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残業禁止命令が招くジタハラ(時短ハラスメント)の具体例とリスク、対策を知りたいです。

企業側が対策を講じない状態で、従業員に対し一方的に残業を禁止する行為はいわゆる時短ハラスメント、ジタハラに該当する可能性が高いです。残業代不払いや法令違反ほか様々なリスクが考えられ、企業は業務の適正化や適切な勤怠管理、相談窓口の設置といった対策が求められます。

2021.06.14

詳しく解説

Q. 残業禁止制度を導入しましたが、一部の従業員からいわゆる「ジタハラ(時短ハラスメント)ではないか?」との声があがりました。制度の細部を整えたいため、ジタハラに該当する具体例とリスク、必要な対策を知りたいです。

当社では一部従業員の長時間労働が常態化しており、また昨今の働き方改革の流れやワークライフバランスを重視する従業員の増加も受け、20時以降の残業を原則禁止する制度を設けました。一方、従業員からは「仕事量は変わらないのに残業させてもらえない」「早く帰れと言われても仕事は終わらない、むしろパワハラではないか」といった声が挙がっており、労務担当である私自身も上司から残業を禁止されている状況です。一刻も早く本制度の細部を整備したいため、どのようなケースがジタハラに該当するのか、また考えられるリスクにはどのようなものがあるのか、企業として取れる対策は何かを把握したいです。

A. 企業側が対策を講じない状態で、従業員に対し一方的に残業を禁止する行為はジタハラに該当する可能性が高いです。企業には「業務の適正化」「適切な勤怠管理」「相談窓口の設置」といった対策が求められます。

従業員の残業時間を削減するためには単に残業禁止を命じるのではなく、企業としても従業員の業務を適正化するための具体的な取り組みを行わなければなりません。こうした取り組みを行わず、事実上の残業が放置されていたりサービス残業が行われていたりする場合、企業の経営にとって大きなリスクになり得ます。

具体的には、パワーハラスメントとしてトラブルになることや、何より残業が発生しているのに残業代を払わない、残業代の不払い問題になることが考えられます。その他にも、従業員のモチベーション低下その他の大きな問題が起こり得ます。
どのようなケースが時短ハラスメントに該当しうるのかを知り、「従業員の能力に応じて業務を配分する」「労働状況の実態を把握する」「従業員が相談しやすい環境を整える」といった対策を講じることが必要です。

1. 時短ハラスメントとは

概要

いわゆる時短ハラスメント(ジタハラ)とは、法令や行政上の定義は特にありませんが、企業側が従業員の長時間労働を防ぐために、種々の対策を講じず一方的に残業禁止を求めることだと言われています。

当然ながら、時短を求めること自体はハラスメントにはなりません。例えば、ある従業員の業務量が適正である(所定労働時間に完了することが明らかである等の)場合、従業員に残業禁止を命じることは適切なマネジメントと言えます。

一方、従業員が抱えている業務量が所定労働時間内で完了しないケースにおいて、業務量の調整などを行わずに残業を禁止し、結果的に従業員が自宅で仕事をしている(サービス残業をしている)といった状況が発生している場合は、時短ハラスメントに該当する可能性があります。特に、それまで恒常的残業が生じていた業務について、改善策を講ぜずに残業を禁止する場合は問題とされることが多いです。

背景

時短ハラスメントという概念が生まれた背景には、近年の働き方改革の推進、過労死の増加といった問題があります。手段や過程を考慮しない結果としての生産性という指標や、抽象的なワークライフバランスに企業の目が向き、従業員の業務量を調整するなどの根本的な対策を取らず短絡的に残業禁止の取り組みを行ったことで、結果的に「残業ができないから仕事が終わらない」「残業できないから家で仕事をしている」といった状況が発生。これがハラスメントとして問題視されるようになりました。

2. 時短ハラスメントの具体例

業務時間を短縮するための具体的な対策が伴わず、結果的に従業員にサービス残業などを強いてしまっている以下のようなケースが、時短ハラスメントに該当する可能性があります。

