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ワクチン休暇の導入方法とは? 2023年以降に導入する場合の注意点を解説

公開日時:2023.02.16

新型コロナウイルスの感染症対策として、「ワクチン休暇」制度を導入する企業が増えています。ワクチン接種を受けやすい環境を整えることにより、従業員や家族、取引先への感染リスクも下げられることが期待できます。また、政府からもワクチン休暇の新設や、既存の休暇制度の活用が推奨されており、企業の対応は急務といえます。

本記事では、労働基準法も踏まえてワクチン休暇の導入手順や注意点について解説します。

ワクチン休暇とは

ワクチン休暇とは、従業員がスムーズに新型コロナウイルスのワクチン接種を行えるようにするための制度です。接種日や、接種後の副反応で体調が悪化した場合に休みを取得できる特別休暇制度を指します。

ワクチン休暇の目的・メリットとしては、次のような点が挙げられます。

・平日に予防接種ができるため、混雑を回避でき、感染リスクを下げられる
・接種後に体調不良となっても、抵抗感なく休める労働環境が整備される

また、取引先への感染リスクも減少し、従業員が安心して働ける環境づくりへの取り組みとして、企業イメージの向上にも寄与するでしょう。

なお、この休暇制度は法律による義務ではないため、政府からは特別休暇制度の新設や、病気休暇制度を活用可能とするなどの環境整備が求められています。

ワクチン休暇についての基礎的な知識については、下記の記事でも説明しているため、ご参考にしてください。

以下では、ワクチン休暇を実際に導入する方法や、導入時の注意点について解説します。

ワクチン休暇導入の2つの方法と実施手順

ワクチン休暇の導入方法には、大きく分けて次の2つのパターンが挙げられます。

・ワクチン休暇制度を新設する
・既存の休暇制度を見直して、ワクチン休暇が取れるように対応する

この章では、それぞれのパターンについて詳しく解説します。自社の状況や従業員の意向と照らし合わせて検討してください。

なお、導入における注意点として、従業員を10名以上雇用する事業所が休暇制度を変更する場合、労働基準法第89条1号により、就業規則への記載が義務付けられています。ワクチン休暇は休暇制度に該当するため、制度の新設か、既存制度の見直しかに関わらず、就業規則への記載が必要となります。

既存の休暇制度を見直す場合、元の就業規則に「その他、会社が必要と認めたとき」のような記載がある場合には、就業規則の変更は不要です。スムーズな制度導入のためにも、まずは自社の就業規則を確認しましょう。

【方法①】ワクチン休暇制度を新設する

ワクチン休暇制度を新設する場合には、以下の手順の実施が必要となります。

この場合、ワクチン休暇を年次有給休暇とは別途新設することになるため、有給休暇の日数と混同しないよう、勤怠管理にも注意が必要です。

ワクチン休暇制度の新設の手順

手順1:ワクチン休暇の目的・範囲を明確にする
手順2:ワクチン休暇取得の詳細なルールを定める
手順3:就業規則に記載し、労働基準監督署に提出する
手順4:従業員に周知する

それぞれの手順を詳しく解説します。

・手順1:ワクチン休暇の目的・範囲を明確にする

たとえば、「ワクチン接種率を上げたい」「希望者が円滑にワクチン接種ができ、安心して働ける環境を作りたい」といった目的を事前に定めることが大切です。

目的の明確化により、「接種日のみ取得可能とする」「副反応の療養期間までを含む日数とする」「家族のワクチン接種および看病は休暇対象とする」といった休暇取得の範囲が決まります。

・手順2:ワクチン休暇取得の詳細なルールを定める

手順1の目的を踏まえたうえで、次に、対象者の範囲や取得の条件といった詳しいルールを策定しましょう。具体的には、以下の事項を決める必要があります。

対象者となる従業員
 例:「正社員のみ」「正社員と契約社員のみ」「全ての従業員」

取得の条件・認められる取得理由
 例:「本人のワクチン接種」「副反応による体調不良」「家族の接種付き添い」

取得可能な期間・日数
 例:「ワクチンの接種日のみとする」「ワクチン接種日および副反応の療養期間を含む」

取得の手続き
 例:「ワクチン接種日の一週間前までに口頭で上長へ連絡すること」「上長が許可した場合にのみ取得可能とする」

休暇中の賃金の取り扱い
 例:「有給とする」「無給とする」

なお、ワクチン接種は任意であるため、「希望する従業員は」「ワクチン接種した場合」など、接種が強制でない旨も記載すると良いでしょう。

・手順3:就業規則に記載し、労働基準監督署に提出する

手順2で定めた内容やルールを就業規則に記載し、労働基準監督署に提出しましょう。就業規則を新設・変更する際は、労働基準法に基づいて、「就業規則変更届作成」「意見書作成」「変更後の就業規則を労働基準監督署に提出する」という手順を踏む必要があります。

