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雇用調整助成金

こようちょうせいじょせいきん

公開日時:2021.05.27 / 更新日時:2022.03.09

雇用調整助成金とは、経済上の理由で事業の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員に対して一時的に休業や教育訓練、出向を行うことで雇用の維持をした際の休業手当や賃金の一部に対して助成金を支給する制度です。虚偽申請による不正受給を行った事業主に対しては、助成金の返還や支給取り消し日から3年間、雇用保険料を財源とする全ての助成金が受け取れなくなるなどの罰則が設けられています。また、特に悪質な不正受給に対しては、事業主の氏名や事業所の名称・住所、不正受給金額が公表されます。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、2020年からは助成率と上限額を引き上げた雇用調整助成金の特例措置が設けられました(2021年4月時点)。

雇用調整助成金の受給条件

雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対して支払われるものです。労働者個人に支給されるものではありません。

雇用調整助成金を受給するためには、次の受給要件を満たしている必要があります。

受給要件

(1)雇用保険の適用事業主であること

(2)売上または生産量などの事業活動を示す指標について、最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること

(3)雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標が以下の上限であること
 ・最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業では10%を超えてかつ4人以上
 ・中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと

(4)実施する雇用調整が一定の基準を満たすものであること
 1. 休業の場合 労使間の協定により、所定労働日の全1日に渡って実施されるものであること(※1)
  ※1 事業所の従業員(被保険者)全員について一斉に1時間以上実施されるものであっても可
 2. 教育訓練の場合 1と同様の基準のほか、教育訓練の内容が職業に関する知識・機能・技術の習得や向上を目的とするもので、当該受講日において業務(本助成金の対象となる教育訓練を除く)に就かないものであること
 3. 出向の場合 対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること

(5)過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して1年を超えていること

1. 受給額

雇用調整助成金の受給には、休業、教育訓練、出向の場合ごとに以下の条件があります。

※対象労働者1人あたり8,370円が上限

  • 休業を実施した際の休業手当の3分の2(大企業は2分の1)を助成
  • 教育訓練を実施した際に支払った賃金相当額の3分の2(大企業は2分の1)を助成
  • 出向した場合、出向元事業主の負担額の3分の2(大企業は2分の1)を助成
  • 教育訓練を実施した際は1日2,400円(大企業は1,800円)を加算(半日の場合は0.5日として計算)

受給できる日数には限度があり、休業・教育訓練を実施した初日から1年の間に最大で100日分、3年の間に最大150日分です。出向では最長1年、出向期間中の受給が可能です。

また、休業・教育訓練期間中に労働者が所定外労働を行っていた場合は、「残業相殺」※として所定外労働時間分の額が助成金から差し引かれます。

※時間外労働等の時間を相殺して支給すること

2. 新型コロナウイルス感染症による特例措置の場合

2020年4月以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、これまでにない規模の事業者が対象となる、条件が大幅に緩和された特例措置が設けられ、速やかに助成金を支給する体制が整えられました。

特例措置の内容には、最大で100%の助成率のほか、支給上限の大幅な引き上げや計画届の提出の不要化、残業相殺の廃止、教育訓練加算の拡大などが盛り込まれています。

特例措置は2021年6月まで継続する予定となっていますが、2021年の5月~6月は特例措置が縮小されます。

特例措置を受けられるのは、次の条件を満たす全ての業種の事業主です。

新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例の対象事業主
・新型コロナウイルス感染症の影響で経営環境が悪化し、事業が縮小している
・最近1か月の売上、または生産量などが前年同月比5%減
・労使間の協定に基づき、休業などを実施し、休業手当を支払っている

