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これさえ読めば労働基本法がわかる! 押さえるべき関連法を解説

公開日時:2023.05.08

労働三法をはじめ、労働安全衛生法、育児・介護休業法など、人事・労務担当者が業務で関わる法令は数多くあります。なかでも最低限押さえておくべき法令をピックアップし、初めて担当する方にも分かりやすく、概要とポイントを解説します。担当する業務によってそれぞれの法令との関わり度合いに濃淡があると思いますが、まずは全体像をつかむためにもぜひご一読ください。

労働関連の基本法

労働に関する法律は数多くありますが、中でも基本となる「労働基準法」「労働組合法」「労働関係調整法」をまとめて労働三法と呼びます。これらは労働者の基本的な権利を守るための法律であり、労働基本法という場合もあります。

労働三法内容
労働基準法労働条件の最低基準
労働組合法労働組合への加入を保障
労働関係調整法労使間の争いごとを解決するための手続き

労働三法に加え、人事・労務の実務を行う上で押さえておかなければならないのが労働安全衛生法です。もともとは労働基準法の一部でしたが、労働災害を防止するために危険防止基準や責任体制を明確化し派生した背景があります。

本章ではこれら4つの法律について説明します。

労働基準法

昭和22年に制定された、労働条件に関する最低基準を定めた法律です。時代の変化とともに労働に関する新法も制定されますが、すべての基となるのは労働基準法であることは理解しておきましょう。

▼労働基準法の主な内容

賃金の支払の原則 直接払、通貨払、全額払、毎月払、一定期日払
労働時間の原則 1週40時間、1日8時間
時間外・休日労働 労使協定の締結
割増賃金 時間外・深夜2割5分以上、休日3割5分以上
解雇予告 労働者を解雇しようとするときは30日以上前の予告又は30日分以上の平均賃金の支払
有期労働契約 原則3年、専門的労働者は5年

この他、年次有給休暇、就業規則等について規定しています。

同法がすべての基となるとお伝えしたとおり、基本的な優先順位を示すと以下のとおりです。

労働基準法>労働協約>就業規則>個別労働契約

つまり、上位の基準を下回るものは無効ということです。どんな規則や労働契約も労働基準法を下回る規約を設けることはできません。仮に設けたとしても、無効と判断されるでしょう。

労働組合法

昭和24年に制定された、日本国憲法第28条に定める労働三権「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」を具体的に保障する法律です。労働組合活動の実効性を確保するために、不当労働行為を禁じています。

▼不当労働行為とその例

不当労働行為

組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い

・労働組合への加入、労働組合の結成又は労働組合の正当な行為を理由とする解雇、賃金・昇格の差別等

・労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすること

正当な理由のない団体交渉の拒否

・当該企業で働く労働者以外の者が労働組合に加入していることを理由とする団体交渉の拒否

・形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わないこと(不誠実団交)

労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助

・労働組合結成に対する阻止・妨害行為、労働組合の日常の運営や争議行為に対する干渉を行うこと

・労働組合の運営経費に経理上の援助を与えること

労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱い ・労働委員会の調査・審問等において、労働者が提出した証拠や労働者が発言したことを理由とする不利益取扱い

同法では不当労働行為の救済制度についても定めています。労働者や労働組合が使用者から不当労働行為を受けた場合に、労働委員会に対して救済申し立てを行うことができる制度です。

