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労務担当者なら知っておきたい、労務リスクの種類と回避方法を解説

2021.07.29

労務リスクとは、長時間労働やハラスメントなどの労働トラブルが発生するリスクを指します。労務リスクに備える対応は、従業員を守り会社の損失を防ぐために必須です。 この記事では、労務リスクの種類や労務リスクを回避する方法を解説します。

労務リスクとは

労務リスクに備えるためには、まず現場でどのような問題が起きているのか、労務トラブルの実態と原因を理解しておきましょう。

1.労務トラブルの実態

労務トラブルは近年増加傾向にあり、都道府県労働局、各労働基準監督署などには年間100万件以上の相談が寄せられています。2019年度の個別労働紛争解決制度の施行状況を見ると、総合労働相談件数は118万8,340件で、12年連続で100万件を超えました。

労務トラブルが発生すると、企業側にはさまざまな損失が生じます。例えば、労務トラブルが訴訟に発展すれば、弁護士費用や慰謝料の支払いが必要になります。また、トラブルの影響を受けて従業員のモチベーションが下がり、離職者の増加が考えられます。このほか、対外的な企業イメージが悪化し、営業活動や採用に支障が出る可能性があります。

2. 労務トラブルが発生する原因

労務トラブルの相談件数が増えている背景には、情報化社会の発展により企業内部の問題が表面化しやすくなっていることが考えられます。また、不況により長時間労働や低賃金、サービス残業などが発生していること、個人の労働観が多様化していることなども労務トラブルが発生する原因として挙げられます。

労務トラブルを防いで会社に損失を生じさせないためには、日常的に法律やコンプライアンスを意識し、さまざまな労務リスクに備えることが重要です。

労務リスクの種類

労務リスクには「長時間労働」「ハラスメント」「残業代不払い」「労働災害」「不当解雇」「情報漏えい」などがあります。それぞれの労務リスクについて、トラブルが起こった際に企業が被る損失や、労務リスクに関わる規制や法律の定めについて解説します。

1. 長時間労働

1つ目の労務リスクは長時間労働です。企業内で長時間労働が横行すると、従業員の心身の健康状態が悪くなり、過労死や過労自殺に至る可能性が高くなります。

過剰な長時間労働を防ぐため、「原則として従業員を1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならない」と労働基準法で法定労働時間が定められています。時間外労働をする場合であっても月45時間、年360時間の時間外労働の上限が定められています。2つの上限基準は片方だけでなく、同時に守る必要があります。時間外労働の上限を超えて働かせた場合、「6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金」が科されます。

法定労働時間と時間外労働の上限
・法定労働時間は
 「1日8時間、週40時間」
・36協定を結んだ場合でも時間外労働の上限は
 「月45時間・年360時間」
・特別条項付きの36協定を結んだ場合でも時間外労働の上限は
 「年720時間以内」
 「複数月平均80時間以内(休日労働を含む)」
 「月100時間未満(休日労働を含む)」
 「月45時間を超えることができるのは、年6回まで」

また、労災認定において健康障害と労働の因果関係を判断するために設けられている「月平均80時間」の時間外労働の基準として「過労死ライン」があります。労災を防ぐため、企業は過労死ラインに抵触しないような長時間労働対策を講じる必要があります。

2. ハラスメント

2つ目の労務リスクはハラスメントです。職場で起こり得るハラスメントには複数の種類があり、性的な言動で相手や職場に不利益を与えるセクシュアルハラスメントや、優越的な関係を背景に業務上必要な範囲を超えて相手を害する言動を行うパワーハラスメントなどが挙げられます。また、近年働き方の多様性が重視される中、妊娠・出産・育児休業などに関わるマタニティハラスメントも問題視されています。

企業内でハラスメントが発生すると、被害を受けた従業員が職場で能力を十分に発揮できなくなったり離職に至ったりする可能性があります。またハラスメントが発生したことが知れ渡ると社内の秩序が乱れる、民事訴訟に発展して対外的な企業イメージが悪化するなどの損失が考えられます。

セクシュアルハラスメントに関しては、男女雇用機会均等法において以下の措置が事業者に義務付けられています。

男女雇用機会均等法において義務付けられている措置

・事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
・相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・職場におけるセクシュアルハラスメントに関わる事後の迅速かつ適切な対応など

