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無期転換ルール
むきてんかんるーる
公開日時:2021.05.31 / 更新日時:2022.03.09
無期転換ルールとは、有期労働契約が5年を超えた従業員から申し込みがあった場合に期間に定めのない無期労働契約に転換する制度のことです。2013年4月に施行された改正労働契約法によって、企業は従業員から無期転換の申し込みがあった場合、やむを得ない理由がない限り拒否することはできないという規定が設けられました。無期転換ルールが導入された背景としては、有期労働契約の従業員の約3割が通算5年以上働いており、実質的な戦力として定着している実態に合わせた制度の整備が必要となったことが挙げられます。無期転換の申し込みを拒む目的で「無期転換ルールが適用される勤続5年の直前に突然従業員を雇い止めにする」といった対応は労働契約法違反となります。
無期転換できる従業員の条件
無期労働契約への転換は有期雇用契約の従業員であれば誰でも可能なわけではありません。無期転換をするために満たすべき条件について解説します。
1. 有期労働契約の通算が5年を超えている
無期雇用契約へ転換できるのは、同一企業で有期労働契約が通算して5年を超えており、かつ1回以上更新している人です。現在の契約期間が1年の場合は5回目の更新後の1年間、契約期間が3年であれば1回目の更新後の3年間に申込権が発生します。
また、有期労働契約をしていない期間が一定の長さになってしまうと、通算対象から除外されます。
無契約期間(※)の前の通算契約期間 | 契約がない期間(無契約期間) |
2か月以下 | 1か月以上 |
2か月超~4か月以下 | 2か月以上 |
4か月超~6か月以下 | 3か月以上 |
6か月超~8か月以下 | 4か月以上 |
8か月超から10か月以下 | 5ヵ月以上 |
10か月超~ | 6か月以上 |
※無契約期間:同一の使用者との間で有期労働契約を締結していない期間を指す
改正労働契約法の施行日の2013年4月1日以降が通算契約期間算定の対象となります。その日以前に開始した有期労働契約は通算契約期間算定の対象とはなりません。
2018年4月で改正労働契約法の施行から5年以上が経過し、この時期以降、有期労働契約で働く多くの従業員に無期転換の申込権が発生しています。
2. 同一の使用者と現時点で契約している
無期転換の申し出には、通算5年を超えて契約してきた事業主との間で、現在も有期労働契約が締結されていることが必要です。
無期転換の申込権発生を免れるために事業主が派遣形態や請負形態を偽装して、他の使用者に契約を切り替えていたとしても、「同一の使用者」の要件は満たしていると判断されます。この場合、従業員から無期転換の申し込みがあれば、事業主が拒否することはできません。
無期転換ルールに関するよくある質問
無期転換ルールに関して、企業側から寄せられるよくある質問を解説します。
1. 無期転換ルールを適用するための就業規則の変更は必要か?
有期労働契約の従業員が無期転換する場合、それ以外の労働契約に変更がなければ、現在の有期労働契約を無期労働契約に変更するだけで構いません。また、就業規則の変更も必須ではありません。
ただし、有期労働契約の従業員と同じ労働条件で働く無期労働契約の従業員が増加する可能性が高くなります。今後の制度のスムーズな運用のため、無期転換従業員用の就業規則を整備しておくと良いでしょう。
また、無期転換後の労働条件は就業規則で特に定めがなければ有期労働契約と同じですが、労働条件を変更する場合は以下のような例は不適切と判断される可能性が高く、避ける必要があります。
不適切な労働条件変更となる可能性がある例
・職務内容などの勤務条件の変更なしに賃金を下げ、無期転換前より労働条件を低下させる
・無期転換申込みを抑制するため労働者が配置転換に応じられないのを承知で、必要性のない配置転換条項を定める
無期転換に伴い、合理性が認められない労働条件変更をした場合は、企業が行った条件変更が無効と判断される可能性もあります。
また、無期転換を積極的に行う企業でも、無期転換前より労働条件を低下させると、従業員側からの抗議や労働組合との協議の必要が出てくることも予想されます。事業主と従業員との協議等が発生することで、無期転換を円滑に進められなくなる恐れがあります。
このほか、定年など、通常は有期契約労働者には定められていない労働条件について、無期転換を行う従業員に適用する場合はあらかじめ規定を明確化し、就業規則に追加しておく必要があります。
無期転換後の定年に関する労働条件を明確化した例
・65歳定年制の企業であれば、無期転換した従業員に対しても65歳定年制を採用する
・定年後の継続雇用制度がある企業であれば、無期転換した従業員に対しても継続雇用を認める
など
なお、無期転換従業員のための就業規則を作成している場合は、その対象従業員を正社員の就業規則対象から除外する必要もあります。あわせて正社員の就業規則の見直しも必要です。
2. 無期転換すると正社員になるのか?
無期転換後ですが、正社員になる場合と、契約期間を「期間の定めのないもの」と変更するのみで労働条件は有期労働契約時と変わらない場合があります。そのほかには、職務など、労働条件に制約を設けている「多様な正社員」に転換するパターンもあります。
多様な正社員の例
・勤務地限定正社員
・職務限定正社員
・勤務時間限定正社員
など
3. 定年後でも無期転換の申し込みはできるのか?
60歳定年後に有期雇用契約で雇用している従業員が65歳(通算5年)を超えて契約更新した場合であっても、無期転換ルールは適用されます。
ただし、企業が適切な雇用管理に関する計画を作成、都道府県労働局長の認定を受けた場合は、その事業主に定年後引き続き雇用される期間は無期転換申込権が発生しないという特別の措置もあります。
まとめ
有期労働契約期間が通算5年、更新が1回以上、現時点で同一事業主と契約している従業員は、無期転換ルールにより、無期転換の申し込みが可能です。無期転換後の働き方としては、正社員になるパターン、契約期間のみを変更するパターンに分かれます。
なお、定年後、有期労働契約で働いている従業員の契約期間が通算5年になった場合も無期転換申込ができますが、特例により無期転換申込権が発生しないこともあります。
無期転換後の就業規則の変更は必須ではありませんが、今後、無期転換ルールの浸透によって有期労働契約の従業員と同じ労働条件で働く無期労働契約の従業員が増加することも予想されます。無期転換した従業員用の雇用条件や働き方を改めて明記した就業規則を整備しておくと、無期契約への移行や対象従業員への説明がスムーズになります。