小売業が抱える代表的な労務課題
慢性的な人手不足をはじめ、各産業の中でも深刻な労務課題を抱えている小売業の実態について政府のデータをそれぞれ解説します。小売業のコロナ禍における現状についても紹介しています。
労働力不足
農林水産省が2018年に、過去の「雇用動向調査(産業、企業規模、職業別欠員率)」をもとに発表したデータでは、小売業の欠員率*は全業界の平均と比べても高く、人手不足が深刻であることが分かります。
*欠員率とは、常用労働者数に対する未充足求人数の割合をいい、次式により算出。
欠員率=未充足人数÷常用労働者×100%
また、帝国データバンクが2021年4月に発表した「人手不足に対する企業の動向調査」では、正規社員、非正規社員ともに小売関係業種の人手不足が目立っています。特に、非正規社員の人手不足は顕著で、百貨店や大型スーパーを含む「各種商品小売」や、コンビニエンスストアや食品ス―パーを含む「食料品小売」では慢性的な非正規社員の不足が続いていることが伺えます。
正規社員 | 非正規社員 | ||||||
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2021年4月 | 2020年4月 | 2021年4月 | 2020年4月 | ||||
1 | メンテナンス・警備・検査 | 55.6 | 46.5 | 1 | 飲食店 | 50.0 | 16.4 |
2 | 教育サービス | 55.6 | 37.9 | 2 | 教育サービス | 46.2 | 25.0 |
3 | 建設 | 54.5 | 48.2 | 3 | 各種商品小売 | 45.2 | 55.3 |
4 | 情報サービス | 54.1 | 44.6 | 4 | メンテナンス・警備・検査 | 42.8 | 35.2 |
5 | 農・林・水産 | 53.5 | 48.2 | 5 | 飲食料品小売 | 38.8 | 32.4 |
6 | 自動車・同部品小売 | 50.0 | 33.0 | 6 | 農・林・水産 | 37.9 | 38.5 |
7 | 放送 | 46.7 | 40.0 | 7 | 人材紹介・派遣 | 37.0 | 26.3 |
8 | 医療・福祉・保健衛生 | 44.4 | 42.5 | 8 | 娯楽サービス | 33.3 | 23.6 |
9 | 家具類小売 | 43.8 | 41.2 | 9 | 電気・ガス・水道・熱供給 | 30.8 | 20.0 |
10 | 電気・ガス・水道・熱供給 | 43.8 | 43.8 | 10 | 専門商品小売 | 30.3 | 25.0 |
2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大による店舗の休業、時短営業などが影響し、営業時間、日数が限られている状況です。営業に必要な人員が縮小していることから人手不足感は低下しつつありますが、抜本的な人手不足対策がなされたわけではありません。コロナ禍による営業時間や営業日数の制約がなくなれば、小売業では再度人手不足の状況が続くと考えられます。
長時間労働と少ない休暇取得日数
小売業は全産業と比べても労働時間が多く、休暇の取得日数が少ない傾向にあります。厚生労働省の「平成28年賃金構造基本統計調査」によれば、飲食料品小売業で働く人の労働時間は月平均184時間、小売業全体では168時間と全産業平均の164時間より高い水準です。
また小売業では、特に店舗の店長・マネージャーはアルバイトやパートタイマーが休んだ日やシフト調整で出勤するケースが多く、労働時間が長くなりがちな傾向にあります。
休暇取得については厚生労働省の同調査によると、小売業の年間休日総数は全産業と比べ特に少ない結果となっています。人手不足かつ、土日も営業している業態が多いことから休日が取りにくいことが主な原因です。
産業 | 1企業平均年間休日総数(日) |
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全産業 | 108.0 |
卸売業 | 110.3 |
小売業 | 100.7 |
製造業 | 111.6 |
飲食料品小売業の労働生産性は特に低い
小売業の中でも、食品スーパーやコンビニエンスストアを含む飲食料品小売業の労働生産性は特に低迷しています。総務省の「平成26年経済センサス」をもとに農林水産省が作成したデータによると、食料品小売業の労働生産性は全産業の半分以下でした。
飲食料品小売業では、レジ打ちやバックヤードでのパッキング、事前加工処など業務の主要な部分を人の労働力に頼っており、売上高に対する人件費の比率が高い「労働集約的」な労働であることが生産性の低い理由であると農林水産省は指摘しています。食料品小売業においては、従業員の業務・作業の負担を軽減し、労働を効率化することにより生産性を高めることが可能になると考えられます。
生産向上にはシフト作成と勤怠管理の効率化が必要