パワーハラスメントに関しては、2020年6月より労働施策総合推進法(パワハラ防止法)において、事業者側に防止措置を講じることが義務付けられています。また、従業員に対して事業主に相談したことなどを理由とした解雇や不利益な取り扱いも禁止されました。
※パワハラ防止法の概要や企業に求められる措置などについて詳しくは→【用語集】パワハラ防止法

妊娠・出産に関するハラスメントについては、男女雇用機会均等法において、「産前休業を請求したこと」や「妊娠または出産に起因する症状によって労働能率が低下したこと」など厚生労働省令で定める内容を理由に労働者に対して解雇や不利益な取り扱いをしてはならないと定められています。

育児に関するハラスメントに関しても、育児・介護休業法で、事業主は労働者が育児休業の申し出をしたことや育児休業をしたことを理由として解雇や不利益な取り扱いをしてはならないと定めています。

3. 残業代不払い

3つ目の労務リスクは、残業代不払いです。残業代不払いが発覚すると労働基準監督署による是正勧告を受けたり、遅延利息や付加金の支払いを求められる可能性があります。また、訴訟に発展すると企業イメージが低下する恐れもあります。

2020年4月には民法改正によって残業代請求権の消滅時効が2年から3年に延長され、残業代不払いに対する法の規制はさらに厳しくなりました。残業代不払いが発覚した場合、労働基準法第37条違反として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金などの罰則を科されます。

→関連記事:【人事・労務なんでもQ&A】退職した元従業員に未払い残業代を請求されました。残業代を支払う必要はあるのでしょうか?

4. 労働災害

4つ目の労務リスクは、仕事中や通勤途中に起きた怪我・病気である労働災害です。労働災害が発生して従業員が負傷をした場合、企業は貴重な人材を失うことになります。また被害を受けた従業員に対する補償のための金銭的な負担に加え、労災を起こしたことに対する信用の損失も考えられます。

労働災害に関しては、労働安全衛生関連法令により、事業主に対して災害防止のために以下の措置が義務付けられています。

災害防止のために企業に義務付けられる措置

  • 危険防止の措置
  • 健康管理の措置
  • 安全衛生管理体制の整備
  • 安全衛生教育の実施

また、労働災害が起こった事後対応として、事業主は労働基準監督署に対して指定の申請手続きを遅延なく行う必要があります。

→関連記事:【業務改善ガイド】労災発生時の労働基準監督署に対する申請手続きを解説!調査内容や届出書類も紹介

5. 不当解雇

5つ目の労務リスクは不当解雇です。正当な理由なしに解雇やリストラを行うと訴訟に発展し損害賠償の支払いリスクや、企業イメージ低下などの問題が生じる可能性があります。解雇に関しては労働契約法で条件が厳しく制限されています。従業員を解雇する場合は、客観的かつ合理的な理由があることや、その理由が社会の常識に照らし合わせて解雇に相当するものであることが求められます。

解雇には、会社の業績の悪化などにより経費削減を目的として行う「整理解雇」や、会社の秩序を乱した労働者に対して行われる「懲戒解雇」、整理解雇や懲戒解雇に該当しない場合に実施される「普通解雇」の3種類があります。このうち整理解雇は会社都合による解雇であるため、実施する際には経営上の必要性があるか、解雇回避の努力をしたか、解雇の対象者を選ぶ基準は公平か、手続きは正当かといった指定の要件を満たす必要があります。

<関連記事>
【用語集】整理解雇
【人事・労務なんでもQ&A】コロナの影響で、やむなく整理解雇を検討しています。

6. 情報漏えい

6つ目の労務リスクは情報漏えいです。顧客の個人情報を漏えいすると、企業に対する信用は著しく低下します。また、いったん情報漏えいが発生すると原因を追及したり改善策を講じたりする多大なコストがかかります。情報漏えいへの対応に追われることで通常業務のリソースが足りなくなる事態も考えられます。

さらに、情報漏えいの発覚後に国から是正勧告を受けても従わない場合は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。民事上の損害賠償を求められるケースもあり、賠償額の支払いによる損失も情報漏えいによって懸念される大きなリスクの1つです。

個人情報を取り扱う企業に対しては、個人情報保護法によって以下の義務が課せられています。

個人情報保護法によって義務付けられている対応

  • 個人情報の利用目的をできる限り特定する
  • 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱わない
  • 偽りや不正な手段によって個人情報を取得しない
  • 個人情報を取得した際に利用目的を本人に速やかに通知または公表する

