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【社労士監修】パートタイマーの就業規則作成のポイントを解説

公開日時:2023.03.29

雇用者全体の約4割を占める、パートタイム従業員・有期雇用労働者の公正な待遇を目的として、2020年4月に「パートタイム・有期雇用労働法」が大きく改正されました。改正前の「パートタイム労働法」では、パートタイマーのみに対する法律でしたが、今回の改正で有期雇用労働者にも範囲が拡大されています。

加えて、同じ企業で働く正社員との不合理な待遇差については、事業主に説明義務が課されるなど、企業側にも一層の対応が求められることとなりました。

改正部分については、大企業は2020年4月から、中小企業には2021年4月から適用されています。それによって、パートタイマー・有期雇用労働者の適正な労働条件の確保の必要性が高まりました。適正な待遇ができているかの確認には、パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則の作成・整備が有効な場合があります。この記事ではパートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則を制定する方法について詳しく解説します。

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則が必要とされる理由

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則が必要とされる理由は、労働に関するトラブルを回避するためです。パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則を整備することで、社内のルールが明確になり、トラブルを未然に防げる場合があります。

パートタイマー向けの就業規則がない場合は、労働基準法にもとづいて、通常の就業規則がパートタイマー・有期雇用労働者にも適用されます。しかし、会社によっては、休職規程その他が本来パートタイマーには適用されないなど、適用者がわかりにくくなっているケースがあります。そのため、正社員とパートタイマー・有期雇用労働者の間に不合理な待遇差を設けることとなってしまい、トラブルにつながる可能性があります。トラブルの詳細な例については2章で後述します。

さらに、「パートタイム・有期雇用労働法」の第14条第2項によって、非正規社員は正社員との待遇差の内容や理由について、事業主に合理的な説明を求めることが可能になりました。

【第14条第2項の概要】

事業主は、パートタイマー・有期雇用労働者から求めがあったときには、通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由について、説明しなければならない。

不合理な待遇差が発覚し、厚生労働大臣に雇用管理の改善のために行政指導が必要だと判断された場合は、事業主に報告の要請と、助言や指導、勧告が行われます。事業主が報告の要請に応じなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、過料の対象となるため注意しましょう。最悪の場合には従業員と裁判をすることになり、損害賠償を請求されることもあり得ます。

なお、この待遇の差については、次の2章で説明する「同一労働同一賃金」のルールに基づいて、比較対象となる正社員との差が合理的なものであることを説明する必要があります。そのため事前に待遇を点検し、整理しておくことも重要です。整理にあたって不明点がある場合は、社会保険労務士等の専門家に相談することが有効な場合もあるでしょう。

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則作成時の注意点

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則は、自社の正社員の就業規則を参考にしながら、パートタイマー特有のポイントである以下の2点に注意して作成しましょう。

  • 同一労働同一賃金に基づいているかを確認する
  • 無期転換ルール*を踏まえた就業規則を制定する

同一労働同一賃金に基づいているかを確認する

パートタイマー・有期雇用労働者と、正社員の労働条件や就業規則を比較して、同一労働同一賃金のガイドラインに違反する箇所がないかを確認しましょう。同一労働同一賃金とは、雇用形態(正社員・パートタイマー・有期雇用労働者・派遣労働者など)にかかわらず、企業や団体内で同じ仕事をしていれば、同一の賃金を支給するという考え方です。

正社員と有期雇用労働者で、同じ業務、同じ責任の範囲で仕事をしているにもかかわらず、企業が同一の賃金や手当を支払っていなければ、同一労働同一賃金に違反しているといえます。

例えば、紳士服売り場の責任者として働く正社員と、婦人服売り場で働く有期雇用社員の間で、職務の内容や責任の範囲、転勤・配置の変更範囲がほぼ同様にもかかわらず、正社員の方に多く賃金が支払われているならば、同一労働同一賃金に違反していると考えられます。その場合は、有期雇用労働者に同じ賃金を支払う対応をしなければなりません。

賃金に関してパートタイマー・有期雇用労働者と正社員との間に明確な差を設けるのであれば、職務の内容や、配置の変更範囲、その他の客観的・具体的な実態などの労働条件に明確な違いがあることが必要です。なお、労働条件については就業規則に記載する必要はありません

無期転換ルールを踏まえた就業規則を制定する

雇用トラブルを避けるためには、無期転換ルールも踏まえた上で就業規則を制定しましょう。無期転換ルールとは、同一の使用者(企業)との間で、有期雇用労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の希望により有期雇用契約から無期雇用契約に転換できるルールです。

