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【社労士監修】2022年度にも、雇用保険料が引き上げへ。コロナ禍の影響と今後の展望とは

2021.09.22

2022年度から雇用保険料の負担が増額する見通しです。コロナ禍による経済的な打撃で雇用調整助成金の給付が増加し、これまでの積立金も底をつくと予想されていることが理由として挙げられます。 この記事では、そもそも、雇用保険事業にはどのような役割と種類があるのか、雇用保険料の引き上げに伴う企業への影響や今後の雇用状況の展望についてそれぞれ解説します。

2022年度にも雇用保険料の引き上げ検討へ

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により事業の縮小を余儀なくされた支給された事業主に支給するのが「雇用調整助成金」です。この雇用調整助成金の財源は、働き手の給与から天引きされる雇用保険料ですが、厚生労働省が現在は低水準の雇用保険料率の引き上げの検討に入ることが2021年7月に判明しました。

早ければ来年2022年の通常国会に雇用保険料増額を盛り込んだ、雇用保険法改正案が提出される見通しです。

理由①コロナ禍で雇用調整助成金の給付が増加

雇用保険料が引き上げられる理由として、コロナ禍で雇用調整助成金を申請する企業が急増し、給付決定額が4兆円を超え財源が逼迫したことが挙げられます。

雇用調整助成金の支給推移

雇用調整助成金の支給推移雇用調整助成金の支給推移

雇用調整助成金は、雇用安定の事業の一部です。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、2020年からは助成率と上限額を引き上げた雇用調整助成金の特例措置が設けられました。新型コロナウイルスによる事業縮小や休業などの影響が深刻なことから、これまでにない規模の事業者が対象となっていました。特例措置により、2020年3月以降の雇用調整助成金の支給額が増加していたという経緯があります。

雇用調整助成金の特例措置についての詳細は【用語集】雇用調整助成金を参考にしてください。

理由②積立金も底をつく見通し

新聞各社の報道によると、2021年の年度末には雇用保険の積立金がほぼ底をつく見通しであることも雇用保険料増額の決定の理由の1つと考えられます。

雇用保険制度における積立金とは?

雇用保険制度では、特別会計に関する法律第103条第3項の規定により、雇用保険事業の失業等給付費に充てるために必要な金額を積立金として積み立てています。積立金は、雇用・失業情勢が悪化した際にも、安定的な失業給付を行うため、好況期には雇用保険料を積み立て、不況期には財源として使用する仕組みです。

雇用保険の事業の種類

雇用保険は原則として企業が従業員全員に対して加入させる必要がある保険制度です。雇用保険の事業は大きく分けて2種類あります。

雇用調整助成金の支給推移雇用調整助成金の支給推移

現在の雇用保険の保険料率は1つ目の「失業等給付事業」が0.6%の保険料率で、労働者と企業が半分ずつ、2つ目の「雇用保険二事業」が0.3%で企業だけが負担しています。

雇用保険事業の概要  ※令和3年の「一般の事業」のみ

雇用保険
名称 失業等給付事 雇用保険二事業
2021年現在の保険料 ・0.6%
・労働者と企業で折半
・0.3%
・企業が負担
事業の内容 1. 失業者への給付
2. 就職促進給付
3. 教育訓練給付
4. 雇用継続給付
1. 雇用安定事業
2.能力開発事業

厚生労働省|雇用保険制度の概要
厚生労働省|令和3年度の雇用保険料率について

※一般事業の他に短期雇用特例被保険者が多く雇用される「特掲事業」があり、雇用保険の保険料の料率を一般の事業と比べて高く設定されています。

それぞれの事業の概要と、雇用調整助成金との関係を以下で詳しく解説します。

①失業者に手当を払う「失業等給付事業」

「失業等給付事業」は、失業者に失業手当を支払う給付事業です。労働者の収入がなくなったとき、出産育児などで働けなくなったときのために用意されています。失業者への求職者給付のほかにも、再就職手当や就職促進給付、再就職のためのスキル取得のために使われる教育訓練給付、雇用継続給付(高年齢雇用継続給付、介護休業給付)などの種類があります。育児休業給付金もこの失業給付事業の1つです。

「失業等給付事業」は、失業者に失業手当を支払う給付事業です。失業給付とは雇用保険の被保険者が定年、倒産、自己都合などにより離職した場合に、失業中の生活を心配せずとも仕事探しができるように給付金が支給される制度のことです。失業手当は「基本手当」とも呼ばれています。

このほかにも、再就職手当や就職促進給付、再就職に向けたスキル取得のために使われる教育訓練給付、雇用継続給付(高年齢雇用継続給付、介護休業給付)などの種類があります。

失業等給付の内訳

失業手当(基本手当)いわゆる休職中にもらえる失業手当のこと
就職促進給付再就職手当、就職手当など就職後にもらえる手当のこと
教育促進給付就職のためのスキル取得を目的に教育訓練経費の一部がもらえる手当のこと
雇用継続給付高齢者や、育児休業、介護休業した人がもらえる手当のこと

※2020年4月より育児休業給付は失業等給付から独立

②休業・転職者らを支援する「雇用保険二事業」

「雇用保険二事業」は休業した人や転職した人を支援するための事業です。一般の従業員に直接給付するのではなく、従業員の雇用の安定やスキルアップ、転職者の受け入れをするために企業側を支援します。キャリアアップ助成金やコロナ禍で活用が進んだ雇用調整助成金もこの事業に含まれます。

