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従業員の勤務形態を裁量労働制に変更した後、残業代の扱いはどうなりますか?

裁量労働制でも残業代が発生するケースがあるため、正確な労働時間記録に基づく残業代の計算と支払いが必要です。

2021.07.02

詳しく解説

Q. 従業員の勤務形態を裁量労働制に変更した後、残業代の扱いはどうなりますか?

従業員規模300人程度の中小企業の人事担当者です。「働き方の選択肢を増やす」という経営層の方針に則り、制作部門の従業員の雇用形態を裁量労働制に変更することを検討しています。裁量労働制適用後の残業代の扱いはどうなるのか、適用者には残業代を払わなくてもよいのか、法的な観点から詳しく教えていただきたいです。また、通常の働き方から裁量労働制に勤務形態を変更する際の注意点、裁量労働制を導入する場合のメリット、デメリットなども事前に把握しておきたいと思います。

A. 裁量労働制でも残業代が発生するケースがあるため正確な労働時間記録に基づく残業代の計算が必要です。

裁量労働制とは実際に働いた時間ではなくあらかじめ決められた「みなし時間」を基準にする制度です。そのため実際の労働時間がみなし時間を超えていてもいなくても、支払われる給与は変わりません。しかし、休日や深夜に従業員を働かせた場合や、みなし労働時間を8時間超に設定したうえで1日8時間を超えて従業員を働かせた場合は割増賃金が発生し、残業代の支払いが必要になります。
厚生労働省の「
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によれば裁量労働制をはじめみなし時間を基準とする働き方をしていても、正確な労働時間の把握が必要とされており、残業代を計算せずに支払いを怠れば法違反となります。

また、裁量労働制の導入や適用のための手続き、導入後の運用などが不適切で裁量労働制が無効と判断されれば、企業は過去にさかのぼって残業代を支払わなければならなくなります。裁量労働制の導入や裁量労働制への雇用形態の変更時には厳格な要件をクリアし、労使の合意を得なければなりません。

裁量労働制の導入メリットとしては、始業時間と就業時間を自由に決められるなど従業員の業務やライフスタイルに合った働き方ができる点、デメリットは長時間労働が常態化しやすい、導入後に健康確保や苦情処理などが必要になる点などです。

1. 裁量労働制でも残業が発生するケースとその計算方法

裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなくあらかじめ決められた「みなし時間」を基準にする制度であり、実際の労働時間がみなし時間を超えていてもいなくても、適用者の従業員に支払われる給与は変わりません。みなし労働時間が8時間の場合、労働時間が5時間でも、10時間でも8時間働いたとみなされます。そのため、みなし労働時間内に終わらなかった仕事とその時間に対して追加で残業代が支払われることはありません。

ただし、裁量労働制の適用者を休日や深夜に従業員を働かせた場合、または、みなし労働時間をはじめから8時間超に設定したうえで8時間を超えて従業員を働かせた場合は割増賃金が発生し、残業代の支払いが必要になります。それぞれのケースごとに解説します。

休日労働をした場合

日曜日や祝日といった法定休日に裁量労働制の適用者を働かせた場合は、1時間あたり35%以上の割増賃金を支払わなくてはなりません。例えば、1時間あたりの賃金2,000円、割増賃金率が35%の企業で5時間休日労働した場合の残業代は、

2,000円×5時間×1.35=13,500円

となります。

深夜労働をした場合

22時~5時までの深夜時間に裁量労働制の適用者を働かせた場合には、1時間あたり25%以上の割増賃金を支払わなくてはなりません。1時間あたりの賃金2,000円、割増賃金率25%の企業で5時間深夜労働した場合、残業代は以下の計算式で算出します。

2,000円×5時間×1.25=12,500円

みなし労働時間を8時間超に設定した場合

深夜労働や休日労働をしない場合、みなし労働時間が8時間以内なら残業代は発生しませんが8時間を超えて設定されている場合、毎日その分の割増賃金が発生します。例えば、みなし労働時間を9時間としていた場合、このうち8時間は法定労働時間に収まりますが、残り1時間は残業代支給対象の「時間外労働」として扱う必要があります。

8時間を超えてみなし労働時間を設定している場合、1時間あたり25%以上の割増賃金を支払わなくてはなりません。1時間あたりの賃金2,000円、割増賃金率25%、みなし労働時間9時間の企業では、以下の計算式で残業代を算出します。

2,000円×(9時間-8時間)×1.25=2500円

このほか、裁量労働制であっても残業時間は1か月に45時間以内、1年間に360時間までと通常の労働者と同じ上限規定が適用されます。同様にみなし労働時間を法定労働時間を超える8時間以上に設定するためには、労使間で36協定を締結する必要があります。

2. 勤務形態を裁量労働制に変更する際の注意点

裁量労働制を導入し通常の働き方から裁量労働制へ雇用形態を変更するには、厳格な要件をクリアしたうえで、労使間での合意が必要となります。裁量労働制を適用する場合は勤務状況に応じた「労働者の健康・福祉を確保するための措置」が使用者に義務付けられており、措置を行うため企業は裁量労働制適用者の労働時間を正確に把握しなければなりません。そのため、裁量労働制の適用者に対しても通常の働き方をする従業員と同様に正確な勤怠管理を行う必要があります。

