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【社労士監修】「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」改正により変わった基準や企業への影響とは?

公開日時:2024.01.09

精神疾患を抱えた従業員が増加の一途をたどっている昨今の現状を受け、政府は2023年(令和5年)9月に法改正を実施し、「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が変更される運びとなりました。
今回の改正は、いわゆる「コロナショック」の影響といった、目まぐるしく変化する社会情勢をふまえ、医学的な観点から検討を重ねて取りまとめられた最新の内容になっています。
この記事では、精神障害や労災認定基準の基礎知識、法改正による新たな基準の内容、企業が行う必要がある具体的な対応法などを解説します。
加藤 知美 氏

加藤 知美 氏

社会保険労務士

愛知県社会保険労務士会所属。総合商社、会計事務所、社労士事務所の勤務経験を経て、2014年に「エスプリーメ社労士事務所」を設立。

総合商社時では秘書・経理・総務が一体化した管理部署で指揮を執り、人事部と連携した数々の社員面接にも同席。会計事務所、社労士事務所勤務では顧問先の労務管理に加えセミナー講師としても活動。

「労災認定基準」とは

労災保険は、業務に起因する、または通勤中の事故などによる労働者の病気やけがに対して、国が保険給付を行う制度です。
国によって定められた、労働者を守るための制度となるため、労働者自身が希望して加入する保険制度とは異なり、すべての企業が加入しなければなりません。
なお、対象となる労働者は、正社員に加えて契約社員やパート、アルバイト、嘱託社員、日雇い労働者など、雇用形態を問わずすべての者になります。

実際に業務上の事由で労働者が病気になったりけがをしたりした場合、企業が国へ労災保険給付の請求書を提出します。その後、国は今回の労働者の事例が労災給付に相当するかどうかを調査することになります。その際に参考とする基準が「労災認定基準」です。
例えば、仕事中に起こった事故によって労働者が被災した場合は、業務時間中に起こった事故かどうかを判断する「業務遂行性」、仕事が理由となる事故かどうかを判断する「業務起因性」の観点から判断されます。

「精神障害の労災認定」とは

精神疾患とは、気分が落ち込み、妄想、幻覚、幻聴などに悩まされる心の疾患のことです。よく知られる症状としては、うつ病や統合失調症、躁うつ病(双極性障害)などが挙げられます。これらの症状で精神状態が不安定となり、日常生活や仕事に支障をきたす状況を「精神障害」といいます。

昨今は、この精神障害に悩む労働者が増加しています。2008年のリーマンショックより社会問題として取りざたされ、コロナショックにより加速した精神障害に関する問題を受け、厚生労働省は2011年に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を新設しました。

精神障害は、仕事中やプライベートの時間でかかってくるストレスの強さや、そのストレスを受け止める労働者個人の状況が複雑にからみあい、発症するものといわれています。
精神障害が労災認定されるためには、主に以下3つの要因すべてを満たす必要があります。

1 認定基準の対象となる精神障害を発病していること

世界保健機関(WHO)が作成した、国際的に統一された基準に沿って精神障害か否かが判断されます。

2 認定基準の対象となる精神障害を発症する前のおよそ6ヶ月の間に、「仕事を理由とした強い心理的負荷」が認められること

精神障害を発症する前の約半年間の間に起きた仕事によるストレス要因の内容を「業務による心理的負荷評価表」という基準に沿って判断します。強いストレスであると認められた場合に要件を満たすことになります。ストレス要因の内容が「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)に該当するかどうかも、総合判断に組み込まれています。

3 業務以外を要因とする心理的負荷や、個人の状況を要因とした発病であるとは認められないこと

精神障害の発症理由に仕事以外の要因が含まれているかどうかを「業務以外の心理的負荷評価表」という基準に沿って判断します。過去に精神障害歴があるか、重度のアルコール依存症であるか、なども判断基準に含まれます。

上記基準の補足として、仕事を理由とした心理的負荷によって精神障害を発症した労働者が自殺により死亡した場合は、原則として労災扱いとみなされます。

2023年(令和5年)9月の改正内容とは

不透明な社会情勢を背景として、政府は精神障害の労災認定基準に関して、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を開催し、検討を重ねてきました。
その検討内容が取りまとめられ、2023年9月に、「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が改正される運びとなりました。

具体的な改正内容は、以下のとおりです。

「業務による心理的負荷評価表」の見直し

「業務による心理的負荷評価表」は、前項目2の「認定基準の対象となる精神障害を発症する前のおよそ6ヶ月の間に、『仕事を理由とした強い心理的負荷』が認められること」の判断をするための評価表です。
強い心理的負荷の内容にはさまざまな要素がありますが、例えば長時間労働や休日出勤などによる連続勤務を理由とした負担などが挙げられます。休みなく働き続けることは、肉体的な疲労に加え、休息やプライベートの時間が取れないなどの精神的苦痛も伴うため、労働者に大きな負担がかかることになります。

今回は、このような具体例が記された評価表に、新たに以下の例が心理的負荷とされる具体的な出来事に含まれる運びとなりました。

  • 顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(カスタマーハラスメント)
  • 感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した

また、心理的負荷の強さを図る「強・中・弱」の具体例に以下の内容が加わりました。

  • 「パワーハラスメント」の6類型すべての具体例、性的指向・性自認に関する精神的攻撃などを含むことを明記
  • 一部の心理的負荷の強度しか具体例が示されていなかった「具体的出来事」について、ほかの強度の具体例を明記

「精神障害の悪化の業務起因性」が認められる範囲を見直し

精神障害が悪化するに至った原因が業務にあると認められる基準について、これまでは悪化する前の約6ヶ月以内に「特別な出来事」がなければ業務起因性が認められませんでした。
改正後は、悪化する前の約6ヶ月以内に「特別な出来事」がなくても、「業務による強い心理的負荷」がかかったことで悪化した場合は、悪化した部分について業務起因性が認められることになりました。

「医学意見の収集方法」を効率化

これまでは、心理的負荷による精神障害の労災認定基準において医学的意見を求める際は、「専門医3名」の合議による意見収集が必須でした。
改正後は、判断を行うのが特に困難なものを除き、「専門医1名」の意見で決定できるように変更されました。

まとめ

「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」に関する、2023年9月の改正内容についてお伝えしました。改正が行われたことで、これまで以上に迅速に、業務を起因とした精神障害であると認められるケースが増加すると思われます。

高度成長期以降、順調に成長を遂げるなかでは、労働者は企業のために働くのがあたりまえであり、個人の状況は二の次とされる風潮がありました。しかし、景気の状況も芳しくなく、新型コロナウイルス感染症のまん延により仕事のあり方が大きく変わった昨今では、メンタルヘルスの不調に悩む労働者が多々みられます。

今回の法改正を受け、各企業としてするべきことは、まず社内の労働環境の問題を洗い出すことではないでしょうか。方法としては、労働者一人ひとりの勤怠管理から残業時間の状況を確認する、上長による面談を設ける、労働者からの苦情や悩みごとを受け付ける窓口を設置するなどが挙げられます。セクハラやパワハラ、マタハラ・パタハラなどのハラスメント行為が行われていないかも入念にチェックをする必要があります。

労働者にかかる肉体的・精神的負担は、やがて大きなストレスとなり、精神障害となりえることを雇用する側が理解し、従業員が安心して働ける環境づくりを心がけましょう。

参考

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