本記事では、年次決算の必要性や決算から納税までのスケジュール、年次決算における注意点などを解説しています。必要書類のチェックリストも掲載しているため、参考にしてください。
年次決算の目的
年次決算の目的は、法人税の確定申告を行うことや、企業の経営・財政状況を全体的に把握することです。
すべての法人は原則として、「年度終了の翌日から2か月以内に決算申告を行わなくてはならない」とされています。例えば、3月31日が決算日の場合は、5月31日が申告期限となります。
これは法人税法第74条による、「確定した決算に基づき、法人税の確定申告書を提出しなければならない」という規定によります。
なお、所定の期日までに申告しなかった場合、期限内に納税していたとしても、「無申告課税の対象となる」「延滞税が発生する」といったペナルティが課されるので注意が必要です。
年次決算は、事業年度の収益・費用などを集計した「損益計算書」と、資産状況を表す「貸借対照表」を作成し、定時株主総会などでの提出が義務付けられています。さらに、企業の全体的な財政状況を把握し、事業年度の振り返りや次年度における経営戦略、資金繰りに役立てるためにも必要な業務です。
年次決算の業務内容
年次決算とは、期末に事業年度1年間の事業実績を集計して、決算書(財務諸表)を作成し、国に申告を行うまでの一連の業務です。
決算書は正式には「財務諸表」と言い、「損益計算書」「貸借対照表」「株主資本等変動計算書」といった資料で構成されます。法人税の申告・納税を行うための元の書類となるため、不正や記載の誤りがないよう精査しなければなりません。
また、決算書は会社法の定めにより、株主総会の承認を経て公告しなければなりません。そのため、取引先や投資家にとっても今後の戦略に関わる重要な資料となります。
年次決算と月次決算との違い
年次決算と月次決算との違いは、「年単位」で行うか「月単位」で行うかです。加えて、年次決算の実施は法人の義務ですが、月次決算は企業の任意で開示義務も特にありません。
月次決算は、企業の財政状況を1か月ごとに確認し、経営方針や事業戦略を練ることを目的に行われます。毎月の月次決算を正確に行っておくと、年次決算の際の大きな負担を軽減できるメリットにもつながります。
年次決算業務の手順
年次決算業務は、一般的に以下の手順で行います。
- 勘定整理
- 決算書作成
- 税金計算
- 決算申告・納税
ここから、それぞれの手順について詳しく解説していきます。
勘定整理
勘定整理とは、年度内の取引において売掛金・買掛金の未処理(未確定勘定)や仕訳の間違いがないか確認し、正しい残高にすることです。まずは現預金(現金預金)と帳簿との整合性や、試算表を作成して借方・貸方の残高を確認しましょう。最終的に借方と貸方が一致していなければなりません。
勘定整理の業務では、現金払いをした経費など、細かな計上漏れが発覚するといった手間が想定されるため、日頃から徹底した管理が重要となります。
決算書作成
勘定を整理して残高が一致したら、次は決算書と呼ばれている「財務諸表」を作成します。作成すべき書類のなかで「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュ・フロー計算書」の3点は「財務三表」とも呼ばれ、特に重要です。
決算書作成後は、定時株主総会に提出し、株主の承認を得て決算確定となります。
なお、決算書は決算終了後、一定期間の保存が義務付けられています。例として「財務三表」は会社法により10年間、有価証券関係書類は法人税法により7年間保存しておかなければなりません。ただし、会社法・法人税法の両方に属する書類が多いため、年度ごとの決算書として1つにまとめ、10年間保存しておくと安心でしょう。
税金計算
決算残高が確定したら、消費税・法人税・法人住民税・法人事業税を計算します。
それぞれの内容や計算式は以下のとおりです。
消費税および地方消費税
消費税は国に納める国税で、地方消費税は自治体に納付する地方税です。納付の際には、消費税と地方消費税は「消費税等」として、まとめて所轄の税務署に納付することが一般的です。
消費税の計算方法には「原則課税」と「簡易課税」の2通りあります。一般的には原則課税で計算します。簡易課税は事務作業の負担が軽く便利ですが、確定申告のための条件があります。
原則課税の計算方法
売上の預かり消費税(仮受消費税)ー仕入れや経費の支払い消費税(仮払消費税)=納付すべき消費税(未払い消費税)
なお、簡易課税方式を適用する場合には、売上の預かり消費税に、みなし課税率を乗じた額を差し引きます。また、直前の課税期間における消費税額が一定額を超える場合は、中間申告を行わなければなりません。
法人税
法人税は国税に区分され、法人の所得額に対して課税されます。所得額や開始事業年度によって税率が変わります。
法人税の計算方法
課税所得×法人税率= 納付すべき法人税
*課税所得=益金-損金
法人住民税
法人住民税は地方税であり、事業所の営業所在地である地方自治体に納税します。そのため、自治体によって税率・税額が変動することが特徴です。法人税割と均等割を合算した額が法人住民税となります。
法人住民税の計算方法
法人税割(法人税×住民税率)+均等割=納付すべき法人住民税
法人事業税
法人の所得額に法人事業税率を乗じた額が法人事業税となります。法人住民税と同様、地方税にあたり、自治体によって税率が異なります。
法人事業税計算方法
所得額×法人事業税率=納付すべき法人事業税額
なお、それぞれ法改正などによって年度ごとに税率が変わる場合があります。決算年度での適切な税率を用いて、税額を算出しなければならないため、注意が必要です。
決算申告・納税
決算に必要なデータを揃えたら、確定申告書を作成し、申告書とともに必要な書類をまとめましょう。それを所轄の税務署や地方自治体に提出・申告し、法人税や消費税などを納付します。
なお、消費税に関する必要書類は課税方式によって変わるため、自社が採用している納税方法を確認してください。
年次決算に必要な書類は?
