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固定残業代制

こていざんぎょうだいせい

公開日時:2021.09.22 / 更新日時:2022.03.09

「固定残業代制」とは、残業の有無にかかわらず、月の残業代があらかじめ固定給に含まれている労働契約のことです。「月〇〇時間残業した」とみなした残業代が従業員に支払われることから「みなし残業」とも呼ばれています。「毎月○○時間の固定残業代が●万円」というみなしの時間より実際に働いた時間が少ない場合は、固定残業代として定められた金額を全額支払い、みなしの時間より働いた時間が多い場合は別途その分の残業代を支払う必要があります。導入が増えている固定残業代制ですが、正しく運用するためには厳格な要件をクリアする必要があります。

固定残業代制のメリット・デメリット

固定残業代制とは、残業をする・しないにかかわらず、残業代が月の固定給に組み込まれている労働契約のことです。この固定残業代制のメリット・デメリットを解説します。

メリット①:従業員に残業削減の意識が生まれる

固定残業代制にしたからといっても、企業側は残業代が削減できるわけではありません。しかし残業時間が固定されていることで、「固定の残業時間内に仕事を終える」という従業員の意識付けができます。

例えば、毎月30時間の固定残業、3万円の固定残業代が支払われる企業があるとします。この企業で毎月10時間程度の残業時間で仕事を終えることができれば、残業時間に対して残業代の方が多く付くことになります。従業員側にとってはメリットが大きくなるため、「残業時間を減らそう」という従業員の業務効率化への意識向上につながります。

メリット②:残業代計算の手間が省ける

固定残業代制を採用すると、従業員全員の残業代を個別に計算する必要がなくなり、給与計算の手間が省けます。残業時間が固定残業時間の範囲内に収まっている従業員は固定残業で残業時間を計算することができるからです。

もし、固定残業よりもその月の残業時間が多くなった従業員がいれば、その分のみ個別に残業時間と残業代を計算し、固定残業代にプラスして支払うことになります。

例えば、従業員10人の企業で毎月30時間の固定残業に対し、3万円の固定残業代を支払うという契約を結んでいるとします。その中で、9人が残業時間30時間以内、1人が1時間オーバーの残業時間31時間であった場合、残業代は以下のようになります。

残業時間30時間以内…9人、残業代3万円×9=27万円

残業時間31時間…1人、3万円+1時間当たりの賃金×1.25(時間外労働の割増賃金率)=43.125万円

その月の残業代=27万円+4.25万円

デメリット①:固定の残業時間に達しなくても残業代を払う必要あり

固定残業時間分より、従業員が早く仕事を終えても、固定残業代として設定されている金額を支払わなくてはなりません。そのため、比較的残業が少ない職場で固定残業代制を導入する場合はメリットよりもデメリットが大きいと言えます。

例えば、毎月30時間の固定残業に対し、3万円の固定残業代を支払うという契約している企業があるとします。その企業で働く従業員の月の残業時間が10時間であっても、契約通り3万円の残業代を支払わなければなりません。

デメリット②:違法運用していた場合のリスクが高い

固定残業代制を十分に理解せず違法なまま運用していると、裁判になった場合に高額な残業代を請求されるリスクがあります。

過去の裁判では、違法な固定残業代制をしていたため、制度自体が無効と判断され、制度適用時点からの残業代の総額を支払わなければならない、と判断されたケースもありました。違法であった期間が長ければ長いほど、残業代請求をする従業員が多ければ多いほど、支払う残業代が増える恐れがあります。

固定残業代制が違法になりうるケース

固定残業代制が違法になりうるケースについて確認します。固定残業代制を導入したいと考えるのならばチェックして置く必要がある5つのケースをそれぞれ解説します。

超過した残業代を支払っていない

契約を結んだ固定残業代に含まれる残業時間を超えて従業員が働いた場合、超過分の残業代を支払わないことは違法となります。

例えば、毎月30時間の固定残業に対し、3万円の固定残業代が支払われるという契約を結んでいる企業で、月35時間残業にもかかわらず3万円の固定残業代しか支払っていない場合は法違反です。従業員から訴えがあれば未払い分の残業代を支払わなければなりません。

最低賃金を下回っている

固定残業代制を導入する場合、固定残業代を含めた月給が時給換算して最低賃金を下回らないように設定しなければなりません。

もし、固定残業代を含めた月給の時給換算が最低賃金を下回っていた場合、「最低賃金法第4条1項」にもとづき、従業員は事業主に対して差額の支払いを請求できます。「最低賃金が上がった後も固定残業代の見直していなかったため、時給換算で最低賃金を下回っていた」という事態も考えられますので、最低賃金の改定後の制度見直しも怠らないようにしましょう。

固定残業代の金額・時間が明確に記載されていない

通常の賃金と固定残業代は明確に区別して支払う必要があります。固定残業代の時間数だけを記載し金額が不明の場合は、固定残業代制が無効になる可能性があります。

そのため、就業規則には、以下の例のように、どこからがどこまでが基本給なのか、どこからが固定残業代に当たるかを明記しなくてはなりません。

基本給・固定残業代明記の例

月給25万円(40時間分の固定残業代5万円を含む)

固定残業代制を従業員に周知していない

固定残業代制を適用する場合は、就業規則や雇用契約書などの書面で「毎月〇時間につき、●万円の固定残業代制を適用する」旨を周知しておく必要があります。口頭ではなく、必ず書面で説明しなくてはなりません。

口頭説明のみで説明が曖昧になっている場合、もしくは従業員が知らないうちに固定残業代制を適用した場合は、制度自体が無効となる可能性が高くなります。

募集要項や求人票に適切な表示をしていない

2018年1月から施行されている職業安定法改正により、固定残業代制を導入する会社が人材募集をする場合は募集要項や求人票に、下記の内容を全て明示することが義務付けられました。必要な表示をしていない場合、違法な求人とみなされる可能性があります。

  1. 固定残業代を除いた基本給の額
  2. 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
  3. 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

具体的には以下のように記載します。

  • 基本給:月給25万円
  • 固定残業代5万円/40時間相当分を含む
  • 40時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給する

なお、以下の場合は求人をした企業に罰則が科せられることもあります。

  • 求人者(会社側)が固定残業制を隠して求人する
  • 求人者が(会社側)固定残業代制を転職支援業者に対して隠して求人内容を伝え、その求人内容で転職支援業者が求職者に職業紹介を行う

まとめ

固定残業代制とは一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働の残業代を固定給に含めて支払う労働契約のことです。導入する企業は増加しており、適切に運用すれば、残業の削減や業務の効率化につながります。ただし、正しい運用のためには、企業側も制度の細かい規定を理解する必要があります。

違法な運用をして制度が無効とみなされた場合、従業員からの残業代請求が高額になるというリスクもあります。制度の正しい理解と共に、適切に残業代計算ができるシステムや固定残業代制適用者に合わせた勤怠管理ができるシステムを導入することで、法違反のリスクを減らすことにつながります。

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