労働契約法第18条の定めによって、従業員から無期転換を申請された場合、使用者は承諾したものとみなされ、原則として断ることができません。

5年を超えて、パートタイマー・有期雇用従業員を働かせる可能性があれば、無期雇用に変更できる旨や、無期転換の手続き・定年制度について就業規則に記載する必要があります。記載については、厚生労働省が出している「多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説」の41ページに就業規則の記載例があるのでぜひご参照ください。なお、仕事内容や役割・処遇については別段の定めを設けず、従前のままとすることもできます。

なお、パートタイマー及び有期雇用従業員を、5年を超えて働かせる可能性がなければ、契約更新の上限を設ける方法があります。ただし、契約更新の上限を設けて、無期雇用契約に転換できないようにすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではありません。そのため極力行わないようにしましょう。

パートタイマー・有期雇用労働者向け就業規則の不備によるトラブル例

「パートタイマー・有期雇用労働法」の改正によって、次のような場合に、従業員と企業側で紛争が起きる可能性があります。

  • 労働条件についての誤解がある場合
  • パートタイマーには本来適用されないにもかかわらず、適用の旨が就業規則にあった場合

事業主と従業員の双方は、「パートタイム・有期雇用労働法」の第24条と第25条によって、都道府県労働局長に紛争解決の手続きを求められることが明記されました。そのため、就業規則の不備により、不合理な待遇差を設けていた場合はトラブルになりかねません。トラブルの具体例には以下の2つが挙げられます。

  • 通勤手当の支給の有無に関するトラブル
  • 賞与支給の有無に関するトラブル

他にも、企業側の措置が義務とされるものについては、紛争の起こる可能性があるため、就業規則を整備する際には、以下について公正な待遇となるように明記しましょう。

  • 不合理な待遇差の禁止(第8条)、通常の労働者との差別的な取扱いの禁止(第9条)
    → 基本給、賞与、役職手当、食事手当、福利厚生施設、教育訓練、休暇などの待遇
  • 福利厚生施設の利用(第12条)
    →給食施設、休憩室、更衣室の利用許可
  • 通常の労働者への転換(第13条)
    →正社員転換推進措置

通勤手当の支給の有無に関するトラブル例

以下のケースは、同一労働同一賃金の観点での整備が不十分なためにトラブルとなった事例です。トラブルを防ぐためにも、同一労働同一賃金の観点で、待遇差について事前に検討することが必要だと言えます。ただし、パートタイマー・有期雇用労働者と正社員との間に待遇の差があること自体が悪いわけではなく、あくまで同一労働同一賃金の観点で適切な就業規則となっているかどうかが大切です。

1つ目のトラブルの例は、パートタイマーと正社員との間に通勤手当支給の有無を設けることは不合理であるとして、パートタイマーが申し立てを行った事例です。「パートタイマー・有期雇用労働法」第24条に基づいて、パートタイマーの従業員が都道府県労働局長の援助の申し立てを行い、紛争による解決を図りました。

【事例】

あるパートタイマーのAさんが勤務する店舗では、正社員に対しては通勤手当が支給されていましたが、パートタイマーには支給されていませんでした。そのため、Aさんは、パートタイマーであることを理由とした不合理な待遇差であると店長に苦情を申し入れました。しかし、正社員とパートタイマーでは店舗の異動の有無が異なるため、パートタイマーには通勤手当を支給しなくても不合理ではないと、聞き入れてもらえませんでした。

そこでAさんは、紛争の解決のため、都道府県労働局長の援助の申立てを行いました。労働局が調査した結果、パートタイマーに通勤手当を支給しないのは不合理だとされ、通勤手当の支給が決まる形で紛争が解決しました

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則を作成・整備する際には、正社員と同様に、パートタイマーにも通勤手当を支給する旨を記載すれば、待遇差は発生せず、このようなトラブルを回避できることとなります。

賞与の有無に関するトラブル例

2つ目のトラブル例は、有期雇用労働者と正社員との間で、賞与の有無を設けることは不合理であるとして、有期雇用労働者が「パートタイマー・有期雇用労働法」第25条に基づき調停の申請を行い、紛争の解決を図ったケースです。