労働関係調整法

「労働関係の公正な調整を図り、労働争議の予防または解決をもって産業平和の維持、経済の興隆に寄与する」ことを目的として昭和21年に制定されました。

労働争議が起きた場合に、ストライキやサボタージュといった争議行為を調整する3つの方法を定めています。

斡旋

労働委員会から派遣された斡旋員が、労使の間に入り双方の主張の要点を確かめる方法

公正な第三者として助言を与え、労使間の自主的な相互の歩み寄りを図るもの

調停

調停委員会が労使双方の意見を聴き、調停案を作成し、両者に受理するよう勧告する方法

仲裁

仲裁委員会が労使双方から意見を聴き、仲裁裁定を書面で定める方法

※調停案の受諾が当事者に一任されているのに対し、仲裁裁定は企業、労働者ともにこれに従わなければなりません

労働安全衛生法

高度経済成長期に激増した労働災害や労働環境の急激な変化を受けて、昭和47年に労働基準法から派生しました。労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的として定めた法律です。法律の施行に伴う具体的な事項については、安全衛生法施行令(安衛令)に規定されており、さらに具体的な措置や作業を規定しているのが安全衛生規則(安衛則)です。例えば、健康診断の実施を義務付けているのは安衛法ですが、その詳細な診断項目は安衛則で定めています。

▼労働安全衛生法の体系図

雇用の安定に関する法令

続いて、安定した雇用を確保し続けるために定められた法律を4つ紹介します。

最低賃金法

その名の通り、賃金の最低額を定めた法律です。昭和34年に労働基準法から派生しました。最低賃金には、都道府県ごとに設けられている「地域別最低賃金」と、特定の業種に設けられる「特定最低賃金」があります。その額は毎年8月に見直され、10月から改定されるため毎年必ずチェックし、下回ることがないように注意しなければなりません。

▼令和4年度地域別最低賃金

都道府県名

最低賃金時間額【円】

都道府県名

最低賃金時間額【円】

北海道 920 滋賀 927
青森 853 京都 968
岩手 854 大阪 1023
宮城 883 兵庫 960
秋田 853 奈良 896
山形 854 和歌山 889
福島 858 鳥取 854
茨城 911 島根 857
栃木 913 岡山 892
群馬 895 広島 930
埼玉 987 山口 888
千葉 984 徳島 855
東京 1072 香川 878
神奈川 1071 愛媛 853
新潟 890 高知 853
富山 908 福岡 900
石川 891 佐賀 853
福井 888 長崎 853
山梨 898 熊本 853
長野 908 大分 854
岐阜 910 宮崎 853
静岡 944 鹿児島 853
愛知 986 沖縄 853
三重 933 全国加重平均額 961

労働者派遣法

昭和61年に制定された。改正を経た正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」。労働者派遣が活発になるに従って解決すべき課題も明るみとなり、人材派遣を可能にするための法律から派遣労働者の権利を守る法律へと変化してきました。

近年の改正にまつわる大きなトピックスは以下のとおりです。

改正年

トピックス

概要

2012年

日雇い派遣の原則禁止

日雇い派遣の原則禁止

2015年

3年ルールの適用

3年を超えて同じ事業所で働くことは、基本的にできない。一定の手続きを経れば、3年を超えて働くことは可能だが、異なる「課」などへ異動することが必要。

2020年

同一労働・同一賃金の適用

派遣元事業主は以下のいずれかの確保が義務。

【派遣先均等・均衡方式】派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇

【労使協定方式】一定の要件を満たす労使協定による待遇

パートタイム・有期雇用労働法

令和3年に制定された比較的新しい法律です。正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」。通常の労働者とパートタイム労働者及び有期雇用労働者との均等・均衡待遇の確保を推進することを目的としており、以下のパートタイム労働者及び有期雇用労働者を雇用する場合には遵守しなければなりません。

 

パートタイム労働者

同一の事業主に雇用される通常の労働者(※)の1週間の所定労働時間と比較し、1週間の所定労働時間が短い労働者

有期雇用労働者

期間の定めのある労働契約を事業主と締結している労働者

なお、「嘱託社員」「契約社員」「臨時社員」「パートタイマー」「アルバイト」といった名称は関係なく、上記に当てはまる労働者は当該法の対象となる

※通常の労働者とは

「正規型の労働者」「期間の定めのない労働契約を事業主と締結しているフルタイム労働者(無期雇用フルタイム労働者)」を指します。

職業安定法

労働者の募集や供給など、いわゆる労働市場のルールを定めた法律で、昭和22年制定されました。労働者を募集する際に関わる法律です。

労働者の募集を求人メディア等に依頼する場面も多く見受けられますが、令和4年に法改正が行われ、求人企業の義務も明確化されました。掲載を求人メディア任せにせず、最新の情報にアップデートされているかなど注意を払う必要があります。

