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コロナの影響による経営悪化のため従業員の給与減額を考えていますが、企業にとってリスクはありますか?

合理的な理由がある場合も原則、従業員の同意なく給与は減額できません。丁寧な説明をしたうえで手続きを進めましょう。

2021.07.29

詳しく解説

Q. コロナの影響による経営悪化のため従業員の給与減額を考えていますが、企業にとってリスクはありますか?

従業員100人規模の中小企業の人事担当者です。新型コロナウイルス流行による経営悪化のため、これまで通りの給与水準を維持するのが難しい状況です。社長からは「従業員の給与の減額が必要になるので、実施のための準備をしてほしい」と言われています。一方的な給与の減額は法的に難しいとも聞いていますが、具体的に企業にとってどんなリスクがあるのでしょうか。法律に則って給与の減額を行う際に必要な手続きについても知りたいです。

A. 合理的な理由がある場合も原則、従業員の同意なく給与は減額できません。丁寧な説明をしたうえで手続きを進めましょう。

「新型コロナウイルス感染拡大による経営悪化」といった経営状況からして合理的な理由がある場合でも原則、給与の減額を行うには従業員の同意を得る必要があります。給与の減額に当たっては同意という結果の他にも、十分な説明をする、情報提供を可能な限りするなど、従業員の理解を得る努力をしたかというプロセスも重要になります。同意を取らなかったり、従業員にプレッシャーをかけて無理に同意させたりする対応は法違反となり、給与の減額も無効となる可能性があります。

1.給与の減額が可能なのはどのような場合か

給与の減額が可能なケースは大きく分けると2つあります。「従業員の同意がある場合」と「同意はなくとも客観的に減給が可能な理由があり、減給が必要な説明を尽くしている場合」です。さらに状況別に分けると、減給が可能なパターンとして以下の5つがあります。

減給が可能なケース

  1. 労働契約法第8条にもとづき会社と従業員の間で合意が成立し、雇用契約書を再締結した場合
  2. 労働契約法第9条または10条にもとづき、就業規則変更による間接的な減給を行う場合
  3. 人事評価または人事異動に伴い減給を行う場合
  4. 就業規則にもとづいて業績給や調整給(あるいは同じ趣旨の手当)を調整して減給を行う場合
  5. 就業規則にもとづく懲戒処分によって減給を行う場合

企業の経営悪化によって給与の減額をする代表的な方法は、1のように従業員に個別の同意を取る、2のように従業員の同意を得たうえで就業規則変更による間接的な減給を行う方法です。

減給の根拠となる主な労働契約法の規定

  • 労働契約法第8条……労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
  • 労働契約法第9条……使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない
  • 労働契約法第10条……使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(後略)

このほか、上記の4のように就業規則や雇用契約書に「業績不振の場合は業績給や調整給、調整手当を減額できる」と規定し、減給の仕組みをあらかじめ設けておく方法が考えられます。

業績悪化といったやむを得ない事情があり、減給の根拠や理由の説明を尽くしている場合は、従業員全員に同意を得られなかったとしても給与減額を定める就業規則変更は認められます。ただし、「コロナ禍による経営悪化」というやむを得ない理由で減給する場合でも、大幅に給与を減らすことは望ましくなく、従業員の生活を脅かさない範囲の減給額を検討するのが順当です。

2. 減給措置が企業にとってリスクとなる理由

減給措置が企業にとってリスクとなるのは、減給が労働契約法の規定に反した不利益変更だとみなされれば、違法となるためです。

労働契約法において雇用契約に変更がある場合は原則的に従業員の同意が必要であり、同意がなく一方的に給与の減額という不利益変更を行った場合は違法です。また同意のプロセスも重視されます。給与減額の同意を得るための説明を怠ったり、従業員にプレッシャーをかけて同意を強要したりしたことがのちに裁判などで明らかになれば、同意は無効となり、減額された分の給与を後から請求されるリスクもあります。

法的な問題以外にも、粗雑な説明しかしない、経緯が不透明なまま減給を行ったなど誠意のない対応をした場合、従業員の信頼を失い、離職を招く可能性もあります。

これらのリスクを回避するためには、従業員の理解・納得を得る努力が必要です。場合によっては、経費削減のほかに、経営者が率先して役員手当を減らしたり給与の自主返納をしたりといった対応も必要になる可能性があります。

3. 従業員の減給に関する判例

給与の減額に関してどのようなケースで無効とみなされるのか、過去の裁判例をもとに解説します。

1.賃金の引き下げの合理的な理由と労働者の同意が争点になった裁判例

会社の合併に伴い退職金支給基準が変更されたため退職金額が著しく低額になった労働者が、合併前の退職金支払いを求めた裁判です。合併直前に行われた退職金支給基準の変更の際に会社は「同意しないと合併が実現できない」と説明し、同意書に押印させました。裁判では会社の説明にもとづく同意が無効とみなされ、退職金の減額も無効となりました。

ポイントとは、単に同意書の有無ではなく、給与の減額(この場合退職金の支払い額の減額)について正しい情報提供がなされたかが問題となったことです。判決では「労働者の自由な意思に基づいた同意でなければ不当」と判断されました。形だけの同意があっても説明が十分でない、または事実上の同意の強要があった場合、減給は無効になり得ます。

2.業績不振を理由に固定給を15%減額する就業規則の変更が不当とみなされた裁判例

会社の業績不振などを理由に固定給15%を減額する就業規則の変更は不利益変更であり不当だと労働者が訴えた裁判です。会社の側に減給のための代償となる措置を講じた形跡がなく、経営状況や経営環境、会社と労働組合との交渉の経緯を照らしても、「同意しない従業員が会社の求めを受け入れる合理的理由」がないと判断されました。

ポイントは、一方的に就業規則の変更で減給をしても、減給回避のため経営側が努力をしていない場合は不当だと判断される可能性が高いという点です。減給を行う場合、会社が提示した条件に対し従業員個人が同意すれば減給は可能ですが、同意をしない従業員に対しても減給を行う場合は合理的と認められる相応の理由や、減給の回避のための努力をしているかが争点となります。

まとめ

新型コロナウイルスによる経営悪化による給与の減額は合理的と認められうる理由ですが、原則、従業員が同意しなければ実施できません。ただし、従業員に正確な情報提供や十分な説明を行ったり、経費削減、経営者の給与カットなど代償措置を講じたりと理解を得られる対応をした場合は、全員の同意がなくとも就業規則変更などによって給与の減額が可能です。

同意のない減給を行う場合、同意を得てもプロセスが不当または自由な意思にもとづかない同意とみなされた場合、給与減額は無効となる可能性が高くなります。やむを得ない理由による減給であっても、法的根拠やプロセスを重視した誠意ある手続きが必須です。

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