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20年ぶりに見直された過労死ラインの変更点は? 過労死防止の対策も解説

2021.07.29

労災認定の基準となっている過労死ラインの見直しが20年ぶりに行われました。見直しの内容や見直し後にどのような対応が企業に必要なのか、把握しておきたい労務担当の方もいらっしゃるのではないでしょうか。 今回は、過労死ライン見直し案の内容や見直し後に予想される対応、事業主が過労死防止のためにすべき取り組みについて解説します。

過労死ラインの見直し案の内容は?

2021年7月7日、厚生労働省が設置した有識者検討会が過労死の認定基準見直しについての報告書をまとめました。厚生労働省は早ければ8月中にも新たな認定基準を全国の労働基準監督署に通知する方針です。

現行の過労死認定基準は2001年に定められたもので20年間大きな変更はありませんでした。しかし、近年の働き方の多様化や職場環境の変化などを考慮して、最新の医学的知見を踏まえた検証が必要になると判断されたため、20年ぶりの見直しが進められていました。

今回の見直しのポイントは「過労死ラインは現行のまま」「過労死ラインを超えなくても労災と認める場合がある」「労働時間以外の負担要因が新たに追加された」の3つです。それぞれどのような内容か解説します。

1. 過労死ラインは今までと変わらない

今回の検討会では医学的知見から現行の基準は妥当性があると判断されたため、過労死ラインは変更されません。過労死ラインとは、脳疾患や心臓疾患、精神障害などを引き起こすリスクが高まるとされる時間外労働時間のことで、現在の労災認定の基準になっています。

現行の過労死ライン

  • 発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりの時間外労働が80時間を超えること
  • 発症前1か月間に1か月当たりの時間外労働が100時間を超えること

検討会では上記の基準は妥当とされましたが、引き下げを求める意見も根強くあります。「時間外労働が月65時間に及ぶと脳・心臓疾患のリスクが高まる」とする世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)の共同調査)の指摘を踏まえて、検討委員会の弁護士や過労死遺族は過労死ラインを65時間に引き下げるべきだと主張しています。

2. 過労死ラインを超えなくても労災と認める

過労死ラインは現行の基準で維持されるものの、今回の見直しによって基準に近い時間外労働の実態があり、労働時間以外の負荷が認められる場合には労災認定されるようになります。

労働時間以外の負荷として出張の多い業務や深夜勤務などが挙げられます。ただし、負荷がかかっていたかどうかの評価基準は、発症した従業員本人ではなく、同じ職場で立場や職責、職種、年齢、経験などが類似する従業員にとっても過重な労働であるかが重視されます。

3. 労働時間以外の負担要因が新たに4つ追加された

現行の労災の認定基準には労働時間以外の負荷要因も考慮されます。今回の見直しにより、負担要因として新たに「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」「身体的負荷を伴う業務」「事業場外における移動を伴う業務」の4つが追加されました。

労働時間以外の負荷要因
・勤務時間の不規則性
 ―拘束時間の長い勤務
 ―休日のない連続勤務(新)
 ―勤務間インターバルが短い勤務(新)
 ―不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
・事業場外における移動を伴う業務(新)
 ―出張の多い業務
 ―その他の事業場外における移動を伴う業務
・心理的負荷を伴う業務
・身体的負荷を伴う業務(新)
・作業環境
 ―温度環境
 ―騒音

休日のない連続勤務

「休日のない連続勤務」は現行の基準で負荷要因として挙がっていませんが、連続勤務が長く続くほど業務と発症の関連性を強めると認められた事例もあり、今回の見直しで「勤務時間の不規則性」に追加されました。休日のない連続勤務が脳・心臓疾患の発症に関連したかは、連続労働日数や連続労働日と発症の近接性、休日数、実労働時間などの観点から判断されます。このとき休日が十分確保されていた場合、疲労は回復・回復傾向にあると踏まえて労災認定の際に評価されます。

勤務間インターバルが短い勤務

「勤務間インターバルが短い勤務」について、脳疾患や心臓疾患の発症との関連は確認されていません。しかし、勤務間インターバルが11時間未満と少ないと、脳・心臓疾患の発症と関連がある睡眠時間不足につながるため、「勤務時間の不規則性」に追加されました。勤務間インターバルが短い勤務が脳・心臓疾患の発症に関連したかは、業務内容や時間数、頻度などの観点から判断されます。

身体的負荷を伴う業務

「身体的負荷を伴う業務」は現行の基準策定以降に脳・心臓疾患の発症との関連が認められていましたが、負荷要因として挙げられていませんでした。今回の見直しでは、関連性が認められていることや裁判例でも身体的負荷を評価したものがあるという事実を踏まえて追加されました。身体的負荷が脳・心臓疾患の発症に関係したかは、作業の種類や強度、量、時間などから判断されるほか、本来身体的負荷のかかる業務でない従業員に対してはその程度(事務職のはずが激しい肉体労働を行うなど)から判断されます。

事業場外における移動を伴う業務

「事業場外における移動を伴う業務」はこれまでも考慮されていた「出張の多い業務」をさらに明確化する目的で追加されました。見直しでは、「出張」に該当しない事業場外における移動を伴う業務も含め、負荷要因の整理を行いました。出張以外にも長距離輸送の業務に従事する運転手や航空機の客室乗務員など、通常の勤務として移動を伴う「その他の事業場外における移動を伴う業務」も「事業場外における移動を伴う業務」の中に含まれ、労災認定の際、負荷要因として評価されます。

