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【社労士監修】職場におけるハラスメントにはどう対処すればよいのでしょうか。

職場におけるハラスメントは、労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)でも近年活発に議論されるほど大きな問題となっています。職場におけるハラスメントの現状や事例をもとに、課題や企業がとるべき対策について探っていきましょう。
公開日時:2024.12.19
詳しく解説
井上 敬裕 氏

井上 敬裕 氏

中小企業診断士・社会保険労務士

青果加工場の工場長を約9年間務めた後、40歳の時に中小企業診断士として独立。販路開拓支援、事業計画作成支援、6次産業化支援、創業支援などを行う。
平成27年社会保険労務士として開業し、現在は社会保険労務士として給与計算を中心に労務関連業務を行っている。

社会保険労務士法人アスラク 代表社員
https://sr-asuraku.or.jp/about/

Q.ハラスメントの種類や法的位置づけが知りたいです。

まずはハラスメントの種類や法的な位置づけについて教えてください。

A.職場におけるハラスメントには、主にセクハラ、マタハラ、イクハラ、パワハラの4種があります。

職場におけるハラスメントの種類は主に以下の4つがあります。

  • セクシャルハラスメント(以降、セクハラ)
  • 妊娠・出産等に関するハラスメント(以降、マタハラ)
  • 育児休業等に関するハラスメント(以降、イクハラ)
  • パワーハラスメント(以降、パワハラ)

事業主は、雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に適切に対応する義務があります。必要な体制の整備、そのほかの雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。

セクハラ、マタハラは男女雇用機会均等法で、イクハラは育児・介護休業法で、パワハラは労働施策総合推進法で、事業主の責務が定められています。

Q.ハラスメントの現状について教えてください。

職場におけるハラスメントは、実際どの程度発生しているのでしょうか。また、各種ハラスメントのうち、最も問題になっているのはどのハラスメントですか。

A.職場でのハラスメント件数で圧倒的に多いのはパワハラで、相談件数は年々増えています。

厚生労働省が公表した2023年度の相談件数を見ると、職場でのハラスメント件数で圧倒的に多いのはパワハラ(62,863件)です。次いでセクハラ(7,414件)、マタハラ(1,756件)、イクハラ(1,475件)となっています。

これらの相談件数の合計は年々増えています。なかでも、パワハラの相談件数の増加が顕著で、2023年度の相談件数(62,863件)は、2020年度の相談件数(18,363件)の約3.5倍となっています。

上司の威圧的な言動を部下がパワハラだと訴えたら?

パワハラとは、労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)第30条の2で示される、以下3つの要素を満たすものとされています。

  1. 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
  3. その雇用する労働者の就業環境が害されること

パワハラについては、社会保険労務士として相談を受けることがしばしばあります。パワハラの事例と課題およびとその対策について紹介します。

A社の事例:部下の訴えに対し、上司を出勤停止処分に

小規模事業所A社で、部下3人が社長に上司のパワハラ行為を訴えた事例があります。「お前は使えないから辞めたほうがいい」といった威圧的な言動や、お茶くみのような本来の業務とは関係のない命令をされることに耐えられないと申し出たのです。「上司を退職させてくれないなら、自分たちが退職する」と訴えました。

社長は訴え出た3人全員に退職されると業務が立ち行かなくなるため、上司の意見を聞くこともなく出勤停止処分にしました。その後、パワハラ行為を否定している上司に対して、退職するよう説得を試みましたが、上司は納得せず退職を拒んでいます。

B社の事例:部下の訴えに対し、ハラスメント研修を実施

従業員数100名を超える介護事業所B社での事例です。複数の部下から「上司の言動が乱暴すぎて耐えられないので配置転換してほしい」という相談が企業のハラスメント相談窓口に寄せられました。報告を受けた社長がその上司の言動について調査したところ、「業務についての要求が高く、歯に衣着せぬ物言いが部下に受け止められないのではないか」という評価でした。

そこで、業務に忠実な上司を直接注意するのを避けて、管理職全員を集めてハラスメント研修を行いました。ハラスメント研修では、普段話し合うことがないハラスメントに対する思いや意見についての活発な議論がなされ、結果的にこの上司のパワハラ問題は沈静化しました。

事例から学ぶ:パワハラに対する課題と対策

上記2つの事例では、上司自身はパワハラ発言を行っている自覚がない、部下が上司の厳しい言動を受け止めきれないという共通点があります。言葉遣いや業務範囲などの認識が上司と部下で大きく異なっている場合、上司にそのつもりがなくても部下がパワハラだと感じてしまう例は枚挙にいとまがありません。したがって、双方の溝を埋めていくのが経営者や企業の責務のひとつといえます。企業は労働者からの苦情にオープンに耳を傾け、当事者同士に公正公平に働きかけて問題解決を図る必要があります。

上記の事例のうちA社の社長は、「業務が立ち行かなくなるかもしれない」とやや冷静さを失ってしまい、公正公平な判断・処置ができませんでした。B社のように冷静な判断をするためには、マニュアルの作成や定期的な研修の実施が必要です。

近年話題のカスタマーハラスメント(カスハラ)にはどう対処する?

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客という優越的な関係を背景として行われるハラスメントです。厚生労働省の資料によると、以下のように定義されています。

「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

カスハラについても、実際にあった事例と課題をもとに企業の対策について解説します。

C社の事例:介護利用者から殴られたが、自費で治療させてしまった

小規模介護事業所C社の社長のもとに、退職した元従業員から電話がありました。「在職時に介護利用者から殴られたところが今になって痛むから、労災を使うことはできないか」という相談でした。社長は、この従業員が利用者から「暴力」というカスタマーハラスメントを受けたにもかかわらず、利用者側に損害賠償を請求しませんでした。また従業員に対しては、業務中の災害であるにもかかわらず、自費で治療を受けさせました。

暴行を行った利用者は現在C社のサービスは利用しておらず、いまさら電話するのも腰が重く困っている状況です。

事例から学ぶ:カスハラの課題と対策

C社の社長もA社の社長と同様に、被害者から相談を受けたものの、相談後の措置について十分な準備ができておらず、適切なハラスメント対策ができませんでした。両社はともに小規模事業所であり、同規模の事業所の多くでハラスメント対策ができていないことが推測されます。

C社の事例は顧客からの暴力でしたが、B社のハラスメント研修では、利用者から女性職員が受けたセクハラ事例も報告されています。介護事業所のように顧客と従業員の身体が接触するサービスを行っている事業所では、カスハラは暴言・クレーム等の精神的な攻撃よりも、暴行やセクハラといった身体的な攻撃のほうが深刻であることがわかります。

企業は相談体制の構築、マニュアル(対応方法)の作成、従業員の研修などを行い、事実関係の正確な把握と適切な対処に努める必要があります。

まとめ

職場のハラスメントは、セクハラ、マタハラ、イクハラ、パワハラの4種に大別され、2023年度の相談件数ではパワハラが6万件超と突出しています。事例から見える課題として、上司と部下間での言動の受け止め方のギャップや、小規模事業所におけるハラスメント対策の不備が挙げられます。効果的な対策には、相談体制の構築、マニュアル作成、定期的な研修実施などがあります。

近年注目されるカスタマーハラスメントについても、特に対人サービス業での深刻な実態が明らかになっており、パワハラ同様の体系的な対策が求められています。企業は、すべてのハラスメントに対して公正かつ迅速に対応しなければいけません。

参考:

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