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割増賃金
わりましちんぎん
公開日時:2021.03.31 / 更新日時:2023.01.24
割増賃金とは、労働基準法第37条により企業に支払いが義務付けられている、時間外労働・休日労働・深夜労働を行わせた場合に発生する賃金のことを言います。時間外労働と深夜労働に対する割増賃金は、通常支払われる賃金の25%以上、休日労働の場合は35%以上です。2010年の労働基準法改正によって時間外労働の合計が60時間を超えた場合の割増賃金が50%以上に引き上げられており、さらなる残業抑制のため2023年には中小企業にも同じ規定が適用されるようになります。
割増賃金の種類
労働基準法では、従業員を働かせることができる時間帯や条件を定めており、割増賃金は企業に多めに賃金を支払わせることで、特に負荷のかかる時間帯や時間数などの労働を抑えるために設けられています。
時間外労働で発生する割増賃金
時間外労働で発生する割増賃金は、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて従業員を働かせた場合に発生する賃金のことで、「時間外手当」「残業手当」とも言います。従業員に時間外労働をさせた分だけ、1時間ごとに通常の25%以上の割増賃金が発生します。このように割増賃金の支払い分の負担を与えることで、企業が過度の時間外労働を命じることを抑制し、従業員の命や健康を守る効果を期待されています。
このほかにも、時間外労働時間が限度時間の1か月45時間、1年360時間を超えた時には25%以上の割増賃金が発生します。また、大企業に限り時間外労働が1か月60時間を超えた時も割増賃金が発生し、1時間ごとに通常賃金の50%の割増賃金が加算されます。
休日労働で発生する割増賃金
休日労働で発生する割増賃金は本来、労働の義務がないとされている週1回の法定休日に従業員を働かせた場合に発生する割増賃金のことで、「休日手当」とも呼ばれます。企業が従業員に対し休日出勤命令を頻繁に繰り返さないよう設定されているもので、1時間に付き35%以上の割増賃金が発生します。ただし、休日労働と時間外労働の割増賃金の支払いは重複しないと判断されているため、法定休日に1日8時間以上従業員が働いたとしても、時間外労働手当は発生しません。
また、法定休日に従業員を働かせて振替休日を取らせた場合と代休を取らせた場合では、割増賃金の扱いが異なります。法定休日に他の勤務日と予め交換し、事後または事前に振替休日を与える場合は休日労働の扱いにはならず、割増賃金は発生しません。一方、前もって勤務日の振替をしないまま法定休日に従業員を働かせ、事後に代休を与えた場合、企業は休日労働分の割増賃金を払う必要があります。
深夜労働で発生する割増賃金
深夜労働で発生する割増賃金は22時~5時の深夜にあたる時間帯に従業員を勤務させた時に発生する割増賃金のことで、「深夜手当」とも呼ばれます。時間外労働手当や休日手当と違い、深夜手当は管理監督者にも支払う必要があります。心身に影響が出やすい深夜労働が連日続かないよう、1時間ごとに通常の25%以上の割増賃金が発生します。
深夜労働と時間外労働で発生する割増賃金、休日労働で発生する割増賃金の支払いは重複するため、22時以降に働いた際はそれぞれ割増賃金が加算されます。
2023年以降は中小企業の割増賃金率が引き上げへ
2010年の労働法基準改正では長時間労働抑制の目的で「月60時間を超える残業では割増賃金率が50%以上まで引き上げられる」と定められました。しかし、法改正以降も企業全体で大幅な長時間労働削減が進まず、さらなる長時間労働対策として2023年4月1日からは中小企業にもこのルールが適用されるようになります。
例えば割増賃金引き上げ後に1か月80時間の時間外労働を従業員にさせた場合、60時間以下の時間外労働では1時間あたり25%以上の割増賃金が発生し、60時間を超えた後の20時間に対しては50%以上の割増賃金が発生します。中小企業が時間外労働を命じる際の企業負担が増大すると予想されることから、大企業同様に現在の勤務体制の見直しが必須となるでしょう。
まとめ
割増賃金は、長時間労働や深夜労働などを抑制することで従業員の健康を守り、ワークライフバランスを保つために設けられています。
そのため、従業員により負荷のかかる労働を命じた時は割増賃金がさらに加算されます。例えば、時間外労働に加えて深夜労働をさせた場合には22時以降は時間外労働分と深夜労働分を足した分、休日労働時に深夜労働をさせた場合には22時以降に休日労働分と深夜労働分を足した割増賃金が発生します。また、労働基準法改正によって過重労働を抑制する傾向はさらに強まっており、2023年4月1日の中小企業の割増賃金率が引き上げ適用以降、日本企業全体で本腰を入れた残業削減策が求められるようになります。