ペーパーレス化に向いている業務の特徴
「業務効率化・経費削減など効果的なペーパーレス化の方法は? 進め方から成功事例までを解説」では、ペーパーレス化を実施する方法や効果について解説しましたが、今回は経理・労務管理における具体的な業務とその方法を紹介します。テレワークの普及後も出社が必要とされることが多い経理や労務管理関係の業務をペーパーレス化する際に役立つツールについてもあわせて解説します。
リアルタイムで更新する必要のあるもの
業務の進行管理や作業記録のチェックなど、リアルタイム性が求められる作業はペーパーレス化に向いています。
進行管理や作業記録のチェックを電子化したり、クラウド管理を導入したりすることで、管理や記録のチェックを行うたびに手書きのサインや押印を残す必要がなくなります。また、ペーパーレス化により管理やチェック方法の更新の度に新しく用紙を印刷したり、過去の記録をファイルにとじて保存したりする手間が省けるというメリットが生じます。
申請・承認業務
アナログでは時間がかかりがちな申請・承認業務のフローをペーパーレス化することにより、回覧時のタイムロスをなくすことができます。
これまで、年次有給休暇や残業の申請などをする際は指定の用紙に記入の上、管理者に直接提出する必要があり、承認には管理者の押印が必須でした。直属の上司の承認だけでなく、人事部門の承認が必要なフローである場合は、1つの申請に数日以上の日数が掛かってしまうというデメリットもありました。
これら申請・承認作業を電子化することで、直接承認をもらわずとも、システム上で作業が完結します。申請後に上司にシステムから通知がいくため、申請を出した即日に承認を完了させることが可能となり、ペーパーレス化と共に申請・承認業務の効率化が進みます。管理者が出張中であったり、申請者の従業員が在宅勤務中であったりしても申請・承認作業が滞りなく進むため、特にテレワークが多い企業には申請・承認業務フローの電子化は必須と言えます。
複数名が複数拠点で閲覧する必要があるもの
業務マニュアルや会議で使用する資料など、複数のメンバーが他の場所から閲覧する必要のある資料は、ペーパーレス化することで、社内外の業務進行がスムーズになります。業務マニュアルをオフィスに保管している場合、複数拠点で使用するには全てのページを印刷してスペアを作る必要がありますが、オンライン上で閲覧可能な状態にしておけば、必要に際して各従業員のパソコンから好きな時に閲覧でき、都度確認もしやすくなります。
また、取引先との共有資料もペーパーレス化に向いています。昨今ではテレワークやそれに伴うWeb会議システムの普及から、取引先とオンラインで関わる機会も増えています。先方がいつでも必要な資料を見られる状態にしておくことで、資料の郵送、手渡しの手間も省け、顧客満足度の向上にもつながります。
複数名が複数拠点で編集する必要があるもの
閲覧と合わせて、会議資料の編集やデータの二重チェックなど、複数の拠点から同時編集が必要な作業でもペーパーレスで効率化できます。具体的には、営業チームで使用する顧客情報管理シートや、各種業務のチェックリストなど、使用する度に印刷したり書き込みを再度資料に反映したりする作業が省けます。本社にいる責任者が支社にいる従業員のタスクをリアルタイムで管理することを可能にしたり、オフィスにいる上司が在宅勤務している従業員のタスクを遠隔から管理したりすることが可能なので、管理者の負担削減につながります。
経理・労務管理でペーパーレス化できるものは?
