
入退室管理システムとは?
「入退室管理システム」について、具体的な選び方の解説の前に、そもそも入退室管理とはなにかという疑問の答えや、システム導入でできることの基本を分かりやすく解説します。
1.入退室管理とは?
入退室管理とは、オフィスや工場、倉庫などの建物の出入口や各エリアの人の出入りを管理することで、防犯・セキュリティ対策である「物理的対策」のうちの1つです。具体的にはオフィスや作業場などに部外者が勝手に入室することを防いだり、 特定の部屋へ「誰が・いつ」出入りしたかの記録を厳密に取ったりします。入退室管理は出入り口にノートや管理表を置いて記録するアナログな方法から、物理的な鍵を使用せずICカードや暗証番号などを利用して入退室を行い、入退室記録や出退勤記録をシステムで一元管理する方法などがあります。
入退室管理システムができることと選び方
入退室管理システムの主な用途として、入退室管理の効率化、防犯対策とセキュリティの強化があります。
入退室管理システムを導入することで、鍵の当番や特定の人が行う鍵管理が不要になり、暗証番号やICカード、生体認証による入退室と入退室管理の効率化が可能になります。
また、「誰が・いつ・どの場所に」入ったか入退室の詳細を記録したり、特定の部屋やエリアに入れる人を制限したりするなどのセキュリティ対策、防犯強化も可能になります。厳密な衛生管理が必要な医療現場や食品工場、特に企業のセキュリティ対策が重要なサーバエリアにおける人の出入りを確実に管理するために、入退室管理システムが欠かせません。
このほか、災害発生時の安全確認・在室確認や、勤怠管理システムとの連動も可能でタイムカードより客観的な記録を残すなど、さまざまな用途に合わせた入退室管理システムの利用が進んでいます。
活用範囲が広い入退室管理システムの導入を検討する際は、自社が抱える課題やシステムによって解決したいシーンを想定し、それに対応できる機能を備えた入退室管理システムを選択します。
【シーン①】不正な侵入があった
自社の出入り口から部外者が不正な侵入をした、あるいは侵入の疑われる事態が発生したシーンに対応できる入退室管理システムのタイプ、機能を解説します。
1.部外者の不法侵入を防止する
以下のような課題を抱える場合、入退室管理システムによるオフィスへの入室制限機能が有効です。
- アポイントメントを取っていない訪問営業や、不審人物がオフィスに立ち入るのを防ぎたい
- 大企業のように警備員を複数人雇ったり防犯カメラで監視したりする費用がない
ICカードや生体認証、暗号入力方式でオフィスの出入口の入退室をシステムで管理するため、あらかじめシステムに登録されていない人物や暗証番号を知らない部外者の入室を許可しない管理体制が可能となります。
オフィスが比較的小規模の中小企業の場合でも、出入口に後付けで設置できるタイプの入退室管理システムであれば、警備員を常時雇うより低コストで確実な入退室管理が可能です。
2.不法侵入が疑われる場合の対応
入室制限よりさらに強固なセキュリティ対策をするには不法侵入が疑われる事態を早期に察知できる機能が必要です。出入口の目視確認や入退室管理システムを利用した入退室管理を行っていても、ドアや鍵を壊して建物の中に入るなど、不法侵入が疑われる異常に気付けなければ、セキュリティの穴は塞げません。
ネットワークを利用し、入退室をリアルタイムコントロールするタイプの入退室管理システムであれば、「開放超過」「こじ開け」「施錠異常」などの異常状態を検出しアラートを出し、システムの管理会社に伝えて不法侵入を防ぐことができます。
【シーン②】情報・資産漏えいの防止をしたい
2015年の個人情報保護法改正により、個人情報を保有する全ての事業所で「物理的安全管理措置」の対策を講じるよう義務付けられました。物理的安全管理措置を取るためには、「1.入退室管理の実施」、「2.盗難等に対する対策」、「3.機器・装置等の物理的な保護」が必要になります。個人情報保護における入退室管理システムの具体的な役割について解説します。
1.入退室管理で社内外ふくめた情報漏えいを防ぐ
入退室管理システムの活用で、社外の侵入者だけでなく、内部の人間による情報漏えい防止対策が可能になります。具体的には入退室管理システムの以下の機能や設定を活用します。
外部からの情報漏えい対策 | ・出入り口の入室規制をすることで、外部の侵入者の入室を防止する |
内部からの情報持ち出し防止対策 | ・所属や社員やアルバイトなどの雇用形態によって、入室可否を分類する入室規制の機能で、セキュリティレベルの高いエリアに入れるメンバーを制限する ・決められたルートでドアを通過しないと入退室を拒否する設定(入室経路のチェック)を導入する |
