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2022年10月からスタート 産後パパ育休の内容と育児・介護休業法の改正のポイント
公開日時:2022.11.29 / 更新日時:2024.04.25
産後パパ育休(出生時育児休業)とは?
「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、男性従業員が子の出生日から8週間までに取得ができる新たな育休制度です。2022年4月より段階的に施行されている改正育児・介護休業法の一環としてスタートします。通常の育児休業とは別に、より男性の育児参加需要が高い期間を対象としたものです。
産後パパ育休の特徴として次の3つが挙げられます。
- 育児休業の分割取得が可能
- 休業中の就業が可能
- パパ休暇の廃止
産後パパ育休の取得は、子の出生日から8週間までに最長4週間、必要に応じてタイミングを2回に分けられます。改正後は通常の育児休業を含めて、子が1歳になるまでに最大4回まで分割取得が可能です。所定労働日や所定労働時間に制限がありますが、休業中の就業が認められている点も大きな特徴です。
従来の「パパ休暇」は廃止されますが、両親ともに育児休業を取得する場合に、要件を満たすことで休業期間を延長できる「パパ・ママ育休プラス」は継続されます。
産後パパ育休のメリットは、家事や育児をはじめ家族の身体的サポートが必要な時に、男性が柔軟に育児休業を取得できること。男性の家事・育児参加を促すことで、女性のスムーズな復職や就業機会の拡大にもつながると期待されています。
産後パパ育休(出生時育児休業)が創設された背景とは?
産後パパ育休が創設された背景にあるのが、男性が育児休業を取得しづらい環境や、出産を機にした女性の高い離職率です。男性が育児参加に消極的であるほど、女性の社会進出の遅れや子の出生数の低下など社会活動における影響は大きくなります。
男性の育休が取りにくい
日本における男性の育児休業取得率が上がらない背景には、男性が育児休業を取りにくい社会風土があります。厚生労働省の雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は2021年度で13.97%と、7人に1人の計算です。2012年度の1.89%から9年連続で上がっているものの「2025年までに30%」とする政府目標とはほど遠い結果になりました。
2020年の民間企業に勤める男性の育児休業取得率は前年から5.2%アップして、過去最高の12.65%でした。しかし、女性の育児休業取得率81.6%と比べると、男性の取得率は未だ低い状況が続いています。
男性が育児休業を取りにくい理由の一つに、育児休業や時短勤務を希望する男性従業員に対する嫌がらせ「パタニティーハラスメント(パタハラ)」が挙げられます。2020年に厚生労働省が実施した職場のハラスメントに関する実態調査によると、過去5年間で育児休業や時短勤務を希望した男性の4人に1人が被害に遭っていることがわかりました。
出産を機にした女性の離職率がなお高い
産後パパ育休の創設には、出産を機に育児と仕事の両立に悩む女性が多いことも影響しています。国立社会保障・人口問題研究所の「第16回出生動向基本調査」によると、第1子出産後に育児休業制度を利用して就業継続した女性の割合は、2010〜14年の31.6%から2015〜19年では42・6%へ大きく上昇しました。
第1子出産を機に仕事を辞めた女性も、2010〜14年の42.3%から2015〜19年のデータで30.5%へ減少しています。しかし、パート・派遣従業員では60.4%と離職率が依然として高く、育児と仕事の両立を諦める女性は決して少なくありません。
産後パパ育休の新設を含めた法改正によって、より柔軟な育休制度が整ってきています。男性の育児参加が進むと、女性の離職防止だけでなく、出産意欲の向上や男女の雇用格差の改善にもつながります。
2022年スタートの産後パパ育休に関する育児・介護休業法の改正のポイント
2022年4月から改正育児・介護休業法が段階的に施行されています。育児休業取得状況の公表の義務化を除いて、全企業が対象です。従業員数1,000人超の企業は、従業員の育児休業取得状況を年に1回公表することが義務付けられます。
2022年4月1日施行 | ・ 雇用環境整備、個別の周知 ・意向確認の措置の義務化 ・ 有期雇用労働者の育児 ・介護休業取得要件の緩和 |
2022年10月1日施行 | ・ 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設
・ 育児休業の分割取得 |
2023年4月1日施行 | ・ 育児休業取得状況の公表の義務化 |
