人事・労務なんでもQ&A
育児休業を延長する予定のある従業員がいます。どのような書類が追加で必要になりますか。
田中 敬子 氏
社会保険労務士clarity共同代表 特定社会保険労務士
大学卒業後、日本・外資系企業にて営業、人材紹介会社でのキャリアアドバイザーに従事。
2018年より社会保険労務士事務所に勤務。
東京都内労働基準監督署において相談員も経験し、現在に至る。
就業規則、労務管理全般、外国人雇用等に関するご相談や給与計算、安全衛生委員会におけるアドバイス、助成金や補助金のご提案等に従事。
Q. 育児休業を延長する予定のある従業員がいます。
2025年4月から、育児休業給付金延長手続きについて変更があり、必要な書類も増えると聞きました。
どのような書類が追加で必要になりますか。
また、新しい手続き方法の対象となる従業員や、対象従業員へ伝えておくべきことがあれば教えてください。
A. 追加で必要になるのは、『育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書』という新しい書類と、「市区町村に保育所等の利用申し込みを行ったときの申込書の写し」です。
また、市区町村が発行の入所保留(不承諾)通知書等も今までどおり必要になりますので、合計3点の提出が必要になります。
- 『育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書』(新規追加)
- 市区町村に保育所等の利用申し込みを行ったときの申込書の写し(新規追加)
- 市区町村が発行の入所保留(不承諾)通知書等(変更なし)
これまで同様、準備をするのはすべて従業員となりますので、会社は、適切なタイミングで従業員に説明をし、提出をお願いしておく必要があります。
また、今回の追加書類が必要となる対象者の方は、子が1歳に達する日または、1歳6か月に達する日が、2025年4月1日以後となる方です。具体的には、以下の方が対象となります。達する日とは、誕生日の前日のことを言います。
- 1歳に達する日後の延長の場合: 子の誕生日が2024年4月2日以降の方が対象
- 1歳6か月に達する日後の延長: 子の誕生日が2023年10月2日以降の方が対象
育児休業給付金延長の手続き変更について
育児休業給付金は、原則、子が1歳に達する日の前日までが支給の対象です。また、保育所における保育の実施が行われないなどのやむを得ない理由がある場合のみ、1歳6か月に達する日の前日まで、さらに2歳に達する日の前日までと延長が可能です。また、本来、育児休業給付金は、雇用継続を支援するための給付金で、すみやかに職場に復帰することを前提として、所得の一部を補てんする役目があります。
このような中、保育所等に入園できなかった証明となる入所保留(不承諾)通知書等を自治体から得るために、保育所等への入所意思がない方でも、入所を申し込む方がおられ自治体に大きな負担がかかっているそうです。
このような背景から、自治体の事務負担を軽減するとともに、制度の適切な運用を図るため、来年4月から、育児休業給付金の延長で続きにあたっては、速やかな職場復帰のために保育所等の利用申し込みをしているかどうか、先述の3つの書類を元に、ハローワークが確認することとなりました。
ハローワークが確認するポイント
育児休業給付の延長にあたって、ハローワークは以下3つの要件を満たしているか確認します。
1. あらかじめ市区町村に対して保育利用の申し込みを行っているか(現状の要件)
- 入所申込年月日は、子が1歳に達する日※までの日付になっていることが必要
2. 速やかな職場復帰のために保育所等における保育の利用を希望しているものであるか(新しい要件)
- 原則として子が1歳に達する日※の翌日以前の日を入所希望日として入所申し込みをしているか
- 申し込んだ保育所等が、合理的な理由なく自宅から通所に片道30分以上要する施設のみとなっていないか
- 市区町村に対する保育利用の申し込みに当たり、入所保留となることを希望する旨の意思表示をしていないか
3. 子が1歳に達する日※の翌日時点で保育所等の利用ができる見込みがないことが明らかか(現状の要件)
上記2の、「合理的な理由なく自宅から通所に片道30分以上要する施設のみとなっていないか」について、合理的な理由があると認められる場合は以下のような場合です。
- 申し込んだ保育所等が本人または配偶者の通勤経路の途中にある場合
- 自宅から30分未満で通うことができる保育所等がない場合
- 自宅から30分未満で通うことができる保育所等の全てについて
- 開所時間及び開所日では職場復帰後の勤務時間または勤務日に対応できない場合
- 過去3年以内に児童への虐待等について都道府県または市区町村から行政指導等を受けていた場合 - 子が疾病や障害により特別な配慮が必要であり、30分未満で通える保育所等は全て申し込み不可となっている場合(医師の診断書、障害者手帳の写し等が必要)
- きょうだいが在籍している保育所等と同じ保育所等の利用を希望する場合
対象従業員へ伝えておくべきこと
前述のようなことを踏まえ、従業員へは、今までと同様、保育所等の申し込みを適切に行うことを伝えておく必要があります。各自治体によって保育所等の申し込み期間や締め切り日が異なるため、従業員のお住いの自治体HP等で早めに確認して保育所等の入所申込を行うよう伝えましょう。
例えば、2025年4月の保育所等入所を希望する場合、前年2024年秋ごろにはすでに申込受付がスタートし、期限が2024年内という場合もあります。原則、申込を失念した場合は、延長が認められませんので注意が必要です。
また、申込をする保育所等が自宅から30分未満で通うことができるか、またそうでない場合は合理的な理由があるかどうかがハローワークの確認のポイントになること、また、延長の申請を行う場合に備えて、入所申込書は必ず保管しておくように伝えておくことも大切です。
お子様が産まれた後、従業員は子供のお世話で大変多忙となり、口頭だけで伝えておいたことを忘れてしまうこともあります。従業員が産前産後休業に入られる前に、書面やメール等で大切な事項をまとめて伝えたり、適切な時期に会社側からリマインドメールを送ったり、従業員への配慮を検討しましょう。
まとめ
2025年4月1日からの育児休業給付金延長にかかる手続きの変更は、今までどおり、速やかな復帰のために適切に保育園等の入所申し込みを行っていれば、追加書類が発生しますが、特別対応が難しい事項ではないかと思います。
出産や育児に関わる従業員は、精神的にも経済的にも不安を抱える時期でもあります。会社側が育児休業給付金制度の趣旨と今回の手続き方法の変更に至った経緯を理解した上で、従業員に丁寧に説明を行うことは、安心して休業し、復帰をしてもらうための両立支援へとつながります。
会社の説明が不足していたため、必要書類の準備ができず、延長の給付金を受給できないこととならないよう、今一度、労務管理の方法についても見直しをしましょう。
*文中の※について、1歳6か月後の延長の場合は、1歳6か月に達する日に読み替えてください。