限定正社員とは
限定正社員は「勤務する地域」「職種や職務」「勤務時間」のいずれか、または複数パターンを限定して働く正社員を指します。多様な働き方を求める優秀な人材の採用や、職務内容に最適な人材を確保できるとして注目が高まっています。
正社員との違い
正社員の場合、勤務地や職種の変更、残業時間に関して就業先の規定に基づき要請を受け入れる義務がありますが、限定正社員は労働条件を限定しているため変更がありません。
限定正社員は、具体的に次のような例が挙げられます。
- 転勤範囲を固定した営業職
- 限定された店舗で勤務する販売員
- 短時間勤務の従業員
- 高度な専門性が必要な職種 など
勤務地や仕事内容、勤務時間が限定されることで育児や介護により短時間勤務を求める労働者や、専門的な知見を活かしながらワークライフバランスの向上を希望する人材の確保が可能となります。
契約社員との違い
契約社員は契約満了の際に更新または終了する有期雇用ですが、限定正社員は雇用期間が定められていません。ただし、契約社員は5年を超えて契約更新した場合は無期労働契約への転換義務が発生すると労働契約法で定められています。
また、企業によって非正規従業員である契約社員とは賞与や退職金の有無、福利厚生面が異なる場合があります。
限定正社員の3パターン
限定正社員は「勤務地などの地域」「職種や職務」「勤務時間」を限定した働き方です。限定正社員での雇用パターンを解説します。
名称 | 限定される内容 | 対象者例 |
勤務地限定正社員 | 勤務地または転勤エリア | ・家庭の事情により転勤が不可能な人 ・地域に根ざして技術を伸ばしたい人 |
職務限定正社員 | 職種(仕事内容)や職務 | ・同一職種で経験を積みたい人 ・得意分野が明確で経験や知識を磨きたい人 |
勤務時間限定正社員 | 時短勤務または残業免除 | ・子育てや介護との両立を図りながらキャリア形成したい人 ・身体的な事情から勤務時間に制限がある人 |
上記の雇用パターンの詳細は以下の通りです。
・勤務地限定正社員
就業する地域(ブロック、エリア)を限定した正社員のことを指します。限定する範囲は企業によって異なり、一切転勤がない場合や転居の有無を含めた転勤の範囲が限定されているなどさまざまです。特に転勤の多い営業職や販売員は勤務地を限定することで定着率を高められます。
また、家庭の事情から転勤を希望しない正社員の離職防止、地域に根ざした勤務を望む場合や限定した地域での技術継承・ノウハウ蓄積といった人材育成のために活用されます。
・職務限定正社員
職種や職務を限定して勤務する正社員のことを指します。急な人事異動によって職種や仕事内容が変化しないため、専門知識・技術を習得したスペシャリストの育成が可能です。
異動がないことで新しい人材を一から指導する必要がなく、生産性の向上が見込めます。職種や仕事内容を明確に区分できる職種に有効です。
・勤務時間限定正社員
所定労働時間や勤務時間帯が制限された正社員を指します。勤務時間帯限定正社員の中でも1日の勤務時間が正社員に比べ短い「短時間正社員」、時間外労働が制限または免除される「残業免除等正社員」、勤務日数がフルタイム正社員と比較し少ない「勤務日数限定正社員」に分かれます。
多様な働き方を希望する正社員や、事情によりフルタイム勤務が困難な従業員に適用されます。
限定正社員導入のメリット
ここからは、実際に限定正社員を導入した場合どのようなメリットがあるのかを解説します。
ワークライフバランスを実現できる
第一のメリットはワークライフバランスの実現が見込める点です。育児や介護といった家庭との両立、本人の病気治療でフルタイム勤務が不可能な従業員や、9時~18時勤務など他の社員と同じ時間帯、拘束時間では働けないという従業員にも生活や都合に合わせた労働条件を提示できます。安定的な雇用条件と従業員の理想的な働き方は、モチベーション向上や生産性アップにもつながります。
人材確保と定着に役立つ
通常の労働条件では雇用が難しい人材に対しても採用枠を広げ、高い技術や専門知識を持った人材確保が見込めます。
また、柔軟な勤務形態は家庭環境や体調の都合により、転勤やフルタイム勤務できない従業員がやむなく離職するといった選択の防止も期待できます。定着率向上はプロフェッショナルの育成やキャリア形成にも有効です。
多様な働き方の促進
家庭環境などの事情によりフルタイム勤務が困難な方や、限られた地域でしか働けないといった制限がある人材も雇用可能です。多様な働き方は企業価値や魅力の向上につながり、優秀な人材の安定的な獲得にも期待できます。