▼求人企業の義務

  • 募集を終了・内容変更した場合には、求人情報の提供も速やかに終了・変更する
  • 求人メディアを活用している場合であっても、募集の終了や内容変更を反映するよう依頼する
  • いつの時点の求人情報かを明らかにする
  • 求人メディアから求人情報の訂正・変更を依頼された場合には、速やかに対応する

労使関係の法令

労働三法に含まれる「労働組合法」「労働関係調整法」以外にも、労使関係を押さえる上で把握しておくべき法律が労働契約法です。

労働契約法

働き方が多様化する中で、紛争の未然防止や労働者の保護を目的として平成20年に制定されました。労働契約に関する基本的なルールをわかりやすく明らかにした法律です

第3条にて労働契約の5原則を規定しています。

労使対等の原則

労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

均衡考慮の原則

労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

仕事と生活の調和への配慮の原則

労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

労働契約遵守・信義誠実の原則

労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

権利濫用禁止の原則

労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

女性・高齢者・障害者雇用に関する法令

多様な人材が活躍できる職場環境の実現を目的とした代表的な法律を4つ紹介します。社会的な関心の高まりなど、時代の変化に応じた法整備が柔軟に行われる分野であり、その動向はつねに注視しておく必要があります。

男女雇用機会均等法

性別により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環境の整備を目的として昭和60年に制定されました。当初は努力義務だった禁止項目も平成9年の改正で義務化され、その後も平成18年、平成28年、令和2年と時代とともに改正を重ねてきました。

▼主な改正内容

性別を理由とする差別の禁止

・募集・採用、配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・昇進・降格・教育訓練、一定範囲の福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新について、性別を理由とする差別を禁止

・雇用の場で男女労働者間に事実上生じている格差を解消することを目的として行う、女性のみを対象とした取扱いや女性を優遇する取扱いは違法でない旨を規定

婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等

・婚姻、妊娠、出産を退職理由として予定する定めを禁止

・婚姻を理由とする解雇を禁止

・妊娠、出産、産休取得、その他厚生労働省令で定める理由による解雇その他不利益取扱いを禁止

・妊娠中・出産後1年以内の解雇は、事業主が、妊娠等が理由でないことを証明しない限り無効

セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産等に関するハラスメント対策

・セクシュアルハラスメント対策

・妊娠・出産等に関するハラスメント対策

・職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメントに関する関係者の責務

母性健康管理措置 妊娠中・出産後の女性労働者が保健指導・健康診査を受けるための時間の確保、当該指導又は診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため必要な措置の実施を事業主に義務付け

女性活躍推進法

平成28年に制定された、令和7年までの10年間の時限立法です。女性の職業生活における課題解決を目的としています。

▼基本原則

  • 女性に対する採用、昇進等の機会の積極的な提供及びその活用と、性別による固定的役割分担等を反映した職場慣行が及ぼす影響への配慮が行われること
  • 職業生活と家庭生活との両立を図るために必要な環境の整備により、職業生活と家庭生活との円滑かつ継続的な両立を可能にすること
  • 女性の職業生活と家庭生活との両立に関し、本人の意思が尊重されるべきこと

女性活躍推進法の対象企業は2022年4月から拡大され、常時雇用の労働者数が101人以上の企業が対象となっています。対象企業は行動計画の策定や、各種情報の公開が義務付けられています。

高年齢者等雇用安定法

少子高齢化が進み労働人口の減少が懸念される中で、働く意欲があれば年齢に関わりなく活躍できるよう環境整備を図るための法律です。65歳までの雇用確保の義務に加え、令和3年の改正により70歳までの就業確保が努力義務となりました。

