生労働省は2019年に改正した労働時間に関するガイドラインの中で、長時間労働削減と勤怠管理で重視すべきポイントを示しています。

  1. 従業員の自己申告でなく時間管理を物理的記録によって行う(ICカード、タイムカード、PCログなど)
  2. 従業員の労働時間と在社時間の把握を行い、乖離がある場合は実態調査を行う

2. 残業上限を超えない仕組みを導入する

残業上限に達しそうな従業員を把握できる具体的な仕組みを導入しましょう。最新版の勤怠管理システムでは、残業上限に到達しそうな従業員を割り出し、アラートを出す機能も搭載されています。ただ「残業を禁止する」と宣言しても業務量が減らなければ実効性がありません。従業員の残業時間を把握し、非効率な業務を可視化した上で自動化できるシステムの導入や業務フローの見直しなど改善を行うことも有効です。

まとめ

例外的な時間外労働を可能にする36協定にも長時間労働抑制や過労死防止の側面から大きく変更が加えられました。

新様式の36協定を労使間で締結する場合は、時間外労働の上限を超えないための取り組みはもちろん、企業には従業員の健康確保のための対策や正確な労働時間把握の実施がセットで求められます。今後、残業超過による法律違反のリスクや従業員の健康悪化を未然に防ぐためには残業時間を可視化し、長時間労働を削減する具体的な仕組みの導入が必須と言えます。

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