2022年施行の電子帳簿保存法改正により、電子データの保存やスキャナによるデータ保存、電子取引にかかわる制度変更が行われ、人事・労務領域でペーパーレス化できる業務の幅が拡大する見込みです。ここではペーパーレス化が可能になる業務について具体的に解説します。
顧客企業との契約・書面手続き
顧客企業との契約・書面手続きには、書類を郵送した上で押印が必要でしたが、電子契約によりこれらの手間を省いたペーパーレス化が実現可能となります。また、従来は電子認証局による本人確認が行われた上で発行された電子証明書を使った電子契約でなければ法的効力がないとされてきましたが、2020年に総務省・法務省・経済産業省が連名で示した見解により、条件を満たせば法的効果を維持できると明記されました。
これにより、契約手続きの電子化活用の幅がさらに広がると見込まれます。
電子契約システムで扱うことのできる契約書の例
- 取引基本契約書
- 注文書
- 請求書
- 領収書
- サービス利用申込書
- 業務委託契約書
- 請負契約書
- 建設請負契約書
- 販売請負契約書
- 代理店契約書
- 商品販売委託契約書
- 供給契約書
- 製造委託契約書 など
- 参照:経済産業省|「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A (電子署名法第3条関係)」
- 参照:一般財団法人日本データ通信協会|主務三省 Q&A(電⼦署名法第 3 条関係)に関する解説
勤怠管理
タイムカードや出勤簿などの紙媒体を廃止し、勤怠管理システムを導入することでペーパーレス化を実現できます。勤怠管理システムは、ICカード・パソコン・スマートフォンなどから打刻ができ、打刻された時間をもとに、従業員の労働時間や残業時間などを自動集計してくれるシステムを指します。従来は給与計算の前に従業員全員のタイムカードを集め、労務担当者が打刻漏れの確認をしてから、一枚一枚手作業でExcelに入力し集計していくという作業がありました。勤怠管理システムによる自動化を行えばこれらの手間をまとめて削減できます。
労働時間の集計データはcsvファイルでも出力できるため、給与計算ソフトへの連携もスムーズに行えます。また、労務の業務効率化だけでなく、勤怠状況をデータ化することで残業時間が多い従業員の業務量調節や、長時間労働への対策がしやすくなることも、大きなメリットと言えます。
給与・賞与明細の配付
給与計算後に毎月行う給与・賞与明細の配付も、ペーパーレスにすることで大幅な業務効率化が見込めます。
勤怠管理と給与計算の情報を入力して紙に印刷、封入し、その後従業員一人ひとりに手渡しや郵送で配布する給与明細の場合、一人分の明細を作成するだけでも多くの手間がかかります。また、封筒の名前と給与明細の入れ間違えなど、人的ミスが起こりやすい業務でもあります。
給与明細にかかわる業務を電子化することで、給与明細・賞与明細の配布に至るまでの業務負担が大きく軽減されるほか、配布ミスなどのリスクもなくなるため、全体として大幅な業務効率化につながります。給与明細の電子化システムを利用すれば、電子メールや専用のWebサイトから従業員一人ひとりが自分の給与明細を照会できるようになり、従業員が好きなタイミングで確認することが可能です。
給与明細発行業務のペーパーレス化導入前・導入後のフロー
ペーパーレス前 | ペーパーレス後 |
---|---|
①給与データ作成 ②従業員分の明細を印刷 ③仕分け ④封入・封かん ⑤配布、または郵送 |
①給与データ作成 ②一人ひとりの給与データが記載されたURLをメール送付(運用によっては不要) |
さらに勤怠管理や給与ソフトと連携すれば、給与や賞与、残業手当に通勤手当、社会保険や所得税など、あらゆる項目に対して自動算出で簡単かつスピーディに給与明細を作成することができ、従業員の利便性と共にバックオフィス業務の効率化が向上します。
年末調整手続き
毎年、従業員への書類配布と回収をした後に、記入項目や添付資料に漏れがないかチェックが必要だった年末調整業務も、年末調整ソフトを利用することで、ペーパーレス化が可能になります。
年末調整ソフトを利用する場合、書類の記入はすべてWeb上で行うため、従業員の人数分必要だった書類の準備・配布・記載・回収・入力の手間が削減でき、全体として大幅な作業工数削減が見込めます。年末調整書類の提出後の工程で発生する年税額の自動計算や訂正や修正、行政機関への電子手続も年末調整ソフトを使って対応できるため、書類と照らし合わせた見直しの手間が省けます。
