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2022年4月から女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・公表義務の対象企業が拡大
公開日時:2022.05.09 / 更新日時:2022.08.24
2022年4月から一般事業主行動計画の策定や情報公表の義務の対象が拡大
「一般事業主行動計画」とは、事業所が、自社の女性の活躍に関する状況の把握・課題分析を基に目標を設定し、目標を達成するための具体的な取組み内容をまとめたものです。女性活躍推進法では、一定数の労働者を雇用する企業に「一般事業主行動計画」の策定・公表が義務付けられています。
2022年(令和4年)4⽉から改正⼥性活躍推進法が全⾯施⾏されたことに伴い、一般事業主⾏動計画の策定や情報公表が義務付けられる事業主の対象が拡大され、女性活躍に関する情報公表が強化されました。
対象企業と実施内容
2022年の改正女性活躍推進法の施行により、一般事業主行動計画の策定や情報公開の義務対象となる企業は「常時雇用する労働者数が301人以上の事業主から101人以上の事業主」に拡大されました。
常時雇用する労働者の数が301人以上の事業主には、以下の4つの取り組みが義務付けられています。
(1)自社の⼥性の活躍に関する状況把握、課題分析
(2) 数値目標※1①と②の区分ごとに1項目以上(計2項目以上)を選択し、それぞれ関連する数値目標を定めた⾏動計画の策定、社内周知、公表
(3)⾏動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出
(4)⼥性の活躍※2に関する項目から「男女の賃金の差異」を必須項目として、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績」、「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績」からそれぞれ1項目ずつ選択する
常時雇用する労働者の数が101人以上300人以下の事業主には、以下の4つの取り組みが義務付けられています。
(1)自社の⼥性の活躍に関する状況把握、課題分析
(2)1つ以上の数値目標※1を定めた⾏動計画の策定、社内周知、公表
(3)⾏動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出
(4)⼥性の活躍※2に関する1項目以上の情報公表
常時雇用する労働者数が100人以下である事業主については、上記の(1)~(4)は努力義務の扱いとなっています。
※1:数値目標については厚生労働省の「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」の8ページを参照してください
※2:女性の活躍に関する項目については後述の「3. 一般事業主行動計画の策定と情報公表のために実施すべきこと」の「④⼥性の活躍に関する情報の公表」を参照してください。
次世代育成法による一般事業主行動計画との違い
少子化に対応するための法律である次世代育成法の一般事業主行動計画と、女性の活躍を推進する女性活躍推進法の一般事業主行動計画は、内容に共通部分もありますが別物です。
女性活躍推進法は、女性が職業生活においてその希望に応じて十分に能力を発揮し、活躍できる環境を整備することを目的としています。一方で次世代育成法(次世代育成支援対策推進法)は、次の世代を担う子どもたちが健やかに生まれ育つ環境をつくることを目的とした法律です。
それぞれの一般事業主行動計画で義務付けられる内容は、以下のように異なります。女性活躍推進法の場合、次世代育成法と違って(1)「自社の女性の活躍に関する状況の把握、課題分析」と(4)「女性の活躍に関する情報公表」が必ず実施しなければならない義務となっています。
義務の内容(2022年4月以降) | 女性活躍推進法 | 次世代育成法 |
(1)自社の⼥性の活躍に関する状況把握、課題分析 | 義務 | 義務ではない、推奨はされる |
(2)一般事業主⾏動計画の策定、社内周知、公表 | 義務 301人以上の事業主、101人以上の事情主で一部内容が異なる | 義務 |
(3)⾏動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出 | 義務 | 義務 |
(4)⼥性の活躍に関する情報公表 | 義務 301人以上の事業主、101人以上の事情主で一部内容が異なる | なし |
女性活躍推進法と次世代育成法は、以下のように常時雇用する労働者の人数による義務の違いもあります。
行動計画を策定する義務 | 女性活躍推進法 | 女性活躍推進法 |
301人以上 | 義務 | 義務 |
101人以上 | 2022年4月から義務 | 義務 |
100人以下 | 努力義務 | 努力義務 |
参考:厚生労働省|女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!
