そうした考えは仕事へのモチベーションに影響し、業務効率や生産性の低下を招いている可能性があります。
仕事に対して「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃っている状態を「ワークエンゲージメント」といいます。従業員のワークエンゲージメントが高いと、会社にとってさまざまなメリットが期待できます。
本記事では、ワークエンゲージメントの定義をはじめ、活用方法や向上のための取り組み事例などを詳しく解説します。
ワークエンゲージメントとは?
ワークエンゲージメントとは、従業員が「仕事に熱意を持って、いきいきと働いている心理状態」にあることを指します。したがって、ワークエンゲージメントが高いほど、仕事に対してポジティブな心理を持っていると判断できます。
継続的に生産性や成果を上げるためには、従業員の身体面だけではなく、精神的な健康も不可欠です。
この章では、厚生労働省の定義を踏まえて、雇用形態や年代といったカテゴリー別に、ワークエンゲージメントの傾向を解説します。
厚生労働省の労働経済白書で注目
ワークエンゲージメントの概念は近年注目され、厚生労働省公表の「労働経済白書」(令和元年)で取り上げられて、いっそう広く認知されるようになりました。前述のように、具体的には、従業員が仕事に対して次の3つの要件を満たした状態と定義されています。
- 【活力】「仕事から活力を得ていきいきとしている」
- 【熱意】「仕事に誇りとやりがいを感じている」
- 【没頭】「仕事に熱心に取り組んでいる」
上記から、ワークエンゲージメントの高い人は、仕事に意味を見出し、プライドを持って集中して取り組み、仕事により活力がみなぎったエネルギッシュな状態にあるといえます。
ワークエンゲージメントのスコア・高さの傾向
前述の労働経済白書によると、ワークエンゲージメントの高さについては、雇用形態別、職種別、男女別などにより、一定の傾向が見られます。
ワークエンゲージメントの分析・スコア化は、厚生労働省が、労働政策研究・研修機構の調査「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」(2019年2月末実施)をもとに行いました。
ここから、それぞれのスコアについて詳しく解説します。
①雇用形態別のスコア
雇用形態別のスコアは、正社員と限定正社員、正規雇用と非正規雇用、という区分でワークエンゲージメントを比較しています。
前者は、正社員に比べて限定正社員のワークエンゲージメントの方が高いという結果でした。
限定正社員とは?
地域・職種・労働時間など勤務条件が限定的である社員を指します。
後者の正規雇用と非正規雇用の比較については、非正規として働く理由によって、ワークエンゲージメントに大きな差があるため、実情を加味して非正規雇用を下記の2通りに分類したうえで行っています。
- 正規雇用を希望しながら、非正規雇用で働かざるをえない不本意選択の場合:ワークエンゲージメントは非正規雇用者の方が低い
- 自己都合や専門能力などに合わせて主体的に非正規雇用を選択している場合:正規雇用・非正規雇用のワークエンゲージメントに大差なし
②職種別のスコア
職種別の傾向としては、定型的な業務と、非定型的な業務の職種を比較すると、後者のワークエンゲージメントが高い傾向にあります。
定型業務の比重が高い職種の例 | 非定型的業務の比重が高い職種の例 |
・輸送・機械運転職 ・事務職(一般事務等) ・建設・採掘職 ・製造・生産工程職 | ・教育関連専門職 ・管理職(リーダー職を含む) ・接客・サービス職 |
③年収別のスコア
年収別のスコアは、正社員について、年齢や役職を考慮したうえで分析した結果、40台前後を境にワークエンゲージメントの傾向が異なりました。具体的な数値は、労働経済白書(令和元年版)*に詳しく記載されています。
39歳以下の正社員の場合は、年収増加に伴ってスコアの上昇傾向が見られます。そのため、収入の上昇により、仕事における成長実感や熱意の高まりが得られる傾向にあるといえます。
一方、40歳台や50歳以上の正社員では、この傾向があまり見られませんでした。そのため、40歳台以上の正社員の場合、企業にとって人件費の負担増がきびしい場合には、仕事内容や働き方の工夫によってワークエンゲージメント向上に対応できる可能性もあるといえます。
ただし、年収とワークエンゲージメントの関係性についてはさまざまな見解があるため、一概に断定はできません。
④男女別のスコア
男女別でワークエンゲージメントのスコアを比較した場合は、女性の方が3.45と、男性の3.39よりもやや高い結果となりました。
女性は、ワークエンゲージメントの要件別に見ると、「活力」が男性よりは低いものの、「熱意」と「没頭」は男性に比べて高い傾向となっています。
男女別のワークエンゲージメントのスコア
男性 | 女性 | |
全体のスコア | 3.39 | 3.45 |
活力のスコア | 2.81 | 2.73 |
熱意のスコア | 3.85 | 4.02 |
没頭のスコア | 3.50 | 3.60 |
「従業員エンゲージメント」との違いとは?
