人事・労務の注目用語
中途採用比率
ちゅうとさいようひりつ
公開日時:2021.05.11 / 更新日時:2022.03.09
中途採用比率とは、正規雇用労働者として採用した従業員のうち中途採用で入社した人の割合のことです。2021年4月に労働施策総合推進法が改正された影響で、全従業員数が301人以上の大企業に対して中途採用比率の公開が義務化されました。義務化の目的は、人生100年時代において職業生活の長期化が見込まれる中、労働者の主体的なキャリア形成による職業生活の更なる充実や再チャレンジが可能となるよう、中途採用の環境を整備することです。各社が中途採用比率を公開することで、他社の状況を知ることができ中途採用をより積極的に行う企業が増えると期待されています。
中途採用比率公開義務化の背景と影響
中途採用比率の公開が義務化された背景には、終身雇用や新卒一括採用が見直される中で、労働者の主体的なキャリア形成による職業生活のさらなる充実や再チャレンジが可能となる環境整備が必要になったことが関係しています。
大企業に中途採用比率公開が義務化された背景
全従業員数301人以上の大企業に中途採用比率の公開が義務化されたのは、一般的に企業規模が大きい会社ほど正規雇用労働者に占める中途採用者の割合が低いためです。リクルートワークス研究所の調査によると、従業員数が300人未満である企業の中途採用比率は76.7%であった一方、300人以上の企業の場合は40%前後にとどまりました。中小企業が義務化の対象から外されたのは、すでに中途採用者の割合が高いことや義務化の対象になった場合に業務負担が増えることが配慮されたためと考えられます。
中途採用比率公開が企業にもたらす影響
いまだ新卒一括採用が主流な日本の企業において、中途採用の比率は少ない状態にあります。企業が中途採用比率を公開すれば、どの企業の中途採用比率が高いのか比較ができるため、社内の多様性を示すことができる、中途採用で優秀な人材が集まりやすくなる、中途採用者とのマッチングがしやすくなるなどの効果が期待でます。中途採用比率の公開によって中小企業、大企業問わず、日本企業全体で中途採用が盛んになることも義務化で見込まれる影響の一つです。
ただし、定期的なデータ公開が求められるため、データ整理や公開作業などの業務が増えるといった影響もあります。
中途採用比率公開義務化に伴う対応の解説
ここでは、中途採用比率の計算方法や公開方法、中途採用比率を公開しなかった場合の罰則の有無について解説します。
中途採用比率の計算・公開方法
中途採用比率の計算方法は以下の通りです。小数点以下第一位は四捨五入します。
中途採用比率=
各年度の正規雇用かつ中途採用で入社した従業員数÷各年度の正規雇用労働者の採用数×100
中途採用比率は、直近の3事業年度についてそれぞれ別に計算しなければなりません。例えば、以下のように算出します。
年度 | 正規雇用労働者の採用数(A) | うち中途採用者数(B) | 公表する中途採用比率 (B/A*100により算出した比率の小数点以下第一位を四捨五入) |
---|---|---|---|
2018年度 | 40人 | 13人 | 13/40*100=32.5≒33% |
2019年度 | 32人 | 11人 | 11/32*100=34.37…≒34% |
2020年度 | 35人 | 8人 | 8/35*100=22.85…≒23% |
算出した中途採用比率は、企業HPや事務所など求職者が簡単に閲覧できる場所に公開します。公開頻度は、前回の公表から1年以内とされています。
中途採用比率の公表における中途採用者とは、正規雇用で採用した者のうち、新規学卒等採用者(学校・専修学校卒業者、職業訓練修了者、既卒者のうち新規学卒者として採用した者)以外を指します。また、中途採用比率の公表における正規雇用者の定義は、いわゆる正規型の雇用で働く従業員です。
中途採用比率を公開しなかった場合の罰則
中途採用比率公開義務化の対象となっている企業が比率を公開しなかった場合の罰則規定は、現在のところ設けられていません(2021年4月時点)。ただし、採用自体を行わなかった年度があればその旨を公開することが求められていますので、該当する年度がある場合は詳細についての確認が必要です。
まとめ
中途採用比率の公開義務化は、人生100年時代を見越して中途採用環境を整備する目的で導入されました。対象企業は年に1回以上中途採用比率を計算して公開しなければなりません。企業の事務負担が増えるものの、比率の公開によって中途採用で優秀な人材の確保が期待できるなどの効果が期待されています。
現在は全従業員数301人以上の大企業に限定して義務化されていますが、今後中小企業も公開の対象となる可能性もあるため、定期的に政府が公開する情報を確認して対応する必要があります。