また、資格取得や会社以外の社会活動で得た知識を業務に活用できるといったメリットもあります。
無期転換ルールに該当する労働者の受け皿になる
限定正社員の導入は「無期転換ルール」に該当する労働者の受け皿になることも期待されています。有期契約の更新が5年を超過した際は、希望者の申し出により無期契約へ転換する義務があります。
しかし、契約期間経過後の引き継ぎによる負担を軽減し、技術継承やノウハウ蓄積が中断されることを防ぐため、長期的なコスト削減やスキルアップによる生産性の向上に寄与し、企業側のメリットも大きい制度です。
限定正社員導入のデメリット
限定正社員を導入するメリットに加え、デメリットを解説します。限定社員はすべての企業にフィットするわけではないため、メリット・デメリットを総合的に判断し導入を検討することが大切です。
待遇のバランスが難しい
残業免除や転勤の制限など労働条件が限定された限定正社員と待遇が変わらないことは、通常の労働条件で勤務する正社員から不満が発生する可能性があります。一方で、極端な待遇差は正社員とほぼ同等の条件下で勤務する限定正社員の不満を抱く原因となります。
限定正社員の導入前に労働条件に応じた待遇や評価基準を見直すといった、合理的かつ透明性のある規定の制定が必要です。
人事管理が複雑になる
限定正社員の勤務条件は従業員によって異なるため、細密な制度設計が必要です。例えば勤怠管理、給与計算も通常の正社員雇用に比べ複雑化する可能性があります。さらに契約社員やパート・アルバイト勤務といったさまざまな雇用形態を実施している場合、人事管理の煩雑化によるコスト増加も懸念されますが、状況に合わせた制度や環境の整備により、円滑な導入が可能です。
限定正社員導入のポイント
実際に限定正社員を導入するにあたって留意すべきポイントを3つ解説します。
導入目的の明確化
「家庭事情による離職が多い」「全国転勤があるため営業職への異動を希望できない」など、経営面や従業員が抱えている現状の課題・問題を事前に把握した上での制度設計が重要です。その際、網羅的な経営課題の洗い出しや従業員へのアンケートを実施すると良いでしょう。限定正社員を導入する目的と実際のニーズが異なる場合、成果以前に余分なコストが発生する可能性もあります。
また、目的の明確化と同時に導入後のフローやマネジメントに関する課題も検討することで、スムーズな運用につながります。
限定する具体的な内容や待遇を就業規則に定める
企業側と従業員の期待・要望を摺合せ、限定する具体的な業務内容や勤務形態、待遇を就業規則に定めます。限定された働き方を希望する従業員から、さらに詳細なヒアリングをすることも有効です。内容は企業の裁量によるため、それぞれの課題や期待する役割に合わせて柔軟かつ詳細に設定しましょう。
ただし、通常の雇用形態で勤務する正社員とのバランスを考慮しながら進めることも重要です。事情が変化した従業員のためにも、正社員への復帰や復帰後の調整も並行して検討しましょう。
社員への周知・理解促進
就業規則制定と並行し、制度について全従業員に周知し理解を促します。特に導入の目的やメリット・デメリット、制度設計について詳細に認知を図ることが重要です。
また、メールや社内広報での周知だけでなく定期的な勉強会やミーティングを実施し、情報共有するなど、導入後に発生が予想されるトラブルへの対策も必要となります。
管理職には限定正社員のマネジメント方法を会得するために、日々の業務管理や人事評価についてのマニュアル作成や研修実施も必要です。
まとめ
限定正社員は「勤務する地域」「職種や職務」「勤務時間」のいずれか、もしくは複数のパターンを限定して勤務する正社員を指します。個人の価値観が多様化しつつある昨今、多様な働き方の一つとして普及が求められている雇用形態です。
ワークライフバランスの実現や雇用の定着といった企業、従業員双方にメリットがある制度ですが、導入には人事管理の複雑・煩雑化が懸念され、人事・労務管理面での入念な準備が必要になります。自社の目的に合わせた詳細な制度設計や通常の勤務条件で働く正社員との均衡を図った上で周知を徹底し、円滑な運用を目指しましょう。
また限定正社員を導入し、多様な働き方の実現に向けての環境を整えるためには対応可能な勤怠管理システムの導入もおすすめです。
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