上司が現場を顧みない

従業員(上司にとっての部下)の業務量や状況を把握していない状態で、「残業するな」「早く帰れ」などと一方的に命令するケースが該当します。残業が発生してしまう具体的事情を知らず、改善策を共に考えないままに叱責する事態などは、従業員にとって不合理な状況であり、まさに時短ハラスメントだと言える状況でしょう。

従業員の業務量が適正でない

そもそも所定労働時間に対して従業員の業務量が多すぎる場合、あるいはスケジュールに無理があるような場合での一方的な残業禁止命令は、時短ハラスメントに該当します。

具体策なくノー残業デーや強制消灯を実施している

「従業員のプライベートの時間を確保する」などの目的でノー残業デーや強制消灯などの取り組みを行うこと自体に問題はないものの、業務時間を短縮する具体的な改善策を打たない状態では取り組みの実施が目的化してしまっていると言えます。従業員も対応しようがない状態に置かれると言え、時短ハラスメントだと言えます。

3. 時短ハラスメントによるリスクや悪影響

時短ハラスメントが引き起こしうるリスクや悪影響を紹介します。

残業代不払いの問題となり、法令上・財務上のリスクが発生する

何より大きい直接の悪影響は、残業代不払いの問題に結びついてくることです。残業自体を許可制にすることは法令上認められています。しかし許可していない残業であっても、残業が発生せざるを得ない状態で残業が発生した場合は事業主の責任となります。時短ハラスメントにより、職場で事実上の残業が行われていたり家でのサービス残業が発生したりした場合、従業員がその記録を取っていれば残業代不払いとなります。これは労基法違反であり刑罰の対象ともなりますし、不払いの残業代は過去3年分を支払う必要があります。恒常的に時短ハラスメントによるサービス残業が発生している場合は、非常に大きな額になり得ますし、組織的に行われていた場合は大きな事件にもなり得ます。

労働時間に関連した不法行為となる

実際はきわめて多くの残業が発生している場合、2019年から順次施行された働き方改革関連法により、ほとんどの業種で残業時間の上限規制が行われています。また、法定労働時間を超えた場合や、36協定の通常の枠内の45時間の上限を超えた場合など、それぞれにおいて行わなくてはならない手続きがあります。これらが行われていないことになり、労働時間管理の観点からも、労基法違反の問題が発生し得ることになります。

パワーハラスメントによるトラブルになる

2021年からは、パワハラ防止法は中小企業に対しても施行され、パワハラは全ての企業で防止する措置を行う義務がある問題となっています。厚生労働省から、パワーハラスメントの6類型の基準が提示されていますが、時短ハラスメントはこのうちの「過大な要求」の典型的なものだと言え、従業員が行政機関に訴え出ることが考えられますし、裁判などにも発展する係争になり得るといえます。

従業員のモチベーションが低下する

「残業はできないが業務を遂行しなければならない」という状況において、従業員は仕事を持ち帰ることになります。自宅以外の場所(喫茶店やファミリーレストラン、漫画喫茶など)で仕事をした場合はかえって自己負担が増えるため、モチベーションの低下を招く恐れがあります。離職の可能性も上がり、企業もダメージを受けかねません。

従業員の仕事の質が低下する

一方的な残業禁止命令は、結果的に従業員の業務の質を下げる恐れがあります。「早く終わらせなければ」という思考が焦りを招き、従来のパフォーマンスを発揮できず、仕事を雑に進めてしまう従業員が発生する可能性があるためです。「丁寧な対応」や「高い品質」で顧客の信頼を獲得している企業にとっては、ブランド力の低下につながりかねません。

従業員が心身に不調をきたす

業務時間短縮の改善策がない状態での残業禁止命令は、従業員にプレッシャーをかけることになります。ただただ「スピードを早めねばならない」ことが求められている状況ですから、従業員にとってはストレスであり、その状態が継続すればいずれ体調を崩したり、うつ病などの精神疾患を発症したりする可能性も考えられます。従業員の休職や退職につながれば、企業は生産力を失うことになります。

