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臨検監督

りんけんかんとく

公開日時:2021.03.31 / 更新日時:2022.03.22

「臨検監督」とは労働基準監督署が行う行政指導のことです。労働基準法や労働安全衛生法などの法律違反がないか事業所に立ち入り調査が行われ、法律違反があった場合は是正勧告や行政指導が実施されます。定期的な調査だけでなく、従業員の通報に基づいて抜き打ちで調査が行われる場合もあります。働き方改革関連法や過労死防止法が施行されたことを受け、厚生労働省は臨検監督を行った際の厳格な法適用や、長時間労働対策が進んでいない企業への指導を強めています。

臨検監督で調査される内容

労働基準監督署が行う臨検監督について、具体的にどのような調査がどんなタイミングで行われるのかを解説します。

4つの調査項目

臨検監督には「定期監督」「災害時監督」「申告監督」「再監督」の4つの種類があります。このうち、企業にとって最も注意が必要なのが、「申告監督」です。申告監督は、従業員から労働基準監督署へ残業代未払いや過重労働の強制、不当解雇などの訴えあった際に行われます。企業側にとっては予期せぬタイミングで労働基準監督署の訪問に対応しなければならず、実際に立ち入り調査によって法律違反やグレーな制度運用が指摘されると、指導につながるケースもあります。

労働基準監督署が地域の企業を回って毎月実施するのが「定期監督」です。「災害時監督」は従業員が重篤な傷害を負う事故や死亡に至った場合など、重大な労働災害が発生した際に原因究明や再発防止のために実施されます。

これら3つの臨検監督の事後に行われる指導が「再監督」です。労働基準監督署の指導を受けた後に法律違反がないか、指導された内容に沿って状況が是正されているかを改めてチェックされます。

臨検監督が行われるタイミング

申告監督と災害監督は事前に実施時期が分かる定期監督や再監督と異なり、労働基準監督署が立ち入り調査の必要があると判断されたタイミングで行われます。

「平成30年 労働基準監督年報」によると、従業員や元従業員からの申告から臨検監督に至るケースが全体の12.3%を占めています。是正勧告や書類送検につながることも多いため、企業は自社の法律違反を従業員に疑われないよう、日頃から適切な労務管理を行う必要があります。

災害監督は重大な労災が発生した後に実施されます。労災の原因究明を行う調査の過程で労働安全衛生法違反や業務上過失致傷罪などの法律違反が発覚し、事件化するケースもあります。

重大な労災発覚の後に訴訟や書類送検に発展したケース

事例1
製造業A社の事業所で、長時間労働からメンタルヘルス不調をきたした従業員の自殺が業務に起因する労災と認められた。後に遺族が起こした民事訴訟によって企業側に約7,400万円の賠償金の支払いが命じられた。

事例2
マンション内の電球交換を行っていた従業員が脚立から転落して死亡した労働災害を1年5か月間放置し、労働基準監督署に報告書を提出していなかったとして、照明器具交換を行う個人事業主の業者が2014年に書類送検された。

事例3
工事業者であるC社内で移動式クレーンが転倒し、従業員にぶつかる死亡災害が発生した。危険防止措置を怠ったとして同社と現場監督が労働安全衛生法第20条違反の疑いで書類送検された。

抜き打ちで立ち入り調査が行われるケースも

申告監督は多くの場合、抜き打ちで立ち入り調査が行われます。抜き打ち調査のパターンとして考えられるのは、通報した従業員を保護するために、申告があったことを明かさないで定期監督の形式で行うケースと、申告があったと明かして企業の担当者に出頭命令がなされるケースです。

また、抜き打ちの調査であっても、労働基準法第101条の規定上、企業は臨検監督を拒否することはできないと定められています。予期せぬ場合に立ち入り調査を求められたとしても、労働基準監督官の質問に対応できるよう日頃から自社の労務管理の状況を把握しておく必要があります。定期監督については、通常企業側に実施予定日が共有されますが、まれに予告なく行われることもあります。どの種類の臨検監督が行われる場合でも必ず事前に連絡が行くとは限らないと考え、対策を講じておきましょう。

近年の臨検監督の傾向

過労死等防止対策推進法や働き方改革関連法の成立による長時間労働是正の流れから、労働基準監督署は過重労働の疑いがある企業への調査を積極的に行うようになっています。従来は調査が行き届いていなかった法律違反や法的にグレーな労務管理の実態についても、厳格にチェックされる傾向があります。

働き方改革の影響で調査が厳格化しつつある

働き方改革推進による行政指導の厳格化の例として、違法な時間外労働をさせていた企業の公表対象拡大があります。厚生労働省は、労働基準監督署の調査によって違法な長時間労働が明らかになった場合、これまでは公表対象の企業の条件を「違法な長時間労働が月100時間超の場合」としていたところを「違法な長時間労働が月80時間超の場合」に引き下げる方針を、2016年に発表しました。指導が行われても状況が改善されなかった場合、是正の段階で厚生労働省のホームペーシに企業名が公表されます。

このほかにも、厚生労働省は長時間労働是正対策の一環として「過重労働解消キャンペーン」を毎年11月に実施し、長時間労働が行われている企業への重点的な監督指導を行っています。

指導を受けないためのポイント

厳格化が進む臨検監督によって是正勧告や指導対象にならないためには、まずは法律違反が起きやすい労務管理リスクを把握し、法律に沿った運用が行われているか点検をしておきましょう。

臨検監督に備えた基本対策

  1. 労働者に労働条件通知書(雇用契約書)を交付する
  2. 残業する従業員がいる場合、必ず36協定を締結し、労基署に提出する
  3. タイムカードや勤怠管理システムなどで客観的な出退勤記録を残す
  4. 不払い残業やサービス残業が発生しないような仕組みを導入する
  5. 労働者名簿、タイムカード(出勤簿)、賃金台帳を日頃から適切に管理する
  6. 健康診断を毎年実施する

まとめ

臨検監督は、定期的に行われる調査や指導以外にも、従業員や元従業員の申告によって予告なしに行われるケースがあります。近年は働き方改革関連法の施行により、労働基準法や安全衛生法、労働時間把握に関するガイドラインの改正が行われ、基本的な労務管理の徹底に加えて、指導対象となりやすい法律違反リスクへの対策が必要となりました。時間外労働の上限規制対策、有給休暇の取得義務化への対応、客観的な方法による労働時間の把握などが適切に行われているか、自社内で今一度点検しておきましょう。

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