従業員エンゲージメント(従業員満足度)は、従業員が会社や組織に対して信頼や愛着心を持っている状態を指します。愛着や貢献意欲という観点のため、企業の業績や生産性の向上との関連ではあまり使われない点がワークエンゲージメントと異なります。
一方、ワークエンゲージメントは、仕事に対する心理状態のことで、生産性の向上に結びつくことから、生産性向上のために取り組まれる点が従業員エンゲージメントとの違いです。
ワークエンゲージメントの高さは、これまでの解説のように、従業員の年齢や雇用形態、性別などが着目ポイントです。企業はそれぞれのポイントを自社のケースに当てはめて生産性の向上を図りましょう。
ワークエンゲージメントを高めるメリット
従業員のワークエンゲージメントを上げると、下図のようにスコアが高いほど会社の労働生産性が上昇する、というメリットがあります。
具体的な生産性の上昇内容としては、次の3点が挙げられます。
- 定着率・離職率・勤怠の改善
- メンタルヘルスの改善
- 顧客満足度の改善
ここから、それぞれのメリットについて詳細に解説していきます。
離職率・定着率・勤怠の改善
ワークエンゲージメントの向上により、従業員の定着率や離職率が改善され、日々の勤務状況などの勤怠にも好影響を及ぼす傾向があります。それにより、人手不足の解消や採用コストの減少も期待できるでしょう。
メンタルヘルスの改善
ワークエンゲージメントの向上によって、従業員の働きがいが増し、公私ともに感じるストレスや疲労感も低下傾向となります。
ストレスチェックの実施により、従業員の精神的な問題が判明した場合なども、ワークエンゲージメントを高める取り組みを行うことで、メンタルヘルスの改善ができるといった効果が見込めるでしょう。
また、仕事への意欲が上昇するため、従業員の自主的な学習や発案なども期待できるといえます。
顧客満足度の改善
ワークエンゲージメントの向上は、顧客満足度の改善にも結びつく傾向が見られます。
下図の調査結果から、従業員が精力的に働き、ワークエンゲージメントが高まるのに伴い、顧客満足度も上昇したと認識している企業の割合が多くなっています。
この結果から、従業員のいきいきと働く姿や、自社のサービス・商品に対する熱意が、顧客からの信頼性向上にもつながるといえます。
ワークエンゲージメントの向上は、社内への影響に留まらず、社外や顧客にも良い影響を及ぼすことから、永続的な企業経営に欠かせない取り組みといえるでしょう。
ワークエンゲージメントを高める方法と取り組みの事例
この章では、従業員のワークエンゲージメントを高める具体的な取り組み方法について、事例を踏まえて解説します。
従業員のワークエンゲージメントが高い企業の取り組み例
従業員のワークエンゲージメントが高い企業は、雇用管理と人材育成に関して次のような取り組みを行っています。
雇用管理への取り組み | 人材育成への取り組み |
・上司・同僚とのコミュニケーションの円滑化 ・労働時間の短縮化、勤務ルールの柔軟化 ・業務上の裁量権の拡大 ・正社員と限定社員の相互転換の柔軟化 …など | ・メンター制度の設置、指導係の配置 ・キャリアのヒアリング、キャリアパスの明確化 ・人材育成方針の策定 ・定期的な面談の実施 …など |
裁量権の拡大や労働時間の柔軟化のためには、日頃からのコミュニケーションが必要です。また、従業員各自が思い描くキャリアに向かうためには、メンターや指導係の存在が影響します。そのため、ワークエンゲージメントを高めるための各取り組みは、それぞれが相互に影響し合うことで高まるといえるでしょう。
