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人事・労務なんでもQ&A

接客業企業の人事です。新型コロナワクチン接種済みの表明を従業員に義務付けようとしていますが差別にあたりませんか?

ワクチン接種済みの表明を義務付けることは差別にあたる可能性があります。表明を求める場合は個別に同意を取るか任意にしましょう。
公開日時:2021.11.24 / 更新日時:2022.03.09
詳しく解説

Q.接客業企業の人事です。新型コロナワクチン接種済みの表明を従業員に義務付けようとしていますが差別にあたりませんか?

接客業の企業の人事です。雇用している従業員の多数がお客様と接する業務を担当しています。コロナ禍における安全性アピールと売上回復のため、従業員に「新型コロナワクチン接種済み」の表明をさせている同業の企業があると聞きました。この例に倣い、自社で新型コロナワクチン接種をしたことの表明を従業員に義務付けようとしていますが、未接種の従業員と接種済みの従業員を区別して業務にあたらせることは、差別にあたりませんか?

A.ワクチン接種済みの表明を義務付けることは差別にあたる可能性があります。表明を求める場合は個別に同意を取るか任意にしましょう。

新型コロナワクチン接種の強制は法律上できません。また、接種済みの表明を義務化することはワクチンを接種していない人への職場での差別的取り扱い防止を企業に要請する厚生労働省の方針に反しているため、差別に当たる可能性があります。自社の安全性をアピールするために従業員に「ワクチン接種済み」の表明をしてもらう場合は、会社から強制するのでなく、個別の同意を取るか、任意での表明を求めるようにしてください。実際に「ワクチン接種済み」の表明を従業員に推奨している企業の例では、接客時の「接種済み」表明か、新型コロナウイルスの「抗原検査済みかつ陰性」の表明かを従業員がそれぞれ任意で選ぶ方法を採用しています。

ワクチン接種の表明を義務付けることは差別にあたる可能性が高い

職場において、従業員がワクチン接種したかどうかの表明や届出を義務付けることは予防接種法や厚生労働省の方針に照らし合わせると差別にあたる可能性が高いと考えられます。

ワクチン接種は「接種を受けるよう努めなければならない」という予防接種法第9条で規定される努力義務なので、原則強制はできません。新型コロナワクチン接種に限らず、予防接種法にもとづいて行われる4種混合、麻しん、風しんの定期接種でも同じ規定が適用されています。

(予防接種を受ける努力義務)

第九条 第五条第一項の規定による予防接種であってA類疾病に係るもの又は第六条第一項の規定による予防接種の対象者は、定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種(同条第三項に係るものを除く。)を受けるよう努めなければならない。

2 前項の対象者が十六歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者は、その者に定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種(第六条第三項に係るものを除く。)を受けさせるため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

また、厚生労働省は企業に職場でワクチン接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをしたりしないよう求めています。

2.ワクチン接種を受けていない人に対する差別的扱いの防止

新型コロナワクチンの接種は強制ではなく、接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われます。職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていないことを理由に、職場において解雇、退職勧奨、いじめなどの差別的な扱いをすることは許されるものではありません。

特に、事業主・管理者の方におかれては、接種には本人の同意が必要であることや、医学的な事由により接種を受けられない人もいることを念頭に置いて、接種に際し細やかな配慮を行うようお願いいたします。

ワクチン接種済みの表明を義務付けることは事実上の接種強制にあたります。このほかにも、接種を表明させる、あるいは接種したことを職場に知らせる届出を義務付けることも、プライバシー保護の観点から問題が生じると考えられます。

接種済み、未接種の従業員に対する処遇差は付けられない

顧客に向けた安全確保のため、ワクチン接種済みかどうかを表明するよう従業員に求める場合、業務命令としてではなく、従業員に同意を取ったうえで対応してもらう必要があります。ワクチン接種済みかどうかを表明していないからと言って、評価を下げる、シフトを減らす、自宅待機命令を出す、一方的に配置転換をするといった処遇差を付ける取り扱いは差別にあたります。

このようにワクチン接種済みの表明については、処遇差を付けた場合に民事訴訟に発展するリスクがあるため、多くの企業では慎重な姿勢を示しています。

2020年12月には国会で、ワクチンの未接種者に対し「不利益な取り扱いをしないよう周知する」旨を定めた付帯決議も可決されています。法的拘束力は明確にないものの、未接種の従業員に待遇差を付けると付帯決議の内容を根拠に訴訟の際に不利になる可能性もあります。