産後パパ育休も、通常の育児休業と同様に給付金の受給や社会保険料免除の対象です。企業は環境づくりだけでなく、従業員に対して利用できる制度について説明する義務があります。この章では具体的に、産後パパ育休に関する育児・介護休業法の改正のポイントを解説します。
育児休業の分割取得
2022年10月施行の改正における最大のポイントは、育児休業の分割取得が可能になった点です。新たに創設された産後パパ育休は、初回の申請時に希望することで、2回まで分けて取得できます。改正後は、通常の育児休業でも分割取得が認められるようになり、男性は最大4回に分けて育休取得が可能になります。
また、保育所に入所できないなどを理由とする1歳以降の育児休業延長において、従来は1歳または1歳半の時点に限定されていた休業の開始日が、改正後は自由に選択できます。開始時点が柔軟になり夫婦で育児休業を途中交代できるため、家庭の状況に合わせた対応が可能です。
育児休業給付金
雇用保険に加入し一定の要件を満たすことで、育児休業中に「育児休業給付金」が支給されます。改正後の分割取得に対応するため、2022年10月から育児休業給付金の支給の条件が部分的に変更されました。
従来は、同一の子について2回目以降の育児休業は、原則として給付金の支給対象ではありませんでした。変更後は1歳未満の子について、原則2回まで育児休業給付金の受給が可能です。
3回目以降の育児休業については、例外事由に該当する場合のみ回数制限から除外されます。育児休業の延長事由があり、夫婦交代で育児休業を取得する場合は、1歳〜1歳6か月と1歳6か月〜2歳の各期間で夫婦それぞれ1回に限り給付金を受け取れます。
出生時育児休業給付金
今回の改正で新たに導入されたのが、産後パパ育休の休業中に支給される「出生時育児休業給付金」です。通常の育児休業時に支給される育児休業給付金と共通する部分が多いとはいえ、それぞれの違いを押さえて理解する必要があります。
産後パパ育休の休業中は条件付きでの就業が可能ですが、出生時育児休業給付金は支給要件として「就労日数の上限を最大10日」と定めています。留意すべきは、通常の育児休業給付金は原則として2か月に1度の請求をしていくのに対し、出生時育児休業給付金はまとめて請求する必要がある点です。
また、休業中の就労に関しても違う捉え方をします。通常の育児休業給付金は1か月に10日以下の就業であることが上限ですが、出生時育児休業給付金は、最大28日間休業する場合の就業上限は10日となります。28日に満たない場合には休業期間に比例して上限が変動します。
産後パパ育休の後に育児休業を取得する場合には、続けて育児休業給付金を受け取れます。育児休業給付金の支給額は休業開始から180日までが賃金日額の67%ですが、出生時育児休業給付金を受給した日数はこの180日に通算されます。
企業が対応すべき点
産後パパ育休の施行に伴い、企業には育児休業を取りやすい環境づくりがより一層求められます。制度が柔軟になったことで、今後は育児休業に関する従業員からの要望も多様化するでしょう。まずは制度の内容を十分理解し、場合によっては就業規則の改正も必要です。
企業がすべき具体的な対応として研修の実施や相談窓口の設置をはじめ、配偶者の妊娠や出産を申し出た従業員に対する個別の周知も大切です。育休制度や給付金について説明すると同時に、取得の意向を事前に確認しておきましょう。
個別に対応することで従業員に制度の利用を促せるだけでなく、社内の分業体制を事前に整えられます。育児休業の取得期間によって、マネジメントにおける配慮も異なるため工夫が必要です。企業は多様化する要望に対応できるフォロー体制が求められます。
従来から、男性が育児休業を短期間取得すること自体は、いわゆる「パパ休暇」を取得するケースなど、それなりの件数存在していました。今回の産後パパ育休制度の施行によって、出産後の育児休業の短期の休業がさらに大きく増える可能性があります。
通常の育児休業の場合は長期間の休業となるため、業務を一定期間完全に引き継ぐような体制の整備が求められました。しかし、短期間の休業が断続的に続く場合、引継ぎではなく、短期的な業務を部署等で認識をしてフォローアップするような体制が求められるでしょう。
こうした短期間の休業が増加することに備えて業務の情報共有を密にしたり、業務を共有するITツール等を活用したりする企業も増加しています。産後パパ育休制度の施行後は、組織的に業務をどう連携して行っていくか、一層の工夫が求められるでしょう。
まとめ
2022年4月から段階的に施行されている育児・介護休業法の改正の中でも、男性の育児休暇取得を推進する「産後パパ育休」が本格的にスタートしました。育児休業の分割取得が可能になり、従来の育休制度と比べて柔軟になったことで、今後は男性の育児休業取得が増えていくことが期待されています。
企業として従業員が育児休業を利用しやすい環境を整えるとともに、育児休業や時短勤務など従業員一人ひとりの制度利用状況を管理したマネジメントが重要です。