【事例】

有期雇用労働者のBさんは、正社員と職務の内容が同じであるのに、賞与は支給されていませんでした。そのためBさんは、有期雇用労働者に賞与がないのは不合理な待遇の差であると、苦情を上司に申し立てました。しかし、有期雇用労働者と正社員とでは、役割への期待が異なるとして、聞き入れてもらえませんでした。

そこで、Bさんは紛争解決のため、調停の申請を行いました。申請に基づき、均衡待遇調停会議が開催され、有期雇用労働者と事業主双方に事情聴取と調査が行われたところ、賞与の性質や目的などを踏まえると、有期雇用労働者に賞与を一切支給しないのは不合理であると判断されました。その後、調停委員から指示を受け、双方が合意する形で調停は終了し、紛争は解決しました。

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則を作成・整備する際には、賞与の目的を鑑みて、有期雇用労働者に支給しない合理的な理由があるかを検討しましょう。その上で、合理的な理由がない場合には、有期雇用労働者にも支給する旨を明記することで、このようなトラブルを回避できます。

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則の記入例

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則の記載内容は、通常の労働者の就業規則とほぼ同様です。作成の際には、厚生労働省の記入例と、元々ある自社の就業規則を参照して行うことがおすすめです。その際、正社員への転換や無期転換など、パートタイマー・有期雇用労働者に特有の内容や、退職金の有無など正社員の規定を適用しないものについては明瞭に適用しない旨を記載する必要があります。

その他、パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則で、正社員と異なる可能性があるのは以下の項目です。これらの内容に差を設ける場合、厚生労働省の記入例や自社の正社員を対象とした就業規則を参考にしつつ、該当箇所に記載しましょう。

【正社員と異なる可能性のある項目と記載のポイント】

正社員と異なる可能性がある項目記載のポイント
労働時間1週40時間、1日8時間の範囲内で定める
有給休暇週30時間以上、週5日以上の勤務であれば基本日数が付与される。所定労働時間がそれに満たない場合は所定労働日数と勤務年数に応じた日数を付与する
賞与雇用形態によって賞与の有無や金額に差を設けるならば、合理的な範囲で定める
服務規律職場で適用されるルールの内容が、時間や期間を限定して働くパートタイマーや有期雇用労働者については違うものがある場合は違う形で規定する。
退職・解雇の要件上記と同じく、違う内容がある場合は規定します。
休職や特別休暇など任意の規定休職や特別休暇など任意で設けている制度についての適用が他の従業員の方と違う場合も違う記載となります。ただし、待遇の差がある場合は既に述べたように合理的な理由が必要です。
退職退職となる条件を提示する(例.契約期間が満了し、更新しない場合・本人から退職の申し出があった場合・本人が死亡したときなど)
退職金退職金の有無も記載する

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則の申請方法

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則の申請も、正社員向けの就業規則と同様に労働基準監督署に届ける必要があります。届け出の大きな流れは以下の通りです。

就業規則を完成させる

労働者の意見書を作成する

就業規則と意見書を労働基準監督署に届け出る

労働者の過半数で組織する労働組合があれば、その労働組合から、あるいは労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者から、意見を聴取して意見書を作成します。作成した意見書を就業規則に添付して労働基準監督に提出しましょう。

労働組合や労働者の代表に意見書をもらえば、パートタイマーに話を聞かなくても労働基準監督にパートタイマー向けの就業規則の提出が可能です。しかし、「パートタイマー・有期雇用労働法」の第7条第1項では、パートタイマーの代表者にも話を聴くことが努力義務とされているため、できるかぎり意見を聞いて、必要であれば就業規則に反映しましょう。そうすることで、パートタイマーの方たちにとって納得できる就業規則となり、モチベーションの向上やトラブルの予防につながります。

まとめ

パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則を作成する目的や注意点、記入例、申請方法について解説しました。

パートタイム・有期雇用労働法の改正によって、パートタイマーや有期雇用労働者に対して公正な待遇の実現が求められています。パートタイマー・有期雇用労働者向けの就業規則の作成・見直しは、自社が公正な待遇を実現できているかを改めて確認する有効な方法です。適正な内容であれば、労働トラブルのリスクも軽減されます。

パートタイマーや有期雇用労働者が就業規則に沿って実際に労働をする上では、労働時間を正確に測定したり、労働法に柔軟な対応したりするために、勤怠管理システムの活用も有効です。勤怠管理システムによって、正社員と同様にパートタイマー・有期雇用労働者の労務管理を行うことは、公正な待遇の実現にもつながります。

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