年次決算の際には、「決算書」と「申告書」の2点を揃える必要があります。
「決算書」は、企業の損益や財産等の経営状況を示す書類です。取引先企業や金融機関、株主などへの報告を目的に作成します。
「申告書」の方は、法人税を申告し、確定させるために作成します。法人税の計算および納税を目的とした書類で、決算書が根拠となるものの、作成目的が異なるため混同しないよう注意してください。
ここから、決算に必要な書類について解説します。
決算に必要な書類
まず、決算書に必要な書類は以下のとおりです。
貸借対照表(B/S) | 企業の財政状態を明らかにするための計算書です。企業の資金調達から運用状況を把握できます。事業年度末におけるすべての資産・負債・純資金を記載します。 |
損益計算書(P/L) | 1事業年度の経営成績を明らかにするための計算書です。売上純利益、営業利益、当期純利益などの実績を記載します。 |
キャッシュ・フロー計算書 | 1事業年度の現金および現金同等物(定期預金など)の増減を表した書類です。決算の期首にあったキャッシュが、期末にいくら残っているかといった現金の流れを把握できます。 ※上場企業は提出を義務付けられていますが、中小企業はその限りではありません。 |
株主資本等変動計算書 | 貸借対照表の純資金に関する事項について、1年間の変動をより具体的に表した計算書です。主に株主に属する「株主資本」の変動理由を分析・報告するために必要となります。 |
製造原価報告書 | 製造業に特有の財務諸表です。製造業が事業年度に販売した製品の製造原価を明示する書類です。基本的に損益計算書を補完する書類として添付することが義務となっています。 |
販売費及び一般管理費明細書 | 従業員の給与といった人件費や通信料、減価償却費などの諸経費を示した書類です。 |
個別注記表 | 貸借対照表または損益計算書の注記事項をひとつの書類としてまとめたものです。会計監査人の有無などによって内容が変動します。 |
附属明細書 | 貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などについて、より具体的な補足説明のために使用します。固定資産等明細書、有価証券明細書が含まれます。 |
事業報告書 | 各事業年度の事業概況や財務状況、付随する明細書を統合した書類です。決算後、事業年度開始日や営業所在地といった基本情報、株主総会状況、債権に関する事項を書類としてまとめます。 |
決算書は、取締役会や監査役、会計監査といった複数の確認を経て、定時株主総会で提出・報告されます。従って、定時株主総会の開催日までに各機関の承認を得た決算書を揃えておく必要があります。事前にスケジュールを確認し、遅延のないよう作成しましょう。
税務申告に必要な書類
法人税の確定申告に必要な書類は以下のとおりです。
法人税申告書(法人税及び地方法人税確定申告書) | 法人税額の算出根拠となる説明書類です。決算日の翌日から2か月以内に、勘定科目内訳書や損益計算書などの決算報告書と合わせて、所轄の税務署に届け出ます。 |
勘定科目内訳書 | 貸借対照表・損益計算書の各勘定科目の明細を記載した決算書類です。ほかの資料とともに税務署への提出が必要です。 |
法人事業概況説明書 | 法人名や事業内容、取引先の状況、期末従業員数、主要勘定科目などの詳細情報を記載した法定調書です。法人税申告書に添付して税務署へ提出します。 |
消費税は控除対象仕入税額における計算の違いにより、申告方法が異なります。原則課税方式による申告は「一般用」、簡易課税による申告は「簡易用」を適用します。なお、消費税の確定申告では「消費税申告書」および添付書類である「付表」を提出しなければなりません。企業の税区分によって提出する「付表」が変動するため注意してください。
年次決算業務の注意点
年次決算業務を行う際の懸念点として、経理担当者の負担増加や、日々の無計画な経理処理による混乱が予想されます。
決算業務は、約2か月に及ぶミスの許されない大きな業務です。決算間際になって慌てることがないよう、日頃から経理処理を計画的に行いましょう。
この章では、年次決算を迅速かつ正確に行うための2つのポイントについて解説します。
年次決算を迅速・正確に行う2つのポイント
・月次決算で経営状況をこまめに把握する
・会計システムを導入する
月次決算で経営状況をこまめに把握する
毎月の月次決算で、「月次損益計算書」「月次貸借対照表」を作成しておくと、年次決算では月次決算の内容をまとめる作業だけで済ませられます。
また、毎月作成することにより、事業計画と収益・費用の乖離を随時確認し、経営をコントロールしやすくなるメリットもあります。
会計システムを導入する
自動的に集計や仕訳ができる会計システムを導入することによって、日々の記帳業務に費やしていた時間や、人的なミスを削減することができます。作業の効率化だけではなく、即時的な経営判断をするためにも役立つでしょう。
まとめ
年次決算業務は、大量のデータの取り扱いと正確さが求められるため、経理担当者の業務負担が大幅に増加します。
年次決算を正確かつスムーズに遂行するためには、日々の業務で効率化できる作業を洗い出し、フローを見直すことも効果的です。
決算業務をスムーズに行うためには、会計ソフトや経理システムの構築など、さまざまな方法があります。また、財務・会計管理のほか、人事給与や勤怠管理まで一元化できるシステムもあるため、年次決算業務を見直したい場合には導入を検討することもおすすめです。
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