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弁護士が解説【2024年】運送業の働き方改革で変わることは? 取り組みを進める上での注意点も解説
公開日時:2021.07.29 / 更新日時:2023.01.24
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運送業の働き方改革とは
運送業で求められる働き方改革として「時間外労働の上限規制の適用」と「同一労働同一賃金に関連する取り組み」を解説します。
1. 時間外労働の上限規制の適用
運送業には2024年4月より時間外労働に対して年間960時間の罰則付き上限規制が適用されます。ただし、休日出勤は時間外労働の範囲には含まれません。つまり、ドライバーをはじめ自動車運転業務は一般の企業に適用される時間外労働の上限規制とは別の扱いがなされることになります。
2024年の上限規制適用に向けて、2018年には全日本トラック協会により「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」が策定されました。
通常の時間外労働の上限規制 | 運送業の時間外労働の上限規制の取り扱い | |
施行時期 | 大企業は2019年4月から 中小企業は2020年4月から | 2024年4月から |
規制内容 | ・労働時間は原則1日8時間、1週に40時間まで ・36協定を結んだ場合でも時間外労働は原則月45時間、年360時間まで ・特別条項付き36協定を結んだ場合の時間外労働は年720時間まで(休日労働含まない) ・一時的に業務量が増加する場合にも上回ることのできない以下の上限を設定 a.休日労働を含み、1か月100 時間未満 b.休日労働を含み、2か月~6か月平均で80時間以内 c.月45時間の時間外労働を拡大できるのは年6か月まで(1年単位の変形労働時間制の場合は42時間) | ・時間外労働は年960時間(休日労働含まない) ・月平均80時間(休日労働を含まない) ・将来的には、一般中小企業と同じ規定の適用を目指す ・運行管理者、事務職、整備・技能職、倉庫作業職等(ドライバー以外)は通常の時間外労働の上限と同じ規定に従う |
2019年4月(または2020年4月)から開始している企業に比べ、運送業は働き方改革の本格的な適用までに猶予期間があります。猶予期間が設定された背景には、運送業が他業種と比べて時間外労働や休日労働が多く、労働環境を改善するには時間がかかると判断されたことが関係しています。
2. 同一労働同一賃金に関連する取り組み
運送業では契約社員のドライバーや定年後に継続雇用となったドライバーも多く働いており、正社員のドライバーと非正規のドライバーでは業務内容が同じでも手当の額が異なるといったケースも多くあります。正社員と非正規社員の格差是正の面から運送業では2020年4月1日から大企業で、2021年4月1日からは中小企業でもスタートした「同一労働同一賃金」のルール適用に向けた取り組みも重要になります。
運送業の同一労働同一賃金に関する裁判例として定年後に再雇用されたトラック運転手の嘱託社員が、定年前と全く仕事が同じであるのに支払われる手当が少ないとして会社を訴えた例があります。判決では皆勤手当てや無事故手当などの一部手当について嘱託社員に支払わないのは不合理と判断されました。
同一労働同一賃金のルールに基づき、給与や手当て、休暇制度などに関して、正社員ドライバーと非正規ドライバーとの不合理な格差がないような対応が求められます。
3. 運送業の労務課題
運送業の労務課題として深刻な人手不足が挙げられます。例えば、貨物自動車運転手の有効求人倍率は全職種の2倍近くあり、常に人を募集している状況です。人手不足は、業界全体に見られる低賃金や長時間労働が原因であると考えられています。トラックドライバーの年間所得額は、全産業平均と比較して大型トラック運転者で約1割低く、中小型トラック運転者で約2割低いという結果が出ています。年間労働時間も、トラックドライバーの年間労働時間は、全産業平均と比較して300時間以上多くなっています。
人手不足を解消するには賃金や労働時間などの労働条件を改善することが重要です。特に、長時間労働を改善するには、ドライバーの拘束時間の多くを占める荷待ち時間・荷役時間の削減や作業の効率化を行うことが求められます。
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2024年までに運送業者が取り組むべきこと
2024年の時間外労働の上限規制適用に向けて、運送業者が取り組むべきことは多岐に渡ります。「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」には、運送業が取り組むべき項目として「労働生産性の向上」「運送業者の経営改善」「適正取引の推進」「多様な人材の確保・育成」の4つが挙げられています。
