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2023年4月から中小企業にも適用開始 月60時間を越える時間外労働の割増率が50%へ

公開日時:2022.07.11 / 更新日時:2024.08.28

法改正により、2023年4月1日から、中小企業を対象に月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%以上に引き上げられます。この引き上げは、働き方改革関連法施行による決定です。割増賃金率引き上げに伴い中小企業が取るべき対応と、深夜、休日労働をした場合の残業代についても解説します。

働き方改革により中小企業の月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げへ

中小企業を対象に1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられる法改正の具体的内容や法改正に至った背景、引き上げ後の割増賃金の計算方法についてそれぞれ解説します。

法改正の内容

2019年に施行された「働き方改革関連法」によって、この猶予措置が廃止され2023年4月1日から、中小企業にも「月60時間以上の時間外労働について割増率50%以上の割増賃金を支払う」義務が生じます。

自社の労使協定により、例えば55%や60%など、50%よりも多く割増賃金率を設定することも可能です。

割増賃金について詳しくは人事・労務の注目用語「割増賃金」をご覧ください。

今回の割増賃金率変更の対象は中小企業ですが、法律が規定する中小企業の条件に該当するかどうかは、以下の表を見て判断しましょう。

業種 ①資本金の額または出資の総額 ②常時使用する労働者
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
上記以外のその他の業種 3億円以下 300人以下

なお、60時間を超えている、いないに関わらず月45時間超の時間外労働を従業員にさせるには特別条項付きの36協定の締結が必要です。特別条項の締結なしに月60時間の残業をさせた場合、割増賃金率50%以上の割増賃金を支払っていたとしても労働基準法違反となります。

中小企業の割増賃金率が引き上げられた背景

大企業は労働基準法改正により、2010年から1か月60時間を超えて時間外労働をさせた場合の割増賃金率が50%以上に設定されていました。この時、中小企業の割増賃金率は25%以上のまま据え置かれ、引き上げまでに猶予期間が設けられていたという背景があります。この猶予期間が廃止されることになったのは2019年に施行された「働き方改革関連法」による決定です。これにより、2023年4月1日から、中小企業にも「月60時間以上の時間外労働について割増率50%以上の割増賃金を支払う」義務が生じました。

割増賃金率50%への引き上げは、企業の長時間にわたる時間外労働を抑制することが目的です。特に月60時間超の時間外労働が多い中小企業では従来と同じ働き方を続けると残業代がかさむため、長時間労働を減らす取り組みの実施が必要になります。

割増賃金率引き上げ後の時間外労働の計算方法

2023年4月1日からの割増賃金引き上げ後は、1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計して60時間を超えた時点から50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。以下の条件での時間外労働の計算を考えてみましょう。

<割増賃金率引き上げ後の時間外労働の条件>

・1か月の起算日は毎月1日

・時間外労働の割増賃金率

 60時間以下・・・25%  60時間超・・・・・50%

・深夜残業/休日労働はない  

1か月のうちの1日~23日(日曜日は3回、勤務したのは20日)までの時間外労働時間が60時間…割増率25%                                 24日~31日(日曜日は1回で、勤務したのは6日)が20時間の場合…割増率50%

この条件で、1時間当たりの賃金が2,000円だとすると、次の計算で残業代を求めます。

60(時間)×1.25×2,000円=150,000円  20(時間)×1.50×2,000=60,000円  60,000円+150,000円=210,000円

深夜・休日労働の取扱いの変更点

割増賃金率が50%に引き上げられた後は、時間外労働が月60時間を超えた時の深夜労働・休日労働の割増賃金も変動します。割増賃金率引き上げ後の深夜・休日労働の取り扱いの変更点をそれぞれ解説します。

深夜労働との関係

月60時間を超える時間外労働を、深夜22:00~5:00の時間帯に行わせる場合、深夜の割増賃金率は以下のようになります。

25%以上(深夜割増の割増賃金率)+50%以上(時間外割増賃金率)=75%以上

例えば、時間外労働が既に月60時間を超えていて割増賃金率は50%、深夜割増賃金率25%、1時間あたりの賃金2,000円、9:00~25:00まで労働した場合で残業代を求めると以下のようになります。

・9:00~18:00まで 残業代なし

・18:00~22:00まで 時間外労働が4時間 割増賃金率50%  22:00~25:00まで 深夜割増+時間外労働が3時間 割増賃金率75%(25%+50%)

 4時間×2,000円×1.5=12,000円  3時間×2,000円×1.75=10,500円  12,000円+10,500円=22,500円

休日労働との関係

月の時間外労働が60時間を超えた後に休日出勤をした日があったとしても、深夜勤務さえなければ通常の休日割増の割増賃金率35%のままです。

ただし、これは法定休日の場合で、社内の公休日(会社が指定した休日)などの法定外休日に月60時間を超えて時間外労働が発生した場合、割増賃金率50%で残業代を計算します。

