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保育士の働き方改革に必須! 適正な勤怠管理のコツ

公開日時:2023.01.26 / 更新日時:2023.02.02

女性の社会進出が進むに従い、課題とされてきた待機児童問題は、さまざまな取り組みにより徐々に改善へと向かっています。しかし、保育の現場では長時間労働や待遇面の不満から離職を選ぶ保育士も多く、人材不足が解消されていない状況です。

このような背景から、各施設において離職防止や生産性向上を目的とした保育士の働き方改革が求められています。

本記事では、保育士の働き方改革を促進するうえで必要なポイントや、保育の現場で重要となる適正な勤怠管理のポイントなどを解説します。

保育業界における労働環境の実態

厚生労働省による2021年4月1日時点の調査によると、全国の待機児童数は5,634人に対し、保育士の慢性的な不足が業界全体で叫ばれている状態です。前年の同調査と比較し約7,000人減少となりましたが、依然として5,000人以上の待機児童について、入園させたくても不可能な状況が発生しています。

 

2021(令和3)年4月1日時点の待機児童数について

また、厚生労働省が2020年8月に発表したデータ(保育の現場・職業の魅力向上検討会(第5回)「保育士の現状と主な取組」)によれば、公営・私営全体における常勤保育士の離職率は9.3%となっており、就職しても1割弱が離職に至っています。さらに、経験年数におおよそ反比例する形で、保育士の人数が減少しているという結果となりました。

保育士の経験年数、採用・離職の状況
保育所で勤務する保育士の採用者と離職者(常勤のみ)

同資料によると、 保育士の退職理由は「職場の人間関係」が最多ですが、2位から4位は給与水準や仕事量、長時間労働といった、労働環境への不満が占めていることが分かります。

上記のような​​保育士不足を代表とする課題を解消するために、働き方改革推進による労働環境の改善が求められているのです。

保育業界の働き方改革を進めるには

働き方改革関連法における労働時間に関する取り決めとして、以下の2点が挙げられます。

  • 時間外労働の上限規制
  • 年次有給休暇の時季指定

時間外労働の上限規制とは、過重労働を防止する法規定です。基本的に、36協定締結により、残業にかかる上限時間を「月45時間」「年360時間」とし、どちらの条件も遵守しなければなりません。

しかし、例外として特別条項に合意すると「年720時間以内」や「休日労働を含み、2か月〜6か月平均で80時間以内」といった上限を延長することが可能です。 

また、年次有給休暇の時季指定では、企業側が条件を満たす従業員に対し「毎年5日間、年休を取得させなければならない」と規定しています。

従業員の自由意思で取得するほか、年間5日までは企業側が年休取得時季を指定し、取得させることも可能です。ただし、その場合も極力従業員の意思を尊重する必要があり、一方的に日程を決定してはなりません。 

保育所の設備運営基準

○保育所の基準は、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)で区分された「従うべき基準」「参酌すべき基準」に従い、都道府県・指定都市・中核市が条例により定める。

[従うべき基準の主な内容]

<職員配置基準>

・保育士

 ・0歳児 3人に保育士1人(3:1)

・1・2歳児 6:1

・3歳児 20:1

・4歳以上児 30:1

※3歳児については、15:1で実施の場合加算あり
※ただし、保育士は最低2名以上配置

・保育士の他、嘱託医及び調理員は必置 ※調理業務を全て委託する場合は、調理員を置かなくても可

<設備の基準>

 ・0、1歳児を入所させる保育所 : 乳児室又はほふく室及び調理室

 → 乳児室の面積 :1.65㎡以上/人

  ほふく室の面積 : 3.3㎡以上/人

 ・2歳以上児を入所させる保育所 : 保育室又は遊戯室及び調理室

 → 保育室又は遊戯室の面積 : 1.98㎡以上/人

[参酌すべき基準の主な内容]
 
・屋外遊戯場の設置 ・必要な用具の備え付け ・耐火上の基準

 ・保育時間 ・保護者との密接な連絡

 

保育士は上記法規定を遵守しつつ、「児童福祉施設の整備及び運営に関する基準第33条第2項」で定める配置基準に則り、年齢別園児数あたりの保育士数を満たすシフトを作成する必要があります。

法令遵守およびスタッフのシフトパターン等を踏まえた勤怠管理をスムーズかつ正確に行うためには、現場に即した適切な仕組みが必要です。

勤怠管理の必要性は、コンプライアンス違反防止のほか、以下のような目的があります。

  • 従業員が安心して働ける環境をつくる
  • 過重労働の早期防止
  • 人件費を正しく把握する
  • 給与計算を正確かつスムーズに行う

企業は、法規定に基づき勤務日数や時間外労働などの勤怠記録を管理しなければなりません。それらを適切に管理することは、勤務時間可視化による労働環境整備や、複雑な給与計算の円滑化にも繋がります。

勤怠管理の方法は、タイムカードや出勤簿などの活用が挙げられます。さまざまな雇用形態、シフトパターンがある保育職において正確な勤怠管理を行うためには、実情に応じた環境整備が不可欠です。中でも最も有効な方法が、勤怠管理システム導入と言えます。

保育業界においても勤怠管理が正常に行えていない場合、勤務時間や仕事量の調整ができず、引いては長時間労働の把握が困難になり、過重労働に繋がります。また、給与計算に影響を及ぼし、支給ミスが発生したり、人件費が正しく把握できないことで、業務効率化が妨げられたりするケースも少なくありません。

そういった環境では不安感が増し、保育士がメンタル不調に陥る可能性もあるため、業界や職場に適した勤怠管理が重要です。

保育業界を取り巻く人材不足を打破するため、まずは労働環境の見直しが必要です。適切な勤怠管理方法を取り入れることで、保育士という特殊な職種が遵守すべき法規定を踏まえつつ、働き方改革の推進が可能となるでしょう。

