短時間労働者の社会保険適用、現行ルールと改正後の違いは?
短時間労働者への社会保険加入の適用拡大がスタートする2022年10月に向けて、これまで対象外だった企業も短時間労働者の社会保険適用者の把握や届出をはじめとする対応が必要となりました。現行のルールと段階的な要件改正の内容を改めて解説します。
現行ルール
短時間労働者の社会保険適用には「事業所規模の要件」と「労働者の要件」の2つの要件があります。
事業所規模の要件
事業所規模の要件は、「同一事業主が雇用する一つまたは複数の事業所で、短時間労働者を除く常時501人以上の被保険者の労働者を使用する事業所」であることです。この条件に当てはまる事業所を「特定適用事業所」と呼びます。2017年4月からは、常時500人以下の短時間労働者を除く被保険者の労働者を使用する企業の場合でも、労使の合意があれば短時間労働者に社会保険が適用できるようになりました。
短時間労働者の要件
短時間労働者が社会保険に加入する条件は「1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上」であることです。4分の3未満であっても以下の条件全てに該当する人の場合は加入対象です。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 賃金の月額が88,000円以上であること
- 学生でないこと
常時500人以下の被保険者を使用する企業の場合は、「1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上」に当てはまる短時間労働者が加入対象です。
現行の短時間労働者、事業所の社会保険適用ルール
事業所規模の要件 | ①常時501人超の被保険者を使用する事業所(特定適用事業所) | ②常時500人以下の被保険者を使用する事業所 |
短時間労働者の要件 | ・1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上、または以下の条件全てに当てはまる労働者 ①週の所定労働時間が20時間以上であること ②雇用期間が1年以上見込まれること ③賃金の月額が88,000円以上であること ④学生でないこと | ・1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の労働者 |
改正後のルール
2022年10月から段階的に変更が適用される事業所規模の要件と、一部変更点がある短時間労働者の要件を解説します。
改正後の事業所規模の要件
2022年10月からは、雇用する被保険者の従業員数が101人~500人の事業所で働く短時間労働者が、新たに社会保険の適用になります。2年後の2024年10月からは、雇用する被保険者の従業員数が51人~100人の事業所で働く短時間労働者が社会保険の適用となり、対象事業所規模の要件が段階的に拡大していきます。
改正後の短時間労働者の要件
また、これまで短時間労働者の要件の1つであった「雇用期間が1年以上見込まれる」は撤廃され、2022年10月からは「継続して2か月以上使用される、または使用される見込みであること」が新たな要件に加わりました。そのほかの条件は現行通りです。
改正前・改正後の社会保険適用ルール早見表
対象要件 | 現行 | 2022年10月~(改正) | 2024年10月~(改正) | |
---|---|---|---|---|
事業所規模の要件 | ・雇用する被保険者(短時間労働者を除く)が常時500人超※ | ・雇用する被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時100人超 | ・雇用する被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時50人超 | |
短時間労働者の要件 | 労働時間 | ・週の所定労働時間が20時間以上であること | 変更なし | 変更なし |
賃金 | ・賃金の月額が88,000円以上である | 変更なし | 変更なし | |
勤務期間 | ・雇用期間が1年以上見込まれる | ・継続して2か月以上使用される、または使用される見込みである | ・継続して2か月以上使用される、または使用される見込みである | |
適用除外 | ・学生でない | 変更なし | 変更なし |
従業員のカウント方法
被保険者となる従業員数は、以下のA+Bの合計として算出します。
原則として、被保険者である従業員数の基準を常時上回る場合の事業所が、社会保険の適用対象となります。ある月の被保険者数が101人(もしくは51人)以上となったとしても、すぐに対象の「特定適用事業所」とはなりません。直近12か月のうち、6か月で基準を上回る場合に適用されます。
企業をはじめとする法人の場合、同一法人番号内の対象者を合計するのに対し、個人の事業所は事務所ごとに対象者をカウントすることになります。
そもそも、短時間労働者とは?
