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健康経営
けんこうけいえい
公開日時:2021.04.28 / 更新日時:2022.03.09
健康経営とは、従業員の健康管理に関する取り組みを会社としての投資と捉え、経営的な視点から戦略的に実行する経営手法のことです。従業員の健康管理に企業が取り組むことで、医療費の削減や従業員それぞれの生産性・創造性の向上などのリターンを得られます。また従業員の健康維持への取り組みが企業イメージの向上に寄与し、業績や株価によい影響を与えてくれるとされています。健康経営は国の政策としても推進されており、経済産業省は「健康経営優良法人認定制度」に基づき、健康経営を実践する企業を顕彰しています。
健康経営の実践で期待できるメリット
労働人口が減少していく未来が見えている今、「従業員が長く活躍できる環境づくり」を重要な課題として位置付けている企業も多いことでしょう。従業員が長く健康に働けるよう、従業員の健康増進に関する制度づくりや環境整備に投資することによって、企業側はさまざまなメリットを享受できます。
1.医療費負担の削減
従業員の体調不良によって医療機関の受診が増えると健康保険にかかる負担が大きくなり、結果、社会保険料が増額します。企業の多くが健康経営に取り組み、健康保険を使用する機会が大きく減少すれば、社会保険料の支払いにかかる負担の軽減につながります。
また、従業員の病気やケガの予防はリスクマネジメントとしても役立ちます。従業員が健康に働ける環境づくりに注力することによって、病気やケガによる休職や離職を防ぐとともに、採用にかかるコストも削減できると見込まれています。
2.生産性の向上
心身の不調は従業員の生産性を低下させ、体のどこかが痛い、気持ちが悪い、眠れず常に睡眠不足といった状態が続けば能力を100%発揮できず、作業効率だけでなく、仕事へのモチベーションも低下します。
横浜市と東京大学政策ビジョン研究センターが協働で行った健康経営に関する調査では、「健康リスクの高い従業員ほど労働生産性損失は大きくなる傾向がある」とがあらためて証明されました。
同調査では、生活習慣や健康状態が悪い従業員は、健康リスクの低い従業員と比べて2.9倍もの労働生産性損失コストがかかると示しています。健康経営の実践で従業員の心身を良好な状態で維持することで、一人ひとりの生産性の低下を防ぎ作業能率を上げる効果が期待できます。
3.企業イメージの向上
健康経営の実践を通して、企業は「従業員の健康に配慮する企業」「働きやすい企業」として認知され、企業全体のイメージアップを図ることができます。また、健康経営に取り組む企業は投資家や採用を検討する応募者にも注目されやすく、株価の上昇や採用活動に好印象を与える効果も期待できます。
健康経営優良法人認定制度とは
政府も企業の健康経営への取り組みを後押ししています。経済産業省と日本健康会議(※)が選定と認定を行う「健康経営優良法人認定制度」は、特に優良な健康経営に取り組む企業を顕彰する制度です。
健康経営優良法人認定制度の大規模法人部門の通称である「ホワイト500」に認定されることで、企業は社会的評価を得られます。2020年からは「ホワイト500」の制度が一部変更され、「健康経営度調査の結果が回答法人全体の上位50%以内」という認定要件が廃止されています。
中小企業向けの健康経営等顕彰制度は通称「ブライト500」と呼ばれており、健康経営優良法人の中でも優れた企業、かつ地域において健康経営の発信を行っている上位500の中小企業が顕彰されます。自治体の中には、健康経営優良法人認定制度に参加する中小企業には融資の際に利率を引き下げるなどの優遇や、入札時の加点評価といったインセティブを設けている所もあります。
健康経営の注意点
ここからは、健康経営を実践するうえで踏まえておく必要がある注意点について説明します。
1.投資効果を把握しづらい
健康経営の実践の成果は数値として把握しづらいという問題があります。自社で健康経営の取り組みをスタートして、病気で長期休業する従業員が減少した、欠勤率が低下したなど数字に変化が見られたとしても、それが健康経営による結果であるとは断言できないというケースもあります。
そのため、特に短期的な取り組みでは投資対効果を実感できないことが多く、効果測定を行うとしても目に見える結果が表れるには長期的な施策やデータ収集による効果検証が必要であることを念頭に置く必要があります。
2.従業員の負担が増加する可能性がある
健康経営の実施内容によっては、かえって従業員の負担を増やしてしまう可能性があります。実施の際には、専門家のアドバイスを参考にしながら、なるべく従業員に負担をかけない運用設計ができるよう努めましょう。
具体的には、健康経営を目的として行った健康状態把握のためのアンケートの実施や集計、健康増進イベントの休日開催などが従業員のストレスにつながるケースがあります。健康経営による健康増進を意図していたとしても、自身の健康診断の結果やストレスチェックの結果などの個人情報を企業が収集することに抵抗を覚える従業員もいます。
その場合、従業員の健康に関する各種データを取り扱う場合は、収集したデータの用途や管理方法について従業員に事前の説明を行い、理解を得る必要があります。
まとめ
健康経営の実践は、人員の確保に欠かせない要素となりつつあります。従業員の健康増進への取り組みが手厚い企業、特に健康経営優良法人に認定された企業は、採用活動でも求職者から好印象を抱かれやすく、また、従業員からの満足度も得やすくなるというメリットがあります。
健康経営を実践する場合は、得られる効果だけでなく実施上の注意点やハードルにも注目し、自社の現況を踏まえた方法で実行する必要があります。また、より効果的な取り組みを行いたいのなら、産業医をはじめとする専門家に協力を仰ぎ、施策の設計を行うのも手です。