対象期間と限度日数、助成額は次の通りです。

対象期間と限度日数
・対象期間は1年間
・支給限度日数は1年間で100日分、3年間で150日分

助成額
・1人1日あたり最大15,000円
・「休業を実施した際に支払った休業手当に当たる額×助成率」で計算する

また、特例措置の助成率は企業規模によって変わります。

特例措置の助成率 ※
中小企業基本:5分の4
解雇等を行わず雇用を維持:10分の9
2021年1月~4月の緊急事態宣言等対応特例:5分の4(10分の10)
大企業基本:3分の2
解雇等を行わず雇用を維持:4分の3
2021年1月~4月の緊急事態宣言等対応特例:5分の4(10分の10)

※2021年5月以降の助成率です。

雇用調整助成金の申請と受給

雇用調整助成金の受給までにはいくつかの手続きを取る必要があります。ここからは、雇用調整助成金の申請に必要な書類や受給までの流れについて説明します。

1. 申請の流れ

雇用調整助成金の申請の流れは次の通りです。

1. 休業計画・労使協定休業の具体的な内容を検討し、労使間で休業にかかる協定を締結。
2. 計画届の提出雇用調整の計画の内容について計画届を提出。
※提出は休業の前後どちらでも可
3.休業の実施計画届に基づいて休業を実施。
4.支給申請休業の実績に基づき、支給申請。
※「支給対象期間」ごとに申請。
※申請期限は「支給対象期間」の末日の翌日から2か月以内。
5. 労働局の審査支給申請の内容について労働局で審査。
6. 支給決定支給決定額が振込まれる。

通常の雇用調整助成金では、雇用調整の計画を作り、計画届を事業所の所在地を管轄する都道府県労働局またはハローワークに提出します。次に、計画届に基づいて休業を実施し、支給の申請を行います。申請内容について労働局が審査を行い、支給が決定されると支給決定額が支払われます。

計画届を提出するタイミングは、休業を実施する前後どちらでも可能です。申請は、申請期限(支給対象期間の末日の翌日から2か月以内)内かつ支給対象期間ごとに行う必要があります。

新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例を受ける場合、雇用調整の計画届の提出は必要ありません。ただし、休業の実施前に休業の具体的な内容について検討するとともに、労使間で休業に関する協定を締結する必要があります。

雇用調整助成金に必要な書式はこちらからダウンロードできます。

雇用調整助成金
雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)

2. 不正受給の場合

雇用調整助成金の不正受給には罰則が設けられており、不正受給と認められた場合には厳しい措置が取られます。

雇用調整助成金不正受給に対する罰則
1. 不正の事実があった時点以降の全ての受給額の返還
2. 事業所名、事業主名の公表
3. 5年間は雇用関係助成金の支給申請ができなくなり、特に悪質な場合は刑事告発

例えば、売上が回復して従業員の休業を解除したのにもかかわらず、引き続き休業しているものとして助成金を受給したり、休業予定の従業員を急きょ働かせるなど計画届通りに休業を行わずに助成金を受給したりした場合には不正受給とみなされます。

新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例措置が設けられて以降、雇用調整助成金の不正受給件数が増加しています。2021年4月6日時点で、計44件、不正受給の総額は約2.7億円にも上っています。

これから雇用調整助成金の申請を行う企業は、不正受給に該当しないよう改めて受給要件や申請の流れを確認しましょう。

まとめ

雇用調整助成金は、経済上の理由で事業の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員に対して休業等の対応で雇用の維持をした場合に支払った休業手当や賃金などの一部に対して助成金を支給する制度です。

雇用調整助成金は、不況や災害によって経済が打撃を受けるたびに特例措置が設けられてきました。これまで、リーマンショックや大災害の際にも特例措置が設けられ、2020年には新型コロナウイルスの影響に伴う特例措置が実施されています。

不正受給が明らかになった場合には助成金の返還といった罰則が科されるだけでなく、事業所名や事業主名の公表などの厳しい措置が取られます。雇用調整助成金の受給を検討する場合は、受給要件や申請から受給までの手続きをよく理解し、不正受給にならないよう正しい手順を踏む必要があります。

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