また、2021年の税制改革に伴い、年末調整の電子化を促進する手続き変更も実施されています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
【業務改善ガイド】「2021年の税制改革に関連する年末調整手続き変更のポイント」
交通費などの経費精算
従来は領収書と共に手書きの用紙で申請が必要だった交通費をはじめとする経費精算も、専用の経費精算システムを導入することで、ペーパーレス化が可能になります。経費精算システムを利用する場合、経費を立て替えた従業員は、オンラインで申請書を作成し、スマートフォンで領収書を撮影またはスキャンデータを送ることで領収書提出とみなされます。
申請者は場所を選ばずオンラインで申請書を作成して承認依頼をすることができ、承認者も同様に、外出先や空いた時間にボタン1つで承認作業をおこなうことができるため、申請・承認にかかる時間が短縮できます。
経費精算のペーパーレス化前後のフロー
ペーパーレス前 | ペーパーレス後 |
---|---|
①従業員が経費を立て替え
|
①従業員が経費を立て替え ②従業員が各自のスマートフォンアプリで領収書を撮影、スキャンデータを送ってオンラインで経費を申請 ③承認者が申請された内容をデータ上で確認し承認 |
設備予約・備品管理
会議室や従業員が共有で使用する備品の予約は、無料の予約システムや管理ツールの導入で代替でき、比較的簡単にペーパーレス化が可能です。手書きの管理表の場合、管理表を保管してある場所まで確認する手間がかかり、急に予約が必要になった際に不便でしたが、予約システムやツールを利用することで自席のパソコンから、すぐに予約を押さえたり、利用状況を確認したりすることも可能です。
無料ツールの中で代表的なGoogleカレンダーは、カレンダーに会議室の予約スケジュールを登録するときに、参加者に会議室を含めることで社内に予約情報を共有できます。より細かく設定をしたい場合には、自由にカスタマイズできる有料ツールを検討しましょう。
来訪者管理
取引先や顧客など、自社を訪れる来訪者管理をペーパーレス化することで業務効率化や人件費の削減が期待できます。来客が多い企業の場合、オフィスの受付に専用のスタッフを常駐させる必要がありますが、人件費の負担が大きくなります。受付スタッフを常駐させていない企業も、バックオフィス部門が対応する取り次ぎ作業や来訪カードの管理など、通常業務に加え、受付業務に関連する負担がかかります。
これらの業務は受付管理システムなどのサービスを導入することで、スタッフの常駐が不要となるだけでなく手書きの管理表や来訪者カードの用意なども不要になるため、ペーパーレス化を実現できます。
具体的には、QRコードやスマホを活用した来訪受付の簡略化、グループウェアと連携した会議室の確保、入館カードやセキュリティゲートとの連携により、機密性を保持しながら業務負担を軽減することができます。
受付管理システムの使い方の例 | ・タッチパネルなどのデジタルツールを利用して、訪問者の受付や来訪者の記録を行う ・来訪者自身が受付システムから部署名、担当者を検索し、直接担当者を呼び出して取次ぎ、会議室などへの案内を行う |
ペーパーレス化を実現するためのツール・サービスの選び方
ペーパーレス化のためのツールやサービスにはさまざまな特徴や機能が備わっていますが、その中から自社の組織規模や業務内容、システム環境などに合ったものを選ぶことが重要です。また、導入後のワークフローをシミュレートして実際の運用時に現場で不備が生じないか検証することも、忘れずに行う必要があります。
各業務のペーパーレス化に取り組む際は、ペーパーレス化自体を目的とするのではなく、ペーパーレス化を実現して得られる業務効率化や利便性の向上など、企業や従業員にとって有益な効果獲得を目的に据えるようにしましょう。
上記を踏まえて、費用対効果が最も得られるサービスやツールを選ぶことが望ましいです。
まとめ
行政サービスや企業同士の契約業務でも電子化が進む現代においては、今後さらにペーパーレス化の必要性が高まっていくと考えられます。DX(デジタルトランスフォーメーション)が当たり前になっている今、経理や人事・労務領域をはじめバックオフィス業務においても、例外なく加速する電子化へ迅速に対応する必要があります。ペーパーレス化はその一環と捉え、業務効率化や場所や時間を問わない働き方実現のためにも対応できる体制を整備していきましょう。
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