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人事・労務なんでもQ&A

従業員が新型コロナウイルスに感染した場合や後遺症によって復帰が難しくなっている場合、企業として責任を問われることはあるのでしょうか?

新型コロナウイルス感染対策を講じていない場合、安全配慮義務違反となり、損害賠償責任が発生する可能性があります。
公開日時:2022.12.19
詳しく解説

Q.新型コロナウイルス後遺症が労災認定されたニュースを見ました。従業員が新型コロナウイルスに感染した場合や後遺症によって復帰が難しくなっている場合、企業として責任を問われることはあるのでしょうか?

従業員50人程度、飲食系企業の人事担当の者です。以前、新型コロナウイルスの後遺症が労災認定されたというニュースを目にしました。自社では感染対策を講じていたものの、従業員の数名が感染し、今でも後遺症で職場復帰できていない者もいます。この場合、企業として何か責任を問われることはあるのでしょうか?また、新型コロナウイルスの感染や、後遺症による労災の認定基準があればご教示いただきたいです。

A.新型コロナウイルス感染対策を講じていない場合、安全配慮義務違反となり、損害賠償責任が発生する可能性があります。

従業員が新型コロナウイルスへの感染や後遺症によって労災が認められ、社内での感染対策が不十分であったと判断されれば安全配慮義務違反となり、損害賠償責任が発生する可能性があります。ただし、労災が認定されても、企業側に安全配慮義務違反がなければ賠償責任は発生しません。

新型コロナウイルスに関する労災認定の考え方

労災は、業務遂行性と業務起因性に基づいて判断されます。業務遂行性は「使用者の指揮命令下で所定の場所・時間働いていること」を指し、業務起因性は「業務が傷病の原因となること」を意味します。

新型コロナウイルスは、その感染力の強さから調査で感染経路が特定されなくても、業務に起因すると認められる場合は労災認定されます。また、新型コロナウイルスの後遺症により、療養や休業が必要な場合も労災保険の対象となります。

厚生労働省では新型コロナウイルスでの労災認定について、具体的に以下のように取り扱うと公表しています。

(1)医療従事者等の場合
医師・看護師・介護従事者など新型コロナウイルス感染のリスクが高い業務に従事している人については、業務外での感染であることが明らかな場合を除いて、原則として労災保険給付の対象となります。

(2)医療従事者以外で感染経路が分かっている場合
不特定多数の人と接する業務など、感染源が業務に起因していると明確である場合、労災保険給付の対象となります。

(3)医療従事者以外で感染経路が不明な場合
感染経路が特定できない場合でも、感染リスクが高い業務(複数の感染者が確認された労働環境や顧客と接触する機会が多い労働環境)に従事していた場合は業務に起因するかを個々判断し、労災保険給付を決定します。

(4)国外の従事者の場合
「海外出張労働者」については、明らかに感染リスクが高い出張先である場合、出張先での業務内容を踏まえ、個々除事案で判断し、労災保険給付を決定します。「海外派遣特別加入者※」については上記(1)~(3)の国内の労働者に準じて判断されます。

※海外派遣特別加入者
・日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人
・日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業に事業主等として派遣される人
・独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人

労災保険は仕事上や通勤時のけが・病気に対して保険給付を行い、従業員の社会復帰の促進をする制度です。新型コロナウイルスに感染した場合は、従業員やその家族は雇用形態にかかわらず以下の保険給付が受けられます。

・遺族給付:従業員が亡くなってしまった場合、遺族に年金または一時金が支払われる。
・療養給付:治癒するまで、従業員が無料で治療や薬の支給を受けられる。
・休業給付:仕事に行けない日の給料の約8割が従業員に支払われる。

【業種別】コロナ感染で労災認定された事例と必要な感染対策

基本的な感染対策はもちろんですが、安全配慮義務違反とならないよう、業界・業種によって、対策するポイントは異なっています。また、感染経路が不明であっても、感染リスクの高い状況下で業務をさせていた場合、労災認定されるケースが多くなっています。

自社が属する業界に応じて、適切な感染症対策を講じる、従業員を守る必要があります。もし感染対策を怠った場合、安全配慮義務違反により、損害賠償責任が発生する可能性もあります。

以下では、各業界の事例と対策について紹介します。

 

飲食業界

職種職種
飲食店員感染経路不明だが、発症前の14日間で、日々数十組に接客を行う感染リスクの高い状況下にあり、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。
飲食店員店内でクラスターが発生し、これによって感染したと認められた。

<対策>
・食品を扱う従業員の健康・衛生管理の徹底
・出勤前の検温
・体調不良の従業員の出勤停止
・店舗内では大声を避け、マスク・フェイスガードを着用
・従業員のロッカールームの換気・清掃 など

【医療業界】

職種認定事例
医師感染経路不明だが、日々感染が疑われる患者への診療業に従事していた。
看護師感染経路不明だが、日々感染が疑われる患者に対して問診や採血などの看護業務に従事していた。
診療放射線技師感染経路不明だが、日々感染が疑われる患者のMRIの撮影の画像検査業務に従事していた。
診療所事務員感染経路不明だが、発症前の14日間で、日々数十人の患者の受付を担当しており、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。

