人事・労務の注目用語

かとく「過重労働撲滅特別対策班」

かとく「かじゅうろうどうぼくめつとくべつたいさくはん」

公開日時:2021.10.29 / 更新日時:2022.03.09

「かとく」とは、過重労働撲滅特別対策班の通称です。かとくは、2015年4月に東京労働局と大阪労働局に設置され、ITに精通したベテランの労働基準監督官で構成されています。悪質な長時間労働の抑制と過労死防止のために、労働基準法違反が常態化している、いわゆる「ブラック企業」に対して監督指導や捜査を行います。これまでにも大手企業に対して強制捜査を実施し、労使協定を超える時間外労働をさせたとして、企業や役員を書類送検しています。

「かとく」設立の目的

「かとく(過重労働撲滅特別対策班)」とは、労働基準監督官で構成され、長時間労働や過重労働などが常態化している、いわゆる「ブラック企業」を取り締まる組織です。かとくは「悪質な長時間労働の対策強化」「過重労働、過労死の防止」を目的に2015年4月に設立されました。ここではかとくが設立された2つの目的を具体的に解説します。

1.悪質な長時間労働の対策強化

「かとく」は労働基準法違反や悪質な長時間労働への対策強化のための組織です。悪質な長時間労働への対応は、同じ労働問題を取り締まる、各地の労働基準監督署(以下:労基署)でも実施しています。しかし、全国に支社や店舗を持つ大企業では是正勧告をしても、なかなか改善が見られなかったため、各地の労働基準監督官の管轄エリアを横断した視点で、大規模事案や困難時案にも対処できるように「かとく」が設立されました。

かとくには、立入検査や逮捕、送検の権限が与えられています。さらに専門的な技術も有しており、データ消去・改ざんを復元し、長時間労働の隠蔽を暴くことも可能です。かとくはこうした強い権限や技術などを用いて、長時間労働の対策を実施しています。

2.過重労働、過労死の防止

かとく設立の目的として、過重労働・過労死を防ぐことも挙げられます。長時間労働に伴う過重労働は、脳・心臓疾患、精神障害などの原因になり得ると医学的知見が得られています。また、過重労働により最悪の場合、病死、自殺など、いわゆる「過労死」につながる可能性があります。

悪質な長時間労働が常態化した企業を「かとく」が強制捜査し、厳しく対処することで過重労働を防止できる上に、一般企業への違法な過重労働抑止効果も期待できます。

「かとく」が取り締まった事例

ここでは強制捜査や送検する権限を持つ「かとく」が取り締まった事例を2つ紹介します。

 

▼大手ディスカウントストアA社

A社は複数店舗で従業員に違法な長時間労働をさせていたとして、かとくにより、労働基準法違反の容疑で支社長や店長など8人を書類送検しました。
A社では36協定で3か月間の時間外労働を120時間以内と定めていたものの、都内の5店舗で時間外労働が120時間を上回る実態があり、中には3か月で415時間(1か月平均で残業約138時間)の残業をしていた従業員もいました。この1か月平均約138時間残業という数字は、「2~6か月間平均で残業が80時間を超えると過労死につながりかねない」とされる「過労死ライン」を大きく超えています。かとくは、度重なる是正勧告をしても改善が見られなかったとし、書類送検に踏切りました。

 

▼広告代理店B社

B社では、労基署へ届けた時間外労働時間の上限50時間を超えて違法に労働をさせたことで、ある従業員がうつ病を発症し自殺してしまいました。自殺した従業員の時間外労働時間は、一般的に過労死ラインとされる月80時間を大きく超え、月100時間以上だったため労災認定されました。

「かとく」は違法な長時間労働が全社的に常態化していると判断し、B社の本社・3支社へ一斉に強制捜査を実施しました。その後、B社は労働基準法違反の罪に問われ、裁判では有罪判決が言い渡されました。

調査対象とならないために必要な健康障害防止策

かとく」の調査対象とならないために必要な健康障害防止策について解説します。

 