「雇用保険二事業」は具体的には以下の2つの事業に分けられます。

  • 雇用安定事業(雇用調整助成金、労働移動や地域雇用開発を支援する助成金の支給等)
  • 能力開発事業(職業能力開発施設の設置・運営、事業主による能力開発に対する助成金の支給等)

雇用保険料引き上げの影響

雇用保険料の引き上げを実施した場合、保険料収入は0.1%の引き上げで年2千億円増える計算となります。企業が負担する保険料も現状よりも増えると予想されています。雇用保険料の引き上げが雇用状況や企業に与えると考えられる影響について解説します。

「失業等給付事業」の保険料負担は倍になる可能性も

失業者向けの「失業等給付事業」の料率は労働者側、使用者側の折半で本来1.2%ですが、現在は0.6%の低水準に設定されています。これが、コロナ禍で雇用調整助成金の給付増加による財源圧迫のため本来の1.2%の料率になると、労使の負担は現在の2倍になる計算です。

料率が1.2%の場合の労使の負担は全体で年1兆円規模で増加します。従業員の1人で考えると、月収30万円の人だと保険料は900円から1800円に増える計算になります。

引き上げによって雇用の在り方が変化する可能性も

雇用保険料の引き上げによって、企業の負担は増加しますが、雇用保険料の増大だけで日本の雇用状況が一変するような甚大な変化が起こるとは考えにくいと言えます。ただし同時に、雇用保険だけでなく、社会保険料も上がっている状況です。

企業にとってこの2つの保険料増加は負担が相当なものであるため、保険対象外の週20時間未満で働く短時間労働者や、フリーランスばかりを雇用し、正社員雇用を減らす企業が現れる可能性もあります。そのため、今後の議論によっては、保険適用者を増やし、雇用保険の加入者の減少を防ぐことで財源を増やすなど雇用保険のあり方自体を時代に合わせて変えていく可能性もあります。

社会保険料負担も重なり、最低賃金アップのメリットも感じにくくなる

雇用保険料などの労働保険料ばかりでなく、社会保険料(年金や健康保険料)も、少子高齢化社会の中で上昇しています。

今後も社会保険料と雇用保険料の負担が増加すると、従業員の給与からの控除割合も増え続けるため負担ばかりに目が行く状況となります。そのため、労働保険や社会保険のそもそもの意義である、「さまざまな雇用の状態にある雇用者の相互扶助・世代間の相互扶助」、つまり「相互に助け合う」という目的を従業員自身が感じることが難しくなると考えられます。

また、現在は保険料が上がる一方で最低賃金も上がり続けている状況です。ただし、最低賃金が上がったとしても、同じ職場で週20時間以上働けば雇用保険に加入する必要があり、最低賃金の上昇分も控除すればなくなってしまいます。つまり、雇用保険料が上がることによる急激な変化は起きないものの、「全体として最賃が上がっても従業員の給与は増えない」というように政府の政策に矛盾が生じていく可能性も指摘できます。

今後の展望

今後、政府は雇用保険のあり方や料率の引き上げについて専門家を集めた審議会を設け、労使の保険料率引き上げのほか、国費投入の在り方についても議論する予定です。審議会で雇用保険制度の運用方針が決まれば雇用保険の料率を変える法案が2022年に提出されます。

保険料の上げ幅は給付の対象者数や経済状況を勘案して決めると予想されます。労働者、企業側双方の負担増になるだけに、誰を対象者とするのか、雇用調整助成金をはじめとする事業内容を現行のままにするのか、雇用保険全体の役割の見直しも課題です。

企業側では、コロナ禍において新しい働き方を積極的に活用し、生産性を大いに向上させているところもあり、雇用保険制度の変革をチャンスと捉える動きもあります。雇用保険料の負担増をきっかけとして新しい働き方や雇用の可能性を模索する流れが加速する可能性もあります。

特に、働き方改革で進められてきた「多様な働き方」は、短時間労働者やフリーランスも含めたさまざまな働き方になることを促進している施策です。雇用の在り方見直しによる多様な働き方の進展自体は、現在の社会の方向性にも合うものだと言えます。

経営上「雇用保険料や社会保険料が上がるから雇用を減らす」という考え方は望ましくないにしろ、雇用保険制度の見直しは多様な働き方を採り入れ、合理的な雇用の在り方を考え直すきっかけになりうると考えられます。

まとめ

コロナ禍による事業縮小による影響で、雇用調整助成金の給付が増加し2022年度から雇用保険料の負担が増額する見通しです。現在、雇用保険の保険料率は低く設定されていますが、財源逼迫の影響で、失業者に手当を払う「失業等給付事業」は今の2倍の増額となることも予想されます。

今後の雇用保険料の引き上げは避けられない見通しですが、ただ企業や労働者が負担する保険料が上がるだけでなく、どのように負担していくのか雇用保険制度の在り方まで含めて審議会で議論した後、国会に法案提出がされる見込みです。

国会での議論を経て、雇用保険料の増額に加え、雇用保険制度に関する法改正も行われる可能性があります。急激な制度変更は考えにくいものの、法改正に対応できるシステムを活用することで、制度改正の影響による人的ミス防止にもつながります。法改正に備えた仕組みの整備を今から準備しておくとよいでしょう。

また、コロナ禍を期に、新たな多様な働き方が登場していることを考慮し、今回の雇用保険料の話題をきっかけとして、今の時代どのような雇用のあり方が良いのかを見直すきっかけにしてみるのも良いのではないでしょうか。

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