人事・労務なんでもQ&A
人事労務担当者として自社のSDGsの取り組みについて検討していますが、具体的に何をすればいいのでしょうか?
Q. 人事労務担当者として自社のSDGsの取り組みについて検討していますが、具体的に何をすればいいのでしょうか?
従業員100名ほどの中小企業で人事労務を担当しています。最近ニュースなどで耳にすることが増えた「SDGs」を当社でも取り組むことになり、SDGs推進担当を任されました。しかし、一体何から始めればいいのかわからないのが正直なところです。人事労務スタッフとしてSDGsに取り組むにあたって、注意すべきポイントや取り組みやすい施策例などがあれば知りたいです。
A. 自社特有の課題を解決できる施策を検討しましょう。
近年、多くの企業が取り組み始めている「SDGs」には、実現すべき17個の目標が設けられています。その中から、自社ならではの課題を解決できそうな目標を選んで、施策を検討していきましょう。
特に人事労務担当者が始めやすいものは、「③すべての人に健康と福祉を」「⑤ジェンダー平等を実現しよう」「⑧働きがいも経済成長も」「⑩人や国の不平等をなくそう」「⑮陸の豊かさを守ろう」の5つです。これらは、従業員の福利厚生や待遇、職場環境の改善に直結する目標です。
また、SDGs推進担当者は、取り組みの内容と経営理念との整合性を取るなど、留意すべきポイントもあります。
SDGsが注目されている背景
そもそもSDGsとは、地球温暖化や自然災害の増加、貧困や紛争などの社会問題の解決を目指し、国際社会が共通意識を持って取り組むべきものとして定められた目標群です。全世界で共通意識を持つために、わかりやすく包括的な17個の目標としてSDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)が設定されています。
近年、SDGsは多くの日本企業でも注目され始めています。国際社会の共通の価値観であるSDGsを経営活動に組み込むことで、以下のような事柄が企業にとって期待できるためです。
■新規市場開拓・事業機会創出の可能性
SDGsの17個の目標を達成するための新しい商品・サービスの開発に取り組むことで、企業は新しい事業機会を獲得することができます。これまでにないイノベーションへの挑戦は、新規市場開拓の可能性を上げ、売上・利益向上にもつながります。
■企業イメージの向上
貧困や地球温暖化などの社会問題の解決に企業として取り組む姿勢は、社会的責任を果たす企業としての評価を高めるため、企業イメージの向上につながります。SDGsの取り組みを発信することは顧客や投資家などのステークホルダーに対するブランディングになり、売上や投資額のアップが期待できます。
■事業の持続的成長の実現
「可能な開発目標」であるSDGsをビジネスモデル自体に組み込むことで、事業そのものの持続可能性・安定性につながります。また、企業のブランドイメージの向上によって、投資家からの資金調達が可能になり、事業の拡充も期待できます。
人事労務担当者がSDGsに取り組む意義
人事労務担当者がSDGsの取り組みを推進することで、以下のようなメリットがあります。
■自社にマッチする人材を惹きつける採用ブランディングになる
自社のSDGsの取り組みを社外に発信することによって、社会問題への課題意識や取り組みの方向性に共感してくれる人の増加が期待できます。もちろん求職者も例外ではないため、会社の方針にマッチングしている人材からの応募を獲得できる可能性が上がるでしょう。
■従業員のモチベーションを向上させる
SDGsを推進することで従業員の社会貢献への意識が高まり、やりがいが生まれるなどのモチベーション向上につながります。また社外だけでなく、働きやすい職場環境の実現を目指した社内向けの取り組みを実施することで、従業員のエンゲージメント、ひいては定着率の向上も期待できるでしょう。
人事労務担当者が取り組みやすいSDGsのゴール
SDGsの17個あるゴールのうち、施策を考えるきっかけとして人事労務担当者が取り組みやすい4つの目標を、具体例とともに解説します。
■③すべての人に健康と福祉を
「③すべての人に健康と福祉を」は、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ことを目標としています。
日本では長時間労働やそれに伴う過労死が問題になっているため、企業がこの目標に取り組む際は、労働環境の整備やメンタルヘルスケアの実施、健康診断制度の拡充など従業員の健康促進を目標とした施策に取り組むと良いでしょう。
<具体例>
・社員食堂での健康的なメニューの提供
・労働基準法上の残業規制や安全衛生法上の過重労働防止措置の実施
・法定健診を上回るような人間ドッグの機会提供や一部費用負担
・定期的な運動を推奨するイベントの開催
■⑤ジェンダー平等を実現しよう
「⑤ジェンダー平等を実現しよう」は、「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」を目標にしています。
企業に当てはめると、女性管理職比率の改善や男性の育休取得率の向上、LGBTといったセクシュアルマイノリティーへの配慮という取り組みになります。性差がなくなるような施策を検討しましょう。
<具体例>
・妊娠・出産がある従業員の復職支援や仕事と育児の両立支援制度の見直し
・多様性の理解促進のための社内研修の実施
・女性管理職育成のための研修の実施
・LGBTなどの多様性に配慮した就業規則への見直し
■⑧働きがいも経済成長も
