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残業申請のルールと運用方法|事前申請制の導入から効率的な管理まで解説

公開日時:2025.03.11

労働時間の適正化が求められるなか、残業申請の管理は企業にとって重要な課題となっています。人事担当者の多くは「申請漏れが多発する」「突発的な残業への対応に苦慮している」「紙やエクセルでの管理に限界を感じる」と悩んでいます。特に従業員1,000人以上の企業では、複数の事業所や多様な勤務形態への対応が求められ、管理の煩雑さが増しています。
2019年の働き方改革関連法施行による残業時間の上限規制、2024年4月からの建設業・運送業への適用拡大により、より厳格な残業管理が必要となりました。本記事では、人事担当者が直面するこれらの課題に対し、残業申請制度の基本から効率的な運用方法まで、実務に即して解説します。

残業申請制度の基本

労働基準法と36協定に基づく残業申請制度の基本的な枠組みを理解することは、適切な労務管理の出発点となります。法令遵守と実務運用の両面から、制度の本質を解説します。

残業申請とは

残業申請は法定労働時間を超えて労働させる際に必要な手続きです。労働基準法第32条では、1日の労働時間を8時間以内、1週間の労働時間を40時間以内と定めており、これを法定労働時間と呼びます。36協定の締結と合わせて、適切な申請・承認プロセスの構築が求められます。

法定労働時間については、以下の記事で詳しく解説しています。

36協定との関係性

残業申請制度は36協定で定めた時間外労働の範囲内で運用する必要があります。協定の上限時間を遵守しつつ、柔軟な運用を可能にする仕組みづくりが重要です。特別条項付き36協定を締結している場合でも、安易な特別条項の適用は避け、原則的な上限時間内での運用を基本とします。

また、建設業・運送業など2024年4月から上限規制が適用される業種では、業界特有の課題を考慮した運用設計が必要です。

36協定の残業上限時間については、次の記事をご覧ください。

申請が必要な労働時間

法定労働時間を超えるすべての時間外労働について、原則として事前の申請と承認が必要です。変形労働時間制などの特殊な労働時間制度における取り扱いにも注意が必要です。所定労働時間が法定労働時間を下回る企業では、所定外労働時間であっても法定労働時間内であれば36協定を締結する必要はありません。ただし、社内規定として残業申請を求めることは可能です。また、管理監督者についても、健康管理の観点から残業時間を把握することが望ましいとされています。

変形労働時間制における残業申請

変形労働時間制を採用している場合、各期間における所定労働時間を超える時間を正確に把握し、適切な申請・承認プロセスを設計する必要があります。特に1年単位の変形労働時間制では、繁閑の差が大きい業務特性に合わせた残業申請の基準設定が求められます。

事前申請制導入のメリット

事前申請制度とは、従業員が残業を行う前に、必要な残業時間と業務内容を申請し、上長の承認を得る仕組みです。具体的には、残業が必要となる前日までに申請を行い、上長が業務の必要性や時間の妥当性を確認して承認するというプロセスを踏みます。

このような残業の事前申請制度を導入することで、労働時間の適正管理だけでなく、人件費の予算管理や職場の意識改革にもつながります。具体的なメリットを解説します。

労働時間の適正化

事前申請制により、管理者が部下の残業状況を事前に把握・管理できるようになります。必要性の確認や業務調整を行うことで、適切な労働時間管理が可能になります。

人件費の予算管理

残業時間を事前に把握できるため、人件費の予測が容易になります。部門ごとの残業予算管理や、コスト削減施策の立案にも活用できます。

労務管理意識の向上

申請時に残業の必要性を説明しなければならないため、従業員の時間管理意識が向上します。上司も部下の業務状況を把握しやすくなり、適切な業務配分が可能になります。

長時間労働の抑制効果

承認を得られなければ残業ができないため、不要な残業を抑制する効果が期待できます。また、特定の従業員への業務集中も把握しやすくなり、負荷の平準化にも役立ちます。

コンプライアンスリスクの低減

36協定の遵守状況を事前にチェックできることで、法令違反のリスクが低減します。労働基準監督署の調査にも適切に対応できます。

残業申請のルール設計

効果的な残業申請制度を実現するには、明確なルールの設計が不可欠です。各企業の実情に合わせた、実効性の高いルールづくりのポイントを解説します。

申請・承認フローの設計

現場の管理職による1次承認、人事部門による2次承認など、重層的な承認プロセスを設計します。特に36協定の上限時間に近づいている場合は、人事部門が早期に介入できる仕組みが必要です。

部門別のルール設定

営業部門や製造部門など、部門の特性に応じた柔軟なルール設定が必要です。例えば、以下のような対応が効果的です。

  • 営業部門では、顧客訪問後の報告書作成や急な商談対応を考慮し、当日中の事後申請を認める運用とします。ただし、翌営業日午前中までには正式申請を完了するルールを設けます。
  • 製造部門では、生産計画に基づく計画的な残業が中心となるため、週単位での一括申請を可能にします。ただし、予定時間を超過する場合は、別途申請を義務づけます。
  • 管理部門では、月次決算や株主総会などの繁忙期が予測できるため、部門別に年間の残業計画を策定し、それに基づく申請運用を行います。

承認権限者の設定

適切な承認権限者を設定し、代理承認の仕組みも整備します。複数の承認者が必要な場合は、承認順序も明確にしておきましょう。

必要書類の規定

申請時に必要な情報や添付書類を明確にします。業務内容の詳細や予想される残業時間など、承認判断に必要な情報を漏れなく収集できるようにします。具体的には、業務内容、予定時間、理由、代替手段の検討状況などを記載する項目を設けます。