2.セキュリティやプライバシー上の管理が必要な場所向けの対策
一般エリアよりもセキュリティ上重要なサーバー室、重要・機密資料の保管室、薬品や危険物の保管室や、プライバシー上の管理が必要なロッカーや更衣室などは、エリアごとのセキュリティレベルを上げた入退室管理で対応します。
セキュリティレベルに応じた、またはプライバシー上必要な入室制限の例
- 通用口よりセキュリティレベルを上げるため、特定エリアの入室には暗証番号入力を用いる
- 特にセキュリティ上重要なエリアのドアは、
一定の役職以上が持つICカードでないと入室できない設定にする - セキュリティレベルの高いエリアは生体認証でなければ入室できない設定にする
- 更衣室やロッカールームはICカードで男女別の入室規制ができるよう設定する
3.不特定多数の人が出入りする場所向けの対策
不特定多数の従業員や外部の人間が出入りする場所の出入り口向けの対策としては、入退室管理システムで入退室ログを取っておくことが有効です。仮に情報漏えいが起きてしまった、あるいは漏えいが疑われる事態が発生した際、「どの経路で、誰が、いつ」情報の持ち出しを行ったのかの特定も可能になります。
また、従業員に対しては入退室ログが残されていると周知することで、内部からの情報漏えいの抑止にもつながります。
【シーン③】物理的な不正アクセスを防止したい
ネットワーク上の不正アクセスと異なり、不正な手段で会社内に入室して物理的に個人情報や機密情報を持ち出すケースも増加しています。不正な入室手段としては主に以下の方法が挙げられます。
- 共連れ
- なりすまし
- ICカードなどの認証媒体の複製
入退室管理システムの活用や各種システムの連携によって、なりすましやICカードの複製などでは容易に入室ができない管理体制を整備することも可能です。
1. 共連れ対策をしたい
共連れは、部外者が入室権限のある人の後ろへついて建物の中に一緒に出入りしたり、権限のある友人に頼んで出入りしたりすることです。入室記録が履歴に残らないため、共連れで入った人物の特定は通常困難です。
共連れ防止対策のためには具体的には以下の入退室管理システムの設備や機能を活用します。
共連れを防ぐ機能、設備
①セキュリティゲートを設置する | 通行者に共用エリアと専用エリアとの物理的分離意識を持たせ、ICカードの認証で1人ずつしか通過できないよう物理的に制限 |
②入室記録のない者の退出を制限する | 該当のICカードで入室時の認証記録がないと、退出時にドアが開かない設定を採用することで、他人のカードで共連れ入室した場合退出できなくなる |
③監視カメラをプラスして導入する | 共連れを監視カメラで記録する。AIカメラの画像解析で通過人数を自動検出し、共連れがあった場合にアラートを出すようにする |
2. なりすまし入室の対策をしたい
なりすましとは、ICカードなどの認証媒体を貸し借りして、従業員に成りすまして権限にない場所へ自由に出入りする行為です。例えば、通用口の出入り以外に入室権限を与えられていない来訪者が、社内の人物からセキュリティレベルの高いエリアに入室できる社員証を借り、情報を持ち出すなどの不正行為が考えられます。
なりすまし入室を防止するためには指紋や顔認証などの生体認証で入退室管理を行うのが有効です。すべてのエリアで生体認証を採用するのでなく、セキュリティレベルが高いエリアは生体認証での入室を基本とする、といった導入が現実的です。
3. 認証媒体の複製による入室を防ぎたい
カード認証で入退室を行う場合、磁気カードや暗号化無しQRコードを読み取るタイプだと、複製が技術的に容易なため、一度貸し出したカードが社外で不正に複製され、敷地内に侵入されるケースがあります。
一方、同じカード認証でも世界的に普及している「マイフェアカード」や交通系カードや電子マネーカードとして日本国内で普及している「フェリカカード」のICカードは技術的に複製が難しいのが特徴です。
カードの複製を防いだうえでより高いレベルのセキュリティ対策をするには、なりすましの防止と同じく指紋や顔認証などの生体認証での入退室管理を導入するとよいでしょう。
カード認証と生体認証
認証方法 | 技術 | セキュリティレベル |
・磁気カード ・暗号化無しQRコードを読み取るカード | 複製が容易 | 低 |
ICカード(マイフェアカードやフェリカカード) | 複製が難しい | 中~高 |
生体認証 | 複製できない | 高 |
