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みなし残業制度を正しく理解する – メリット・デメリットと適切な運用方法

公開日時:2025.07.17

働き方改革や労働時間の適正管理が求められるなか、「みなし残業制度」を導入する企業が増えています。しかし、制度の運用方法を誤ると労働基準法違反となり、企業イメージの低下や労働紛争の原因になることもあります。
本記事では、みなし残業制度の基本から適切な運用方法、導入時の注意点まで、法令遵守の観点から詳しく解説します。制度設計の参考にしていただければ幸いです。

みなし残業制度とは - 基本的な仕組みと2つの種類

みなし残業制度とは、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う制度です。正式名称は「固定残業代制度」で、労働基準法上の「みなし労働時間制」とは異なる制度です。近年、働き方改革の推進にともない、労働時間の適正な管理と残業代の適切な支払いがより厳しく求められるなか、この制度の正しい理解と運用が重要になっています。

固定残業代制度とみなし労働時間制の違い

固定残業代制度は、実際の労働時間にかかわらず、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う賃金制度です。一方、みなし労働時間制は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間を働いたものとみなす労働時間制度です。この2つは混同されがちですが、法的根拠も適用条件も異なります。本記事では、一般的に「みなし残業」と呼ばれる固定残業代制度について詳しく解説します。

固定残業代制度の基本的な仕組み

固定残業代制度では、あらかじめ定めた時間数分の残業代を「固定残業代」「時間外手当」などの名目で基本給とは別に支給します。実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合は、超過分の残業代を別途支払う必要があります。例えば、「20時間分の残業代として3万円」と定めた場合、実際の残業が15時間であれば追加支給は不要です。しかし、実際の残業時間が25時間の場合は、超過した5時間分の残業代を追加で支給しなければなりません。

みなし残業制度導入のメリットとデメリット

みなし残業制度は、企業側と従業員側の双方にメリットがある一方で、リスクもあります。導入を検討する際は、双方の視点から慎重に判断することが重要です。企業側には給与計算の簡素化や人件費の予測が立てやすくなるメリットがありますが、適正な制度設計と運用が求められます。制度の導入時には、自社の業務実態に合った適切な設計が不可欠です。

企業側のメリット

みなし残業制度を導入することで、残業代の計算が簡素化され、給与計算の負担が軽減される可能性があります。また、導入により残業時間の管理が厳格化され、残業時間そのものが減少することで、長期的な賃金コストの削減につながる可能性があります。一方で、実際の残業時間が固定残業時間を恒常的に下回る場合は、むしろ企業にとってコスト増となる点に注意が必要です。

なお、不適切な運用とみなされぬよう、固定残業代の対象時間を明確に記載し、超過分の残業代は適切に支払わなければいけません。

企業側のデメリットとリスク

みなし残業制度を導入する最大のリスクは、制度設計や運用を誤ると労働基準法違反となり、未払い残業代の請求や訴訟につながる可能性があることです。特に、固定残業代の金額が実際の残業代に満たない場合や固定残業代の計算方法が不明確な場合は、是正勧告を受けるリスクが高まります。

また、固定残業時間を超える残業が常態化すると、結果的に残業代の支払いが増え、管理コスト削減効果が薄れる可能性もあります。

従業員側のメリット

みなし残業制度では、実際の残業時間が少なくても固定残業代は全額支給されます。そのため、効率よく業務を終えれば、時間当たりの実質賃金が高くなる場合があります。毎月の収入が一定額保証されるため、収入が安定するという点もメリットです。ただし、固定残業時間を超える残業が常態化すると、従業員側の業務負荷と企業側の追加コストが増加するため、適切な運用が求められます。

従業員側のデメリット

みなし残業制度のもとでは、「どうせ残業代は固定」という考えから、長時間労働が常態化するリスクがあります。残業時間の管理がおろそかになると、従業員の健康被害や生産性低下につながる可能性もあります。また、固定残業時間を超えた残業代の請求手続きが煩雑な場合、従業員が請求をあきらめてしまい、結果的に未払い残業が発生するリスクもあるでしょう。

みなし残業制度が違法になるケースとトラブル防止策

みなし残業制度は、制度設計や運用方法によっては違法となり、企業が法的リスクを負う可能性があります。ここでは、違法となるケースとトラブル事例を解説します。

違法となる主なケース

以下のような場合、みなし残業制度は違法と判断される可能性が高くなります。

  1. 基本給と固定残業代の区分が明確でない場合
  2. 固定残業代の計算方法や対象時間数が明示されていない場合
  3. 固定残業時間を超えた残業に対して追加支給がない場合
  4. 固定残業代の金額が法定の割増賃金を下回る場合
  5. 休日出勤や深夜勤務の割増賃金が考慮されていない場合