専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の違い

裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」があり、それぞれ導入要件、労働基準監督署への届出の方法が異なります。専門業務型の対象となる業務は、士業や新聞記者、デザイナーなど、明確に業務内容が定められているのに対し、企画業務型は対象業務が明確ではありません。そのため適用の濫用を防ぐ目的で、制度の導入や運用面の規定がより厳格に定められています。

専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制
業務の内容新商品、新技術の研究開発の業務、情報処理システムの分析・設計の業務、記事の取材・編集の業務、デザイナー、弁護士、社労士の業務などを含める19業務事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務であって、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し具体的な指示をしない業務
対象者・対象業務を適切に遂行するための知識や経験などを有する労働者
・対象業務に常態として従事している労働者

導入要件

裁量労働制を導入するには労使協定の締結や就業規則の変更をする必要がありますが、労使協定の締結や労働者代表の選挙などの手続きが適切に行われなければ、裁量労働制の適用が無効となる可能性があります。

専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制
導入要件次の事項を定めた労使協定を締結し、所轄労基署に届け出ること。

1. 制度を適用する業務の範囲
2. 適用者には業務遂行の方法・時間配分の決定等に関する具体的な指示をしないこと
3. 1日あたりのみなし労働時間数
4. 労使協定の有効期間
5. 健康・福祉確保措置
6. 苦情処理措置
7. 5および6に関し労働者ごとに講じた措置か記録を、協定の有効期間およびその期間満了後3年間保存すること
委員会の委員の5分の4以上の多数による議決により次の事項について決議し、決議内容を所轄労基署長に届け出ること。

1. 対象業務の範囲
2. 対象労働者の具体的範囲
3. 1日あたりのみなし労働時間数
4. 対象労働者に適用する健康・福祉確保措置
5. 対象労働者からの苦情処理のための措置
6. 本人の同意の取得・不同意者の不利益取扱いの禁止に関する措置
7. 決議の有効期間の定め
8. 4、5、6等に関する記録を、の期間及びその後3年間の保存
労使委員会の要件なし委員の半数が、過半数労働組合(これがない場合は過半数代表者)に任期を定めて指名されていること 委員会の開催の都度、議事録を作成し、3年間保存をすること

1. 議事録を、作業場の見やすい場所への掲示、備付け等によって労働者に周知していること
2. 委員会の招集、定足数等委員会の運営に関する規程が定められていること
3. 4の規程の作成・変更について、委員会の同意を得なければならないこと
4. 委員会の委員であること等を理由として不利益な取扱いをしないようにすること

届出や報告

企画業務型裁量労働制は、専門業務型裁量労働制と比べ労使協定で定める内容が多く「同意しなかった場合の労働者への不利益取り扱い禁止」や「労働時間や対象労働者に同意があったかどうかなど各種記録の保存の義務」などの規定に合意したうえで企業側の義務を遵守する必要があります。

専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制
届出や報告労使協定の所轄労基署への届出1. 委員会の決議の所轄労基署長への届出
2. 当分の間、次の事項について、決議の日から6か月以内に1回、所轄労基署長への報告
 イ.対象労働者の労働時間の状況
 ロ.健康、福祉を確保する措置の実施状況
その他に求められること委員会の決議事項の具体的内容、制度運用上の留意点等について指針が示されていること

3. 裁量労働制導入のメリット、デメリット

裁量労働制のメリットとして、 従業員側は始業時間と終業時間を自由に決められる、仕事をする時間を自分のライフスタイルに合わせることができる点が挙げられます。企業側としては、あらかじめ決めたみなし労働時間数に応じて給与を支払うため、人件費の管理がしやすくなる、成果に応じた評価がしやすくなるなどがあります。

一方、裁量労働制のデメリットとしては、対象労働者に業務が集中すれば長時間労働が常態化する懸念がある、管理側が長時間労働対策を怠れば、対象労働者の健康が危ぶまれる、違法な適用をしていた場合に多額な残業代請求がされるリスクが高い、などがあります

裁量労働制を適切に運用し、適用者のパフォーマンスを上げるには法違反リスクを減らす適切な労務管理や、過重労働を防ぐための時間管理が不可欠です。

まとめ

裁量労働制であっても残業代が発生するケースがあり、残業代を支払わないまま無制限に労働させれば法違反となります。また、裁量労働制を導入し従業員に適用する際には厳格な要件や手続きがあり、手続きが不適切だった場合は裁量労働制自体が無効とみなされ、残業代の支払いが請求されるリスクもあります。

裁量労働制であっても正確な労働時間把握は必須です。残業代が発生しないとしてもみなし労働時間を超過しながら働けば労務リスクが高まるだけでなく、従業員の心身の健康を損なう可能性も高くなります。過重労働を防ぐためにも、適正な労働時間で働いているか裁量労働制に合った勤怠管理の方法で把握する必要があります。

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