今後、もし新型コロナウイルス感染症が収束し、ワクチン休暇を廃止する場合には、上記の手順を再度実施する必要がある点に注意しましょう。

・手順4:就業規則の周知

就業規則を制定した場合、社内掲示板やメールなどで、従業員に十分な周知を行うことが必須です。就業規則に関する従業員への周知は、労働基準法第106条により、次のように規定されています。

労働基準法第106条 第1項
各作業所の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって労働者に周知しなければならない

具体的な周知方法としては、「メール」「社内報(紙・WEB媒体)」「社内掲示板・SNS」「朝礼」などがあります。自社の状況に合わせて適切な方法を検討・選択してください。

【方法②】既存の休暇制度をワクチン休暇に対応できるよう見直す

既存の休暇制度を見直す場合は、ワクチン休暇制度を新設する場合に比べると、さまざまな手順が省略できます。制度の詳細な内容を決めたり、就業規則に詳しく記載したりする必要がないためです。具体的には、現・就業規則の休暇制度の箇所に「ワクチン接種及び副反応発生時の休養を認める」といった旨を追記します。

また、休暇の取得を認める範囲に、家族の療養も含める場合には、その旨も併記しましょう。あるいは「その他、会社が必要と認めたとき」といった広範な意味を持つ記載をすることにより、ワクチン接種以外の場合にも応用可能とする方法もあります。

なお、就業規則に記載した後は、「就業規則の変更」に当たるため、労働基準監督署への届け出と、従業員への周知が必要となり、上記の手順3・4と同様の手続きを行うことが必要です。

現行の休暇制度を見直す方法であれば、現行制度にワクチン接種が可能となることを追加するだけのため、従業員からの不満も抑制できると想定されます。

ワクチン休暇導入の注意点

ワクチン休暇を導入する際は、メリットだけではなく、以下の注意点も考慮したうえで導入しましょう。

ワクチン休暇の導入時の注意点

・一度就業規則を新設してしまうと変更が難しい
・勤怠管理が複雑になる

それぞれについて詳しく解説します。

一度就業規則を新設してしまうと変更が難しい

一度就業規則に新しい制度を記載すると、後に制度変更をする際にも人的・時間的コストがかかるため、変更が難しくなります。そのため、本当に制度の新設が必要かどうか、事前に十分検討する必要があります。

前述のように、変更する際にも、新設した場合と同様の手順である、「就業規則変更届作成」「意見書作成」「変更後の就業規則を労働基準監督署に提出」といったフローを実施しなければなりません。

特に意見書は、従業員の代表者から意見を聴取して作成するため、手間がかかります。代表者とは、従業員の過半数が加入している労働組合の代表者を指します。労働組合がない場合は、従業員の過半数が支持する代表者から意見聴取をすることとなります。

ワクチン休暇は新型コロナウイルスが流行している現在に必要な制度です。そのため、感染が収束して不要な制度となった場合、就業規則の変更には多大なコストが発生してしまうこととなります。

対応策としては、就業規則を新設せず、既存の休暇制度の中でワクチン休暇を取得できるよう検討することが効果的です。

たとえば、既に「病気休暇制度」や、「失効年休積立制度」がある場合には、ワクチン接種の際にも取得可能とするよう見直す方法があります。この方法は、厚生労働省が推奨しているため、検討されることをおすすめします。

失効年休積立制度とは?

失効した年次有給休暇を、病気療養などの際に使用できるようストックしておける制度です。

勤怠管理が複雑になる

ワクチン休暇を通常の有給休暇とは異なる形式で特別休暇として導入する場合、勤怠管理の複雑化が想定されます。通常の有給休暇と特別休暇との、それぞれについて休暇日数を計算しなければならないため、処理が複雑となり、給与計算のミスなどのリスク発生も考えられます。

さらに、ワクチン休暇を時間単位・半日単位で設定しているなどの場合、労働時間の把握や計算がより複雑になります。

対応策としては、ワクチン休暇や有給休暇、その他の休暇を、それぞれ算出できる勤怠管理ソフトを導入することで管理と計算を効率化し、ミスの予防につなげることが挙げられます。

まとめ

新型コロナウイルスの感染症対策における、ワクチン休暇の導入方法や注意点について解説しました。

新型コロナウイルスは未だ企業活動に影響を及ぼしていますが、今後は収束も視野に入れて就業規則を検討することが大切です。

新型コロナウイルスのワクチン接種を推進し、従業員の健康維持を実現するためには、ワクチン休暇を時限的に導入することも推奨されています。

ワクチン休暇は、ワクチン接種を希望する従業員にとって、安心して接種できる環境整備のための制度です。従業員の健康維持を実現するために、円滑な制度の導入および運用を行いましょう。そのためには、制度変更にも柔軟に対応可能な勤怠管理システムの活用も有効です。

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