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医療機関に勤めながらワクチン接種を拒否する従業員に対して自宅待機の措置を取ることは可能でしょうか?

法律上、ワクチン接種を強制することはできません。ワクチン接種拒否を理由とした不利益取り扱いは法違反に当たる可能性があるため、自宅待機命令でなく、話し合いや配置転換などで対応する必要があります。
公開日時:2021.09.24 / 更新日時:2022.03.09
詳しく解説

Q.医療機関に勤めながらワクチン接種を拒否する従業員に対して自宅待機の措置を取ることは可能でしょうか?

従業員300人規模の病院で人事をしています。新型コロナウイルス感染症の対策として病院の従業員全員にワクチン接種を推奨していますが「ワクチンに不安がある」と言って接種を拒否し続けている者がいます。ワクチン未接種の場合2回ワクチンを接種した人よりも格段に感染リスクが高いため、院内の感染防止対策のためワクチン接種を了承するまで自宅待機命令を出すことを検討しています。患者の安全第一を考えやむなく行う措置として自宅待機は認められますか?また、ワクチン接種を拒む従業員を解雇できるかどうかも知りたいです。

A.法律上、ワクチン接種を強制することはできません。ワクチン接種拒否を理由とした不利益取り扱いは法違反に当たる可能性があるため、自宅待機命令でなく、話し合いや配置転換などで対応する必要があります。

従業員に求める新型コロナウイルスのワクチン接種は「接種を受けるよう努めなければならない」という予防接種法第9条の規定を根拠した「努力義務」です。ワクチン接種が望ましい医療機関の従業員であっても、接種をするよう強制はできません。あくまで本人が納得したうえでワクチンを接種するのが原則です。

また、法律ではワクチン接種を受けていない人に対する職場内での差別的扱いも禁止されています。このため従業員のワクチンの接種拒否を理由とした解雇を雇用主が命じることはできません。ワクチン接種拒否を理由とした従業員への自宅待機の命令も法の趣旨と照らし合わせると違法となる可能性があります。

ただし、ワクチン未接種で感染リスクが高い従業員が病院内で勤務する場合、患者や利用者の安全を考慮し対策を講じる必要があるのも事実です。その場合、解雇はもちろん自宅待機を命じる措置は避け、「接種に協力してもらえるよう再度話し合いをする」、または「患者と接する機会が少ない内勤への配置転換を提案する」などの対応が望ましいと言えます。

医療現場であってもワクチン接種はあくまで努力義務の範囲

予防接種法第9条の規定や厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A」によれば、ワクチン接種は努力義務であり、医療現場で働く従業員も例外ではありません。

海外では医療従事者に新型コロナワクチン接種を義務化する動きがありますが、日本でそのような法律や条例は現状ありません。一般的な企業で働く従業員と同様に医療現場で働く従業員を対象に接種を強制することや、病院独自に接種を義務付けるルールを適用することは原則できないと考えられます。

また、厚生労働省は、ワクチン接種を拒否する選択の尊重や、接種を拒否した人に対しての職場内での差別的な扱い禁止についても示しています。例えば、従業員にワクチン接種の必要性を伝え、接種するよう従業員に要望することは可能ですが、「ワクチンを打っていない人は職場に来るな」と従業員に通達するようなことは法の趣旨に反しています。

このため、雇用主が従業員の意思に反してワクチン接種を強制すれば民事訴訟の対象となる可能性もあります。日本企業の多くは訴訟の可能性を考慮したうえでワクチン接種の「努力義務」を遵守する方針であり、複数の国内大手企業も「義務化は考えていない」と示しています。

解雇や自宅待機命令は原則できない

ワクチン接種の強制ができないのは、憲法が保障する「本人の自己決定権の尊重」にもとづきます。ワクチン接種が努力義務となっているのも、個人の自由を尊重するためです。ワクチン接種を従業員が拒否したことを理由とした懲戒解雇や自宅待機命令も「事実上のワクチン接種強制」に該当すると考えられるため原則できません。

また、このような業務命令を出すためには労働契約に「新型コロナウイルスのワクチン接種を拒否した場合は自宅待機の措置を取る」といった内容が予め明記されている必要があります。ワクチン接種についての自己決定権が国から認められているなか、このような契約内容が正当と認められるかどうかも法的な争点になり得ます。

「医療現場において患者の安全を重視するため」という合理的な理由であっても、現状では「ワクチン接種を拒否した従業員を解雇または自宅待機させる」ことの明確な根拠となる法律や指針がありません。病院の判断で解雇や自宅待機を命じた場合、民事訴訟に発展するリスクが高いと言えます。

また、医療機関や一般企業を問わず地域によってはワクチン接種が進んでいない現状もあります。「ワクチンを2回接種するまで自宅待機」という命令を出せば不当に自宅待機が長引いてしまう可能性もあり、この理由からもワクチン接種の拒否を理由にした自宅待機命令は難しいと言えます。

従業員がワクチン接種を拒否した場合の対応

法的にはワクチン接種を強制することは難しいとは言え、医療機関側が感染リスク削減の面から従業員にワクチン接種を求めること自体は問題ありません。ただし、急性疾病やアナフィラキシーといった重度の過敏症の既往歴があるなど、ワクチン接種ができない場合もあります。ワクチンを接種することができない人の事情も鑑みて、対応は十分に注意するようにしましょう。

その上で従業員がワクチン接種を不安視している場合には、感情を尊重したうえで以下の内容を整理して伝えます。

  • ワクチン接種に関する不安は軽視されるべきではないこと
  • ワクチンの安全性に関する正確なデータやワクチンの効果に関する根拠
  • ワクチン未接種の方が感染後の重症化リスクが高いこと

従業員がワクチン接種による副反応を懸念している場合は、ワクチン接種の特別休暇制度を設ける制度上の工夫も有効です。

説明を尽くしたうえでも従業員がワクチン接種を受け入れない場合は、患者と接する機会が少ない内勤への配置転換を提案します。現場によっては人員や必要な経験の問題から配置転換が難しい場合もあるため、従業員の合意を取ったうえで個別に処遇を決めることになります。

まとめ

従業員のワクチン接種が重要な医療機関であっても、ワクチン接種を拒否する従業員がいた場合、一般企業と同様、接種強制は原則できません。ワクチン接種はあくまで努力義務であるため、拒否を理由とした解雇や自宅待機命令を出した場合、事実上のワクチン接種強制とみなされます。

解雇や自宅待機命令以外にもワクチンの未接種を理由に従業員に退職勧奨や減給などの不利益な取り扱いをした場合、予防接種法や厚生労働省の方針に反するとして訴訟に発展する可能性があります。ワクチンを打ちたくないという従業員に対しては、個別の話し合いや配置転換の提案をすることが現実的な対応です。

今後、就業規則や雇用契約書などの労働契約でワクチン接種を求めることが可能かどうか議論される可能性もあります。就業規則変更に柔軟に対応するためには、自由に雇用条件をカスタマイズできるシステムが便利です。

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