人事・労務の注目用語
整理解雇
せいりかいこ
公開日時:2021.04.28 / 更新日時:2022.03.09
整理解雇とは、業績悪化による経営危機等の事情により行われる、人員削減を目的とした解雇のことです。「普通解雇」や「懲戒解雇」のように従業員側に責任がある解雇や、早期退職者の募集のように従業員の合意を得て行う解雇とは異なります。整理解雇は従業員の合意なく企業側から一方的に行われるため、過去の労働判例をもとに確立された「整理解雇の4要件」と呼ばれる要件によって、解雇の有効性が厳格に判断されます。
整理解雇の4要件
企業が整理解雇を行う際は、過去の労働判例から「整理解雇が有効」とみなされる4つの基準にならって検討する必要があります。この4つの基準を「整理解雇の4要件」と呼びます。労使紛争が起きた場合、裁判所はこの4要件を基準に解雇の有効性を判断します。整理解雇の4要件の内容について詳しく解説します。
・整理解雇の4要件
- 人員削減の必要性
- 解雇回避の努力義務の履行
- 被解雇者の人選の合理性
- 解雇手続の妥当性
1.人員削減の必要性が認められるか
整理解雇として従業員を解雇する場合、人員削減を行う必要性が認められる経営状況でなければなりません。
経営悪化した事実を具体的な経営指標や数値に基づいて明らかにし、そのうえでどの程度の人員削減が必要か、客観的なデータや資料、検討結果に示しながら従業員に説明する必要があります。
「業績が悪化する見込み」という状態でも、人員削減の必要性があると認められるケースもあります。しかし、整理解雇と並行して求人を行っている場合や、整理解雇の前後に賞与の支給を行っている場合にはこの要件を満たしていないと判断される可能性があります。
2.解雇回避の努力義務を履行したか
整理解雇を行う前に、企業側が解雇を回避するため最大限努力をしていたかどうかも判断基準の一つです。経費削減や希望退職者の募集、配置転換や出向、賞与の減額または停止、雇用形態の変更など、解雇を回避するための努力をせずに行った解雇は解雇権の濫用であるとして無効となる可能性が高いです。
整理解雇の前に、合理的に考えられる手段を講じていたかどうかが有効性を判断する一つのポイントとなります。
3.解雇する人員の選定に合理性はあるか
整理解雇の対象となる従業員の人選は、客観的かつ合理的な基準をもって公正に行う必要があります。人選の基準は「年齢」「勤続年数」「(正規雇用か非正規雇用かなどの)雇用形態」「勤怠状況」「成績」「生活への影響」などが挙げられます。
経営者による恣意的な判断基準や、合理性のない基準で行われた解雇の有効性は認められず、不当解雇と判断され、訴訟に発展するリスクがあります。
4.解雇手続きに妥当性はあるか
整理解雇までに労働組合や従業員に対して十分な説明を行ったのかどうかも、解雇の判断基準の一つです。企業側は、労働組合または従業員に対して、整理解雇がなぜ必要なのか、整理解雇を行う規模や時期、方法などを十分に説明する必要があります。
説明を行わなかった、説明はしたけれど協議や交渉の場を持たなかった、説明・協議・交渉を1度しか行わなかった、整理解雇の数日前に説明したなどの場合、解雇の有効性が認められない可能性が高いです
整理解雇の手順
整理解雇を行う際は、労使紛争の発展をはじめとするトラブルを回避するためにも、正当な手続きを踏む必要があります。
1.トラブルに発展しないよう適切な手順で実施することが肝心
整理解雇の実施が決定した企業は、トラブル回避のためにも十分な準備を行い、適切な手順に沿って実施する必要があります。具体的な手順は次の通りです。
1.解雇基準(対象人数、対象者の基準)を決定する
整理解雇の準備として、まずは解雇する人数と対象者の基準・範囲を決定します。整理解雇によって従業員は経済的に大きな影響を受けるため、扶養家族の人数や会社への貢献度などを踏まえ対象者の条件を決定します。
2.退職金(退職手当)の制度がある場合は制度に基づき退職金を算出する
整理解雇の対象者に、退職金規定で定めている金額を支払うか、所定の退職金に上積みした金額を支払うかを決定します。整理解雇だから通常よりも優遇した退職金を支払わなければならない、といった法規定はありません。しかし、企業側の都合で解雇する以上、できるだけ優遇措置を取るよう配慮しましょう。優遇する場合は、その内容も明らかにする必要があります。
3.解雇の実施日を決定する
解雇の実施日をいつにするか決定します。解雇日の30日以前に予告なしの解雇を行う場合は解雇予告手当の支払いが必要になりますので、解雇の実施日は対象者への通知日より少なくとも1か月以上後に設定します。
4.対象者の人選と予告を行う
解雇の実施日を決定したら、解雇の実施内容について従業員に通知します。解雇人数、対象者、解雇日、退職金の取り扱い、退職金の支払い日等を通知したのち、整理解雇の対象者の選定と予告を行います。具体的にどの従業員を解雇するのかは、先に定めた解雇基準にのっとり選定し、整理解雇の対象となった従業員には解雇の30日前までに予告を行いましょう。
5.雇用契約終了の通知または辞令を交付する
解雇日には、解雇者に対して雇用契約終了の通知または解雇辞令を交付ます。その後退職金を支払い、退職手続きを行います。
まとめ
業績の悪化や不況により整理解雇を実施する場合、「整理解雇の4要件」を満たした上で適切な手順と取ることが必須となります。従業員に対しての説明や交渉を行う際も、企業側は真摯かつ誠実な姿勢で臨まなければ解雇についての納得を得られず、「不当解雇」であるとして訴訟に発展する可能性も考えられます。
具体的にはただ解雇の通知や辞令を行うのではなく、対象の従業員に対して個別に説明する場を設け、整理解雇を行う背景や企業側の事情を理解してもらうよう努力するといった誠意ある対応が必要です。