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過労死ライン

かろうしらいん

公開日時:2021.05.27 / 更新日時:2022.03.09

過労死ラインとは、労災認定において健康障害と労働の因果関係を判断するために設けられている時間外労働時間の基準です。具体的には、月平均80時間が過労死ラインとされています。過労死ラインを超えると、従業員が脳・心臓疾患や精神障害を起こすリスクが上がり、最悪の場合これらの健康障害が原因で死に至ります。厚生労働省は将来的に過労死をゼロにすることを目指し、長時間労働の是正はもちろん、勤務間インターバル制度の導入やメンタルヘルス対策の実施など過労死を防止する取り組みを企業に求めています。

過労死ラインと健康への影響

過労死ラインの定義や、過労死ラインを超えて働くことの影響について解説します。

1. 過労死ラインの目安

過労死ラインとは健康を害するリスクが高まるとされる時間外労働時間(残業時間)を指します。過労死ラインの目安となる時間は月80時間で、月20日の勤務の場合、1日4時間以上の時間外労働をすれば、過労死ラインを超える計算になります。

なお、厚生労働省では、長時間労働が原因で労働者が疾患を発症した場合に労災認定をする基準を定めています。例えば、脳・心臓疾患における労働時間についての基準は以下の通りです。

  • 発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりの時間外労働が80時間を超えること
  • 発症前1か月間に1か月当たりの時間外労働が100時間を超えること

上記の基準はあくまで目安であり、この時間外労働時間の基準を超えずとも、過労死に至る健康への悪影響が発生する可能性があります。

2. 過労による従業員の健康障害の例

長時間労働による過労が原因とされる健康障害の症状として以下の例があります。

  • 脳内出血(脳出血)
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症
  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止(心臓性突然死含む)
  • 解離性大動脈瘤
  • 精神障害

ただし、健康障害の種類によって、因果関係が認められやすい時間外労働の時間は異なります。

脳・心臓疾患

長時間労働が恒常的に続くと業務と脳・心臓疾患の関連性が高まります。おおむね1か月に45時間を超えた時間外労働が続くと業務と発症との関連性が高いと評価され、特に以下のような時間外労働をしている場合、因果関係が認められやすくなります。

  • 発症前1か月間に1か月当たりの時間外労働が100時間を超える、または発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりの時間外労働が80時間を超える

精神疾患

極度の長時間労働は、心身の極度の疲弊や消耗につながり、うつ病等の原因となります。以下のような長時間労働の実態があった場合、業務による強い心理的負荷が認められ、労災認定となる可能性が高まります。

  • 発症直前の1か月に時間外労働がおおむね160時間を超える
  • 発症直前の3週間に時間外労働がおおむね120時間を超える

過労死ラインの罰則と過労死対策

労働基準法では法定労働時間を「1日8時間、1週40時間以内」と定めています。特定の従業員に法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合は、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)を結ばなければなりません。

36協定で定められた時間外労働の上限時間は「月45時間、年360時間」であり、この上限時間を超えて従業員を働かせた場合は企業に罰則が科されます。ただし、臨時的に特別な事情がある場合は労使の合意(特別条項)に基づき、上限時間を超えた労働を従業員に指示することができ、法律上は過労死ラインに当たる月80時間の時間外労働も可能となる場合があります。

1. 過労死ラインを超えた場合の罰則

特別条項を労使間で結べば、「月45時間、年360時間」を超える時間外労働を臨時的な対応として指示することができます。ただし、過労死ラインを超えるような時間外労働について労使間の合意があった場合でも以下の事項は必ず守る必要があります。

  • 36協定を結んだ場合でも時間外労働の上限は「月45時間・年360時間」
  • 特別条項付きの36協定を結んだ場合でも時間外労働の上限は「年720時間以内」「複数月平均80時間以内(休日労働を含む)」「月100時間未満(休日労働を含む)」「月45時間を超えることができるのは、年6回まで」

上記の規定に違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が企業に科されます。

厚生労働省は従業員の健康を守り過重労働を回避するためには繁忙期対応をはじめとする特別な事情がある場合であっても、過労死ラインを超えるような時間外労働は可能な限り避けるよう企業に求めています。

2. 過労死を発生させないための対策

厚生労働省は、従業員の過労死防止の対策として、以下の対応を各企業が徹底するよう提言しています。

  • 従業員の労働時間を企業側が正確に把握する
  • 時間外・休日労働協定(36協定)の内容を労働者に周知する
  • 従業員の週労働時間が60時間を超えるケースをなくす

上記以外にも、過労死を防止し従業員の健康を守るため終業時刻から始業時刻までの間に一定時間以上の休息時間を設ける「勤務間インターバル制度」の導入も推奨されています。

まとめ

現在、健康障害と労働の因果関係が判定できるとされる「過労死ライン」は月80時間を超える時間外労働とされています。しかし従業員の健康を守るためには過労死ラインに抵触するような長時間労働を避ける必要があり、厚生労働省では各企業に労働時間を週60時間以内に留めるよう求めています。

また、繁忙期など、臨時的に特別な事情があった場合は、労使の合意によって、36協定で定められた「月45時間、年360時間」の時間外労働時間を超えた労働を従業員に指示することが可能です。しかし「時間外労働の上限規制」で定められている時間外労働時間を超えることがあれば、罰則の対象となります。

働き方改革の推進によって実行力ある長時間労働の抑制が企業に求められている今、従業員の健康維持のためインターバル勤務制の導入や適切な労務管理など、実効性のある対策を立てることがより重要となっています。 

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