見直し後に予想される対応

今回の過労死ラインの見直しに関する報告書には「労働時間が短くても、それ以外の要因による負荷が大きければ労災となる場合がある」という旨が記載されています。今後、過労死ライン以外の労災の基準が決め手となり、これまで労災認定されていなかった事例も労基署が労災と認定することが増える可能性があります。

例えば、早朝から不規則な働き方をしていた労働者が労災申請をしたものの「月80時間の時間外労働」がハードルとなり労災認定に至らなかった事例があります。今後はこのようなケースも総合的に見て労災と判断されるようになると予想できます。

そのため事業主は、ただ過労死ラインを超えないよう留意するだけでなく、より労働者の実態に沿った勤務状況の把握が必要になります。労災を引き起こさないよう、「過労死ライン」となる「月80時間の時間外労働」の目安だけでなく、「身体的負荷のかかる業務を過剰に課していないかチェックする」「不規則な働き方には制限を付ける」などの対応が必要になる可能性があります

過労死防止のために事業主が実施すべき取り組み

従業員の過労死を防止するためにも、事業主は長時間労働の削減や相談体制の整備などに取り組む必要があります。ここでは事業主が実施すべき取り組みとして「長時間労働の削減」「休息時間の確保」「健康について相談しやすい職場環境づくり」の3つを解説します。

1. 長時間労働を削減する

過労死ライン超過を防ぐには、長時間労働の削減対策は欠かせません。勤怠管理システムやタイムレコーダーなど従業員の労働時間を正確に把握する仕組みの導入は必須と言えます。勤怠管理システムでは長時間労働で働く従業員を把握するだけでなく、過労死ラインに抵触しそうな場合、従業員本人や上司にアラートを出して知らせるといった対策を講じることもできます。

また、従業員に36協定の内容を周知徹底させる必要があります。従業員に法定労働時間を超えて時間外・休日労働させる場合、36協定を労使間で締結し労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。36協定を結んでいても、時間外労働の上限は月45時間・年360時間と定められています。

例外として、法律上は過労死ラインに当たる月80時間の時間外労働も可能となる場合もありますが、労使の合意で結ぶ特別条項が必要です。

36協定と特別条項で規定される時間外労働の上限

36協定と特別条項で規定される時間外労働の上限
・36協定を結んだ場合でも時間外労働の上限は
 「月45時間・年360時間」

・特別条項付きの36協定を結んだ場合でも時間外労働の上限は
 「年720時間以内」
 「複数月平均80時間以内(休日労働を含む)」
 「月100時間未満(休日労働を含む)」
 「月45時間を超えることができるのは、年6回まで」

2. 休息時間を確保する

働き過ぎによる過労死や健康障害を防止するには、勤務間インターバル制度の導入や柔軟な有給休暇の取得などによって休息時間を確保し、心身をリフレッシュすることが重要です。

勤務間インターバルとは、終業から翌日の始業までの間に一定時間の休息時間を設ける制度です。勤務間インターバルを導入すると従業員の睡眠時間を確保でき、過労死や健康障害の防止につながります。睡眠時間以外にも、家族や友人との時間が確保されてワークライフバランスの取れた働き方の実現も期待できます。

また、時間単位での有給休暇取得を可能にすると、従業員が柔軟に休暇を取れるためリフレッシュに役立ちます。時間単位での有給休暇は年5日以内の範囲で従業員に1時間単位で有給を取得させる制度です。ただし、時間単位での有給休暇は労使協定の締結が必要です。

勤務間インターバルや時間単位の有給休暇などの取り組みの推進には勤怠管理システムが有効です。従業員の出退勤履歴を見て従業員が勤務間インターバルを取れているか確認できます。また、多くの勤怠管理システムで有給休暇の申請や承認ができる機能が備わっています。

3. 従業員が健康について相談しやすい環境をつくる

過労死や健康障害防止のためには、従業員が自身の不調に気付いたときに相談に行きやすい環境づくりと周知が重要です。国や民間団体によって設置されている健康相談窓口の周知をまず行いましょう。また、社内に相談窓口を設置するのも効果的です。社内に窓口を設置する場合、衛生管理者や産業医、人事スタッフなど社内の課題やニーズに応じて相談体制を整えることが必要です。これらの相談窓口について従業員に周知することで従業員自身がすぐに健康問題を相談できるだけでなく、同僚や上司など周囲の人間から相談を促してもらうことも期待できます。

また、従業員に自身の健康を意識させる方法にストレスチェックがあります。ストレスチェックは、従業員数が50人を超える企業で年に一度の実施が義務付けられている制度です。ストレスチェックの結果が高ストレスであった場合、従業員は医師の面接を受けて助言をもらえます。ストレスチェックの実施に加え、実施結果の集団分析を行うことでどの部署に負担がかかっているかを把握でき、過重労働防止の対策を立てることにも役立ちます。

まとめ

今回の過労死ライン見直しでは過労死ラインそのものの変更はなかったものの、労働時間以外の負荷要因についても労災認定の際に考慮すべきと示されました。また、労働時間以外の負荷要因には新たに「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが11時間未満の勤務」「身体的負荷を伴う業務」「事業場外における移動を伴う業務」が追加されています。

今後はこれまで労働時間が過労死ラインに満たなかった事例も労災と認められる可能性が高まると予測されます。過労死を防ぐために事業主は、過労死ライン以外の点にも留意が必要です。長時間労働の削減や休息時間の確保、健康について相談しやすい環境をつくることで、従業員の過労死や健康障害の防止に努めなければなりません。長時間労働の削減や休息時間の確保のためには適切な勤怠管理による労働時間把握も重要です。

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