人事・労務なんでもQ&A
変形労働時間制とフレックスタイム制に適している職種や、2つの制度が併用可能であるかを知りたいです。
Q.変形労働時間制とフレックスタイム制に適している職種や、2つの制度が併用可能であるかを知りたいです。
現在、変形労働時間制をすでに導入している従業員300人規模の中小企業の人事です。可能であればこれからフレックスタイム制の導入も検討したいと思っています。フレックスタイム制に適している業界や職種、2つの制度が併用可能であるかどうかを知りたいです。
A.変形労働時間制は、繁閑期のある業界や職種、フレックスタイム制には特に情報通信産業の企画職やエンジニアなどが向いています。2つの制度は併用することはできません。
変形労働時間制は適用できる単位ごとに、1年単位、1か月単位、1週間単位に分けられますが、おおむね繁閑期のある業界や職種に向いています。このうち、1週間単位の変形労働時間制を適用できる職種はあらかじめ決まっています。フレックスタイム制は特に情報通信産業での導入が多く、企画職や記者、エンジニアなどが向いています。
また、フレックスタイム制は、変形労働時間制の中の1つの制度であるため、変形労働時間制との併用できません。
フレックスタイム制の概要とメリット・デメリット
フレックスタイム制度は一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が⽇々の始業・終業時刻、労働時間を⾃ら決めることのできる制度です。労働者が自らの裁量で働く時間をコントロールできる点が大きな特徴と言えます。制度を適用された労働者は、企業側があらかじめ設定した総労働時間の中で、仕事を始める時間、終えて帰宅する時間、業務に従事する時間などを自身で決定します。
このほか、制度の詳細については「用語集 フレックスタイム制度」をご覧ください。
■向いている業界・職種
フレックスタイム制度の適用に向いているのは、主に以下の特徴を持つ職種です。
- 仕事が細分化されている
- 自分のペースで進められる
- 仕事において個人の裁量が大きい
具体的には、IT、通信、インターネット、マスコミ業界で導入が多く、企画職やエンジニア、記者、デザイナー、プログラマーなどの職種で導入が進んでいます。
■フレックスタイム制のメリット
フレックスタイム制のメリットとして、以下の3つを挙げることができます。
- 業務効率の改善や向上
- 優れた人材の確保や流出リスクの回避
- 残業時間の削減
フレックスタイム制導入により、従業員は自らの意思で業務に従事する時間を決められます。家庭の事情がある度に遅刻をしたり、朝の満員電車の混雑を気にしたりする必要もないため、高いモチベーションを保って働けることから、通常の働き方よりも業務効率の改善がしやすくなります。
また、自分の働ける時間に勤務できるため、子育てや通勤時間がネックとなっていた優秀な人材の雇用につながります。優れた人材が、働く時間を理由に離職してしまうといった、自社の人材流出リスクの回避も期待できます。
このほか、フレックスタイム制によって、ある日は10時に出勤して夕方4時に帰ったり、ある日は法定時間通りの時間で仕事をしたりと、個人の裁量で仕事の時間配分ができるため、トータルでの残業時間軽減が可能になります。
■フレックスタイム制のデメリット
一方、フレックスタイム制のデメリットとして挙げられるのが主に次の3点です。
- コミュニケーション不足になる
- 従業員ごとの出勤時間の管理がしづらい
- 労働時間や残業代などの計算が複雑になりがち
フレックスタイム制の導入で、各従業員が出勤時間や退勤時間を個人の裁量できめることにより、従業員それぞれが社内で顔を合わせたり、会話をしたりする時間が自ずと減少します。これにより制度導入前よりもコミュニケーションが不足する恐れがあります。また、管理面でも、フレックスタイム制で出勤が義務付けられている「コアタイム」を除く、いつ出社してもよい時間帯「フレキシブルタイム」のどこで従業員が出勤するか把握が難しく、会議や商談などの調整がしにくくなる場合もあります。
このほか、フレックスタイム制では「精算期間」という労働すべき時間を定める期間と、企業が清算期間内に労働すべきであると定める「総労働時間」という時間があり、残業時間は、実労働時間から総労働時間を引いて算出します。この残業代の算出や、法定労働時間を超えた分の労働時間を翌月に繰り越すことができる、というフレックスタイム制独自の労働時間の算出方法が煩雑になり、給与計算にも通常より手間がかかる恐れがあります。
変形労働時間制の概要とメリット・デメリット
変形労働時間制は特定の部署やチームの業務量に応じて会社が一定期間内、従業員の労働時間を柔軟に調整する制度のことです。企業の状況に合わせて1年単位、1か月単位、1週間単位のいずれかの期間を設定して運用します。
変形労働時間制の概要の詳細は「用語集:変形労働時間制」をご覧ください。