発生しやすいトラブルとその防止策

みなし残業制度に関するトラブルで最も多いのは、固定残業時間を超えた残業に対する追加支給の未払いです。これを防ぐためには、正確な労働時間管理と、超過分の残業代を確実に支給する仕組みづくりが不可欠です。

また、入社時の説明不足によるトラブルも少なくありません。採用時から固定残業代の仕組みを明確に説明し、労働条件通知書や雇用契約書に詳細を記載することが重要です。

残業の適切な管理については、以下の記事で詳しく解説しています。

みなし残業制度を適切に設計・運用するためのポイント

みなし残業制度を導入する際は、法令遵守を前提に、自社の業務実態に合わせた制度設計が重要です。ここでは、適切な設計・運用のポイントを解説します。

固定残業時間の適切な設定

固定残業時間は、職種や部署ごとの実際の残業時間を分析したうえで設定することが重要です。過去の残業実績を参考に、平均的な残業時間をカバーできる時間数を設定しましょう。ただし、あまりに長時間の固定残業を設定すると、長時間労働を助長するおそれがあります。36協定の範囲内で適切な時間を設定することが大切です。

固定残業代の金額設定と計算方法

固定残業代の金額は、法定の割増賃金率(平日残業25%以上、休日出勤35%以上、深夜勤務25%以上)を下回らないように設定する必要があります。

計算方法は、「時給×1.25×固定残業時間数」を基本とし、職種や役職に応じて調整します。ただし、基本給と固定残業代の合計額が最低賃金を下回らないよう注意しましょう。休日出勤や深夜勤務の割増賃金は固定残業代に含まれないため、別途支給が必要です。

残業時間の計算については、以下の記事で詳しく解説しています。

労働条件の明示と従業員への説明

固定残業代の金額、対象となる残業時間数、超過分の支給方法などを雇用契約書や労働条件通知書に明記することが重要です。また、給与明細にも基本給と固定残業代を明確に区分して表示しましょう。

入社時や制度導入時には、従業員に対して制度の仕組みを丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。特に、固定残業時間を超えた場合の請求方法については、具体的に説明しましょう。

残業申請の運用については、以下の記事で詳しく解説しています。

労働時間の適切な管理

みなし残業制度を導入していても、実際の労働時間を正確に把握・管理する義務は変わりません。ICカードやタイムカード、パソコンのログなどによる客観的な方法で労働時間を記録し、固定残業時間を超えた場合は確実に追加支給を行う体制を整えましょう。

また、長時間労働が常態化している従業員がいないか定期的に確認し、業務の効率化や人員配置の見直しなど、必要な対策を講じることも重要です。

労働時間の管理については、以下の記事で詳しく解説しています。

みなし残業制度と労働時間管理・関連制度

みなし残業制度を導入する際は、労働時間管理と関連する人事制度についても理解しておく必要があります。ここでは、法的義務と関連制度について解説します。

労働時間の客観的記録と法的要件

2017年に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では客観的な労働時間の記録が義務づけられています。タイムカード、ICカード、パソコンのログなどでの記録が必要です。36協定の範囲内(月45時間・年360時間)での運用も必須で、みなし残業制度導入企業も例外ではありません。

36協定の範囲については、以下の記事で詳しく解説しています。

関連する働き方制度との組み合わせ

量労働制は労働時間の算定方法に関する制度で、みなし残業制度(賃金支払い方法)とは異なります。フレックスタイム制との併用で柔軟な働き方が可能ですが、総労働時間の管理は必要です。テレワークとの組み合わせも増加中ですが、労働時間の適切な把握が課題です。

これらの制度については、以下の記事もあわせてご覧ください。

効果的な労働時間管理の重要性

長時間労働は従業員の健康リスクとなります。固定残業時間を超えた残業の把握と追加支給は、勤怠管理システムで効率化できます。残業データの分析により業務効率化や人員配置の最適化も可能です。

まとめ - みなし残業制度の効果的な活用と今後の動向

みなし残業制度は、適切に設計・運用すれば企業にとっても従業員にとってもメリットのある制度です。ただし、法令遵守と従業員の健康管理を前提に自社の業務実態に合わせた制度設計が不可欠です。

特に重要なのは、固定残業代の明示と実際の労働時間の適切な管理です。これらを怠ると、未払い残業代の請求や労働紛争につながるリスクがあります。

働き方改革が進むなか、長時間労働の是正や多様な働き方の実現が求められています。みなし残業制度も、こうした社会的要請に応えるかたちで進化していくことが予想されます。

制度の導入・運用にあたっては、就業規則の変更や労使協定の締結などの法的手続きも必要です。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることをお勧めします。

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