<調査対象とならないために必要な健康障害防止策>

  • 労働時間の正確な把握
  • 従業員が休息を取れる時間の確保
  • 長時間労働している従業員に対する医師の面接指導

これらの対策をすることで調査対象となるリスクを下げるとともに、従業員の健康保持にもつながります。

1.労働時間の正確な把握

2019年4月より、使用者は従業員の労働時間の客観的な把握が義務となっています。従業員の労働時間を正確に把握することで、従業員の時間外・休日労働時間を削減するように注意喚起が可能です。従業員の労働時間を適正に把握する方法として以下の3つがあります。

 

<従業員の労働時間を把握する方法>

  • 使用者自らが適正に記録する
  • タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間等の情報をもとに適性に記録する
  • 勤怠管理システムで記録する

ただし、毎日定時に打刻しているような不自然な記録の場合、裁判になった際に、最寄り駅の改札を通った時間やメールのメッセージのやりとりなども労働時間として認められるケースがあります。そのため、タイムカードなどの打刻に加え、パソコンのログオン・ログオフ時間の把握もできると、より正確な労働時間を把握でき、労務リスクの軽減につながります。

2.従業員が休息を取れる時間の確保

従業員の休息の時間を確保することで、従業員のワークライフバランスを整えられるため、従業員の心身の健康やモチベーション維持につながります。従業員が適切な休息を取れる方法として、勤務間インターバル制度や有給休暇の時間単位取得の導入が挙げられます。

  • 勤務間インターバル制度 前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保させる制度。国は休息時間9~11時間を推奨している。
  • 有給休暇の時間単位取得の推進 年間5日分を上限に1時間単位で有給休暇を取得できる制度。

こうした制度を導入・活用することにより、従業員のワークライフバランスの充実が図られ、労務リスクを抑えることができます。

勤務間インターバルについて詳しくは用語集「勤務間インターバル」をご覧ください。

3.長時間労働している従業員に対する医師の面接指導

医師の面接指導を実施すると、労働時間の短縮や作業の転換、療養のために休職させるなどの措置を講じることができるため、従業員の健康を守ることにつながります。医師による面接指導とは、長時間労働になっている従業員の健康状態を医師との面接によって把握した上で、本人への健康指導をするとともに、今後の業務を続けさせるべきかを判断する制度です。医師の面接指導の対象となる従業員は以下のとおりです。

 

<面接指導の対象となる従業員>

  • 月80時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる従業員の中で申し出た者(高度プロフェッショナル制度適用者を除く)
  • 本来上限時間の規定が適用されない、研究開発業務に従事する従業員で、月100時間超の時間外・休日労働を行った者
  • 高度プロフェッショナル制度の適用従業員で、1週間当たりの健康管理時間※1が40時間を超え、超えた時間が月100時間を超えた者
1 健康管理時間とは、対象従業員が事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間の合計

これらの対象者でなくとも、健康への配慮が必要な従業員や、時間外・休日労働時間が80時間を超えている従業員などに対しては、積極的に面接指導を行うことで、従業員の心と身体の健康を守ることにつながります。

まとめ

かとく(過重労働撲滅特別対策班)は、従業員の健康を守り、過労死を防止するためにいわゆる「ブラック企業」を取り締まる組織です。長時間労働が常態化し、是正勧告を受けても改善が見られない企業は調査の対象になるかもしれません。調査の対象とならず、また従業員を守るためには、企業は正確な労働時間を把握し、休息を取るように促した上で、長時間労働の対象者には医師の面接を受けるように促す必要があります。

関連記事

労務リスクを防止するアマノの勤怠管理システム

GUIDE

勤怠管理のパイオニア「AMANO」のノウハウをぎゅっと凝縮してお届けします!

01基礎知識

勤怠管理の意義と
重要性

02選び方

勤怠管理システム
選び方の基本

03実践編

勤怠管理システム
導入のポイント

全てを1つの資料にまとめた総集編「勤怠管理の選び方完全ガイド」無料配布中!

「高いシステムと安いシステムでは何が違うのか」を徹底解説