<対策>
・職員のサージカルマスクの着用
・毎日朝・夕の検温の実施
・手指衛生の徹底
・体調不良の職員の出勤停止
・患者・取引業者へのマスクの着用、手指衛生の適切な実施の指導
・発熱患者への来院前の電話での受診相談
・受付に遮蔽物の設置
・共用部分、共有物の消毒、換気
・マスクの適切な廃棄 など

【介護福祉業界】

職種認定事例
介護職員感染経路不明だが、介護施設で日々感染が疑われる入居者に対するリハビリ業務に従事していた。
保育士保育園でクラスターが発生したことによる感染が認められた。
保育士感染経路は不明だが、日々数十人の園児の保育や保護者との会話をして感染リスクの高い状況下にあり、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。
児童クラブ職員感染した児童との接触による感染が認められた。

<対策>
・手指衛生の徹底
・出勤時の検温の実施
・体調不良の職員の出勤停止
・体調不良者の面会のお断り
・来訪者の記録 など

【小売業界】

職種認定事例
販売店員感染経路不明だが、発症前の14日間で、日々数十人に接客、商品説明をする感染リスクの高い状況下にあり、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。
調剤薬局事務員感染経路不明だが、発症前の14日間で、日々数十人の処方箋の受付を行う感染リスクの高い状況下にあり、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。

<対策>
・従業員に対して勤務中・勤務外で3密を避けるように指導
・勤務前の検温
・体調不良の従業員の出勤停止
・マスクの着用や咳エチケットの徹底
・手指衛生の徹底
・レジカウンターにパーテーションや防護シートの設置
・現金の受け渡しにコイントレーを使用
・休憩室の消毒
・休憩時間を分けて、入室人数を制限
・使用済みマスクの廃棄 など

【運輸業界】

職種認定事例
バス運転手感染経路不明だが、発症前の14日間で、日々数十人の乗客を輸送・接客する感染リスクの高い状況下にあり、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。
タクシー運転手感染経路不明だが、発症前の14日間で、海外や県外からの乗客を含む数十人を輸送・接客する感染リスクの高い状況下にあり、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。
港湾荷役作業員感染経路不明だが、発症前の14日間で、不特定多数のトラック運転手と近距離で会話をする感染リスクの高い状況下にあり、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。

<対策>
・出勤前と退勤時の検温
・体調不良の従業員の出勤停止
・運行中のマスクの着用
・エアコンや窓開けによる車内換気
・乗客への対応時のマスクと手袋の着用
・アクリル板やビニールカーテンの設置
・休憩中の対人距離の確保 など

【建設業界】

職種認定事例
工場現場施工管理業務事業者感染経路不明だが、発症前の14日間で、工事現場の事務室で作業しており、同じ事務室で作業していた他の従業員の感染も確認され、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。
営業職事業者感染経路不明だが、発症前の14日間で、社内で作業しており、同じ部屋で作業していた他の従業員の感染も確認され、私生活の行動からは感染するリスクが非常に低い状況であったと認められた。
建設作業員作業車に同乗していた同僚の感染が確認され、その同僚からの感染が認められた。

<対策>
・出勤前の検温
・体調不良の従業員の出勤停止
・現場でのマスクの着用
・朝礼や点呼時の対人距離の確保
・内装工事の場合、区画を分け作業人数の限定
・車両数を増やし、同乗・相乗りを回避
・事務所内の対人距離の確保
・手指衛生の徹底
・出張の見合わせ など

上で挙げた業界の中には不特定多数の人々と接する機会が多い業務もあります。例えば飲食業であれば、客席の換気や店内の清掃、人が触れるところの消毒など、従業員以外のところから従業員に感染させないための対策も重要です。

労災保険料負担軽減の特例措置

労災保険料は、従業員の賃金総額に対して下記に挙げる保険料率を掛けた金額で、全額事業主が負担します。保険料率は負担の公平性、労災防止を促す目的で、労災事故の発生件数によって最大40%増減します。

2021年11月26日、厚生労働省は新型コロナウイルスの感染が労災と認められた「コロナ労災」については、事業者の労災保険料負担を軽減する特例を講じる方針を決定しました。

本来のルールであれば、コロナ労災が多数発生した事業主は2022年度の保険料率が上がってしまいます。厚生労働省は、緊急事態宣言下でも事業継続を政府が要請していたケースを考慮し、コロナ労災に関しては発生件数に応じて保険料を上げることは適当でないと判断しました。

事業を続けながら新型コロナウイルス感染を完全に防ぐことは困難です。従業員の健康・生活を守るためにも、特例を踏まえて積極的に申請に協力を求める必要があります。

まとめ

新型コロナウイルス感染や後遺症が労災認定される際、企業が責任を負うケースは感染対策が不十分であった場合です。「3密を避ける」「感染が多く発生している地域には従業員を行かせない」など、基本的な対策に加え、業界ごとの注意するポイントを守ることが重要です。自社の属する業界のガイドラインに従い、感染対策を講じていなければ、損害賠償請求が発生する場合もあります。

また、特例措置により労災認定数が増えても保険料が上がることはありません。その点を従業員にも周知し、従業員の健康と安全を守ってください。

※この記事は2021年12月現在の情報を基に作成しています。

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