【事例1】職場のコミュニケーションの促進
職場におけるコミュニケーション促進に関する例として、「1 on 1ミーティング」の実施が挙げられます。
中規模の卸売製造業を営む企業では、「1 on 1ミーティング」を月に1回以上、必ず実施することにより、従業員の働きがいが向上して大幅な離職率低下につながりました。実施の際には、仕事の話題に限らず、他愛ない雑談も交えて行っています。
また、ある500人規模のIT関連企業では、上司が自ら積極的に毎日挨拶を行うことによって、チームの雰囲気が良くなり働きがい向上に寄与しました。
そのほか、社内イベントの実施やフリーアドレスの導入、社内報作成なども取り組みの例として挙げられます。
1 on 1ミーティングとは?
上司と部下が1対1で行う定期的な対話を指し、基本的に部下へのフィードバックによる成長促進を目的として実施します。
参考記事:用語集「1on1」
【事例2】労働時間の短縮・働き方の柔軟化
夏に連続3日間の休暇を取得する「チャージ休暇」を導入し、9割以上の従業員が利用したIT企業では、気分転換の効果が現れ、チーム内での相互協力が促進されることにつながり、従業員の働きがいが向上する結果となりました。
また、電気設備関連の小規模企業(従業員39人)では、テレワークの推進により、次のような成果が出ています。
- 会社の経費削減
- 従業員の身体的・ 精神的負担の軽減
- 家族や仲間と過ごす時間の増加
これらの成果から、結果として業務に集中できた、という声が従業員の間で上がっています。
【事例3】業務裁量権の拡大
1章で示した図のとおり、役職が変化して裁量度が増えるほど、ワークエンゲージメントのスコアも高くなる傾向にあります。
そのため、裁量を拡大する取り組みを行う企業も増えています。
事例としては、100年以上にわたりトップダウン型経営を行ってきた中規模の卸売製造企業が、変化の激しい時代に対応するため、従業員に裁量権を与える施策を行っています。具体的には、自ら裁量権を持ち意思決定ができるリーダーを多く育成する方針を掲げ、管理職への権限の委譲に取り組んでいます。
また、 中規模のマーケティング企業では、従業員全員が企画・発表できるワークショップを実施し、最優秀に選ばれたプロジェクトを新規事業として採用するなど、現場に裁量性を持たせてワークエンゲージメントを高めています。
従業員を信頼したうえで裁量権を付与することにより、従業員のワークエンゲージメントの向上が見込め、生産性の向上につながります。自社でも適切な取り組みを行うことをおすすめします。
まとめ
本記事では、従業員のワークエンゲージメントを高めるメリットや具体的な事例を解説しました。
ワークエンゲージメントを高めると、従業員の定着率や勤怠が改善し、生産性の向上が見込めます。高める方法としては、働き方の柔軟化やコミュニケーションの促進、キャリアパスの明確化、裁量権の拡大といった取り組みが挙げられます。
また、働き方の柔軟化に際しては、勤怠管理システムを導入して労務負担の軽減を図ることも有効です。勤怠管理システムの活用は、長時間労働を抑制し、メンタルヘルス改善の一助にもなります。自社の状況に適応した仕組みやツールを適宜選択して、従業員のワークエンゲージメントを高めていきましょう。
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