接客業や医療現場など、店舗や施設の安全性を高めたい職場で従業員にワクチン接種を推奨することは問題ありません。ただし、過剰にワクチン接種を迫ったり、未接種を理由に解雇やシフト減をちらつかせたりする行為はハラスメントにあたる可能性もあります。

医療現場におけるワクチン接種について詳しくは 「医療機関に勤めながらワクチン接種を拒否する従業員に対して自宅待機の措置を取ることは可能でしょうか?」を参考にしてください。

ワクチン接種が困難な人への配慮も必要

多くの接客業の企業では「安全性や感染防止の観点からワクチン接種や接種済みの表明を求めたい」というのが実情ですが、「健康上の問題からそもそもワクチン接種ができない人」がいることを考慮しなくてはなりません。厚生労働省では、以下の人はワクチンを接種できないと示しています。

  • 重い急性疾患にかかっている方
  • ワクチンの成分に対し、アナフィラキシー※など重度の過敏症の既往歴のある方
  • 上記以外で予防接種を受けることが不適当な状態にある方
薬や食物が身体に入ってから、短時間で起きることのあるアレルギー反応のこと

上記に加え、アストラゼネカ社のワクチンの場合は、以下の人も接種することができません。

  • ワクチン接種後に血小板減少症を伴う静脈もしくは動脈の血栓症を起こしたことがある方
  • 毛細血管漏出症候群の既往歴のある方

ワクチン接種が困難な事情があること自体も、従業員のプライバシーに関わる情報です。ワクチン接種が個人の選択にゆだねられている以上、ワクチンを打てない健康上の理由を無理に聞き出したり、ワクチンを打たない理由について問いただしたりすることはハラスメントに該当すると考えられます。

ワクチン接種表明に関する企業の対応例

安全性をアピールする目的から、従業員に「ワクチン接種済み」のマークを付けるよう推奨している小売・飲食業がすでに現れています。ただし、法的にはワクチン接種および接種済み表明の義務化は難しいため、「従業員にワクチン接種や接種済みの表明をするよう推奨する」までが企業側が求めることが可能な範囲と考えられます。実際の対応例は以下を参照してください。

大手飲食チェーン

接客時に「ワクチン接種済みのマークを身に付ける」というかたちで、ワクチン接種済みの表明を従業員に推奨している。表明に抵抗がある従業員やワクチン接種完了に時間がかかる従業員向けの代替措置として新型コロナウイルスの抗原検査を活用している。従業員は、抗原検査を受けて陰性だったか、ワクチン接種済みか、ネームプレートでの表明形式を選べる。

2021年11月以降は、ワクチンを接種した従業員と、より確実性の高いPCR検査が陰性だった従業員にマークを付与していく方針を示している。

大手家電販売店

ワクチンの2回接種が完了した従業員に対してワクチン接種済みシールを発行し、接客時にシールを貼った名札を着用するよう推奨している。ただし、接種済みシールを実際に貼るかどうかは、会社の業務命令による強制でなく従業員の任意としている。

従業員にワクチン接種済みの表明を求める企業は、現状少数派です。日本では予防接種法の関係から企業は従業員のワクチン接種自体を任意または推奨にとどめるケースが多数派であり、政府や経団連はワクチン接種や表明の義務化より、接種証明書による割引など、ワクチンを接種したことのインセンティブを設ける方向の対策を進めています。

まとめ

接客時にワクチン接種済みの表明を義務付けることは、予防接種法の観点や厚生労働省の方針に照らし合わせると法違反にあたる可能性があります。安全性のアピールが重要な業態であっても、従業員にワクチン接種済み、未接種の区別による待遇差を付けることは、職場における差別として民事訴訟に発展するリスクがあります。

「ワクチン接種済み」と知らせるマークを従業員に身に付けさせる飲食や小売の企業も現れていますが、表明の義務付けはせず、あくまで従業員の任意にとどめているのが現状です。

日本国内ではワクチンを2回接種した国民の割合も増えており、3回目の接種推奨も検討されています。今後、ワクチン接種に関しての政府方針が新たに出される可能性もあります。ワクチン接種や新型コロナウイルスに関連する規定を自社で新たに設けるには、就業規則変更が必要な場合があります。その場合、就業規則、雇用条件の変更等に素早く対応できる労務管理システムの活用を検討してみてください。

2021年10月時点での新型コロナウイルスのワクチンに関する情報にもとづきます。

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