「⑧働きがいも経済成長も」は、「包摂的かつ持続可能な経済成⻑およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用 (ディーセント・ワーク)を促進する」を目標に設定しています。
これは、日々従業員の働き方に関わる人事労務部門の業務内容に直結する目標です。雇用形態別の格差の是正など、従業員のやりがいにつながるだけでなく、企業の業績も向上するような施策を検討しましょう。
<具体例>
・同一労働同一賃金への対応
・時間外労働の短縮化
・職場で起きた紛争や問題がスムーズに解決できるような相談窓口の設置
・適切な休暇取得の推進
・不要な紙書類の排除による生産性向上
■⑩人や国の不平等をなくそう
「⑩人や国の不平等をなくそう」は、「各国内及び各国間の不平等を是正する」ことを目標にしています。
企業に当てはめると、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位などの条件で従業員の能力を判断することを防ぐ取り組みになります。障害者雇用促進法や高年齢者雇用安定法などの法律を遵守したうえで、障害者人材やシニア人材の活用などを検討しましょう。
<具体例>
・シニア人材・グローバル人材の採用
・採用・昇進などの場面で障害の有無や国籍の違いで差別をしないような評価基準の策定
・同一労働同一賃金への対応
■⑮陸の豊かさを守ろう
「⑮陸の豊かさを守ろう」は、「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」ことを目標にしています。
世界では、1年間で約470万ヘクタール以上の森が消失していると言われています。こうした中で企業が行えることは、積極的なペーパーレス化の実施です。行政手続きも電子申請が推奨されている今、企業として取り組むべき目標だといえます。
<具体例>
・勤怠管理システムの利用
・電子申請システムの利用
・給与明細の電子化
など
企業のSDGsを推進するうえで人事労務が留意すべきポイント
人事労務担当者が自社のSDGsを推進するにあたって、留意すべきポイントを解説します。
■施策の方向性を経営理念と一致させる
経営理念などの全社的なビジョンとSDGs推進施策のベクトルを揃えましょう。企業の方向性と足並みが揃っていないと、ブランドイメージにも影響が出る可能性があります。実行したい施策とそれがもたらす効果をある程度洗い出したあとは、企業の根本的な理念との整合性が取れているか経営者と一緒に確認すると良いでしょう。
■長期的な視野で運用する
SDGsは2030年に向けた目標であるため、短期施策で終わらせずに、長く継続して施策を実行できるような社内体制を構築しましょう。施策を実行したら、効果検証したうえで改善し、より良い効果が持続するようにPDCAを回すことで、企業価値の向上が実現します。
日本企業のSDGsの取り組み事例
実際に日本企業で行われている、人事労務担当者との関わりが深いSDGsの取り組み事例を紹介します。自社の施策を検討する際に参考にしてください。
■株式会社ウエーブ
③すべての人に健康と福祉を | ・健康経営 ・長時間労働の削減、定時退社奨励の推進 |
④質の高い教育をみんなに | ・地元学生に対するインターンシップ制度を導入 |
⑤ジェンダー平等を実現しよう | ・女性管理職比率の向上 ・育児休暇、時短制度などの育児支援(復職率100%) |
⑧働きがいも経済成長も | ・時短勤務・限定職・専門職の自由選択 ・リーダー研修の実施 |
⑩人や国の不平等をなくそう | ・外国籍社員の採用、外国人技能実習生の受け入れ ・満65歳以降、勤務の継続を希望する社員へ、職場とのマッチング支援 |
⑪住み続けられるまちづくりを | ・地域美化活動への参加 ・災害復興支援(特定商品の売上の一部を日本赤十字社に寄付) |
■日本航空株式会社
③すべての人に健康と福祉を | ・メンタルサポート体制の確立 ・健康相談窓口の設置、腰痛予防セミナーの実施 |
⑤ジェンダー平等を実現しよう | ・配偶者がいる場合の福利厚生を同性パートナーがいる場合にも適用 ・女性リーダーの育成 |
⑧働きがいも経済成長も | ・事業のグローバル化に必要な組織運営体制の見直し ・若手中堅社員の海外他企業へのインターンシップ派遣 |
⑩人や国の不平等をなくそう | ・シニア社員の再雇用 ・障がいの特性に配慮した研修機会の確保 ・社員が障がいについて理解するためのセミナー開催 |
⑫つくる責任つかう責任 | ・医療資格を持つ社員が医療や介護の現場で働ける医療兼業の仕組みを導入 ・農家での農作業支援 |
⑰パートナーシップで目標を実現しよう | ・社内環境の整備(ハラスメント防止、長時間労働抑制、コロナ禍の雇用維持) ・お手伝いを希望されるお客さま向けの空港体験プログラムの実施 ・移動にバリアを感じるお客さまへのさまざまな旅の選択肢(アクセシブルツアー)の提供 |
まとめ
人事労務担当者が自社のSDGsを推進するにあたり、具体的な施策を検討する際のきっかけとしやすいのは、職場環境や労働条件の整備につながる「③すべての人に健康と福祉を」「⑤ジェンダー平等を実現しよう」「⑧働きがいも経済成長も」「⑩人や国の不平等をなくそう」「⑮陸の豊かさを守ろう」の5つが考えられます。SDGs施策は、従業員のエンゲージメント向上や採用ブランディングにつながるというメリットがあります。自社にとって最適な施策を考えるためには、経営理念など企業の方針と方向性を合わせることを意識しましょう。
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