すでにカードでの入退室管理を実施している場合、来訪者は廊下や共用スペースのみ入室できる設定にし、業務を行うエリアは生体認証の入室にする、セキュリティレベルの高いエリアだけに生体認証を採用するなどの対応も考えられます。
【シーン④】防犯対策の強化が必要
入退室管理システムの活用で、不審者が従業員を脅迫して社内に侵入した、カードを奪って不審者が入室した場合の防犯対策の強化も可能になります。ケースごとに必要な機能について紹介します。
1.脅迫されて入室した時にアラートを出す
不法侵入者への対策に加え、不慮の事態にも対応できる防犯対策を実施した場合、暗証番号や指紋認証で非常時であることを知らせる入退室管理システムの機能を活用しましょう。
不審者に脅迫されて従業員が入室をした場合、特定の暗証番号を入力するとソフトウェアに「脅迫されて解錠した」ことをアラーム通知する入退室管理システムの機能も存在します。
また、指紋認証で入室管理をしている場合、入退室管理システムによっては「脅迫されて入室した」と示す指を予め指定できる機能を備えている場合もあります。
2.カメラと入退室システムの連動で脅迫があったか特定
ネットワークカメラと入退室管理システムを連動させることで防犯対策がより強化できます。カメラとの連動で、不審な入室や、カードを奪われたり、脅されたりした場合の入室を映像で特定できます。遠隔地から監視している監視員がリアルタイムで状況の特定ができればそのまま通報し、事後に脅迫による入室があったと判明した場合はカメラの映像から犯人の特定につながります。
【シーン⑤】BCP対策に活用したい
災害時発生時の対応として、企業は資産の保護と短時間での現状復帰に加え、企業運営の継続が求められます。この非常時の従業員の避難経路確保や、安全確認、建物の中の残留者の把握などがBCP対策の一環としての入退室管理システム利用によってスムーズに行えます。
1.異常発生時には指定のドアを緊急解錠
異常発生時には管理室から指定のドアを緊急解錠し、建物内の従業員を避難させる対策も入退室管理システムの活用で可能になります。火災報知器と入退室管理システムをあらかじめ連携させておくことで、早期に異常を察知して管理室に通知しドアを緊急解錠することで、ドアが施錠されていて従業員が建物の中に取り残される、といった事態を防止します。
2.災害発生時の在席管理
入退室管理システムは災害発生時の企業が対応を求められる在席管理にも極めて有効です。企業は通常時、非常時問わず従業員や自社の資産の安全を保証する義務があり、特に災害発生時は従業員の安全確保は最優先で行う必要があります。地震や火災によって製造現場で有害物質が漏れ出す、オフィスビルが倒壊するなどの事態が起きた場合、いち早く現場の従業員の安否を確認しなければなりません。
この際、入退室管理システムを活用することで、当日敷地内に出入りした人や車両の履歴から「すでに避難した人、敷地内に残留している人」のリストをすぐに作成できます。また、点呼で確認が取れない人がいた場合、入退室の通行履歴からどこに取り残されているか早期の発見につながります。
入退室管理システムで作成した「避難者・残留者のリスト」をもとに、防災訓練でも避難指示や残留者の把握、救出のための想定をしておくことで、災害時における被害の最小化につながります。
まとめ
入退室管理システムによって部外者が勝手に入室することを防止する、特定の部屋への出入りの記録を厳密に取る、入退室の効率化などが可能になります。
入退室管理システムによる入室制限や入退室ログ取得の機能により、情報漏えい対策や不正侵入防止、防犯対策に加え、災害発生を想定したBCP対策に組み込むことも可能です。想定するシーンに対応した入退室管理ソリューションが揃っている製品を採用することで、企業に降りかかるさまざまな問題に未然に対応でき、セキュリティ対策をはじめとするリスク管理が促進できます。
これまで見て来たように、入退室管理システムは「便利なツール」というだけでなく、企業の資産・情報・価値を守る重要な仕組みです。システム活用によって資産・情報・価値を守る姿勢を従業員や訪問者へ明確に見せることで、セキュリティ対策を行う必要性の啓蒙に役立ち、万が一にも従業員が内部不正を引き起こすことがないような環境を実現します。
顧客や取引先、自社の従業員自身も守るためにも自社にとって必要な入退室管理システムの導入をおすすめします。
関連記事
職場や施設を徹底除菌! AMANOの感染予防対策ソリュショーン
-
業務改善ガイド 2021.08.31
-
業務改善ガイド 2021.08.26
-
業務改善ガイド 2021.07.29