人事・労務なんでもQ&A
毎年2回、人事評価を伴う面談を行っていますが「評価が不公平だ」と社内で不満が挙がっています。納得度の高い人事評価制度にはどのようなものがあるのでしょうか?
Q. 毎年2回、人事評価を伴う面談を行っていますが「評価が不公平だ」と社内で不満が挙がっています。納得度の高い人事評価制度にはどのようなものがあるのでしょうか?
従業員100人規模の中小企業の人事担当者です。毎年2回、人事評価を伴う面談を行っていますが、若手の従業員から「成果を上げたのに評価に反映されない」「評価に正当性がない」と不満が挙がるようになりました。10年以上同じ評価制度を続けてきましたが、時代に合っていない部分もあるのかも知れないと社長と話し合っています。従業員の納得度の高い評価ができる人事評価制度について知りたいです。
A.従業員が納得感を得られる公平な人事評価を行うには、明確な評価基準と業務成果のプロセスを可視化できる評価制度の導入が必要です。
新型コロナウイルス感染症の流行をはじめ、社会情勢の変化が激しい時代、従来と同じ評価方法や目標設定を続けているとすでに実態に合わなくなっている可能性があります。
納得感が得られる人事評価を行うには、印象評価にならない明確な評価基準の導入が欠かせません。また、1年から半年の目標達成度だけで評価すると、年度初めの業務の評価を査定に反映しづらく、評価への不満に直結します。日頃の業務成果をプロセスとともに可視化して評価につなげる仕組みもセットで導入する必要があります。
1.人事評価に不満が挙がる主な要因
人事評価とは「企業のビジョンや方針を示す」「人材の適切な配置と処遇の決定」「従業員の人材育成に生かす」などの目的のもとに行います。評価方法や人事評価制度の運用方法に問題があるとこれらの目的が果たされず、従業員からの不満につながります。従業員から人事評価に不満の声が上がる主な要因として以下の4つが考えられます。
人事評価に不満の声が上がる主な要因
(1)明確な評価基準がなく印象評価になりがち
人事評価に関する明確な基準や評価のマニュアルなどがない状態だと、評価者が正確に評価できません。明確な評価基準がないと、評価者の無意識の印象や好悪の感情が反映された評価になりやすく、従業員に対して「なぜこの評価になったか」数値や理由などにもとづく明確な説明ができないため、不満につながりやすくなります。
(2)評価スパンが1年に1回、半年に1回など長く、評価期間の初期の評価が反映されにくい
評価者に後半の評価の印象が残りやすくなり、全体として公平・正確な評価になりません。評価自体は年2回程度でも、従業員の成果を短時間の面談やコミュニケーションを通じ記録に残す必要があります。
(3)評価者の評価スキルが低い
評価者のスキル不足により、基準点の評価に集中したり、部分的な印象だけで全体を評価したりといった問題が生じかねません。場合によっては人事評価制度に合った評価を身に付けるための評価者教育・研修も必要となります。
(4)人事評価に対する適切なフィードバックがない
人事評価を伝えるだけで、今後の成長につなげるフィードバックを評価者がしていないと、従業員側も人事評価に意義を見出せません。人事評価の基準が定まっていたとしても、なぜこの評価になり、今後どうレベルアップしていけばいいのかの説明が欠けていると、従業員の不満につながりやすくなります。
これらの評価制度や方法の不備が解消されないと、人事評価を通じた成長も期待できず、従業員エンゲージメントの低下や「この企業では正当に評価されない」と感じた従業員の離職が増える恐れがあります。
2.公正な評価が可能な人事評価制度とはどのようなものか?