参考:厚生労働省|一般事業主行動計画の策定・届出等について
一般事業主行動計画の策定と情報公表のために実施すべきこと
女性活躍推進法における一般事業主行動計画の策定と情報公開について、事業主に求められる取り組みは具体的に定められています。事業主が実施すべきことを4つに分けて解説します。なお、「④女性の活躍に関する情報の公表」については、2022年7月8日に義務化された男女の賃金格差の開示を踏まえた内容となっています。
①女性の活躍に関する4つの状況把握、課題分析
道路交通法施行規則の第九条の十(七)では「確認した内容を記録し、その記録を1年間保存すること」と定められています。具体的な記録項目は以下の内容です。
1.採用した労働者に対する女性労働者の割合
直近の事業年度の女性の採用者数(中途採用を含む)÷直近の事業年度の採用数(中途採用を含む)×100(%)
2.男女の平均継続勤務年数の差異
女性の平均勤続年数÷男性の平均勤続年数
3.労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間(健康管理時間)の状況
「各月の対象労働者の(法定時間外労働+法定休日労働)の総時間数の合計」÷「対象労働者数」
4.管理職に占める⼥性労働者の割合
⼥性の管理職数÷管理職数×100(%)
上記の項目を分析した結果、課題であると判断した項目については必要に応じて把握する「選択項目」を活用して原因分析を深める必要があります。選択項目について詳しくは厚生労働省の「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」の5ページを参照してください。
②課題を元に計画期間、目標、取り組む内容を決める
女性活躍に関する自社の状況を把握・分析を行った後は、その結果を勘定して一般事業主行動計画を策定します。⾏動計画には、計画期間、数値目標、取組内容、取組の実施時期を盛り込みます。
1.計画期間
2025年度(令和7年度)までの期間のうち約2〜5年間で設定するように求められています。
2.数値目標
常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の事業主であれば、1つ以上の数値目標を定めましょう。例えば「男女の勤続年数の差を〇年以下にする」「管理職に占める女性比率を〇%以上にする」などの目標です。
労働者300人以上の事業主の場合は、数値目標に関する項目をカテゴリ別に分けた「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活の両立に資する雇用環境の整備」の2区分について、それぞれ1つ以上の項目を選択し数値目標を定める必要があります。
2区分の内容について詳しくは厚生労働省の「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」の8ページを参照してください。
3.取組内容、取組の実施時期
取組内容を決める際は数値目標を設定した項目の達成を優先的に考え、いつまでにどのような取組を行うか記載します。
③行動計画の公表と届出をする
計画を策定した後は、次の1~3の手順に従い、社内や外部に計画の内容を公表して都道府県労働局に届け出ます。
1.社内の労働者に周知を行う
策定・変更した⾏動計画は、非正社員非正規労働者を含めた全ての労働者に周知する必要があります。周知する方法としては以下のいずれかを選択しましょう。
・事業所の見えやすい場所への掲示
・電子メールでの送付、イントラネットへの掲載
・書面での配布
事業所に書面や掲示物を備え付ける場合は、労働者にその場所が⼗分に周知されていて、かつ労働者が⼿に取りやすい場所(休憩室など)に配置するなど備え付けるなどして、労働者がいつでも簡単に確認できるようにします。
2.外部公表を行う
⾏動計画を策定・変更した後は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や自社のホームページに掲載するなどして、外部に公表しましょう。
3.労働局に「策定届」を届け出る
⾏動計画を策定・変更したら、管轄の都道府県労働局に届け出ましょう。届出は労働局への持参や、郵送だけでなく、電子申請でも可能です。様式は厚生労働省の女性活躍推進法特集ページ「一般事業主行動計画の策定について」からダウンロードできる「一般事業主行動計画策定・変更届」を使用します。厚生労働省の「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」の13~15ページに記入例がありますので届け出る際はこちらを参照してください。
④女性の活躍に関する情報の公表
女性の活躍に関する情報の公表については日本における男性、女性の賃金の格差の解消を進める目的で女性活躍推進法が省令改正され、2022年7月28日から対象事業主に対して男女の賃金格差に関する項目の公表を義務化するよう変更が加えられています。常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績」の中から必ず「⑨男女の賃金の差異」を選んだ上で、①~⑧の8項目から1項目選択します。「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績」については7項目から1項目選択します。
なお、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主は、下記16項目から任意の1項目以上を選択して情報公開を行う必要があります。
この場合の男女の賃金の差異(男女の賃金格差)は具体的な賃金額の差ではなく、男性賃金の中央値に対し、女性賃金の中央値が低い割合を指します。
また、男女の賃金格差の公表は、全従業員(労働者)の男女別の差だけでなく、正規・非正規の雇用別の全3区分で賃金格差を計算しなくてはなりません。具体的には以下のような形で公表することが想定されています。
区分 | 男女の賃金格差※ |
全労働者 | 30.0% |
正社員 | 15.0% |
非正規労働者(パート・契約社員等) | 40.0% |
男女の賃金格差の公表内容や計算方法について詳しくは【2022年7月施行】女性活躍推進法に基づく男女の賃金格差開示義務化とは? をご覧ください。
情報公表の内容については、おおむね年に1回以上更新し、公表されている情報がいつの時点の数値なのか分かるように更新時点を明記しましょう。公表する数値は、その時点に得られる最新の数値(特段の事情がない限り、古くとも公表時点の前々年度の数値)とされています。
⾏動計画を外部へ公表する際や自社の⼥性の活躍に関する情報公表をする際は、厚生労働省の「⼥性の活躍推進企業データベース」を活用すると学生や求職者など幅広い層に数値結果をアピールすることができます。
まとめ
2022年4⽉から改正⼥性活躍推進法が全面施⾏されたことにより、一般事業主⾏動計画の策定や情報公表が義務付けられる企業の対象が拡大されました。常時雇用する労働者数が301人以上の事業主から101人以上の事業主は新たに義務対象となったため、未実施の企業は対応が必要になります。この他にも、2022年7月8日以降、政府が決定した「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2022」により、上記の事業主が公表する「女性活躍に関する情報」の1項目として追加された「男女の賃金の差異」の情報開示が新たに義務化されました。
今回の女性活躍推進法の「一般事業主⾏動計画」は、次世代育成法の一般事業主行動計画と混同されがちですが、実施する義務や目的が異なります。次世代育成法に基づいて子育て支援を実施している企業は共通項目を意識しつつ、別途進めるようにしましょう。
女性活躍推進法における一般事業主行動計画を進めるためには、まず自社の状況を把握し課題を分析する必要があります。結果をもとに計画や取り組み内容を策定して、情報の公表と届出を行いましょう。届出をした後も、定期的に情報を更新するよう社内整備を進める必要があります。届出は電子申請にも対応しているため、社内でデジタル化を進めておくと状況把握も含め効率的に行動計画策定のための作業を実施可能です。
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