人事・労務の注目用語
パワハラ防止法
ぱわはらぼうしほう
公開日時:2021.05.11 / 更新日時:2022.03.09
パワハラ防止法はパワ―ハラスメントについて初めて防止対策を義務付けた、 改正後の労働施策総合推進法の通称です。 2020年6月の法改正施行によって、 パワーハラスメントが初めて定義付けられ、 事業主にパワハラの防止措置を講ずる(中小企業主は2022年4月1日より)ことが義務付けられたことから、 「パワハラ防止法」と呼ばれています。 パワハラ防止法では「優越的な関係を背景とした言動」、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」、「労働者の職業環境が害される」の3点を満たした行為がパワハラであると定義しています。 現状、罰則規定はありませんが、パワハラに関する研修や教育の実施などが努力義務として定められており、企業ごとに防止対策を講じる必要があります。
1.パワハラ防止のために講じるべき措置
パワハラ防止法では、罰則は定められていませんが、講じるべき措置が努力義務として指針に定められています。講じるべき措置の内容について具体的に説明します。
事業主の方針を明確にして周知、啓発する
事業主は職場におけるハラスメントの内容やハラスメントを行ったものへの対処方針などを明確にし、全従業員に周知啓発することが義務付けられています。周知啓発の方法として以下の方法が挙げられます。
- 就業規則や社内ルール、社内報、パンフレットにハラスメントに当たる行為の内容・原因・背景等を記載する
- 定期的にアンケートや管理職の面談などで職場の実態を調査する
- 一般従業員や管理職にハラスメントを防ぐための研修や講習を実施する
また、実際にハラスメントが自社内で起きてしまった後は、ハラスメントを行った従業員への対処方法を就業規則や社内ルールなどの文書に明記しておくことで、ハラスメントの再発防止につながります。
相談に応じるための体制を整備する
ハラスメントの相談に応じるため体制整備として、社内外の相談窓口の設置が必要です。企業は、ハラスメント実際に起きている場合はもちろん、発生の恐れがある場合やハラスメントに該当する行為か微妙な場合でも、広く従業員の相談に応じる必要があります。
窓口は形式的に設置するだけでは不十分です。従業員に窓口の設置をしたことを周知したり、対面による相談だけでなく、電話やメールでも相談できるようにしたりと、従業員が相談しやすい環境を整えましょう。また、相談内容や状況に応じて社内外の相談窓口の担当者と人事部門、相談者の上司で連携を取れる仕組みを取り入れ、適切なフォローを行うことが大切です。
パワハラが起きた後の迅速かつ適切な対応
防止対策だけでなく、ハラスメントが起きてしまった、あるいは起きたと疑われる事態が発生した後の措置も法律で定められました。具体的には以下の対応が挙げられます。
- 被害者、加害者それぞれから事情を聴く場を設けて事実関係の確認を行う
- 配置転換や加害者への指導など被害者と行為者に向けた適切な措置を取る
- 行為者に対する再発防止研修を実施するなどの再発防止に向けた措置を取る
その他、併せて行う必要がある措置と禁止事項
相談者と行為者の情報はプライバシーに属するものなので、相談やハラスメントの対応時に当事者のプライバシーの保護に必要な措置を講じ、社員に周知する必要があります。また、相談した・相談を受けた従業員を解雇やその他の不利益な取り扱いは禁止であり、法律違反となります。
2.パワハラにあたる具体的な内容
パワハラ防止法によって、「優越的な関係を背景とした言動」、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」、「労働者の職業環境が害される」の3つを全て満たすものがパワハラと定義されました。職場におけるパワハラに該当すると考えられる代表的な例と指導との違いを紹介します。
パワハラの種類
厚生労働省の指針ではパワハラには「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の大きく6つのパターンがあります。
パワハラの種類 | 具体的な内容 |
---|---|
身体的な攻撃 | 殴る、蹴る、物をぶつけるなどの暴行・傷害のこと |
精神的な攻撃 | 脅迫・名誉毀損・侮辱すること |
人間関係からの切り離し | 特定の従業員を仲間外れにしたり、無視したりして孤立させること |
過大な要求 | 業務上不要なことや遂行不可能なことを強制すること |
過小な要求 | 能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を強制する。仕事を与えないこと |
個の侵害 | 従業員の私的なことの過度に立ち入ること |
パワハラと指導の違い
パワハラと指導は発言の目的や業務上必要がどうかといった点に違いがあります。パワハラ問題が訴訟に発展した場合、行為や発言がパワハラに該当するかの判断は、多くの場合、発言をした背景や目的、意図が決め手となります。パワハラの未然の防止や再発防止ため、以下の特徴に注目し社内教育や啓蒙を行いましょう。
パワハラ | 指導 | |
---|---|---|
目的 | ・相手を馬鹿にする ・退職させる ・さらし者にする |
・相手の成長を促す ・業務改善を促す |
業務上の必要性 | なし | あり |
想定される結果 | ・社員が萎縮し、職場の雰囲気が悪くなる ・退職者が増える |
・社員が成長し、仕事に責任を持つようになる ・業務状況が改善する |
まとめ
パワハラ防止法の施行後は、社内にパワハラに対する方針を周知・啓発したり、相談窓口を設けて相談しやすい環境を整えたりという措置を講じることが企業の義務となりました。
また、パワハラ被害を相談したり、被害者から相談を受け通報に協力したことによる降格や減給など不利益な取り扱いは法律違反になると明記されました。厚生労働省の指針ではどのような行為がパワハラになるのか、6つ類型を基に例示されていますが、実際にパワハラが発生した場合は、個別の状況に合わせ対応方法を判断する必要があります。