客観的な評価につながる人事評価制度について、その種類とそれぞれの特徴、利点を紹介します。
公正な評価が可能な人事評価制度の種類
(1)目標管理制度(MBO)
(2)360度評価(多面評価)
(3)OKR(業績評価制度)
(4)コンピテンシー評価
(1)目標管理制度(MBO)
目標管理制度(Management By Objectives、MBO)とは、あらかじめ従業員が自主的に目標を決めて会社と認識を共有し、管理していく方法です。目標管理制度のメリットとして、従業員のモチベーション向上や従業員のスキルアップにつながることが挙げられます。
目標管理制度で設定する個人目標が部署やチームで設定する目標と連動しているため、個人目標を達成することで利益に貢献できていると従業員が感じやすくなり、モチベーション向上につながります。また、従業員の実力を考慮し、努力することで達成できる目標を設定します。従業員は目標達成のために試行錯誤が必要になるためスキルアップに効果的です。
目標達成度合いを評価に反映することで、評価の根拠が高まり納得度が上がるメリットもあります。
(2)360度評価(多面評価)
360度評価(多面評価)は、上司一人の評価だけでなく、同じ部署の同僚や他部門の従業員、または顧客などの評価も人事評価に反映させる方法です。上司一人の印象評価を防げるため、公平性のある評価になりやすく、社員自身が思わぬ強みや弱みを把握できるメリットがあります。
ただし、評価スキルを持っていない人も評価に参加するため、完全に360度評価で査定するのは難しいという問題もあります。そのため、業務に生かすために他の人の評価を本人に伝える形で補完的に使うのが一般的です。
(3)OKR(業績評価制度)
OKR(業績評価制度)は「 Objectives and Key Results」の略称で、Objectives(目標)とKey Results(主要な成果)によって、従業員が高い目標を達成できるように目標管理をする制度です。
OKRでは、企業全体の目標にリンクした従業員個人の目標を設定できるため、個人目標と企業目標に一貫性を持たせられるメリットがあります。また、企業目標が明確になっており、個人やチームのタスクの優先順位が明確になることもメリットの一つです。
OKRは個人と企業の目標がリンクしており、目標設定・進捗確認・評価という一連の流れを高い頻度で行います。硬直的な人事評価に馴染みのないグローバル企業で採用される傾向があります。従業員の実力よりも高い目標を設定するため、OKRの達成率をそのまま評価には使用しません。
(4)コンピテンシー評価
コンピテンシー評価とは、業績が高い社員の行動特性からパターンを事前にモデル化し、それに沿って行動する社員を評価する制度です。指針となるような行動を取れていたかも評価対象となるので、最終的な成果だけでなく、業務プロセスも評価できます。
目指すべき実在の従業員の行動や姿勢が評価項目となるので評価基準があいまいにならず、従業員が目標達成に向けた努力がしやすいメリットがあります。また、評価ポイントが項目として目に見えて分かり、プロセス評価もできるため、透明性のある公平な評価にも期待できます。
3.人事評価制度を改める際の注意点
新たに自社にふさわしい人事評価制度を導入する場合、以下の点を考慮する必要があります。
人事評価制度導入時に考慮すべき点
(1)評価結果の活用範囲を決める
(2)もともとのビジョンや社風に合致した制度にする
(3)人事評価制度の変更により、不利益変更が起きないようにする
(1)評価結果の活用範囲を決める
新たに導入した評価結果をどのように活用するのか明確にします。昇給や賞与に直結するのか、従業員の成長のために補完的に活用する評価(360度評価など)なのか、制度改訂時に共有します。
(2)もともとのビジョンや社風に合致した制度にする
「その評価制度によってより自社のビジョンを明確にできる」「評価制度によってより自社に合致した人材に成長できる」という基準で評価制度を構築します。効果が見込める、目新しいからと言ってもともとの社風や経営理念に合っていない制度を導入するとうまく機能しません。
例えば、成長・挑戦を重視する会社であれば、高い目標を設定するOKRのような人事評価制度を導入し、成果主義だけでなく、協調性や人柄も重視する場合は360度評価を導入するなど、目的に合った制度を検討してみてください。
(3)人事評価制度の変更により、不利益変更が起きないようにする
人事評価制度の変更に伴い、就業規則の変更をした場合、就業規則で定められた賃金や手当などが減り、結果的に不利益変更になる場合があります。人事評価制度の刷新により部分的な不利益変更がやむを得ない場合、従業員の合意や、就業規則変更の合理的な理由の説明が必要です。
まとめ
能力や業績、仕事への姿勢を評価する人事評価制度はモチベーションや生産性の向上などに寄与しますが、うまく機能しないと従業員が不満を抱く、離職を招くといった問題が生じる恐れがあります。そのため、各企業に合った人事評価制度を見極めたうえで導入・運用していくことが重要です。これからは働き方の多様化にも対応した評価制度の構築も求められます。正確な評価と効率化のために、人事情報と勤怠データを合わせて管理できるシステムを利用するのも一つの手です。
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