令和3年の改正によって、事業主に課せられている努力義務は以下のうちのいずれかです。

(1)70歳までの定年の引上げ

(2)定年制の廃止

(3)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

   (特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)

(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

   a.事業主が自ら実施する社会貢献事業

   b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

障害者雇用促進法

昭和35年に制定されました。障害者の職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、障害者の職業の安定を図ることが目的です。

事業主に求められる障害者雇用の基本ルールは以下のとおりです。

障害者雇用率制度

従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める障害者の割合を「法定雇用率」以上にしなければならない

障害者雇用納付金制度

障害者の雇用は、健常者の雇用に比べ、作業設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理等が必要となるため、事業主の経済的負担軽減を目的とした納付金制度

雇用の分野における障害者の差別禁止及び合理的配慮の提供義務

事業主は、募集・採用において、障害者に対して障害者でない者と均等な機会を与えなければならない

障害者であることを理由に、賃金・教育訓練・福利厚生その他の待遇について、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない

障害者からの申出により障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。例)募集要項を視覚障害者向けに音声で提供するなど

障害者職業生活相談員の選任

障害者を5人以上雇用する事業所では、障害のある従業員の職業生活に関する相談・指導を行う障害者職業生活相談員を選任しなければならない

障害者雇用に関する届出

一定の従業員数を有する事業主は障害者雇用状況をハローワークに毎年報告しなければならない

障害者を解雇する事業主は速やかにハローワークに届け出なければならない

障害者の虐待防止

障害者を雇用する事業主は、労働者に対する障害者理解の研修実施、障害者や家族からの苦情処理体制の整備などの措置を講じなければならない

 

なかでも障害者法定雇用率は少なくとも5年ごとにその割合が引き上げられており、現在は2.3%ですが、2026年にかけて2.7%になることが既に決定しています。雇用率を達成していない企業は、今後積極的に障害者雇用を行うなどの対応が求められます。

育児・介護休業関連の法令

ワーク・ライフ・バランスのとれた働き方は、国全体の喫緊の課題といえます。特に近年は出産・育児、介護と仕事の両立を目指し、関係法令の整備が行われています。代表的な法律が「育児・介護休業法」「次世代法」です。

育児・介護休業法、次世代法

2法の正式名称と目的は下記のとおりです。

育児・介護休業法

(正式名称)育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

事業主に育児休業、介護休業等の制度を設けることを義務づける法律

次世代法

(正式名称)次世代育成支援対策推進法

従業員数に応じて、従業員の仕事と子育ての両立を支援するための「一般事業主行動計画」を策定し、都道府県労働局に届け出ることを企業に義務づける法律

 

平成3年の育児休業法制定以来、男女ともに育休を取得できる規定でしたが、令和2年度時点の取得率は男性12.65%、女性81.6%と大きな乖離が存在しているのが実情です。出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できる社会を実現するために改正を重ねてきました。直近では、令和3年の改正において男性の育児休業取得促進を目的として、産後パパ育休が創設されました。育児や介護環境を取り巻く法律関係は、今後もその動向から目が離せません。

まとめ

最低限押さえるべき法律を理解するのは人事・労務の担当者として当然の務めであり、また近年多く行われている人事に関わる法律の改正への柔軟な対応も重要な任務の1つです。改正の見過ごしや対応の遅延が発生した場合、法令違反や、法令上の罰則を受ける可能性もあります。

特に最近は、労働人口の減少による働き方改革は避けられず、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保など、関係する法令の改正も目まぐるしいのが実態です。

改正があると、社内規定や制度の改定、さらにシステムの改修に取りかからなければなりません。1度の改正にかなりの工数を割かなければならない上、対応の漏れや遅れといったリスクを常に抱えることになります。業務を効率化し、リスクを回避するには、法改正に迅速・柔軟に対応できる勤怠管理システムが有効です。

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