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2022年から中小企業もパワハラ防止法が義務化となるにあたり、注意すべき点と昨今のパワハラ判例を知りたいです。

パワハラ防止法には罰則はありませんが努力義務を怠ると訴訟に発展する可能性があります。SOGIハラやマタハラなどの2010年以降の注目の判例を押さえておきましょう。
公開日時:2021.12.02 / 更新日時:2023.06.19
詳しく解説

Q. 2022年から中小企業もパワハラ防止法が義務化となるにあたり、注意すべき点と昨今のパワハラ判例を知りたいです。

100人規模の中小企業の人事です。パワハラ防止法の義務化について準備を進めていますが、具体的な対応を決め就業規則に盛り込むため、パワハラと指導の線引きについて知りたいです。また、性的マイノリティなどの少数者に対するパワハラ事例もこれを機に把握しておきたいと考えており、トラブルや訴訟を防ぐため昨今のパワハラに関する判例を知りたいです。

A. パワハラ防止法には罰則はありませんが努力義務を怠ると訴訟に発展する可能性があります。SOGIハラやマタハラなどの2010年以降の注目の判例を押さえておきましょう。

パワハラ防止法には罰則はありませんが事業主に講ずるべき措置が努力義務として定められており、怠ると訴訟に発展する可能性があります。パワハラの代表的な「6類型」の他に、SOGIハラやマタハラなどのトラブルや訴訟も増えています。何がハラスメントにあたるのか把握し、社内で対策を講じるためにも、2010年以降の注目の判例を押さえておきましょう。

2022年にパワハラ対策が義務化される対象企業

2022年4月1日より、中小企業に対してもパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が適用されます。各企業では努力義務として、職場のいやがらせやいじめを防止するパワーハラスメント(以下、パワハラ)対策を実施する必要があります。

パワハラ防止法はもともと2019年5月に成立し、2020年6月に施行されました。この際は段階的措置として大企業のみが適用で、中小企業には猶予期間が設けられていました。今回、パワハラ防止法が適用となる中小企業の具体的定義は以下の表の通りです。

業種 中小企業
(下記のいずれかを満たすこと)
小規模事業者
資本金の額または出資の総額 常時使用する従業員の数 常時使用する従業員の数
①製造業、建設業、運輸業、その他業種(②~④を除く) 3億円以下 300人以下 20人以下
②卸売業 1億円以下 100人以下 5人以下
③サービス業 5,000万円以下 100人以下 5人以下
④小売業 5,000万円以下 50人以下 5人以下

罰則の有無やパワハラと指導の違いについて

パワハラ防止法には「この行為をしたら罰金、刑事罰にあたる」などの罰則はありません。パワハラを防止するために講ずべき措置についての努力義務が企業に課されます。具体的には以下の措置が必要です。

 

●事業主の方針を明確にして周知、啓発する

  • 就業規則や社内ルール、社内報、パンフレットにハラスメントにあたる行為の内容・原因・背景等を記載する
  • 定期的にアンケートや管理職の面談などで職場の実態を調査する
  • 一般従業員や管理職にハラスメントを防ぐための研修や講習を実施する など

●相談に応じるための体制を整備する

  • 従業員に相談窓口の設置をしたことを周知する
  • メールや電話でも相談できるような体制をつくる など

●パワハラが起きた後は迅速かつ適切な対応を取る

  • 被害者、加害者それぞれから事情を聴く場を設けて事実関係の確認を行う
  • 配置転換や加害者への指導など被害者と行為者に向けた適切な措置を取る
  • 行為者に対する再発防止研修を実施するなどの再発防止に向けた措置を取る など

 

法律では企業に対してパワハラの相談をした当事者のプライバシーも保護するよう定めています。パワハラを相談した従業員に対し解雇やそのほかの不利益な取り扱いをすることは法違反です。

このほか、パワハラ防止を適切に実施するためには、「パワハラと指導の違い」についても留意する必要があります。パワハラと指導は、発言の目的や業務上必要がどうかといった点に違いがあります。訴訟に発展した際は「他の従業員の前で叱責する」「バカ、死ね、など暴言を吐く」「故意に仕事から外す」などパワハラに値する具体的な言動や発言があったかどうかが争点になります。

パワハラにあたる具体的な言動と、業務上の指導の違いについて詳しくは用語集パワハラ防止法をご覧ください。

注目すべきハラスメントの判例と紛争例

パワハラ防止法の適用後、企業はパワハラの適正な対応や、これまでパワハラという認識が十分進んでいなかった「SOGIハラ」や「マタハラ」(マタニティハラスメント)についても防止策を講じる必要があります。2010年以降、ハラスメントであると認められた注目の判例や紛争例を把握し、自社のハラスメント対策のアップデートに役立てましょう。

 

(1)パワハラ対策を実施するうえで参考にすべき判例

パワハラ対策をするうえで押さえておきたい、企業側の対応が問題となった判例や、就業規則でのパワハラに対する懲戒規定が争点となった裁判例を紹介します。

 

①上司と会社に損害賠償請求がなされたパワハラの判例

消費者金融会社の従業員3人(原告A、B、C)が、上司と会社に対し、パワハラによる損害賠償請求訴訟を起こした。このうち原告Aは、上司のパワハラにより、抑うつ状態を発症したとして、慰謝料とともに治療費と休業損害も請求した。裁判では上司のパワハラ行為だけでなく、会社側がパワハラ被害の対策を怠ったことの責任を問われた。