■向いている業界・職種
変形労働時間制は、繁閑がはっきりしている職種に向いています。1年単位、1か月単位、1週間単位それぞれに向いている職種の特徴と、具体的な業界・職種は以下の通りです。
向いている職種の特徴 | 導入が進んでいる業界・職種 | |
1年単位の 変形労働時間制 |
・1年を通して業務の繁閑がはっきりきまっている、あるいは予想できる。 ・年末年始などの休みが決まっている。 |
・企業の人事部 ・建設業界の従業員 ・メーカー勤務の従業員 など |
1か月単位の 変形労働時間制 |
・月の間で忙しいのが前半、余裕があるのが後半など月内で忙しい時期が決まっている | ・医療機関の事務担当 ・タクシー運転手 ・経理職 ・運送業 ・介護職 など |
1週間単位の 変形労働時間制 |
・適用できる業種はあらかじめ決まっている |
・小売業・料理・飲食店、旅館事業のうち、 |
■変形労働時間制のメリット
変形労働時間制のメリットとして、主に以下の2つを挙げることができます。
- 残業代削減につながる
- メリハリをつけて働ける
変形労働時間制によって業務量に合わせて勤務人数の調整が可能になるため、通常の働き方よりもリソース調整がしやすく残業代削減にもつながります。特に、「月末は特に忙しい」「1月はそれほどでもないが12月は忙しい」など、業務量に波がある業種、企業にとっては大きなメリットが期待できます。加えて、企業は繁忙期の定時時間を延長でき、従業員の所定労働時間が増えるため、全体的な残業時間や残業代の削減が期待できます。
また、繁忙期には労働時間を長く、閑散期の仕事量が少ない日は短くして早く帰宅できるようにする、といったメリハリを付けた働き方も可能になります。
■変形労働時間制のデメリット
一方、変形労働時間制のデメリットとして挙げられるのが以下の主に3点です。
- 制度の導入に手間がかかる
- 勤怠管理、給与計算が複雑になる
- 従業員から不満が出る場合もある
変形労働時間制の制度の導入には、従業員の勤務状況の把握が必要です。その上で、運営方法の検討、労使協定の締結、労働基準監督署への届け出は必ず実施しなければならず、一朝一夕の導入はできないのがデメリットと言えます。
また、変形労働時間制の導入後には、法定休日の労働や深夜労働など残業代の計算が、通常の働き方よりも複雑になります。導入した後は変形労働時間制の適用者とそうではない従業員ごとに労働時間が異なるため、勤怠管理や給与計算にかかる手間が従来よりも増すためです。
このほか、他部署の業務対応で必ずしも想定されていた定時時間で帰宅することができない、という事態が発生する可能性があり、制度について十分説明を尽くしていないと、従業員から不満が噴出することも考えられます。
フレックスタイム制と変形労働時間制両方の違い
フレックスタイム制と変形労働時間制との大きな違いは、1日の労働時間が決まっているかどうかです。また、フレックスタイム制は始業時間・終業時間、その日の労働時間を自分である程度決めることができますが、変形労働時間制は、年単位や月単位で1日の労働時間を平均化するため1日単位で労働者が決めることはできません。
このほか、フレックスタイム制導入の目的が従業員のワークライフバランス向上であるのに対し、変形労働時間制は従業員のためでなく企業側の都合に合わせて労働力を合理的に投入するために導入する点でも異なります。
それぞれの制度の違いは以下の表のまとめをご覧ください。
フレックスタイム制と変形労働時間制の違い
フレックスタイム制 | 変形労働時間制 | |
1日の労働時間 | 労働者自身が1日単位で自分で決める | 労働者自身では決められない 会社側が年単位や月単位で1日の労働時間を 平均化する |
出社・退社の時間 | 労働者自身が1日単位で自分で決める 必ず出社しなくてはならない「コアタイム」 を設ける場合も |
労働者自身では決められない 会社側が決めた出社・退社時間にもとづく |
目的 | 労働者に自由度の高い働き方を提供し、 ワークライフバランスに配慮するため |
繁忙期など、会社側の都合に合わせて労働力を 合理的に投入するため 全体的な残業時間の削減につなげるため |
まとめ
フレックスタイム制や変形労働時間制など、企業の業態または従業員の事情に合わせた柔軟な働き方があります。同じ、法定労働時間以外の働き方を実現させる制度といえども、それぞれの導入目的は異なります。制度の特徴や、メリット・デメリット、自社に合った制度かどうかを判断した上で導入を検討する必要があります。また、実際にフレックスタイム制や変形労働時間制を導入した場合に、問題なく運用ができるかどうかもあわせて確認するようにしましょう。
このほかにも新しい働き方を導入する際は、勤怠管理の仕組みやフローを再検討し、場合によってはより効率的な運用に役立つシステム導入も検討するとよいでしょう。