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弁護士が解説

従業員が新型コロナウイルスに感染して休業した場合、給与の支払いは発生しますか?

公開日時:2021.03.31 / 更新日時:2024.09.02
詳しく解説

Q.従業員が新型コロナウイルスに感染して休業した場合、給与の支払いは発生しますか?

営業職が多い中小企業の人事をしています。業務上、対面で取引先と接触することが多いため従業員の出社率は高いです。感染対策はしていますが、従業員が感染した場合の休業対応フローを準備しているところです。万が一従業員が感染して休業してもらう場合、給与の支払いをどうすればよいのか知りたいです。

A.新型コロナウイルスに従業員が感染し就業制限に基づいて休業する場合、企業側は法律上、給与の補償に当たる休業手当を支払う義務はありません。

新型コロナウイルスに感染しており、感染症法に基づいた都道府県知事が行う就業制限によって従業員が休業する場合は、労働基準法上の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられるので、休業手当を支払う義務はありません。ただし、法律上は手当の支払い義務がないとしても、従業員が生活に困窮しないように有給休暇を消化するように促したり、傷病手当金の申請方法を案内することが望ましいです。

1.休業手当を支払う義務が発生する場合

従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、企業は休業手当を支払う必要はありませんが、感染が確実ではないが疑われる従業員に休業を命じた場合は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまるため、休業手当を支払う義務が発生します。

ケース別に解説すると、新型コロナウイルス感染が疑われる従業員が自主的に会社を休んでいる場合、企業側が休業手当を支払う必要はありません。

一方、企業側が「感染症対策として発熱などの症状がある場合は出勤を禁じる」などのルールを設けている場合は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまるため、休業手当を支払う義務が生じます。

休業手当の支払い義務がない場合の従業員への配慮として、傷病手当金を勧めるのも効果的です。傷病手当金は療養日から起算して3日を経過した日から、直近12か月の平均の標準報酬日額の3分の2に相当する金額が給されます。申請には雇用側の証明書が必要なので、新型コロナウイルス感染症による休業対策の一環として準備しておきましょう。また、感染していても無症状の従業員には、給与の発生しない休業ではなく在宅勤務を促す方法もあります。

2.休業手当はいくら支払う必要があるのか

休業手当は全ての労働者が支給対象で、条件に当てはまる場合、正社員だけでなくアルバイトや日雇い社員へも支給する義務があります休業手当として支払う額は平均賃金の60%以上と労働基準法で定められています。自社が休業手当として支払う具体的な額については、前もって労使協定で定めておきましょう。

休業手当は、実際に休業した日数に応じて支払額が決定します。従業員の1日当たりの平均賃金額を確認した上で、休業手当の支給額を算出します。ここでは、休業手当の支給額を平均賃金の60%として計算します。

 

1日の平均賃金を算出する計算式

「1日分の平均賃金」=
「休業した日以前3カ月間に支払った賃金の総額」÷「休業した日以前3カ月間の総日数」

休業手当を平均賃金の60%としている場合の計算式

「休業手当」=「1日分の平均賃金」×「休業日数」×0.6

月給制の正社員とアルバイトや日雇い社員では、支給計算方法が異なります。アルバイトや日雇い社員の場合、まず最低補償額を算定し、最低保証額と平均賃金の高い方を計算式に当てはめて休業手当を算出します。

また、新型コロナウイルス感染拡大を受け、政府は雇用調整助成金に特例措置を設け、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている企業に対し、業種を問わず休業手当の支払いの一部を助成しています。これは新型コロナウイルスの影響で休業となったものの、企業の都合で休業手当を受け取れない労働者のために設けられたもので、特例措置の期限は「緊急事態宣言が全国で解除された月の翌月末まで」としています。現在は4月末まで継続予定で、申請は3月末までに行う必要があります。(※)

一方、職場内でクラスターが発生した、あるいは同僚や取引先相手経由で感染したなど感染経路が明確で、業務で感染したことがはっきりしている従業員は労災保険給付の対象となります厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例」によれば、感染経路が明確に特定されなくとも、人の出入りが多い現場で働き、感染の危険が高い業務に従事している従業員のケースでは労災給付が認められることがあります。

(※)記載情報は2021年2月時点の情報であり、厚生労働省が発表する最新情報とは異なる場合があります。予めご了承ください。

3.従業員の感染と休業に備えておくべきこと

新型コロナウイルスの感染者がまだ出ていない企業でも、従業員の感染と休業に備えておくべきこととして就業規則の改定や利用できる社内制度、国の制度についてQ&A形式で周知しておくとよいでしょう。

新型コロナウイルス感染症による休業で無収入になる従業員への配慮として、労使の話し合いによって特別休暇制度を設けることも検討しましょう。また、感染を隠して就労する従業員が出ないよう、新型コロナウイルス感染症による就業拒否の根拠となる条文を就業規則で示し、全従業員へ周知しておくことも感染症対策として有効です。

まとめ

新型コロナウイルスに感染した従業員への休業要請が止む終えない場合、企業側は手当を支払う義務はありませんが、休業中に無収入の時期が続くと家賃や光熱費が支払えなくなり、従業員が就業し続けられなくなる可能性があります。そのため、休業を決める際には従業員の不利益を最大限回避できるように努力する必要があります。休業した従業員の生活を守り不安を解消するためにも、休業手当の支払いが必要になるケースに対応できるよう就業規則を見直したり、休業中の従業員が無収入にならないよう利用可能な制度を案内したり、いざ従業員の休業措置を行う際に社内で混乱が起きないような配慮をしておきましょう。

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