小売業の店舗において負担になる代表的な業務が、シフトの作成や従業員の勤怠管理です。正規社員だけでなく、アルバイト・パートタイマーが多い小売の店舗では固定シフト以外で働く従業員も多く、毎月のシフト作成作業が必要です。また、店舗ごとに手作業でシフト管理や従業員の出退勤を記録している場合、本部での労働時間管理や人員の稼働状況の把握にもタイムラグが生じ、給与計算も円滑に進みません。
小売業特有の煩雑なシフト管理や勤怠の課題を解消するためには、小売業のシフト作成や勤怠管理にも対応したシステムの導入が有効です。小売の現場における具体的な課題ごとに、どんなシステムの機能が必要なのか解説します。
【課題①】煩雑なシフト作成業務の負担を減らしたい
小売業の店舗においてシフトの作成や調整に大きな負担がかかっています。アルバイト・パートタイマーが多い小売業では、従業員から出勤日・時間の希望を集めて、シフトを組む作業が毎月発生します。ただ人員を埋めればよいだけでなく、忙しい時間帯には正規社員やバイトリーダーなどの責任者を必ずシフトに入れたり、新人をフォローできる人員体制にしたりしたうえで、シフトを確定させる必要があります。
これらのシフト作成、管理にかかる課題別に、必要なシステムの機能を解説します。
シフト管理を効率化させる機能
小売業において、いまだに多くの企業が表計算ソフトのExcelによるシフト管理を行っているのが実情です。シフト変更時はマネージャーが手作業でExcelのシフト表に情報を打ち込まなければならず、時間がかかります。シフト作成・管理に対応したシステムを導入することで、以下のような機能を利用できます。
・システム上でシフト作成・調整から公開まで行える機能
店舗や施設にある専用パソコンや端末からマネージャーや従業員がシステム上にシフト情報を入力することで、月々のシフト作成を簡単に行える機能です。Excelファイルでフォーマットを作成したりシフト集計に必要な関数の入力をしたりする手間を省き、手作業でありがちな入力ミスを減らすことができます。
・勤務パターンに合ったシフト作成できる機能
固定の曜日や時間にシフトが入っている従業員や早番や遅番のシフトの従業員がいる場合、シフトのパターンを予めシステムに設定しておくことで、パターンが決まっているシフトを作成する機能です。従業員一人ひとりの希望シフトを全て手入力する手間が省けます。
シフト回収と反映を簡略化する機能
従業員のシフト提出も多くの企業では手作業で行われています。紙にシフト希望を書いてもらい、それをマネージャーがシフト表に反映させる作業に時間がかかっています。また、シフトの提出期限が守られなかったり、急なシフト変更があったりした際には、電話やメールで連絡する手間も発生します。
シフト管理を行うシステムには希望シフトの回収や提出漏れの防止だけでなく、急な変更にも対応しやすい次のような機能があります。
・紙のシフト希望表の提出でなく、オンライン上でシフト申請できる機能
店舗や施設においてある専用のパソコンや端末から従業員自身がシフト申請を行う機能です。シフト申請画面から希望の曜日や日時を入力することでオンライン上のシフト作成画面に情報を反映できます。マネージャーが希望シフトを手入力する手間を省けるだけでなく、複数人のシフト申請情報を一覧表示しながらシフトの調整が可能です。
また、小売店向けにスマートフォンへに専用アプリをダウンロードすることでオンライン上でのシフト申請が可能なシステムもあります。従業員は場所や時間を問わずシフトを申請できるため、シフトの申請漏れも減らす効果があります。
・管理画面上でシフト表のリアルタイムの確認が可能な機能
マネージャーや正規社員だけでなく、アルバイターやパートタイマーも「どの曜日のに、何時に、誰がシフトに入っているのか」をシフト表を確認できる機能です。こちらもスマートフォンに専用アプリをダウンロードしてシフトを参照できるシステムであれば、シフト確認が容易になります。マネージャーが連絡しなくとも、空いたシフトをオンラインで確認できるため、従業員同士でシフト調整もしやすくなります。
シフトの自動作成機能
スキルや必要人員を考慮したシフト作成自体にも手間がかかりますが、新型コロナウイルスによる外出自粛により小売業では来客数の見込みを立てるのが難しく、従来よりシフト管理がより煩雑になっています。システム内でシフトを自動作成する機能を活用することで、シフト作成や調整にかかる業務負担を削減できます。
・従業員の勤務パターンやスキルを設定して利用するシフトの自動作成機能
従業員それぞれの勤務パターンやポジション、経験をあらかじめシステムに入力したうえで複数のシフトパターンを自動制作する機能です。必要な人員が曜日ごとに異なる場合は、「来客数が多い日曜日は必要人員を多めに設定しておく」などの個別の設定をすることで適正なシフトを作成できます。
自動作成したシフトをそのまま使わない場合も、複数のシフトパターンを原案としてシフト表を作成することで、全体的な作業の工数削減につながります。
・売上予測も同時に行う機能
AIやアルゴリズムを駆使し売上予測を立てたうえで、それに必要なシフトを自動作成できるシフト管理機能を搭載しているシステムもあります。売上予測に即したシフトを自動作成することで、新任のマネージャーでも店舗の売上や来客者数の傾向に合わせた適正なシフト作成、管理が可能になります。