労働生産性の向上では荷待ち時間・荷役時間の削減や高速道路の有効活用などが具体的な取り組み項目です。運送業者の経営改善では、ドライバーの処遇改善と経営基盤の強化が取り組むべき内容として記載されています。適正取引の推進には書面化や記録化の推進など契約時の仕組みからコンプライアンス経営の強化など経営視点の取り組み内容までが挙げられています。
多様な人材の確保・育成では、女性や高齢者が働きやすい職場・会社づくりや若年層の労働力確保など人材の性別・年代の幅を広げる取り組みが示されています。
アクションプランの項目 | 取り組み項目 |
労働生産性の向上 | ・荷待ち時間、荷役時間の削減 ・高速道路の有効活用 ・市街地での納品業務の時間短縮 ・中継輸送の拡大 |
運送業者の経営改善 | ・ドライバーの処遇改善 ・経営基盤の強化 |
適正取引の推進 | ・書面化、記録化の推進 ・適正運賃・料金の収受 ・多層化の改善 ・コンプライアンス経営の強化 |
多様な人材の確保・育成 | ・女性・高齢者も働きやすい職場・会社づくり ・働きがいのある職場・会社づくり ・若年労働力確保に向けた取り組みの強化 |
運送業の働き方改革を進める上での注意点
以下では、運送業の働き方改革を進める上で注意するべきことを、働き方改革の柱である「正規・非正規の不合理な格差の解消」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方の実現」の観点から解説します。
1. 正規・非正規の不合理な格差の解消
働き方改革を進める上では、まず同一労働同一賃金の考え方に基づき、給与の額や支給する手当の種類などで正規・非正規の間に不合理な格差が生じないようにすることが必要です。厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」を参考にして正規・非正規間の手当や待遇差などを洗い出し、不合理と考えられる部分は見直しを行います。
2. 長時間労働の是正
運送業の働き方改革を進める上で長時間労働の是正に取り組む際は、ドライバーとドライバー以外の従業員で残業時間の上限規制が異なる点を理解しておきましょう。ドライバーは2024年4月から年960時間が時間外労働の上限となりますが、ドライバー以外はすでに月45時間かつ年360時間が時間外労働の上限となっています。
また、上限規制は現行でも運行管理者や点呼担当者にも適用されているので、1人でドライバーの乗務前点呼と乗務後点呼を行っている場合などは、運送業の例外が当てはまらず、通常と同じ時間外労働の上限規制が適用されるケースがあります。
3. 柔軟な働き方の実現
運送業の働き方改革を進める際は、従業員が柔軟な働き方ができるように制度を整えることが重要です。少子高齢化によって生産年齢人口が減少していくことを考慮すれば、柔軟な働き方に対応できないままの運送業の企業では人手不足の解消は極めて難しいと言えます。運送業の柔軟な働き方の例としては、短時間勤務や長期の育児休業の導入、副業の許可、高齢者・女性・未経験者の採用などが挙げられます。
運送業の働き方改革の事例
以下では、運送業で労働時間の削減や効率化などに成功した働き方改革の事例を2つ紹介します。
事例1:情報システムの活用による荷待ち時間削減
情報システムを活用して荷待ち時間を削減した例です。このケースでは、従来はトラック運送事業者が物流センターに到着した際は都度荷物を手卸しし、倉庫のパレットに積み替えていました。積み替えはトラックの到着順に受付が行われるため、積み替えの作業に時間がかかることで次に到着したトラックは荷待ち時間が発生していました。
この時間削減のため元請事業者が入退場・進捗管理システムを構築してトラック運送事業者に公開し、運送事業者はこのシステムを活用してドライバーの出勤時刻の調整を行いました。その結果、車庫での待機時間・拘束時間の削減に成功しました。
事例2:パレット荷役による積み込み作業時間の削減
バラ積み荷物をパレット化したことで積み込み作業時間を削減した例です。このケースでは、荷物に幕板などの付属品が多い上にバラ積みをしていたため、積み込み作業に時間がかかっていました。
そこでパレタイズ(箱や袋、ケースなどの荷物をパレットに積み付ける作業)をする側の発荷主の理解を得た上で、着荷主側も積載効率の低下やコストアップといった要因を理解し、パレット荷役による積み込みを実施しました。その結果、平パレット・ロールボックス・パレット(かご台車)による荷揃えやフォークリフトによる積み込みが可能になり、作業時間の削減に成功しました。
【導入事例】運送業の複雑な時間管理を一元管理! 管理工数の削減により2024年働き方改革への基盤も万全に
まとめ
運送業では時間外労働の上限規制の適用が始まる2024年に向けて、長時間労働の削減の取り組みが必須となります。加えて、非正規のドライバーが多い運送業では2020年からすでに適用されている非正規・正規従業員の待遇差是正を目的とした同一労働同一賃金への対応も求められます。
こうした働き方改革のルールに対応するためには適切な勤怠管理が行える環境を整えておくことはもちろん、さまざまな雇用形態、働き方に対応できる勤怠管理システムを導入することも検討してみましょう。
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