企業に求められる対応

2023年の割増賃金率の引き上げに伴い、割増賃金の支払いや労働時間の削減などの面で中小企業に求められる対応をそれぞれ解説します。

代替休暇(有給)を付与する

月60時間を超える法定時間外労働を行った従業員の健康を確保するため、引き上げ分の割増賃金の支払の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。この代替休暇制度を導入するには、以下の内容を定める労使協定の締結が必要です。

労使協定で定める事項

①代替休暇の時間数の具体的な算定方法(換算率を何%にするかなど)

②代替休暇の単位

③代替休暇を与えることができる期間

④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

ただし、代替休暇を取得するかどうかは従業員に委ねられており、利用を強制することはできません。また、代替休暇を与える期間には定めがあり、法定時間外労働が1か月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月間以内の期間で与えなくてはなりません。

・代替休暇の時間数を求める計算

代替休暇の時間数は、1か月60時間超の法定時間外労働時間に対する引上げ分の割増賃金額に対応する時間数となります。代替休暇の時間数は以下の計算式で求めます。

代替休暇の時間数=(1か月の法定時間外労働時間-60)×換算率※

※「代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率」から「代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率」を引いた数値。時間外労働の割増賃金率が25%、60時間超の時間外労働の割増賃金率50%の場合、換算率は1.50-1.25=0.25

例えば、月80時間の時間外労働をした場合、60時間を超えた20時間分に換算率をかけることで代替休暇の時間数を算出できます。

換算率が0.25%だった場合、 20時間×0.25=5時間 の代替休暇の時間数が算出できます。

・代替休暇の単位

代替休暇は従業員が休息できるよう、1日、半日のいずれかの単位で与える必要があります。また、1日の所定労働時間が8時間で、代替休暇の時間数が10時間ある場合など、2時間分の端数が出る場合、労使協定で定めていれば他の有給休暇と合わせて有給休暇を取得することが可能です。

例:8時間分を1日の代替休暇、2時間分を時間単位の有給休暇と合わせて半日の休暇とする

割増賃金率の50%に引き上げて賃金を支払う

代替休暇を活用しない場合は、そのまま1か月60時間を超える時間外労働に対し、割増賃金率50%以上の割合で計算した割増賃金を給与計算して従業員に支払います。割増賃金率引き上げにまだ対応していない給与計算システムを使っている場合、2023年4月1日以降は時間外労働が月60時間以上発生した時に自社で設定した50%以上の割増賃金率で残業代を計算できるよう設定を更新する、もしくは、バージョンアップに対応する必要があります。

労働時間の把握・可視化

割増賃金率が引き上げられた後は、労働時間の把握と時間外労働時間の可視化がさらに重要となります。時間外労働が毎月60時間を超えるようでは、割増賃金率引き上げ前よりも残業代含む人件費が大幅に増加してしまうためです。これを避けるため勤怠管理システムを活用して毎月や毎年の労働時間を可視化し、時間外労働が多い月や部署を特定しましょう。これらの特定は人員配置の見直しに役立つだけでなく、自社の働き方にあった勤務制度の検討材料にもなります。

時間外労働の削減対策

自社の労働時間を把握、可視化した上で、月の時間外労働時間が60時間を超えないような対策を講じます。月の労働時間の把握した上で、余分な時間外労働が多い傾向がある、または業務の進め方に課題があると判断した場合は残業の申請制を採用しましょう。「時間外労働をできるだけ減らせるよう、業務の進め方を工夫する」という意識の醸成につながります。

このほかにも、労働時間が他よりも多い部署があった場合には管理職や部署メンバーにヒアリングした上で、業務量の調整や必要業務の精査などの見直しを行います。全社的に時間外労働を減らすための文化を根付かせたい場合はノー残業デイを設け、会社としての姿勢を明確にするのもおすすめです。

就業規則の変更

1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金率と1か月の起算日については、労働基準法第89条第1項第2号に定める「賃金の決定、計算及び支払の方法」に関するものです。この部分に変更がある場合は、割増賃金率50%の引き上げに合わせて就業規則自体を変更し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

割増賃金率が引き上げられた場合のモデル就業規則

(割増賃金)

第○条時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。

(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月1日を起算日とする。

①時間外労働60時間以下・・・・25%

②時間外労働60時間超・・・・・50%

(以下、略)

まとめ

2023年4月1日から、中小企業を対象に月60時間以上の時間外労働をさせた場合割増率が50%に引き上げられます。

月60時間以上の時間外労働が常態化している企業は、特に残業代計算の方法の変更への対応や、代替休暇等の活用を進める必要があります。時間外労働時間の集計や月60時間の時間外労働を抑える対策の一手として、勤怠管理システムを活用し、労働時間を可視化することが有効です。時間外労働に関する自社の状況を客観的に把握した後は、システムを活用しながら業務量の見直しや残業の申請制導入などの対応を検討しましょう。

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