改正後保険適用が拡大される短時間労働者は、フルタイム勤務の正規雇用の労働者と何が違うのか改めて定義を確認しておきましょう。
通常の労働者よりも労働時間が短い労働者のこと
短時間労働者とは、「パートタイム労働法」では1週間あたりの労働時間が、同じ事業主に雇用されている通常の労働者の労働時間よりも短い労働者であると定められています。
ここでいう通常の労働者とは、フルタイム勤務で働く正規雇用の労働者のことを指します。事業所内に正規雇用の労働者がいない場合は、フルタイム勤務で働いている非正規雇用の労働者より短い労働時間の労働者が、短時間労働者に該当します。
パートタイマーやアルバイトをはじめ、嘱託や契約社員、臨時社員、準社員などでも、通常の労働者よりも短い労働時間であれば、短時間労働者となります。短時間労働者は労働基準法や労働安全衛生法をはじめ、原則通常の労働者と同様の労働者保護が適用されます。短時間労働者であるからといって、最低賃金以下で働かせたり、休憩を取らせなかったり、理由なく解雇することはできません。
要件を満たせば各種制度利用や保険加入も可能
短時間労働者は、育児・介護休業法に基づく介護休業や育児休業制度についても要件を満たせば通常の労働者同様に利用することができます。
雇用保険については「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」「31日以上引き続き雇用されることが見込まれること(短期契約を繰り返す場合を含む)」場合は短時間労働者であっても適用可能です。
社会保険適用拡大に向けて企業が実施すべきこと
2022年10月から段階的に始まる短時間労働者の社会保険適用拡大に向けて各企業が実施すべき事前の準備や対応について解説していきます。
社会保険適用対象者を把握・通知
まずは、新たな社会保険の加入対象者となりうる短時間労働者の把握を行います。自社内の短時間労働者のうち以下全ての条件に当てはまる人は誰か、何人いるのかを確認します。
- 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること
- 賃金の月額が88,000円
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
また、契約上は所定労働時間が20時間に満たない場合でも、雇用後に残業が積み重なって実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、引き続きその状態で雇用されると見込まれる場合には、3か月目から社会保険の加入とする必要があります。実労働時間が2か月連続で週20時間以上働く短時間労働者を社会保険の被保険者としていないと、年金事務所から指摘を受けるため契約上の条件だけでなく、労働実態を含め要件に当てはまるかを判断します。
上記の要件を満たす短時間労働者の人数や氏名を把握した後は、社内イントラやメールで社会保険の適用対象となる短時間労働者に伝わるよう、通知を行います。メールや社内イントラ以外にも掲示板で知らせるのが有効という職場の場合は、対象者が気付きやすい方法で適用拡大の通知を行いましょう。
適用拡大後の社会保険料を算出
社会保険の適用拡大後、自社が負担する必要がある社会保険料の算出には、厚生労働省の社会保険適用特設サイトの「社会保険料かんたんシミュレーター」を活用しましょう。
新たに対象となる人数、そのうちの40~64歳の人数、対象者の平均給与月額、年間の賞与を入力することで、今後負担する社会保険料がおおよそどのくらい変わるのかが把握できます。
社会保険適用対象者本人の意向を確認
新たに社会保険の適用者となる短時間労働者を対象にした説明会や個人面談を設け、以下の点を伝えます。
- 社会保険の新たな加入対象者であること
- 社会保険の加入メリット
社会保険の加入メリットとしては、以下の点を伝えます。
加入メリット
- 老後・障害・死亡の基礎年金に3つの年金(厚生年金)が上乗せになる
- 傷病手当金、出産手当金などの医療保険による保障が充実する
社会保険に加入後は給与から社会保険料が引かれることから、保険加入を望まない労働者もいると考えられます。これまで通り働き社会保険に加入するか、労働時間を調整し社会保険未加入の働き方をするか、情報提供をしたうえで、加入対象者と今後の労働時間について話し合うことも必要です。
書類作成・届出
2022年8月までに、雇用する被保険者の従業員数が101人~500人の事業所には日本年金機構から新たに適用拡大の対象となることを知らせる通知書類が届きます。通知があった事業所は、届出に必要な書類を作成し、2022年10月5日までに申請を行う必要があります。雇用する被保険者の従業員数が51人~100人の企業は、別途2024年10月までに書類作成と申請を行います。
詳しい手続きは以下の特設サイトを参考にしてください。
日本年金機構|「被保険者資格取得届」の届出に関するご案内
被保険者資格取得届の届出・手続きはオンライン申請が可能なので、電子申請システムを利用すると便利です。
日本年金機構|オンライン申請に関するご案内
労務管理の徹底
短時間労働者の社会保険の適用拡大に向け、短時間労働者のシフトに応じてフルタイム勤務の従業員と分けたうえで、正確な労働時間を把握する仕組みの導入がより重要となります。
特に今後は社会保険未加入で契約上は20時間以内の労働時間で働いている短時間労働者でも、残業時間込みで20時間を超えて働く期間が2か月を超えていた場合は、社会保険加入が必要になります。社会保険未加入のままで働く場合は、20時間を超えて残業をしないよう予めチェックでき、実態として20時間を超えて残業していた場合は年金事務所から指摘を受ける前に社会保険加入の案内や書類申請ができる労務管理体制を築いておきましょう。
まとめ
2022年10月以降、短時間労働者の社会保険加入要件の適用範囲拡大が段階的に実施されます。自社が対象企業に含まれるかどうか、自社で短時間労働者の要件に当てはまる従業員が何人いるか、改めて改正後のルールと照らし合わせ確認しておく必要があります。2022年10月から適用拡大の対象となる企業は、自社で新たに適用対象となる労働者を把握したうえで、申請準備を行いましょう。
適用拡大後は、雇用する短時間労働者の1週間の労働時間を雇用契約書や就業規則で20時間以内と定めていても、残業によって2か月を超え20時間以上働いていた実態がある場合、企業側は該当する労働者を3か月目から社会保険に加入させる義務があります。
そのため、短時間労働者のシフトに応じて労働時間を把握し、社会保険未加入のまま働く短時間労働者が20時間を超えて働いていないか未然にチェックするなど、労務管理の面でもより厳密な対応が企業に求められます。法改正に対応するため、短時間労働者のシフトごとの管理や正確な労働時間把握が可能なシステムや仕組みの導入を検討しましょう。