現場マネージャーの負担が増加する

企業の上層部(幹部)が一方的に残業禁止を指示するケースにおいては、現場マネージャー(中間管理職)が間接的に部下である従業員の残業を禁止することになります。中には自らが従業員の業務を巻き取るなどして対応するマネージャーが発生することも考えられ、そうした場合は上述のような心身の不調がマネージャーにも起こりえます。結果、企業にとって重要なポジションを担う人材を失うことになりかねません。

人材が育たなくなる

全従業員に一律で適用する残業禁止命令は、人材育成を阻む要因になりえます。未経験の従業員や入社して間もない若手層は、一般的にその他の社員と比べて業務効率が低いものです。「これまでは時間をかけて人材を育てていた」というような企業、あるいは体系立てられた育成方針・方法がない企業では、一律の残業禁止命令が人材の成長を鈍化させる恐れがあります。

4. 時短ハラスメントの対策

時短ハラスメントによる悪影響を防ぐために、企業側が実施すべき対策をご紹介します。

残業理由を洗い出して整理する

従業員が残業してしまう理由を明らかにし、課題を整理します。
可能であれば業務効率化による労働時間の短縮を図りますが、ある従業員の業務量が所定労働時間に対して明らかに多い場合などにおいては、以下の対策を講じる必要があります

①顧客との調整・交渉を行う
顧客とのやり取りが頻回に発生する業務においては、顧客からの連絡待ちなどの状況が必ず起こるため、「対応人員を増やす」といった自社の取り組みだけでは業務時間を短縮できないケースもあります。そうした場合は、顧客に(常識の範囲内で)スケジュールの再調整を相談することが対策として考えられます。

そもそも顧客が希望する納期設定が厳しい場合は、現場の従業員では対処できないこともあるため、時にはマネージャーなどが顧客に掛け合うことも大切です。

また、企業として顧客に対し「ノー残業デー」を宣言することもひとつの対策です。

②業務量を適正化する/労働力を確保する
現場マネージャーは、部下である従業員の能力差も鑑みつつ、各員の業務量のバランスが取れるよう仕事を配分します。処理能力が高い従業員や、仕事を引き受けてしまいがちな真面目な従業員に業務が偏らないよう、注意が必要です。

また、現在の人員だけでは対応しきれない業務量が常にあるようなケースでは、新たな労働力を補充することが対策として考えられます。

③勤務状況を正確に把握する
残業禁止を求めている状況においては、従業員が申告なくこっそりと残業しているケースも考えられるため、見えない部分まで含めた労働状況の実態を把握することは重要です。また、そうした残業が適正なものであれば、残業手当の支給が従業員のモチベーション低下防止につながります。

退勤後に顧客にメールを送っていないか、業務量と労働時間がのバランスは適切か、といったことをチェックすることで実態の把握が可能ですが、企業や現場マネージャーとしては、まず相談しやすい環境を整備することも大切です。

④マネージャーの役割を定義し育成する
時短ハラスメントの発生は、現場マネージャーの労働基準法など労務管理に対する知識不足が原因になることもあります。企業としては、成果の追求だけでなく部下の労務管理もマネージャーの責務であることを定義するとともに、研修カリキュラムを用意するなど労務管理を実行できるよう育成することも重要です。

⑤相談できる環境を整備する
時短ハラスメントに限りませんが、従業員が上司などを介さず問い合わせられる相談窓口を設置したり、アンケートを実施したりすることは、企業と従業員との間に発生しうる各種トラブルを未然に防ぐために有用です。
相談窓口は従業員が利用しやすいよう、匿名で利用できるよう整備することがポイントです。

まとめ

働き方改革を推進する上で重要なのは、企業としても、従業員の業務適正化を目指した種々の対策を講じることです。時短ハラスメントを招かないよう、従業員に対する残業禁止が目的化しないよう注意しましょう。

労働環境を改善する方法としては勤怠管理の仕組みを見直すことも重要です。現場マネージャーや労務担当者の自助努力のみに頼らず、例えば「残業状況に応じて従業員とマネージャーにアラートする機能」などを搭載した勤怠管理システムを導入することも、従業員の残業時間を低減する取り組みとしては有効です。
また、PCのログや入退室記録と勤怠打刻とを比較し、乖離時間を洗い出すことで勝手な残業を抽出して隠れ残業を抑制することも可能になります。

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