労務トラブルの事例

企業にとっての労務リスクとなりうる実際の労務トラブルの例について「新入社員の過労自殺」と「残業代未払いの請求」の2つの事例を紹介します。

1. 新入社員の過労自殺

新入社員の男性が慢性的な長時間労働に従事してうつ病に罹患し、自殺に至ったことから、遺族である両親が会社に対して損害賠償を請求したケースです。

企業側は男性が著しい長時間労働に従事し、健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるような措置を上司が取っていませんでした。その結果、企業側が遺族に対して1億6,800万円を支払うことになりました。

一般的に、長時間労働と健康障害の因果関係は過労死ラインで判断されます。従業員の健康を守り過労による労務トラブルを起こさないためには、過労死ラインを超えないことはもちろん、従業員の業務負担を事前に察知し、時間外労働時間を削減する対応が必要です。

<関連記事>
【用語集】過労死ライン

2. 残業代未払いの請求

従業員がサービス残業を強制されていると主張し、サービス残業の証拠として最寄り駅に22時に入場した改札入履歴を提出して会社側に残業代の支払いを請求したケースです。

実際には、この従業員は18時で仕事を終えており、会社はサービス残業を否定しました。しかし、会社側はタイムレコーダーによる出退勤時間の管理しか行っておらず、パソコンのログや会社への入退館時間などのセキュリティーログといった裁判で有効となる客観的記録までは残していませんでした。その結果、裁判では「22時は退勤時間」という従業員側の主張が認められてしまいました。

残業代未払い請求を防ぎ労務リスクを低減するためには、より客観的な記録が残せる勤怠管理の仕組みが必要です。

<関連記事>
【人事・労務なんでもQ&A】退職した元従業員に未払い残業代を請求されました。残業代を支払う必要はあるのでしょうか?

労務リスクを回避する方法

労務トラブルを未然に防ぐためには、日頃から労務リスクを低減する対策を講じておくことが大切です。以下では、労務リスクを回避するために企業側ができる対策を紹介します。

1. 既存の労務リスク対策を改善する

まず現在行っている労務リスク対策を見直し、改善しましょう。そのためには人事・労務担当者が勤怠管理やハラスメントなど労務に関する各種法令について理解し、実務的な知識を身に付ける必要があります。加えて衛生管理者やメンタルヘルス・マネジメント検定などの資格を取得すると、さらに労務リスクに備えるための実践的な知識が得られます。

また、就業規則と実際の労働条件が合っているか改めて点検を行いましょう。規則の内容が実態とかけ離れていると「契約時の話と違う」として従業員との間に発生する労務トラブルの原因となります。

労務トラブルに関する管理職への教育を見直すことも重要です。トラブルが発生した際に最初に対応するのは、人事・労務担当者ではなく従業員と密接に関わる管理職です。人事・労務担当者が対策を検討しても現場の管理職の対応が不十分のままでは労務リスクの低減にはつながりません。

労務トラブルを防ぐには、人事・労務担当者がリスク対策を見直し、現場の管理職と一般の従業員を巻き込んだ抜本的な改善を行う必要があります。

2. 新しい労務リスク対策を取り入れる

労務リスクを低減するためには、既存の労務リスク対策を改善するだけでなく、新しい取り組みを行うことも大切です。具体的には、労務に関する従業員向けの相談窓口の設置があります。従業員が相談しやすいような環境が整備されることで、問題が悪化する前に対処が可能になります。

また、長時間労働や残業代不払いのトラブルを未然に防ぐ機能を備えた勤怠管理システムや給与管理システムを導入するのも有効な手立てです。過重労働を防ぐアラートの機能などの仕組みや、自社の雇用形態や時間外労働の上限を設定できる勤怠管理システムの導入を検討しましょう。

このほか、実際にトラブルが起きてしまった場合を想定し、会社の不当行為が原因で損害賠償を求められた際に費用が補償される「雇用慣行賠償責任保険」を導入することも労務リスクを抑える1つの方法です。

まとめ

近年、情報化によって長時間労働や不当解雇、ハラスメントや情報漏えいなどの労務リスクが表面化しやすくなっています。これらの労務リスクを防ぐため、人事・労務担当者や管理職は労務リスクが発生する理由や労働法令への理解を深める必要があります。また、長時間労働や残業代不払いなど訴訟に発展しやすい重大な労務リスクを未然に防ぐには、正確な労働時間が把握でき、法違反リスクを減らす勤怠管理の仕組みの導入が有効な手段となります。

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