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今最も考えるべき労務リスク対策 時間外労働の上限規制を受けた労務管理の在り方とは

公開日時:2017.10.27 / 更新日時:2022.03.09

平成29年3月28日に働き方改革実現会議が決定した「働き方改革実行計画」が実行に移されることで、従来の労務管理では回避することが困難なリスクが顕在化すると考えられます。
村上 元茂 氏

村上 元茂 氏

2008年 弁護士登録(東京弁護士会)
2014年 株式会社アクセア社外取締役就任(現任)
2015年 弁護士法人マネジメントコンシェルジュ設立(現任)
2019年 社会保険労務士法人clarity設立(現任)

人事・労務、外国人雇用、企業に対する不当クレーム対応等の業務に従事。
弁護士法人における人事労務分野対応としては、日常的な問題社員対応に加え、訴訟、労働審判、あっせん、労働組合との団体交渉を得意とする。
社会保険労務士法人における対応業務としては、紛争対応を見据えた労務管理についてのアドバイス、各種規程整備、人事評価システムに関するアドバイス、HRテックを用いた労務管理についてのアドバイスを行っている。
また、弁護士として、BtoC企業の依頼を受け、企業に対するクレーム・クレーマー対応にも多数関わる。

長時間労働がもたらす企業リスク

罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正

時間外労働を命じるにはいわゆる36協定の締結が必要であるところ、36協定には1週から1年までの期間毎に限度基準が決められています。しかし、現行の規制としては、この限度基準は厚生労働省の告示であり、罰則等による強制力はありません。また、特別条項付き協定とすることにより事実上無制限に時間外労働をさせることが可能となっています。次の法律改正ではこの限度基準告示を法律に格上げし、罰則による強制力を持たせると共に、特別条項付き協定であっても上回ることのできない上限が設けられます。

備えるべきリスクは何か

日本型雇用制度の最大の特徴である長期雇用慣行(終身雇用制)の下、従来我が国においては外部から一時的に労働力を確保するという慣行がありませんでした。また、長期雇用慣行を前提として判例法理によって確立した解雇権濫用法理により、解雇には厳格な規制がなされています。以上の状況から、企業は業務の繁閑にあわせて雇用者数を変動させることにより雇用調整を図ることが困難であるというのが実情です。他方、グローバル競争の激化、景気低迷の長期化により非正規雇用者が増加したことに伴い、正規雇用者の負担が増加しています。

以上の状況の中、従来の日本企業の雇用調整の手法として、雇用者数は最小限にとどめ、不足する労働力は時間外労働に頼る(時間外労働によって雇用調整を図る)というのが実情でした。

今般の法改正により時間外労働の総量規制が行われることで、時間外労働により雇用調整を図ることは困難になります。

レピュテーションリスク(風評リスク)

政府の方針

平成28年12月26日に、厚生労働省から「過労死等ゼロ」緊急対策が発表されました。この中には、長時間労働等による是正指導段階からの企業名公表についての要件の緩和(拡大)が含まれています。

また、厚生労働省が、2020年にも従業員数301名以上の大企業に対し残業時間の公表を義務付けるという新聞報道もなされています

備えるべきリスクは何か

厚生労働省の企業名公表をはじめ、過重労働等について報道の対象となった企業はいわゆる「ブラック企業」というイメージを一般国民から抱かれてしまいます。そして、一度ついた「ブラック企業」のイメージは容易に払拭することはできません。

すなわち、従来は奨励される傾向にあった長時間労働が、今後は企業へのレピュテーションリスクとして、社会的信用の失墜、リクルートへの影響など企業活動に対する大きな影響を及ぼすこととなります。

労災のリスク

増加する労災請求件数

厚生労働省の発表では、平成10年にはわずか42件であった精神障害に基づく労災補償請求件数が平成27には1,515件と、17年間で36倍の増加をしています。これは、精神疾患に基づく労災に対する裁判例・行政機関の対応の変遷に伴って労災請求の数も増加したことを現しているといえます。

精神疾患に業務起因性が認められるかは、上図のように心理的負荷の要因となる出来事の強度によって判断されます。他方、脳・心臓疾患に業務起因性が認められるかは過重負荷・異常な出来事の有無によって判断されます。

これらの業務起因性の判断要素のうち、時間外労働は脳・心臓疾患、精神疾患のいずれにも含まれており、長時間労働の是正は労災発生のリスクを抑えるために重要なポイントといえます。

なお、時間外労働はタイムカード等の資料によって容易に判断しやすいため、労災認定において用いられやすいという特徴もあります。

安全配慮義務違反

労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。・・・使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである

上記の最高裁平成12年3月24日判決においては、使用者側に従業員の業務量の適切な調整等を行う義務があったとして安全配慮義務違反があったと判断されています。

備えるべきリスクは何か

労災を理由とする損害賠償請求訴訟において、発生した損害と業務との相当因果関係が認められ、使用者側に安全配慮義務違反が認められた場合、使用者は損害賠償責任を負わされることになります。

そこで、使用者としては、日頃から従業員の安全・健康に対する万全の管理体制を整えておく必要があります。

まとめ

以上、従来の裁判例の推移及び今後予定される法改正等を踏まえ、備えるべきリスクとして、長時間労働が規制されることに伴うリスク、レピュテーションリスク、労災のリスクを取り上げました。この他、昨今生じている問題として、未払い残業代請求、役員個人の賠償責任問題等が生じています。

また、柔軟な働き方を目指して導入されたテレワークや副業・兼業の推進についても、労働時間管理・従業員の健康管理の在り方によっては労務リスクを生じる可能性があることに注意が必要です。

今後は何が変わって何が変わらないのかについて正確な情報を入手しつつ、適切な労務管理をすることで働き方改革を有効に活用し、想定外のリスクが生じないようにする対策が必要です。

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