【課題②】複数の雇用形態、働き方に対応したシフトを作成したい
固定シフトで働く正規社員だけでなく、異なる条件で働くアルバイトやパートタイマーが混在している店舗では、シフト管理や勤怠管理が煩雑になります。代表的な課題が「給与計算や労働時間把握が煩雑になる」「シフトを埋めるヘルプ勤務をした場合、修正に時間がかかる」などです。 これらの課題を解決するには、シフト管理と勤怠管理が一体になっているシステムが有効です。
異なる雇用形態ごとのシフト作成、勤怠管理を効率化できる機能
シフト管理機能を搭載しているシステムの中でも、複数の雇用形態や働き方に対応した勤怠管理システムが有効です。「正規社員」「アルバイト」「パート」「派遣社員」「契約社員」など、それぞれの雇用形態を登録し、その上で出勤・退勤時刻、時給などの勤務条件を設定することで、シフト作成だけでなく労働時間の集計と連動した時給計算の効率化が進みます。
例えば、アルバイトの時給が上がった際や、契約社員からフルタイムの正規社員に変更した際などもシステム上で従業員の雇用情報を更新することで、更新後の雇用形態に合わせたシフト作成や勤怠管理が可能になります。
「へルプ出勤(応援勤務)」のシフト修正も容易にできる機能
シフト管理と勤怠管理が一体化しているシステムの中には、一人の従業員が系列の別店舗のシフトを埋めるために出勤する「ヘルプ出勤(応援勤務)」の働き方にも対応できるタイプもあります。
ヘルプ出勤をする従業員が別店舗のシフトを埋める形で出勤した後は、ヘルプ出勤用のタイムカードを用意したり、後からExcelのシフト表で修正を行ったりする必要がありました。
クラウド上で複数店舗の勤怠状況やシフトを一元管理できるシステムであれば、出勤予定だった従業員とヘルプ出勤をする従業員のシフト上の置き換えも簡単にできます。実際に勤務した店舗ごとの労働時間集計にも対応しているため、煩雑な修正作業も不要となります。
【課題③】店舗ごとの労働時間の把握や給与計算を効率化したい
食品スーパーやドラッグストアなど各地域に複数店舗を運営している小売業では、店舗ごとの労働時間把握と給与支払いまでに時間がかかるという課題があります。解消にはリアルタイムで労働時間把握ができる勤怠管理システムの導入が有効です。
店舗ごとにタイムレコーダーやExcelで勤怠管理を行っている場合、各店舗からの勤怠データがそろわないと本部で締めの作業ができません。本部と各店舗での1か月の労働時間把握にタイムラグが生まれ、給与計算に着手できるタイミングも遅れ非効率になりがちです。
どの店舗にどのくらい人員が投入されているのか、各店舗の残業時間がどのくらいなのか、などを本部がリアルタイムで把握できていないケースもあります。月の半ばで人員が足りなくなったり、残業時間がオーバーしそうな従業員がいたりした場合、問題発生前に気付くことが難しくなります。
このほか、打刻ミスや不正打刻が疑われる場合、手作業での修正や確認にも時間がかかり円滑な労働時間の把握の妨げになり、確実な打刻ができるシステムを導入する必要があります。
リアルタイムの労働時間把握ができる機能
従業員のシフト管理を行うと同時に、労働時間の集計も自動で行う勤怠管理システムを用いることで、各店舗の労働時間がリアルタイムで把握できるようになります。本部で勤怠やシフトデータを一元管理できれば、労働時間に加え、どの従業員がどの店舗に出勤しているのか、残業超過しそうな従業員はいないか、店舗ごとの状況把握がスムーズにでき、トラブルを未然に防ぐ効果もあります。
本社で行う毎月の給与計算は、各店舗の勤怠データを本部で一元管理することで本部・店舗間でタイムラグが生じることなく効率的に実施できます。
不正打刻を防げる機能
シフト管理に加え、店舗で働く従業員にありがちな不正打刻や打刻ミス防止のため、顔認証で簡単に打刻ができる機能があると確実な打刻が可能になります。打刻ミスの修正に手間取ることなく、アルバイトやパートタイマーの勤怠状況を管理できるため店長の負担削減にもつながります。
またコロナ禍においては、非接触の顔認証での打刻や、ICカードを用いた打刻ができるシステムを導入することで、感染リスク防止につながる効果も期待できます。
まとめ
小売業は、人手不足を始め、長時間労働や休日未取得などの労務課題が多く、全産業から見ても生産性が低いなどの課題を抱えています。異なる雇用形態、労働条件の従業員をシフト管理する負担が大きいことも小売業の店舗経営の特徴です。
新型コロナウイルス拡大の影響で来客数の予測ができず、さらにシフトの作成や管理が煩雑になるなか、シフト管理を効率化させる小売業のニーズにあったシステム導入が欠かせません。
多店舗運営をする企業向けに、各店舗の正しい勤怠データの記録ができるシステムはもちろん、長時間労働の防止や法令遵守に対応したシステムが便利です。また、従業員の煩雑なシフト管理が行えるシステムを導入することで、労働時間短縮にもつながります。