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同一労働同一賃金

どういつろうどうどういつちんぎん

公開日時:2021.01.27 / 更新日時:2022.03.22

労働に見合った対価を得るのは労働者として当然の権利ですが、雇用形態によって得られる給与が異なることは珍しくありません。少子高齢化がますます進む昨今においては、従来のままだと働き手を確保することも難しくなります。
そこで、政府は働き方改革の一環として、同一労働同一賃金の施策を打ち出しました。
ここでは、同一労働同一賃金の概要や施行の時期、企業の対応ポイントなどをご紹介します。

同一労働同一賃金とは

企業に雇われて働くスタイルは、正社員以外に派遣社員やパートタイマーなどがあります。また、あらかじめ期限を決められて働く有期雇用という形態も存在します。企業としては正社員として人材を確保するよりも、派遣社員やパートタイマーを活用したほうがトータルでのコストダウンにつながるため、多くの企業がこうした正社員以外の力を頼りにしています。

ただ、非正規雇用のスタッフとして働くケースだと、正社員に比べて明らかに待遇が悪いケースが少なくありません。同じ企業内であっても、給与が明らかに正規スタッフよりも低い、ボーナスや手当などがないというのもよくある事例です。
問題なのは、正社員とそれ以外の従業員がまったく同じ内容の仕事をこなしたとしても、待遇に差が生じることです。これだと、正社員以外の従業員が待遇に不満を持つのは目に見えています。今後はますます労働力の確保が難しくなるともいわれており、このような現状ではさらに人材の確保は難しくなります。

そこで、政府は働き方改革の一環として、同一労働同一賃金を掲げました。正社員とそれ以外のスタッフ、双方の労働者における不合理ともいえる待遇の差を禁止しようという取り組みです。これにより、企業はこれまでのように正社員に高い給与を払い、それ以外の従業員は低い給料で働かせることが実質的に難しくなります。

同一労働同一賃金はいつから始まるか

パートや派遣社員として働いている方にとっては待ち遠しく感じるこの取り組み。企業としても、本格的な取り組みが始まる前に十分な準備が必要です。
同一労働同一賃金の取り組みが始まるのは2020年の4月からとなりますが、中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は2021年の4月1日からとなります。

同一労働同一賃金に違反した場合の罰則

多くの企業は優秀な人材の流出を回避するため、正規雇用の社員には手厚い待遇をしたいと考えています。一方、派遣やパートの従業員に対してはできるだけコストをかけたくない、というのが本音ではないでしょうか。そのため、取り組みが始まったとしてもこれまで通りの待遇を続ける企業が出てくる可能性は十分考えられます。

企業が違反した場合の罰則についてですが、明確に定められた罰則は存在しません。つまり、企業がこの取り組みに違反したとしても何らかのペナルティを受けることはないのです。

ただ、罰則はないにしても合理性のない待遇を受けた労働者から損害賠償請求をされる可能性はあるため注意が必要です。過去には、明らかに不合理な待遇を受けていた労働者が裁判を起こし、裁判所が企業に損害賠償するように命じた判例もあります。

ただでさえ人材の確保が大変なこの時代に、従業員への待遇が問題で裁判を起こされたとなると企業としては大きなダメージです。今後はますます少子高齢化も進み、さらに人材確保が難しくなると考えられているので、自ら首を絞めることにもなりかねません。罰則がないからと安易に考えず、企業としての将来を考えてまじめに取り組まなくてはなりません。

厚労省による「同一労働同一賃金ガイドライン」のポイント

このガイドラインは、すべての労働者に平等な待遇を確保して取り組みを実現するために策定したものです。ここではポイントを一つずつまとめてみました。

原則となる考え方と具体例を提示

ガイドラインでは、正社員と、パートタイマーや派遣社員のあいだで明確な待遇差がある場合について、ベースとなる考え方や具体例が示されています。待遇に何かしらの差が生じている場合、不合理になるのはどのようなケースで、また、不合理にならないケースについても挙げられています。

待遇と聞くと賃金のことがまず思い浮かびますが、それ以外にも、福利厚生、教育訓練などについての記載もあります。また、記載がなかった場合でも、明確に不合理な待遇の差が生じているケースにおいては解消しなくてはなりません。

なお、正社員とそれ以外の従業員の仕事内容を分けた場合ですが、このケースでも同様です。違う仕事内容であれば問題ないと考える方がいるかもしれませんが、この場合でも不合理な待遇の差があれば解消しなくてはなりません。

基本給など賃金について

基本給はさまざまな要素を考慮して決定しますが、基本的には業務の実態に違いがなければ同じ金額を支払わなくてはなりません。勤続年数やスキルアップなどによる昇給についても、同じようにスキルが向上したのなら同一の、違いがあるのならそれに応じた給与アップをする必要があります。