裁判ではパワハラ行為についての認定がされ、上司・会社に対する損害賠償が命じられた。原告Aの訴えについて裁判所は抑うつ状態発症による休職とパワハラ行為の因果関係を認め、慰謝料60万円に加えて治療費・休業損害に対する支払いを被告上司と被告会社に命じた。原告Bについては慰謝料40万円を、原告Cについては慰謝料10万円の支払いを命じた。

原告Aは上司のパワハラについて会社に訴えたり、別の上司に相談したりする対処を行っていた。裁判では事態が深刻化する前に真摯な対応をしていれば、損害の拡大を防げた可能性があったと認められた。使用者がパワハラの存在をいったん認識した以上は、速やかに再発防止策を講じるなど適切な対処が必要となることが伺える。

 

②パワハラ加害者への懲戒処分に関する判例

IT関連会社の従業員Aが派遣社員Bに対して行ったパワハラについて会社が懲戒処分を行ったところ、それを不服とした従業員Aが処分の無効と賃金の支払いを求めて損害賠償請求の訴えを起こし、敗訴した。

従業員Aが派遣社員Bに対し、「謝れ」「辞めてしまえ」などの発言と、椅子を蹴る、名札を破る、パソコンを閉じるなどの行為を行った。会社側はAの一連の行動に対し、社員就業規則にもとづいて譴責処分(始末書を提出させて厳重注意を促す懲戒処分の一種)に加え、給与の一部を減額した。

裁判所は会社側の従業員Aに対する譴責処分は有効であるとし、パワハラとは別件で従業員Aが起こしていた損害賠償請求については一部認めた。

現在はパワハラ行為に対する懲戒処分を定めている企業は少ないが、「パワハラ行為があった場合は懲戒処分に付す」旨を追加することは会社のスタンスを示すうえで有効と言える。

 

(2)SOGIハラの例

「SOGI」とは、どの性を好きになるかを表す「性的指向(Sexual Orientation)」と、自分の性別をどう考えるかを表す「性自認(Gender Identity)」の頭文字を取った言葉です。厚生労働省のパワハラ防止法に関する指針では、「SOGIハラ」および性の指向や性自認を他者が暴露する「アウティング」に関する事項が明記されており、今後中小企業も対策を講じる必要があります。

「SOGIハラ」は具体的には、パワハラの6類型の「精神的な攻撃」にあたり、「アウティング」は「個の侵害」にあたる場合があります。パワハラの6類型については「用語集 パワハラ防止法」をご覧ください。

 

性的指向のアウティング(暴露)の紛争例

性的指向を上司が勝手に職場で暴露(アウティング)したことに対する精神的苦痛を20代の会社員男性が訴え、会社側と和解した。

男性はアウンティングの被害を個人加盟の労働組合(ユニオン)に相談後、組合を通じて会社側と交渉した。その後、2020年月10下旬に会社がアウティング行為に加え精神疾患の発症についても会社側の責任を認め解決金を支払った。

 

②性的少数者へのSOGIハラが違法となった裁判例

「身体は男性で性自認が女性」という公的機関に勤める性同一性障害の職員に対し、上司が「性転換手術を受けないのなら男に戻ってはどうか」などと発言した。この発言を違法と判断する高裁判決が2021年5月に出され、裁判所は国に対して11万円の賠償を命じた。

パワハラ防止法に対応するための注意点

(1)基本の対応

パワハラ防止法適用に向けた準備として、まずは前述した「パワハラを防止するために講ずべき措置」に取り組み、パワハラ防止の対策や相談体制を整備します。連動して、以下の対応が同時に必要になる場合もあります。

  • パワハラ禁止の規定や、相談方法、懲戒規定などを考慮した就業規則の改定
  • パワハラについて理解が薄い管理職や社員向けに研修を実施する など

 

(2)新たなパワハラに対する注意・周知

SOGIハラをはじめ最近になってパワハラとして認知された行為については、従業員の理解が十分に進んでいない可能性が高いため、社内で「何がハラスメントにあたるのか」の周知が必要です。

 

SOGIハラにあたると考えられる具体例

  • 性同一性障害の診断を受けている従業員を「あいつは本当は男/女だ」と人前で言う
  • 性的指向について「気持ち悪い」「オカマだ」などと侮辱する
  • 性自認や性的指向を理由に、特定の仕事から外す(営業から勝手に内勤に移動させるなど)
  • 本人の性的指向を勝手に周囲に話す(アウンティング)

このほか、新型コロナウイルスの感染拡大後のテレワークの普及により、Web会議中のハラスメント行為が新たに問題視され始めています。

上司から部下に対して「部屋の全体を映せと言う」「カメラを常時オンにするよう求める」などの、過度にプライベートに踏み入ることはハラスメントと受け取られやすいため、社内での注意喚起が必要です。

まとめ

2022年4月から中小企業もパワハラ防止の対策が義務付けられます。パワハラになりやすい言動の周知や、相談体制の確立のほかにも、SOGIハラの例やマタハラの例など、近年認知が進んだハラスメントの種類についても同様に防止対策が必要になります。実際にあったパワハラ関連の判例や紛争例を参考にして「何がパワハラにあたるのか」を理解し、社内での周知を進めていきましょう。

また、実際にパワハラが発生した場合の対応を定めるには、就業規則の改訂が必要になる場合もあります。この機会にパワハラに対する自社のスタンスを就業規則に明記し、社内の誰でも見れる状態にしておくことも検討しましょう。防止法が適用されたことにより、パワハラ発覚後の自社のイメージダウンや訴訟に発展するリスクが従来より高まると考えられます。今回紹介した事例やハラスメントとなる行動を人事担当者だけでなく、経営陣、管理職、一般従業員にも周知し、必要な場合はパワハラ防止の研修も実施しましょう。

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