緊急時の対応ルール

突発的な残業が必要になった場合の対応手順を定めます。事後申請の期限や承認プロセスなど、例外的な状況でも適切に対応できる仕組みを整備します。

残業申請における課題と対策

残業申請の運用では下記のようなさまざまな課題が発生します。システム化を進める、運用ルールを工夫するなどして対処し、より効果的な管理を実現しましょう。

突発的な残業への対応

急な取引先対応や納期変更など、予定外の業務発生時の申請手続きは常に課題となっています。事前申請の原則を保ちながら、緊急時には電話やメールによる仮承認を認め、事後速やかに正式申請を行う運用が効果的です。特に営業部門のように突発的な対応が多い部署では、承認ルートの簡略化も検討します。

申請漏れ対策と防止の仕組み

残業申請の漏れは、特に月末や業務集中期に多く発生する傾向にあります。この課題に対しては、勤怠管理システムによる自動アラートの設定が有効です。退勤時刻と申請状況の照合による警告通知や、上長による定期的な申請状況確認を実施し、未申請の多い部署には重点的な指導を行います。

承認者不在時のバックアップ体制

承認者の不在により申請処理が滞ることは、業務効率の低下やコンプライアンス上のリスクにつながります。部門ごとに複数の承認権限者を設定し、主担当不在時の代理承認ルートを明確化します。また、長期不在時は事前に権限委譲を行うなど、承認業務が停滞しない体制を整えます。

36協定違反の防止

36協定の上限時間超過は重大なコンプライアンス違反となります。この問題に対しては、システムによる管理だけでなく、組織的な対策も重要です。部門ごとの業務量の把握と平準化、応援体制の整備、業務プロセスの見直しなどを計画的に実施することで、構造的な長時間労働を防ぐことができます。特に繁忙期の人員配置や業務分担については、事前に検討し対策を講じることが効果的です。

サービス残業の把握と予防

申請された残業時間と実際の労働時間との乖離は、労務管理上の重大なリスクです。入退館記録やパソコンのログなどの客観的なデータと申請内容を定期的に照合し、差異がある場合は速やかに原因を調査して対処します。また、管理職向けの研修を通じて、適切な労働時間管理の重要性を継続的に啓発することも効果的です。

サービス残業については、以下の記事をご覧ください。

テレワーク特有の残業管理

テレワーク環境下では、従業員の労働時間を正確に把握することが困難です。また、対面でのコミュニケーション不足により残業申請が適切に行われないリスクがあります。この課題に対しては、パソコンのログやビジネスチャットツールの活用により、労働時間を可視化することが効果的です。オンラインでの申請・承認手続きを整備し、リモートワーク中でも円滑に残業申請ができる環境を整えることも重要です。

残業申請の効率的な管理方法

残業申請の管理には、適切なツールの活用が不可欠です。勤怠管理のシステム化により、申請から集計までの業務を効率化し、人的ミスを削減できます。また、リアルタイムでの状況把握や詳細な分析も可能になります。ここでは、システムを活用した効率的な運用方法について具体的に解説します。

勤怠管理システムの導入や活用については、以下の記事をご覧ください。

申請・承認の電子化

紙の申請書やメールでの申請を廃止し、承認プロセスを電子化します。これにより、モバイル端末からの申請・承認も可能になります。

実績管理の自動化

タイムカードやパソコンのログとの連携により、申請内容と実績の照合を自動化します。差異がある場合は自動でアラートを発信します。

アラート機能の活用

残業時間の上限超過については、超過してからでは遅いため、事前に警告を発する仕組みが重要です。システムが残業時間の累計を監視し、上限に近づいた時点で自動的に通知することで、36協定違反を未然に防ぐことができます。具体的には、月間の累計残業時間を自動計算し、申請内容を加えた場合の予測残業時間を表示します。さらに、特別条項の適用回数も含めた自動チェックを行い、上限超過のリスクがある場合は申請時点でアラートを表示します。

また、申請漏れを自動検知し関係者に通知することで、労務管理の漏れも防止できます。このようなアラート機能の活用により、予防的な労務管理が可能となり、より確実なコンプライアンス対応を実現できます。部門全体の残業傾向や特定の従業員への業務集中なども早期に発見できるため、より効果的な労務管理が可能になります。

データの分析・活用

残業データの分析では、部門別・職種別・時期別などの多角的な切り口で傾向を把握します。これにより、業務の繁閑に応じた人員配置の最適化や、特定部署への業務集中の是正につなげられます。また、残業の発生要因を分析することで、業務プロセスの改善や必要な人材の採用計画にも活用できます。

残業管理の効率化や、お悩み・課題解決方法についてはこちらをご参照ください。

まとめ

残業申請の適切な管理は、働き方改革の実現とコンプライアンス対応の要となります。事前申請制の導入により、労働時間の適正化や人件費管理の効率化が期待できます。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、明確なルール設計と従業員への周知、部門特性に応じた柔軟な運用、そして確実な36協定の遵守管理が重要です。

特に、複数の事業所を持つ中堅・大手企業では、システム化による業務効率化が不可欠です。適切なシステムを導入すれば、申請から承認、実績管理までの一元管理が可能です。人事労務担当者の業務負担を軽減しながら、経営者と従業員の双方にメリットのある残業管理の仕組みを実現できます。

残業申請の管理に役立つ勤怠管理システム

アマノの勤怠管理システムTimePro-VGは、残業申請の管理を効率化し、確実なコンプライアンス対応を支援します。36協定の上限管理から申請・承認フローの電子化まで、人事労務担当者の業務負担を大幅に軽減します。

GUIDE

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01基礎知識

勤怠管理の意義と
重要性

02選び方

勤怠管理システム
選び方の基本

03実践編

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導入のポイント

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