一般的に、非正規雇用の従業員はボーナスがないことがほとんどです。ここがもっとも、正社員との差を感じる部分でしたが、ボーナスについても、待遇に差をつけることは禁止となっています。もし、派遣社員やパートタイマーが、正社員と同じような貢献をしたのなら、それに応じた金額を支払わなくてはならなくなります。

さまざまな手当についても、基本的には正規スタッフと同じ待遇を受けられるようになります。特殊作業手当や皆勤手当、地域手当、出張手当などは、非正規雇用だと支払われないことも珍しくありませんでした。しかし、今回の指針では正規雇用の従業員と同一に支払うべきだとなっています。

福利厚生や教育訓練について

賃金は正社員とほとんど変わらないものの、福利厚生がまったく違うケースは多々あります。慶弔の休暇が付与されない、職場の食堂や休憩室といった施設の利用ができないこともあるでしょう。こうした部分についても正規のスタッフと同じ扱いにしなくてはならないと定めています。

病気休職についても、基本的には正社員と同じく付与されることになりました。ただ、これはあくまで無期雇用の短時間労働者のケースであり、有期雇用の場合だと少し話が違ってきます。有期雇用で労働に従事している方の場合だと、契約期間が終了するまでのあいだで正社員と同じく病気休職が付与されます。

業務を行うために必要な知識や技術を習得するための教育訓練も、携わる業務の内容が正社員と変わりがない場合には、同じように実施されなくてはならないと決まりました。従来では、正規雇用されている従業員のみトレーニングを受け、非正規雇用の従業員は教育訓練が受けられないことも珍しくなかったのです。

「同一労働同一賃金ガイドライン」に学ぶ企業としての対応方法

今後、具体的にどういった対応をしていけばよいのか分からない、と頭を悩ませる経営者の方に向けて、ここでは導入にあたって企業がどのような対応をしていくべきなのか、ポイントをまとめてみました。

人員の整理を検討する

派遣やパートなどの働き方を選ぶ方にとって、この取り組みは喜ぶべきことです。業務の内容が同じなら正社員と同じ待遇を受けられるため、労働者にとってはかなりメリットが大きいといえるでしょう。

しかし、企業からすると取り組みを始めれば人的コストの高騰は目に見えています。まずするべきは、具体的にどれくらいの人件費になるのかを算出することです。算出した結果、想定以上のコストになるのなら人員を整理することも考えるべきでしょう。

基本的に多くの企業では、人員を整理するときは派遣社員やパートなどの従業員から整理しようとします。しかし、それは政府が提唱する考え方とは異なります。大切なのは生産性や効率性なので、それを考えて人員を整理しなくてはなりません。つまり、人員整理するにしても、いったん正規雇用、非正規の従業員といった概念を捨てる必要があります。

正社員の給与を下げる

パートタイマーや派遣社員などの賃金を上げるだけでは待遇差を埋めることができないケースもあるかもしれません。賃金を上げるだけで差を解消しようとすると、相当なコストがかかる可能性もあるでしょう。こうしたケースでは、正社員の給与を引き下げることで待遇の均等化を図ることも可能です。

ただ、ガイドラインによると、待遇差を改善するために労使の合意を得ずに給与を引き下げるのは好ましくない、と記載されています。そのため、安易に正社員の給与を下げればよいと考えるのは危険ですが、考え方によっては労使の合意さえ得られれば、正社員の給与を引き下げられるということにもなります。

正社員の給与を引き下げるというのは企業にとってかなり高いハードルとなるでしょう。また、労使の合意さえ得られれば可能なものの、その合意を得るという部分がもっとも困難です。そのため、いきなり基本給を下げるのではなく、まずはそれ以外の手当の金額を引き下げるといった方法が考えられます。

食事手当をやめる、賞与を減額するなどの方法が最初はよいかもしれません。安易な賃金の引き下げは社員のモチベーションを低下させることにもつながるので、くれぐれも慎重に進めていきましょう。

業務内容の明確化

携わる業務の内容が同じなら、正規雇用であろうが非正規であろうが同じ待遇にしなくてはならない、というのがガイドラインで定められている内容です。賃金以外においても同じなので、まずは双方の業務内容をはっきりさせなくてはなりません。

双方の業務内容が明確に違うのなら、それを理由として待遇の違いを伝えられます。非正規雇用で働く人の納得を得るにも、業務内容を明確にすることは大切といえるでしょう。

まとめ

同一労働同一賃金が実現すれば、非正規雇用の労働者も高いモチベーションを保って働けるようになります。また、これまで以上に優秀な人材の確保もしやすくなる可能性があります。取り組みを始めなくても罰則はありませんが、ますます少子高齢化が進み人材確保が難しくなると考えられるため、企業はまじめに取り組まなくてはなりません。ここでご紹介した具体的な対応もぜひ参考にしてください。

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