保育の現場に適した勤怠管理システムとは

法規定の人員確保を前提に、シフト制や交代制といった勤務形態が複雑化しやすい保育現場において、正確かつ円滑な勤怠管理を実現するにはシステム導入が有効です。

ここからは保育職に適した勤怠管理システムのポイントを解説していきます。

保育職に必要な勤怠管理システムの特徴

働き方改革関連法に対応している

業務量や時間外勤務などの状況を正確に可視化し、把握可能かが重要なポイントです。なお、随時行われる法改正の際も円滑に移行できるシステムをお勧めします。

複数拠点や、拠点ごとに異なる業務形態に対応できる

 複数の保育施設にまたがって勤務をする場合、タブレットなどの端末型機器を利用したシステムにより、スマートな出退勤が可能となります。また、施設ごとに異なる業務形態にも対応できるものが望ましいでしょう。

手当てに合わせた勤務条件の判定ができる

例えば「処遇改善等加算Ⅰ*」は正規社員の他、1日6時間以上かつ20日以上勤務する非正規社員も対象になったりと複雑なため、対象者が容易に抽出できるかどうかが重要です。

*処遇改善等加算Ⅰは、保育士の賃金改善を図るために2015年に導入された制度で、在職する職員の平均経験年数によって賃金が加算される仕組みです。

特殊な勤務形態に対応できる

早朝や夜間も開園している保育園の場合、従業員の特殊な勤務形態に対応できるかも重視すべきポイントです。それぞれの情報を一元的に管理可能なシステムが有効と考えられます。

シフト作成に対応している

法規定の配置基準を満たしたシフトを作成するには、従業員に労力と不安が付きまといます。勤怠管理システムの中には従業員のシフト作成機能を備えているものもあるため、働き方改革を機にシステムを導入する場合にはそういったサービスを利用するのもお勧めです。

休暇管理 ができる

年次有給休暇の取得義務化に対応するためには、休暇取得実績の確実な把握・管理が必要です。また、有給以外にも産休・育休などの法定休暇や、夏季休暇などの法定外休暇も同じように管理できるシステムが望ましいです。

 

また、保育施設の特性上、入退出のセキュリティに不安を持つ管理者も多く見受けられます。事故を防ぐため、児童だけでの外出や不審者を弾いたり、保育士や保護者の出入りを確実に管理する対策を講じる必要があります。

それらを解決するには、セキュリティゲートやICカードによる入退出管理と勤怠がセットになったシステムが特にお勧めです。

現場の状況に合った勤怠システム導入による、保育士の働き方改革推進は離職防止に寄与します。さらにセキュリティ対策ができるシステムであれば、より安心して勤務できる職場を実現できます。

勤怠管理システムで保育業界の働き方改革が進む理由

労働時間や休暇取得にかかる実態を適正管理するための環境整備により、勤怠管理で記録・蓄積される「勤怠データ」の分析が可能となります。勤怠管理システム導入は法令違反のチェックだけでなく、分析に基づいた業務改善にも寄与するでしょう。

ここからは、具体的な分析内容について解説します。

時間外労働時間の分析

時間外労働時間を分析することで長時間労働の抑制はもとより、以下のようなデータを解析できます。

  • 残業が集中している特定の職種や従業員
  • 特に残業が発生している時期
  • 前年度の同時期と比較した残業時間増減率

上記のデータから残業発生に起因する問題を発見し、人材配置の適正化や無駄な業務の棚卸しといった、具体的な対策実施が可能となります。

有給取得タイミングの分析

有給消化率確認のほか、取得タイミングを俯瞰することで労務問題の原因を洗い出せる可能性があります。なお、有給取得タイミングが偏る主な原因として、以下のような例が挙げられます。

  • 気軽に有給を取得できる環境でない
  • 上司に有給を抑制されている
  • 上司がワークライフバランスを考慮していない

データ解析により、上記のような実態が浮き上がったのであれば、業務適正化や上司への理解促進など、解決に向けて早急に着手しましょう。

遅刻、早退、欠勤の傾向分析

従業員の遅刻や欠勤が増えていないか、また時期的な傾向把握により、いち早く変化やメンタル不調の前兆に気付きやすくなります。これにより、声掛けからストレスの原因解消、専門機関受診といった早期対策が可能です。従業員のメンタル不調リスクの軽減によって、離職率低下や業務効率低下の防止に期待できます。

勤怠システムによる適切な労働時間や有給取得タイミングの分析により、客観的に状態を把握できるため、具体的な改善策実施に繋がります。また、遅刻や欠勤の傾向分析によって、本人への対応はもちろん、頻出による同僚の疲労蓄積・意欲低下といった悪影響が回避される点も大きなメリットと言えるでしょう。

まとめ

保育現場で勤務する保育士の働き方改革推進について、政府発表データを踏まえて適切な勤怠管理の要点を解説しました。

保育業界では長時間労働や待遇への不満から離職者が後を絶たず、人手不足が課題となっています。ただし、働き方改革により保育士が安心して勤務できる環境を整備することで、人手不足解消のほか、離職率低下、生産性向上に期待できます。

現場に合った働き方改革推進には、適正な勤怠管理が必要です。保育職に適している勤怠管理方法はシステム導入が最も効果的ですが、どれを選んでもいいということではなく、保育職特有の要件を満たすものを選択してください。

また、収集した勤怠データを丁寧に分析することで、長時間労働の根本原因や現場に潜む労務リスク発見にも繋がり、早期改善が図れるでしょう。

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01基礎知識

勤怠管理の意義と
重要性

02選び方

勤怠管理システム
選び方の基本

03実践編

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導入のポイント

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